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第13話 事情聴取のその後に

太陽が真上に上った頃、ギルド長は椅子に座りながら念話を始めた。


「ご報告いたします。」


「うむ、盗賊団のことか?」


念話の相手の声は女性らしく、とても透き通っていて綺麗な印象を受けた。


「はい、村の中に残っていた盗賊は予めしていた報告通りです。

転移使いのほうは、完全に逃げられてしまい行方が分かりません。」


「転移使いのほうは仕方ない。それ用の施設を設置していなかったわらわが悪い。

それよりもその転移使いの情報が正しかったというのが問題じゃ。」


「ということは盗賊団は?」


「うむ、頭には逃げられたがそれ以外は一網打尽だったそうじゃ。」


「問題はないのでは?」


組織から逃れるために国の軍隊を使ったとも考えられるので、辻褄が合わないこともないはず。あくまで魔法石や魔獣変化を無視すれば、だが。


「いや、そのアジトにはとある国の貴族の娘が捕まっておった。」


「ということは、その国の使いであるということですか?」


「おそらくな。しかしその国が問題じゃった。」


「…軍事国ですか?」


念話も傍受されている可能性がゼロではないので国の名前は伏せたが、

軍事国とは、この国と同じ大陸にある国で、ここ二、三年でいくつかの国を滅ぼしているこの世界で一番好戦的な国。ヴォルナス、通称火の国とも言われる国。


「…うむ、それ故そやつの捜索は事実上不可能になってしまったわけじゃ。」


「女王様はどうお考えでしょうか?」


ギルド長が先ほどから話していたのは、アディリア王国の女王、ミシェル・アディリア。


「その貴族の娘を使って外交的な取引かの?もしくはトラヴィスタ家の協力を仰ぐかもしれんな。」


「前のほうは問題ありませんが、後のほうは魔族嫌いのものからの反発が予想されますので、御控えになったほうがよろしいかと…。」


「国が滅びるよりはましじゃろう?」


あまりの真剣な言葉にギルド長は、一瞬言葉を失った。


「それよりも、お主は王都の親衛隊にさっさと参れ。その村が好きなのは分かるが、そなたのような人材を腐らせるほど私は馬鹿ではないぞ。」


「…女王様の鶴の一声でそちらに参りますと、私に気があるのかと思われ、爺やに結婚を勧められますよ。」


「安心せい、週に一度はお見合いをさせられておる…。あやつがたかが3年も帰ってこんだけで慌て過ぎなのじゃ爺は。」


「子供がいないのが原因なのでは?」


「…腐らせるくらいなら首を切ってやろうか。」


女王様の逆鱗に触れてしまったようで、ものすごく恐ろしいお言葉をいただいてしまった。


「…遠慮いたします。それと、村の中に残っていた盗賊は、指輪を使って魔獣変化をしたのは間違いないそうです。実際に戦ったものから証言も取れました。」


「……魔獣変化したものと戦った者じゃと?そのような報告は受けておらんが。」


「現場に居た者に事情聴取をしたところ。実際に襲われて、倒してしまったと証言しております。武器を使わずに倒したと申しておりますので、魔獣変化も不完全だったようです。」


「……お主、魔獣変化を知らんな?」


「はい、実際に見たこともなく文献でしか…。」


「あれは不完全でも、人の倍は強いぞ。しかも指輪を使うと失敗することはない。要するに不完全なわけがないのだぞ。」


「…しかし、私が現場に駆け付けた時、彼は一切武器は所持しておりませんでしたが。」


「普通に考えるなら魔法があるじゃろう。」


「…それが、彼は魔法が使ったことがないと言っていますので間違いないかと。」


「ウソを見抜けるお主が言うならそうなんじゃろうが…。その者の名はなんじゃ?」


「イズム村のギルドに最近入ってきた、ユウキというものです。」


「…!その者はどこから身分証明を受けておる!?」


「トラヴィスタ家からですが、どうかなされましたか?」


それを聞いたミシェルは小さく笑みを浮かべた。


「…ギルド長!」


「はい」


「その者に会ってみたい。こちらに来れるランクになったらわらわの城に来させろ。」


「…よろしいのですか?」


「構わん!通行証は明日、そちらに届くように送る。きちんと渡すのじゃ。」


「…かしこまりました。」


「…後、その者が早くBランクになるように手を回してくれ。あくまでこれは私個人のお願いだが。」


女王からのお願いにギルド長は何も言わずに念話を切った。




「うぅ、疲れたー。」


ギルドにある取調室でこってり取り調べを受けて、すっかりグロッキーになりながらもナシュが待つ受付へと向かっていた。


「師匠、お疲れ様です。」


「どれだけ待たせんのあんたは?」


ナシュと…誰だあいつ?

