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第11話 再現デートと黒い影

まだ日も昇る前、ギルドに入っていく人々がいた。


この村のギルドは、他の村や町などからの物資を一度検閲するために、

入ってくる物資の受け渡し場所となっている。


検閲と言っても、箱の中に入っているものが爆発物や禁止されている毒物ではないかの確認だけで、飲食店の物資は薬でも入っていない限り、書類にサインを書くだけで終わったりするので、そんなに苦ではない。


本や雑貨などを扱っているところも検査魔法に引っ掛かる物がない限り、

箱すらも開けないので、ただギルド長と挨拶をするだけだったりする。


武器や防具などは検閲が厳しいので独自に仕入れルートを作って、

検閲を無視している店まである。


無視している店は、後で職員が調査を行い、

黒と分かれば、ギルド長が赴きしかるべき対処を行う。


それ以外の健全な店は、ギルド長や、他の店の店主などと軽く話をして、

検閲を待っているだけで、のんびりしたものである。


「喫茶幸のシャドウさん、検閲が終了しました。」


ギルド長が大きな声をあげると人だかりの中から、

執事の様な格好をした老人が来た。


「いつもお疲れ様さまです。」


「ありがとうございます。そういえば昨日、そちらのお店の伝説をやったカップルがいたらしいですね。うちの若い衆が騒いでましたよ。」

ギルド長がペンと紙を出して老人へと手渡した。


「ええ、珍しい黒色の髪の男性と、赤い髪の女性でしたね。」

老人は紙によく目を通してから、いつもの通り書き始めた。


「黒い髪ということは、ユウキ君ですか。彼も隅に置けませんね。相手の娘はどういう感じでしたか。」


「認識阻害をかけていらしたので、何とも…。それよりも黒髪の男性はユウキというのですね。」


「知らなかったのですか?トラヴィスタ家からの紹介だったので、あなたでしたら知っていると思っていたのですが…。」


「なるほど、トラヴィスタ家の関係者でしたか…。私は半年前にこのお店の店主を始めてから、一切トラヴィスタ家との連絡は行っておりませんでしたので。」


「…本当に、おやめになったのですね。まだ、裏でサポートをしているものと思っていました。」


「喫茶はわたくしの夢でしたから、それに奥様からは、「これからは自分のために生きなさい。」とのお言葉を頂きましたので。」


「そうですか、気づけない密偵も、ついに引退ですか。」


「そういうことになりますね。」


「最近、色々な魔物が出るようになっているので、気づけない密偵の力をお借りしたかったのですが、残念です。」


「今は奥様から頂いた喫茶幸の店主のシャドウです。それに魔界では私は弱いほうですので、頼りにはなりませんよ。」

書き終えたのか、ペンを置きもう一度紙を見直している。


「そうは言っても人界であなたより強い方なんて数えられるほどしかいないんですが。」


「あなたもそのうちの一人でしょう。あまり老いぼれをからかわないでほしいですな。」

笑いながら言い、老人は紙とペンをギルド長に渡す。


「ありがとうございます。ではまた。」

老人への挨拶を済ますと、ギルド長は次を呼び、また長い挨拶の時間に入った。




「師匠、起きてください。」


「う~ん…。」


「師匠、起きてくださいよ~。」


もう10回くらいになるだろうか、耳元で囁くように起こしているのだけど、一向に起きない。


やさしく起こすつもりだったけど起きないんなら仕方がない。


首が変な向きにならないよう、片手で頭を支えながら揺さぶってみる。

しかし、全く起きる気配がないので、耳元で、


「師匠~!起きてくださいー!!」


と大声で起してみた。


「…うるさい。あと五分だけ寝かせて…。」


寝起きが悪いのか、師匠はぼーっとした目つきでまた眠りに入ろうとする。


「あとゴフンってなんですか!?もうお昼になっちゃいますよ。」


「…んじゃ十分寝かせて。」


「意味分かんないですよ師匠!約束したんですから早く起きてください!!」


…約束!?


ナシュの言葉に反応して勢いよく起き上がろうとしたとき。


ドン!


という音がし、ナシュが壁まで吹っ飛んでいった。


「ぐはっ!」


ナシュが大きな声をあげ、倒れてしまった。


……状況確認。


ナシュが起そうと俺を揺さぶっていた。


俺はナシュの声に反応して勢いよく起き上がっていた。


その時近くにいたナシュがなぜか壁まで吹っ飛んでいた。


=俺が起き上がる勢いでナシュを吹っ飛ばした。


…やばい。


「ナシュ!大丈夫か!?しっかりしろ。」


すぐに起き上がってナシュの安否を確かめる。


「…いっつ。痛いですよ師匠!!普通の人なら下手すれば即死ですよ!!」


「…ごめんなさい。約束って言われたら、やば起きなきゃっておもってさ。」


「……今日、」


「え?」


「今日一日、私の言うこと聞いてください。それで許します。」


「どの道、ナシュと出かける用事だしいいよ。その代わり無茶なことはやめてくれよな。」


「大丈夫です。師匠ができる範囲のことしか言いませんから。」


ナシュの笑顔が少し怖いと思えるのは気のせいなんだろうか?



