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第12話 見えない影と立つ旗(フラグ)

『ギルド長、ご報告します。』


「なんでしょう?」


『解析班から報告があり、大変信じられませんが転移魔法を使った形跡がありました。

解析の結果、村のはずれにある廃屋に移動したことが発覚し、警備班がその廃屋を捜索したところ、指名手配されている盗賊団の隠れ家で間違いないそうです。盗賊団はすでに逃走していましたが近くの馬小屋に馬が一匹残されていましたので、一人もしくは二人が村の中に居ると思われます。』


「ありがとうございます。では、警備班は村の中に居ると思われる盗賊団を探し出してください、見つかり次第私に報告をお願いします。私も捜索をします。通信班は王都へ連絡してください。受付の人たちにはDランク以上の人たちに、盗賊団討伐の依頼を出すようお願いします。」


『了解しました。』


通信を終えた時、不意に後ろから声を掛けられた。


「この村のギルドは働き者ですね~。」


「誰です!?」


ギルド長はできる限る早く振り向いたつもりだっだが、誰もいなかった。


「いや、本当にこの村のギルドは有能が多いですね。しかし牢屋には転移封じくらい掛けておいたほうがいいですよ?」


また自分の後ろで声がした。


「…あなたが転移魔法を使って賊を逃がした張本人ですね。」


「どうでしょうか?」


「通信班、聞こえていますか!」


「無理ですよ。この周辺に通信を阻害していますので、念話の指輪くらいしか使えないですよ。」


「転移魔法が使えるくらいですからね。妨害系の魔法をいくつか使えても不思議じゃないですね。」


ゆっくりと振り返ると、今度は相手の姿が見えた。

しかし、その相手を完全には認識できなかった。


「私でも仮面をしているくらいまでしか認識できないとは恐れ入りますね。」


「そこまで見えただけでも十分ですよ。普通は心臓を刺されても気づかないですから。」


「では、話しかける前に刺しておかなかったことを後悔してくださいね。」


「挑戦的な人間ですね。少しお話をしたかっただけなんですけどね…。」


「牢屋の中でゆっくりとお話を聞いてあげますよ。」




「師匠どうかしたんですか?」


「いや、なんか村が騒がしくないか?」


「もしかしてさっきのギャラリーが私たちを探しているとか。」


「不吉なこと言わないでくれ、あれは結構怖かったんだよ。」


店員さんに無理を言って裏口から逃がしてもらい途中見つかりながらも、なんとか巻いて今に至っているのだが、途中で見つかった時は石を投げられたり魔法を打たれたりと、それはもう酷いものだった。


なぜか俺にしか当たっていなかったのは不思議だったけど。


「何人かは本気で殺す気でしたよねー。」


「騎士とか来てくれてもいいよな…。警察とかいないのか…いやこういうとこだと警備隊かな?」


「こういうことするとギルドの警備班が来るはずなんですけどね?」


「ギルドってそういうこともするんだ。」


「はい、人間に害をなすものを倒すということでは同じですからね。他にも色々あるらしいですよ。」


「へぇ、だからあんなにでかいのか…。」


「あの大きさは異常ですけどね。あっ師匠、広場が見えてきましたよ。」


昨日サファイアと来たときよりも人が少ないな。

やっぱりあれのせいかな…。


「…ナシュ、あの木どうにかしようよ。」


広場のど真ん中に、折られた大きな木が転がっていた。

昨日ナシュが持ってきたもので間違いないだろうけど、…まだ片づけられてないんですね。


「あっ!向こうのベンチなんてどうですか?」


いい度胸してますねこの娘は…。最初に会った気弱なイメージがウソのようですね……。


「師匠早く行きましょうよ!」


「……俺はこれを片づけるからなんか飲み物でも買ってきて。」


「…私が飲み物買っている間に、ほかの女の子にナンパしないですか?」


「しないし、したこともないからな!」


「……わかりました。適当でいいですよね。」


ナシュに財布を渡して買いに行く後ろ姿を眺めていると、ナシュが何度も振り返ってこちらを確認している。


まったく信用されてないですね、はい。


…それにしてもこの木はどうしようかな。


手で持って置きに行くほうが安全で良いんだろうけど、目立つよな…。

ナシュが戻ってくるまでに置いてこれるかっていう問題もあるし、

人気のないところに投げるのが一番かな?