ナシュの隣に赤い髪の少女がいる。


声と背格好はサファイアに似ているが、あいつは黒髪だしあそこまで可愛くはないはず…。

まぁサファイアも十分可愛いが。


「…ナシュ、この子誰?」


「えーと、ですね。信じられないかもしれないんですけど…。」


隣の少女がまたか…みたいな目でこっちを見てナシュのフォローをした。


「サファイアよ。ていうか認識阻害くらい知らないの?」


「…マジでサファイアなのかよ?確かに似てるけど、髪の色も違うし、見た目も…。」


戸惑っている優輝を見て、サファイアはため息をついてから、ぶつぶつと魔法を唱えた。


しばらくすると少女の姿が一瞬だけ光り、優輝の知っているサファイアへと変わった。


「魔法凄いな…。」


久しぶりに魔法に感動した気がする。それにしても見た目を変えられるなんて便利だな…。

色々と、悪いことに使えそうだな…。


「貴族の間だと、結構メジャーな魔法なんだけどね。ユウキは知ってると思ってたけど妨害系だし知らなくても不思議じゃないか…。」


サファイアが少し残念そうにしている。


「本当にこの魔法すごいですよね。しかも見る人によって髪の色とか違って見えるそうですよ。」


「正しく言うと、その人が見て自然に感じる様に見えるんだけどね。」


ナシュの説明にサファイアが補足する。


「だから、黒髪に見えたのか…。」


俺の言葉にサファイアが噴き出す。


「く、黒髪に見えるって…。ジョークにしては無理あるって!」


腹を抱えて笑われました…世界による認識のずれってやつだね。

こっちだと、黒髪は普通じゃないのか…。俺から見れば赤髪のほうがよっぽどおかしく見えるって。


「ちなみに私は、茶色に見えました。」


ナシュは比較的俺よりかな?外見的には人界の人のほうが地球に近いっぽいな。


そんなことよりも少し気になったことがある。


「サファイアは赤い髪してんのになんでサファイアなんて名乗ってるんだ?」


サファイアといったら、青色の宝石だったはず、赤い髪だったらルビーのほうが正しい。

もしかしたら、素で間違えたんじゃ……。


「そんな目で見ないでよ、サファイアが青色の宝石ってのは分かってるわよ!

お姉ちゃんがルビーっていう二つ名が付いてるからサファイアにしただけよ。」


「あーなるほど。色が違うだけだもんな、ルビーとサファイアって。」


確かコランダムっていう鉱物だったはず。

姉がルビー《赤色》だからサファイア《青色》か、理屈は分からなくもないな。


「へぇ、良く知ってるじゃない。ただの馬鹿じゃないみたいね。」


「雑学を覚えるのは結構好きだからな。勉強はさっぱりだけど…。」


ナシュは首を傾げてこちらの会話をただただ聞いていた。


「ナシュは知ってたか?」


不意にナシュに話を振ってみたが、

「私は魔界についてはあんまり詳しくないんですよ…。」と、あんまり乗る気ではなかった。


「人界にはコランダムは無いからね。知らなくてもおかしくないわよ。私としては、人界の宝石を教えてほしいものだけどね。」


他愛もない話をしていると、ギルドの職員の人に肩をたたかれた。


「ユウキさんですね。犯人逮捕にご協力いただいたので、Dランクへのランクアップと、二つ名の進呈になります。」


そういうと、Dと書かれたカードを渡された。


「二つ名?…なんか中二病っぽいな。」


「二つ名なんてギルドでは良くあるわよ。でも、Dランクで貰えるのは珍しいのよ?一体何をしたの?」


「それにつきましては、明日二つ名とともにギルド内にある掲示板で公表いたします。」


淡々と答えると、職員の方は一礼して去っていった。


「なんか嫌な予感しかしないんだよな…。」


「決して変な名前はつかないはずですから師匠はドンと構えていていいんですよ。」


…そうだよな、さすがに変な名前はつかないよな。

大丈夫だよな……たぶん。


「Dランクになったんなら私のランク上げ手伝いなさいよ。それとも、全員Cランクになれる依頼でも受ける?」


「そんなのあるんですか?」


「基本的には無いんだけど、何事にも例外ってのがあるのよ。ユウキ、ギルドカード貸して。」


サファイアにカードを渡すと、受付に行き職員の人と、しばらく話すと依頼書を持って戻ってきた。


「駄目だったら、すぐに諦めればいいしこれでいいわよね。」


ドンと紙を見せてきた。


「えーと、レッドワイバーンの討伐?…別に大丈夫じゃないか?」


ワイバーンなら一回倒したことあるし、一匹討伐すればいいみたいだし楽な奴じゃないか?


「…レッドワイバーンですか?それって確か…。」


ナシュが依頼書の一点を見つめている。

ナシュの視線を追ってみるとCランク用と書かれている。


「本来ならかなり厄介な奴だけど、ユウキがいれば大丈夫じゃない?」


「…確かにそうですけど、それじゃ師匠が…あっ!師匠なら大丈夫ですね。」


「そういうこと。」


二人の会話の意味がわからない…大丈夫なのかな?


「まぁ心配しなさんなって、さっさと行ってさっさと帰るわよ。」


サファイアは俺の手を取って目的地へと向かった。



なんか色々と心配になってきた。

…胃が痛い。



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