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第3話 この世界

宿屋に入ると、エレンは受付を済ませ優輝の手を引き

二階の一室に入った。



部屋に入ると二人部屋くらいの大きさなのだが、

ベットが一つしかない。


ベットの大きさはキングベット。



……今日はソファーかな、ふかふかなソファーだし寝心地も悪くはなさそうだ。



「ユウキ様、人払いと防音の魔法をかけました。」


そう言いエレンはこちらに振り返り、顔をじっと見つめてくる。


…つまり質問していいってことか。


「…色々聞きたいけど、まずこの世界は何だ。ワイバーンとか魔法とか異世界とか、何も聞いてないんだけど。」


正直、力についても聞きたいけど、先に世界のことを聞かないことには始まらない。

もしかしたら、帰る方法も判るかもしれないし。



「わかりました。少し長くなりますが……」





あまりに長かったため理解できたとこだけ抜き出すと、


この世界には名前がないらしい。


その理由は、この世界は天界、魔界、人界という三つの世界がつながっているため、

その三つの世界を総称することがなく、世界同士の交流も薄いため呼ぶ必要がないらしい。




ワイバーンについては三つの各世界にはあのような魔物がいるそうで、

各界によって現れる魔物が異なり、人界でのワイバーンは中級クラスの魔物らしい。


人界の上級クラスにはドラゴンもいるそうだ。




魔法に関しては三つの世界では普通に使われるが人によって使える魔法が異なり、

全く魔法を使えない人も少なくないらしい。



魔界に住んでいるものは魔族と呼ばれ、魔族は全員魔法がつかえるとのこと。


そして彼女と母さんは魔族であり、俺には魔族の血が少なくとも半分は流れているということになる。




「ここまでで何かわからないことはありますか?」


「大体はわかった。けど魔王にするって言われてきたのになぜ俺は人界にいるんだ?」



魔王にするなら直接、魔界に送った方が早い、エレンも魔族なら魔界の方が近くて楽だろうに…。


するとエレンが少し困った顔した。


「えーと、そうですね…。」


そういうと彼女は急に呪文を唱えだし部屋の壁にスクリーンを映し出した。


「私にはあまり分かりませんので、直接お聞きください。」


彼女が言い終えると、スクリーンに見慣れた顔が映し出される。



「ゆうちゃ~ん!!エレンちゃ~ん!!見えてる~!?」



手を振っている母親、アリスであった、



「アリス様、問題なく映っていますよ。後、ユウキ様がお聞きしたいことがあるとのことです」



アリスが満面の笑みでなーに?と聞いてくる。



「なーに?じゃないよ母さん!!金融機関の人はどうしたの!?なんで魔王になってほしいの!?

っていうか魔王やってました。なんて聞いたことないよ!!」


と、自分の不満を次々と言い放つ、


「落ち付いてゆうちゃん!ちゃんと話すから。」



真剣な目で優輝の目を見つめる。


その行動に優輝は落ち着きを徐々に取り戻していく。



「落ち着いたみたいね…。」



アリスはほっと胸をなでおろす、そして少し考えてまとめると優輝の質問に答えた。



「まずね、ドアを壊しちゃった金融機関の人は無理矢理お帰りいただいたわ。」


そういうアリスの服をよく見ると何かがこびりついたように黒くなっている部分がいくつかあった。


…まさかね。



「まぁかなり痛めつけたからしばらくはここには来ないだろうから、心配しなくてもいいよ♪」



この母親は期待を裏切らないのか…。



「あとね、魔王になってほしいのにはちゃんと理由があるの。」


「理由?」



アリスは頷くと、申し訳なさそうに


「ママね、ゆうちゃんをそっちの世界に送ったからしばらく異世界転移の魔法が使えないの、

だからしばらくの間ゆうちゃんは、自力でしかこっちの世界には戻ってこれないの…。」


「しばらくってどれくらい?」



「そうね…。早くて5年遅くて20年かな?」


てへっと舌をだしているアリス


「かな?じゃないよ!!自力で戻るっていっても俺は魔法なんて使えないし20年も待てないよ!!」


20年後に帰っても向こうの世界では20年間ニートしてましたとしか言えない。

異世界に飛ばされてましたなんて言ったら、「何こいつ頭逝かれてんじゃないの」とか言われるよ!!