……投げるって言ってもどこまで飛ぶかも分かんないし人に当たったら色々やばいよな。



まぁいっか!

人が周りに居ないことを確認してから、木をつかんで思いっきり投げ飛ばした。


木は大空へと飛んで見えなくなってしまった。


「…思っていたと違うところに飛んでいったな。」


まっすぐ投げたつもりが左に飛んでいったな…。この世界でもノーコンは健在か…。


この馬鹿力を見せない為にナシュに買い物に行かせたけど思った以上に時間が余ったな…。

十秒ほどで終わるとは思ってなかったし…とりあえずベンチにでも座るか。


ベンチに腰を掛けようとしたとき、腰を掛けようとしたベンチが上から落ちてきた。


尻もちをついて上から落ちてきたベンチに下敷きにされた。


「いいざまだな。」


声がするほうを向くとこの間ボコボコにした悪いおにーさんだった。

顔をよく見ると青く腫れているところがあったり歯が何本かなくなっていた。


…やっぱ、やり過ぎたみたいだな。


「…捕まったんじゃないんですか?」


「…普通怪我ぐらいするだろうに、本当に化け物だなお前は!」


質問したのに罵倒されましたよ……こっちは怪我ないんだから喜んでくれてもいいと思うけど。


「ちょっとした取引でな、脱獄させてくれる代わりにお前を殺せだとさ。」


「……物騒な世の中ですね。」


おにーさんと物騒な会話をしている間にベンチを持ち上げて手頃な所に置いた。


「ベンチを軽々持ち上げるお前のほうが物騒だがな。」


「違いないですね。でも俺を殺すって言っても、この間のこと覚えてますよね。」


おにーさんの気をそらしている間にゆっくりと立ち上がる。

…最悪逃げたほうがいいかな。


「もちろん、今回は良いものがあるからな。」


「脱獄してからすぐに武器を手に入れるってものすごい手際がいいですね。」


……銃とか爆弾とかじゃないよな。

ゆっくりと相手との間合いを取る。


相手の姿を見てみたがこの間着ていた服と同じで変わったことと言えば、指に大量の指輪をしているということだけだった。


「武器じゃないんだが、うまく使えばドラゴンですら無傷で倒せるそうだ。」


「ドラゴンって人界で一番強い魔物って聞きましたけど。」


やられる前にやれって言葉があるしやってみるか。


全身に力を入れて相手の動きを見る。

相手が目をそらした隙に一気に踏み込んで思いっきり殴る。


「いくら馬鹿力でも当たんなきゃ意味がないよな。」


おにーさんが目の前から急に消えて、おもいっきりこけた。


受け身っぽいことをしてすぐに立ち上がると後ろから何かが当たった感触がする。


「テレポート?ってかさっき何か撃ちましたか?」


「あんまり驚かないんだな。確かにテレポートを使ったが上位魔法を目の前で見ても驚かないなんて…お前何者だ。」


「…ニート?」


アニメとか漫画とかでその手のものは見てるからな…。

魔法に関しては初めて目の前で見た以降あんまり感動しないし。


「ニートってやつは本当に化け物につく称号ってことは分かった。」


分かってないですよおにーさん。早い話がひもで引きこもりの人ですよ。

……ある意味化け物か。


「…てかそれを言ったら俺もニートになりそうだ。」


「隙ありだな。」


足に変な力が加わった。足を見てみると黒い包帯みたいなものが巻かれている。


「なんだこれ、足が全然うごかない!」


「さっきなんか食らったって言ったよな。捕縛系の上位魔法だ、指輪のおかげでドラゴンですら指一つ動かせないそうだ。」


「…いや、動かないのは足だけだから。」


「!?」


上半身を大きく動かすと、おにーさんは驚愕の表情を浮かべていた。

足にしか包帯が巻かれていないなら、普通それ以外は動かせるでしょう…。

馬鹿なのこの人?