「昨日最初にここに来たんですよね?」


「そうだな、二人で来たんじゃなくてここで会ったんだけどな。」


今、俺は昨日ナシュに言われた通りにサファイアと回ったところを回ろうとしている。

ということで、今いる場所はサファイアと最初に会った本屋に来ている。


「ところで師匠はここで何の本を買ったんですか?」


「…三つの世界のことが書いてある本を買ったな。」


……もちろんアダルトな本に関しては伏せますとも。

さすがにそこまで馬鹿じゃない。


「そうなんですか!その本あとで見せてくださいね。」


「別にいいけど読み終わったらね。」


「ここは大声禁止だよ。お二人さん。」


「あっすいませ…ってサファイアかよ。」


「さがしたのよ。」


「師匠…!」


ナシュがなんか黒いオーラをまとっている。


「ナシュ落ち着け、俺を探してたって何の用だ?」


「あんたの空間の中の忘れものに用があるのよ。」


「あーあれか!」


昨日本屋を出た後に持っているのが邪魔だからと、自分の荷物と一緒にサファイアの荷物も一緒に入れていたのだ。


「ちょっと待ってろ。」


空間を開いて中にある本を取り出して、サファイアに手渡した。


「…うん、これこれ。」


「なんですかそれ?」


ナシュがサファイアが持っている本を指さして尋ねた。


「これ?大人の本よ。読んでみる?」


そういうとサファイアはナシュに本を手渡す。


「おっおい!」


それを阻止しようとするが色々と遅かった。


「………………そういう系の本ですか。」


ナシュの顔がトマトみたいに赤くなっている。


「そういうこと、ユウキも結構買ってたから後で読ませてもらえば?」


サファイア、それは余計なひと言だったよ。ナシュがめっちゃ睨んでくるし。


「…そうなんですか、師匠…あとでじっくり読ませてくださいね。」


俺はただ頷くことしかできなかった。



「そういえば師匠とか呼んでるけど、二人って師弟?」


「はい、そうです。私が弟子で師匠が師匠です。」


(…昨日から力関係が逆転し始めたけどな。)