また軽くパニックになっている優輝を見つめアリスは、


「大丈夫、優輝は私の息子なんだからちゃんと覚えれば魔法は使えるよ、

そのためにエレンがいるんじゃない。」


そうかエレンに教えてもらえばいいんじゃないか…。


……まてよそれだったらエレンに異世界転移の魔法を直接使ってもらった方が早くないか?


そう思いエレンに、


「エレン頼む、俺に異世界転移の魔法をかけてくれ。」


頭を下げてお願いをする。



しかし、エレンの反応は優輝の予想とは違く、

えーと、えーと、とうまく答えられないようだ…。



「エレンには使えないわよ。」



優輝のいやな予感をすぐに肯定するアリス。




「異世界転移なんていう大魔法はごく限られたものにしか使えないのよ…。」


あっさりそういってのけるアリス


「じゃあどうやって覚えるんだよ!?」



「そんなの簡単よ”魔王”になればいいのよ!」





母さんが異世界転移の魔法を覚える条件を教えてくれた。


一つ 天界の最も上に立つ神になること、


一つ 今はないとされる伝説の魔道書を読み理解すること、


一つ 異世界転移の魔法を使えるものに直接教わること、


一つ ”魔王”になること、


以上のいずれかを満たす必要があるらしい。


「伝説の魔道書はもうないし、

そっちの世界で異世界転移の魔法が使えるのは天界の神だけだからね…。」



天界に行くには特殊な許可が下りない限り無理らしい…。


ということは魔王になる以外は帰れないということだ。



「ちなみに魔王になったあとに行われる魔王継承の儀で自然と使えるようになるからね。」



色々な事実を聞き絶望していると、

エレンが「大丈夫ですよ!」と励ましてくる…。



大丈夫じゃないから絶望しているんだけどな…。



魔法なんて不思議な力は使えないし…。



…不思議な力?


疑問に思うことで質問していないことがあった。


「俺、自分の体ぐらいあるワイバーンを軽々投げ飛ばしたり、

火球食らっても無傷だったんだけど…。」



あー、そのことかと母はそのわけを教えた


「だって、地球からそっちの世界に行くと力が100倍くらいにはなるからだよ。

魔界に行けば1,000倍くらいにはなるかもね?」


母が言ったことをエレンがまとめる


「つまり私たち魔族は普通、魔界から人界に行くと力が約10分の1になってしまい、

人界からユウキ様の居た世界に行くとさらに約100分の1になってしまうのです。

今のユウキ様には、その逆のことが起きているんです。」



「普通の魔族なら地球に着た瞬間に消滅しちゃうんだけどね♪」


えっへんと腕を組み、すごいだろーみたいな顔をしている。


元魔王の貫禄が全くない…。



とりあえずこれで自分の力の理由が分かった…。


「じゃあなんで魔界じゃなくて人界に俺を飛ばしたんだ?

直接、魔界に飛ばしてもよかったんじゃないの?

1000倍の力になるならさ?」


そう言うとアリスが


「そうしてもよかったんだけど、急に1000倍の力になって、ゆうちゃんの体が持たなくなるかもしれなかったし、元魔王の息子が来たことが魔界に知れたら、皆してゆうちゃんを狙ってくるかもしれなかったから…。」


そういう理由があったのか…。


母曰く、下手をすると体が力の増加に耐えられなくて内側から爆発する可能性があったらしい。


…考えただけで恐ろしい。


想像して軽く震えていると、母さんが、あっと何かを思い出したようだ。


「エレンちゃん。あの紙出して♪」


そうアリスが言うとエレンが顔を真っ赤にして「あれですか!?」と、

アリスに確認すると、「いいからはやく♪」とせかされたので、

エレンは顔を真っ赤にさせて服の中に大事そうにしまっていた紙を取り出し、

机の上にペンと朱肉と共に置いた。



「ゆうちゃん、これにサインと判子を押してね。

判子はないだろうから、代わりに親指でもだいじょうぶだよ♪」


母さんの機嫌がおかしいほどに良い…。

そう思いながらも紙に目を通す。


全く読めない?さっきは読めたのに?