「…いや足が動かないなら問題ない。これでも食らえ化け物!!」


片手を大きく上げると大きな火の玉が出来上がり、出来上がると同時に腕をふり下ろした。


おにーさんが腕を振り下ろすと同時に直径1メートル程の火の玉がこちらに向かってきた。


「それはさすがに洒落にならないって!」


足が動かないせいで逃げることもできなくなって思いっきり食らう覚悟をして目をつぶった。


…いやこれは死ぬな。母さん…死んだらあなたを怨みます。

それとパソコンは起動させずに壊してください。HDDのデータ全消去でもいいです。

そんなことを考えながら死ぬ覚悟をしていると


「ぐわぁぁぁ!」


と大きな声が聞こえた。


…聞こえた?


ゆっくりと目を開けると、火の玉を打ってきたはずのおにーさんが思いっきり火の玉の餌食になっていた。


「あづい!!うぁぁ!!!」


めっちゃ燃えてますよおにーさん!


「こういう時どうすればいいんだっけ?えっと、えっと…そうだ土を掛けて鎮火させれば。」


思いっきり地面を蹴ってみると地面が抉れて、土がものすごいスピードでおにーさんにかかる。おにーさんがその勢いで思いっきり吹っ飛んだ。

えーと、火は消えたんですが、おにーさんがピクリとも動いていないんですけど…。


しばらく遠くから眺めていると、急におにーさんが立ち上がった。


「……魔法反射だと。どんだけ化け物なんだよ…。」


なんだか小さな声でぶつぶつと独り言を言っている。

…もしかして壊れました?


「ふざけんじゃねー!!」


うぁ、急に大きな声出した!


「もう後のことなんて知るか!化け物を倒すには化け物になるしかねーだろうが!!」


…壊れたみたいですね。自問自答してるし。


「おいそこのニート!てめぇは絶対殺す!」


俺に指をさして大声で叫んでいる。なんだか指輪が光っているように見えるんだけど…。


「ぐははははははは、っくくくけけけきゃきゃきゃ…。」


人間をやめたような声で叫んでいるとおにーさんがしている指輪がものすごく光っている。


指輪の光がどんどんと強くなっていくと、おにーさんの体に異変が訪れる。


「…ゲヴォ!」


口から思いっきり吐血した!?


吐血したと思った次の瞬間、おにーさんの体がどんどんムキムキになっている。

ゲームとかでみるゴブリンみたいな姿になっていってる?

よくみると右腕が触手のようになっている。


「…ホラーゲームかよ、銃なんて持ってねえよ…。」


変化が終わったのか、おにーさんだったものがこちらを睨みつけている。


「ニート、コロスコロス、ニート、ニート。」


「何とも、返しにくい言葉を言いますね…。」


「コロスコロス、ニートコロス!!」


…駄目だ会話にならない。

なんなんだよこの世界、こんなグロテスクなものがあるなんて聞いてないよ!


おにーさんが変身している間に足の拘束は何とかなったけど、

この人どうしよう…。


「シネニート!」


不意を突かれて思いっきり殴られた。顎を思いっきりぶち抜かれたはずなんだけど、

軽くぺちぺちされてくらいにしか効かないのはもう仕様なのかな…。


「ニート、ニートシナナイ、コロスコロス。」


元おにーさんが触手になっている腕を魔法らしきもので燃やしてその腕で思いっきり殴ってきた。


今度は腹に一撃が決まった。

どれぐらい効いたかはもう聞かないでほしい。


これまでの攻撃の中で一番効いているのが精神攻撃というのは、不思議だよな。

体はどこも折れてないけど心がすでに折れそうだ。


「…俺は、俺はニートじゃないつうの!」


心の底から叫ぶと、元おにーさんが思いっきり吹っ飛んだ。


…へ?