「師匠?何か言いましたか?」


「ナニモイッテイマセンヨ。」


「…師弟ってことは二人とも同じ宿で過ごしてたりするの?」


なんだかサファイアの眼が鋭くなった気が…。


「はい、今は一緒の宿です。」


「ってことは、そういう関係でもあるの?」


「一緒のベットで寝る関係です!」


「へぇ…。ユウキって弟子にそういうことする人なんだ。」


サファイアがものすごく冷たい目で見てくる。


「サファイアが考えてるようなことは無いぞ!断じてそんなことはしてない。」


「…一緒のベットで寝ていることは否定しないんだ。」


「…ベットが一つしかないからしょうがなかったんだよ。」


やっぱり今日からでもソファーで寝よう…。

違う人だったら絶対誤解される。


「んでぶっちゃけどこまでいったの?」


「おっさんみたいなことを聞くな!」


「腕枕まで行きました!!」


「君はわかって言ってるよね!絶対わかってるよね!!」


「した後に腕枕なんてユウキはわかってるわね…。」


俺の周りにはボケしかいないのか…。楽しいからいいけど。


「…してないからね。腕枕は仕方なくしたけど。」


「…仕方なくなんですか。」


「はいはい、照れない照れない。くまができているところをみると、朝までしてたの?」


「…もう突っ込むのやめていいか。」


「どこに?」


…なんだよこの少女。絶対中身おっさんだって。


「はいはい落ち込まない。ため息ばっかついてると不幸になるわよ。」


「子供に慰められた…。」


「誰が子供よ!ちゃんとした女性よ女性!」


「師匠、昨日は寝れてないんですか?」


「誰のせいだと思ってるんだ…。」


「?」


「私を無視すんなー!!」


「子供っぽいんだかおっさんっぽいんだかどっちかにしてほしいんだが…。」


「うるさいー!」


「なんで足を踏むんだよ。狙いが陰湿だな…。」


サファイアが俺の足を思いっきり踏みつける。

まぁいつも通り、全く痛くないんですけどね。


「本当に師匠はすごいですねー。痛みを感じなんですか?」


「いや、感じるはずなんだけどねー。不思議だよね…。」


前なら痛みにのたうち回ってたんだけどな…本当に不思議だ…。


「そんなことより師匠そろそろお昼ですよ!お食事に行きましょう!」


「!?あんたまで無視するの!」


「そうだな、んじゃ行くか。」


「ついに両方無視かい!あんた明日ギルドであった時覚えておきなさいよ。」


「ちょっと待てサファイア!ほい忘れ物。」


帰ろうとするところを引き留めサファイアが取り忘れていた本を出して手渡す。


「あっ忘れてたわ…ありがとう。」


「おう、んじゃまた明日ギルドで会おうな。」


「ん、…わかった。…お昼に受付だからね。忘れないでよ。」


そういうとサファイアはさっさと帰って行った。


「…仲がいいんですね。」


「まぁ面白いやつだしな。一日で仲良くなったのはあいつが初めてかもな。」


「…そうですか。」


「どうした?」


「いえ、早く食堂に向かいましょう!」


ナシュはユウキの腕を引っ張り本屋を出て行った。





「ギルド長、大変です。」


「どうかしましたか?」


「先日捕らえた賊の一部がつい先ほど牢から突然姿を消しました。」


「…それは困りましたね、見張りは大丈夫ですか?」


「えぇ、見張りの巡回の合間に逃げたようで、全員無事です。」


「転移系の魔術師が助けに着た可能性がありますので、解析班は現場を調べてください。通信班は全班との通信を、それ以外の班は全員逃走した犯人の捜索をし、発見した場合はすぐ捕獲してください。相手が相手ですので状況によっては、上位系の魔法の使用を許可します。」


「了解しました。」


念話を切ると、ギルド長は武器を用意し犯人の捜索へと走って行った。




「カップル専用ラブラブジャンボパフェ~二人の愛を確かめて~季節の果物とチョコレートの甘いハーモニー。を一つと、季節のフルーツジュースを二つください。」


昨日と違う執事さんがナシュのオーダーを受けて厨房へと消えていった。


「っていうか昼飯食べた後によく頼む気になれるよな。」


昼飯を食べた後すぐにこの店に来たので、正直あんまり食べる気がしない。


「師匠知ってますか?女の子には別腹ってものがあるんですよ!」


「…昨日も聞いたよその言葉。」


「ぶー。」


「何ふてくされてるんだよ。つーかなんでまた窓際なの?」


「窓際じゃないと意味がないんですよ。」


「なんの?」


「知らないんだったら内緒です。」


「まぁいいけどさ。つーかあのパフェって食べてると人にものすごく見られるけどいいのか?」


「それも試練です。それができたら幸せになれるんです。」


「幸せ?何のことだ?」


「お待たせしました。カップル専用ラブラブジャンボパフェ~二人の愛を確かめて~季節の果物とチョコレートの甘いハーモニー。お一つと、季節のフルーツジュースをお二つです。では失礼します。」


今回の店員さんはちょっと若いのに違和感なくあのメニューを言ってたな。

ナシュが言っても違和感無かったし、俺がだめなだけなのかな。


「師匠、早く食べましょう!」


「わっわかった。」


また窓の外から視線を感じる。なんか今度は昨日と違う感じなのはなんでだろう。



「あっ、見て今日もあのパフェが頼まれてるよ!」


「えっ、本当だ。ってあれ?男のほう昨日と同じ人じゃない?」


「本当だ…。」



「なんだか視線が痛いんだけど…。」


「そうですね。人を見下した目で師匠のこと見てますね。」


「やっぱりそういう風に見えるか…。」


昨日は視線を受けて恥ずかしいだったが、今日は視線を受けて怖いと感じている。

やっぱり値段が関係してるのかな…。明らかに高いから、

「こんな高いものを二日連続で頼みやがってこのブルジョワが!!」

的な感じなのだろう…たぶん。


「師匠、暗い顔してないでください。これおいしいですよ。」


「おっそれ食べてない、あーん。…うん、酸っぱいけどうまいな。」


ナシュから差し出された果物を食べると、なぜかナシュがガッツポーズをしていた。


「師匠、…それ食べたいです。」


「これか?それ、あーん。」


「あーん…。……なんだかこれは癖になるような気がします。」


「そんなにうまいのか?」


「えっと…はいおいしいです。食べますか?あーん。」


そんな感じで俺たちはパフェを食べていった。




「あの男、あの子にもあーんをさせてる。」


「死ねばいいのに。…きっとあの子は騙されてるのよ。」


ものすごい非難を受けているのまでは気づいていない優輝だった。


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