よく見ると文字の書き方が違う?


「これなんて書いてあるんだ?さっきと文字が違うんだけど?」


「それは魔界の文字だからね♪ 内容は「逢沢優輝は、エレカナ・トラヴィスタの支援を受けるとここに誓います」的なことが書いてあるのよ♪後、名前は日本語で書いても大丈夫よ♪」


母のテンションがどんどん上がっているのだがあまり気にせず、

名前を書くべきところであろう空欄に名前を書き、

朱肉で真っ赤になった親指で判を押した。




その過程を、エレンは蕩けきった眼で見つめていた。




親指を拭き、綺麗になったかの確認をしながら、

エレンに「これで大丈夫か?」と聞いてみた。



エレンは、ぼーとしていたのか急にハッとなると、

紙をとり、真っ赤な顔で「はい、問題ないです。」と答え、

紙を大事そうに服の中にしまった。



エレンの顔は普段の白い肌が嘘のように真っ赤になっていた。


「エレン大丈夫か?風邪でもひいたか?」


と聞くと顔を横にぶんぶんと振り


「大丈夫です、ちょっと部屋が暑いだけです。」


と早口で答えた。


確かに暑いし、エレンはドレスを着てるもんな…。


俺は普通のジーパンにTシャツという普通の格好。


そう言えばなんでドレスを着ているんだろう?

いや綺麗だけどさ…。


町の人も変な目で見ていなかったしな…。

もしかしたら人の目を欺く魔法でも使っているんだろうか?



「そうだ!ゆうちゃん、少し村を散歩してきなよ♪」



外を見るとまだ外は明るい、午後4時くらいなのだろうか?


「わかった、ちょうど見て回りたいと思ってたんだ…。」


そう思って部屋のドアノブに手をかけると、

エレンに呼び止められた。


相変わらず顔は真っ赤なままだ。


「外に行くのでしたら、ユウキ様の着替えを買ってきていただきたいのですが…。」


と言って俺に袋を渡してきた。


「わかった、行ってきます。」


そう言って優輝は部屋を出た。



「大丈夫?顔が真っ赤だよ♪」


からかうようにアリスが言うと、

エレンが「やめてくださいよ…。」と照れながら答える。



「それにしても、ゆうちゃんはニブチンだねー。

これじゃなかなか誕生日プレゼントに気付いてくれないかもね…。」


「……(ポッ)。」




優輝がサインした契約書には、エレンから支援を受けると確かに書いてある。

だがそれ以外の部分に優輝は全く気付いていない…。


契約書にはこう書かれている。


『私、逢沢優輝はトラヴィスタ家の支援を受ける見返りに

魔王となったとき”許嫁”であるエレンことエレカナ・トラヴィスタを

正妻に迎えることをここに誓います。』



事実上の婚姻書である。



アリスが言っていた「誕生日プレゼント」は彼女ができない優輝への

お嫁さんであった。


「これでゆうちゃんの未来も安泰だわ♪」



優輝がこのことに気づくのはまだ先の話。




「エレンちゃん。ゆうちゃんにしっかりアプローチするのよ!!」



「えっ!!…どうすればいいんですか?」



「具体的にはね…。ゴニョゴニョ………。」



エレンの顔が完熟トマトのように赤くなっている。



そして頭から煙を出して気絶した。




「ありゃりゃ気絶しちゃった…。……じゃあまたね。

ゆうちゃんを………優輝をよろしくお願いします。」





そう言うと今まで映し出されていたアリスは消え、

スクリーンも消えてしまった…。





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