近くにあった木にぶつかると、またピクリとも動かなくなってしまった。


……なに?俺って咆哮使えるの?

叫んだだけで人が飛ぶってギャグ漫画でしか見たことないけど。


なんか母さんに聞きたいことがまた一つ増えたな…。


とりあえずおにーさん生きてるかな…?


ゆっくりと近づいて生きているかの確認をしてみた。

……元に戻ってる。


さっきまでゴブリンのような姿をしていたおにーさんが元の人間の姿に戻っていた。

気を失っているだけのようで、わずかだが呼吸をしていた。


「大丈夫でしたか!?」


おにーさんの生死を確認し終えた後不意に後ろから声が掛けられた。




「…不意打ちで、足くらい切っておけばよかったですね。」


「相性ってものがありますからね。」


戦況はギルド長が優勢になっていた。


「転移先を一瞬で読むなんて人間業じゃないですよ。」


「転移以外使ってこないあなたが悪いんですよ。」


ギルド長が手に持った槍で男の脚を狙って一気に踏み込む。

それを男が転移でかわしたところをギルド長が一瞬で読んで、追い打ちをかける


先ほどからそれの繰り返し。

それゆえにギルド長の優勢は変わらず男は徐々に追い詰められていく。


「しびれ薬ですか?切られたところの感覚が徐々になくなってきているんですが。」


「分かっているならさっさと捕まってほしいですね。お話をしたいなら牢屋の中で聞きますと先ほどから申し上げているのですが。」


「本当に相性が悪いですね。……仕方ないですね。」


男は魔法を唱えると体の傷がすべて癒えていった。


「完全回復ですか。持久戦でも負けない自信はありますよ。」


「いえ、ちょっとだけ本気を出すための準備です。」


突然男の指から光が放たれた。


「……魔法石とは珍しいものをお持ちだ。いったいどこの貴族出身で?」


「ちょっとした貰い物ですよ。少しお話をしたいだけだったのですが、素直に聞いてもらえないようなので動けなくしますね。」


「…残念ながら本気を出すのがほんの少しだけ遅かったようですね。」


「遅いということはないです…ぐっ!」


言葉を言い終える前に、不意に背中を刺された。


しかし、振り返っても誰も見えない。

正しくは誰もいないように認識させられている。


「ギリギリのタイミングですね。見えない密偵さん」


「相手が何を持っているか分からないのに手加減しているから危ない目に会うんですよ。」


「本当に助かります。それとまだ危ない目に会っていません。」


ギルド長以外誰もいないはずなのにギルド長が誰かと喋っている。


「…見えない密偵。確か名前はセバスチャンでしたっけ?」


転移でその場から少し離れた場所に移動して声の聞こえるほうに話しかける。


「今はシャドウという名前ですので以後お見知りおきを。」


「今度は影ですか、名前がよく変わる人ですね。」


「無駄話は牢屋の中でお願いします!」


ギルド長が不意打ち気味で攻撃をする。


男はそれを転移でよけるが、今度はギルド長が追い打ちをかけられる範囲より遠くに移動する。


「…魔法石で移動距離を増やしましたか。」


「そういうことです、これならいくら移動先が分かっても攻撃されませんからね。」


シャドウがナイフを男に向かって投げる。


しかし、当たる前に転移でよけられてしまった。


「数秒おきに自動で転移ですか。これは少し厄介ですね。」


「見えない攻撃と転移場所をすぐに読まれるほうがよっぽど厄介ですよ。」


(シャドウさん不意打ちできますか?)


(数秒おきに移動ですと…無理ですね。私は戦闘向きではないので。)


「…ちょうど終わったようですね。」


「何がです?」


「こちらの用事です。それではお互い打つ手がないようなのでお話を。」


「良い話ならばお願いします。」


「私が逃がした盗賊団の本当のアジトは王都にある城下町西の酒場の地下にあります。

奥にある使われていない暖炉が入口になっていますので、確かめてはいかがですか?」


「…それが本当のことである保証は?」


「逃がした男の記憶ですので、たぶん間違いないはずですよ?」


「なぜそんな情報を伝えるんですか?」


「…秘密です。」


「ではなぜ男を逃がしたのですか?逃がさなくても記憶を読むだけで良かったのでは?」


「秘密です。ではそろそろ失礼します。少しは楽しかったですよ。」


そういうと男は転移で消えていった。


「どこに行ったかわかりますか。」


「…村の広場あたりですね。」


「では急ぎましょう。」


「そういえば人払いをしていたらしいですがシャドウさんはなんで入ってこれたのですか?」


「私は人ではないので。」


「なるほど。」



「大丈夫ですか!?」


若々しい声が後ろから掛けられる。


「えーとどちら様ですか?」


なんだか若々しい人に話を掛けられた。


「ギルドのものです。その男の確保にきました。」


「あっそうなんですか。」


「ではちょっと失礼します。」


そういうとその男の人は、おにーさんの指にはめられている指輪をすべて外していった。


「その指輪ちょっとヤバい気がするんですが。」


「ええ危ないものなので外しました。では次は男の状態を確認しますね。」


今度は何かを唱えておにーさんの頭に手を置いた。


(……なるほど、並はずれた怪力に、魔法反射、他にもいくつか補助魔法がかかっているようですね。)


確認が終わったのかこちらをじっくりとみている。


「あのなんでこっちを見ているんですか?」


「あっいえ、この人はあなたが倒したのですか?」


「えぇ、まぁ倒したというか倒れたといいますか…。」


男はゆっくりと立ち上がりあたりを窺って何かを見つけたのか、

俺に「しばらくこの人をお願いします。」といってどこかに去ってしまった。


「…お願いしますって、どうしろと。」


しばらく待っていると、遠くから誰かがこちらに向かって走ってきた。


「ユウキさんですか、ここに変な人が来ましたか?」


「いえ?そういえばギルドの人がきましたね。…それよりもこの人をお願いします。」


「!この人を捕まえたのですか!?それと周りがものすごいことになっていますがこれもあなたが?」


周りはおにーさんが吐血した跡や、火を鎮火させるときに抉った地面やらでだいぶ悲惨な状況になっていた。


「…この人のせいです。」


ウソはついてないよ。


「そうですか、今からお話は出来ますか?」


「連れがいるんで出来れば後でがいいんですけど…。」


「分かりました詳しい話は後でギルドで聞きます。ですが一つだけ、この人と一度会ったことがありますか?」


「えーと、一度絡まれて、倒しました。」


「では、黒髪のニートの称号を持った男とはあなたで間違いないですね?」


「…間違いないです。」


なんかいやなことが起こりそうだな…。


「なるほど、逮捕のご協力ありがとうございます。ご協力のお礼を明日お渡ししますので、ぜひギルドに来てください。」


「別にいいですよ。」


「具体的にはランクアップなのですが…。」


「ぜひお願いします。」


よし、これで少し楽ができそう。


「良かったですねユウキさん。」


不意に横から声を掛けられてびくっとしてしまった。


「!えーと、喫茶店の人ですよね?」


「驚かせてしまい申し訳ありません。私の名前はシャドウと申します。以後お見知りおきを。」


「シャドウさんですね。ユウキです。よろしくお願いします。」


「こちらこそよろしくお願いします。お連れの方はまだ来られないのですか?」


「そろそろ来てもいいんですけど…。あっいたいた。では連れが来たので失礼します。」


遠くに飲み物を持って、ゆっくりと歩いてくるナシュを見つけて、この場から逃げるようにナシュのところまで走って行った。


「この周りの状況どう思いますか?」


「魔法でも使ったのではないのですか?」


「では見えない密偵としてはどう思いますか?」


「…この吐血の跡を見る限りでは、魔獣変化だと思います。それと、見えない密偵は引退したと言いましたが?」


「これは失礼しました。魔法石と言い魔獣変化と言い、大変なことになってきましたね。」


「…そういえば20年前にも似たようなことがありましたね。」




「し…しょう、これ…飲み物です。」


両腕をプルプルとさせてゆっくりとこっちに向かって歩いてくる。

ナシュの視線が両手のコップに向けている。


両方ともなみなみに注がれており、それをこぼさないようにしてここまで来たことが分かった。


「なんでそんなになみなみに注がれてるんだ?」


「屋台のおじさんが…サービスしてくれたんです…よ…と、師匠…はやく取ってください…。」


「少し飲んでから持ってくればいいじゃん。」


ナシュが渡してきた紙コップを手に取り、少し飲んだ。…ちょっと酸っぱいな。


「…ふぅ、やっと解放されました。仮にも弟子ですから師匠より先に頂くわけにはいかないんです。」


「変なとこ律儀だよな…。」


ナシュもコップに口をつけると、広場のほうに行こうとした。


「ちょっとまて。」


「なんですか師匠?」


「今、広場は使用禁止になったから別の場所に行こう。」


「使用禁止って何かあったんですか?」


色々あって説明しづらいな…。


「なんかギルド長が来てたから結構なことが起きたんじゃないか?」


「そうなんですか、それじゃ別の場所でいいです。それで師匠、どこに連れて行ってくれるんですか?」


期待した目で見つめられても特に決めてないし、素直にナシュが行きたいところに行くのがいいな。


「ナシュはどこに行きたい?」


「…そういうのは自分で決めてからいってください!」


ちょっと怒られた…。なんでだろう?

少し考えてから、「それじゃ、市場でいいか?」と聞いてみると、


「市場ですか?良いですね。」


とOKを頂いた。


村の広場から10分程度歩くと、市場が見えてきた。


最初は喫茶店でのギャラリーに見つかったらどうしよう、などと考えてたけどいざ市場の中に入ってしまうと人が多く腕を組んでいないとナシュとはぐれてしまいそうだった。


「…木を隠すなら森の中とは良く言ったもんだなー。」


「師匠、独り言なんて言ってないであれ見てください!」


ナシュが指をさすほうを見ると、可愛い小物が置いてある雑貨屋さんだった。


「師匠これなんて可愛くないですか!」


きらきらと目を輝かせて小物を物色しているところを見てると、

ナシュも女の子なんだなとか、しみじみ思ってしまう。


こういう青春無かったからな…。


ふと思ったんだけどナシュ(女の子)と二人っきりでこういうところを回るって、デーt


「師匠聞いてますか!?」


「あぁ、悪いちょっと考え事してた。」


「これ綺麗だと思いませんか?」


そういうと、ナシュは青く光る石が付いているペンダントを見せてきた。


「ねぇちゃん良い眼してんな、それは、とある国の近くで売ってた変わった石なんだぜ。」


「とある国ってどこですか?」


そういうと店主が少し困った顔で、


「ちょっと名前はな…2年前ほどに問題が起こった国って言えば分かるか?」


「…すいませんこの周辺の国には疎くて。」


「まぁ悪いもんじゃないから気に入ったら買ってくれ。少しくらいならおまけすっからさ。どうだ彼氏さん?彼女に買ってやんなよ。」


…店主から見たらカップルに見えるのか、確かに腕組んで歩いてればそう見えるか…。


「まぁ綺麗だし良いよナシュがほしければ。」


あんまり人のお金で買い物はしたくないけど、必要経費ということで何とかごまかそう…。


最悪、ギャンブルで使いました!って言おう。

…本当のこと言っても嘘言っても最低には変わりないな、俺。


「ほしいです!是非!」


ナシュにペンダントを買って手渡すと、


「ありがとうございます。一生大事にします!」


とお礼を言われてしまった。


…あれだね。人の金で買うと、素直にはどういたしましてって言えないもんだね。




帰り道、ナシュはプレゼントしたペンダントをずっと眺めていた。


…足元見ていなかったせいか3回ほど転んでたけどね。



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