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観劇へ

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

にこやかな笑顔を見せて挨拶をする店主に、アイシャは少しだけ申し訳ない気持ちを抱えて馬車に乗り込んだ。

「いい物を揃えられたようでよかった」

「もう少し取り揃えてもよかっただろうが、それだと侯爵夫人と一緒に買い物に行くことができなくなりそうだった。今回はここで我慢だな」

馬車が動き出すとロイナーは満足そうにしていたが、アレスは心残りがあるようで残念そうにしていた。それでも、エレナの楽しみを奪わないようにちゃんと配慮してくれていた。

アイシャとしては数着のドレスを揃えればよかった。

アイシャの体型に微調整してから侯爵邸に届けてくれることになり、置かれていたドレスや宝飾品の数を思い出すとため息が出そうになる。

とりあえず店に入ったときは古いドレスだったので、今のドレスに取り換えることはした。アイシャからするとそこまでデザインに変わりはなく素材が少し変わったような気はするが、ほとんど大差ないドレスにしか見えない。ドレスというだけで庶民には手の届かない代物だ。平民の時の記憶しかないアイシャにはすべてが高級な物に思えた。

侯爵令嬢となり、女神の代理人として王城へ行くことになるのだから、慣れる必要がある。

「次はどこに行くの?」

ドレス選びは午前で終えた。もう昼になってしまったが、馬車は屋敷に戻る方向に進んでいなかった。ほかに行くべき場所があったのだろうかと首を傾げていると、答えたのはアレスだった。

「このまま食事に行こう。そのあとは観劇に行こうと思っている」

「観劇ですか?」

平民も貴族も関係なく見て楽しむことができる娯楽だ。貴族用の席が用意されているので、平民に混ざって一緒に見るわけではない。ただ、アイシャは幼いころに母と一緒に遠い席から見た記憶がある。観劇は今の世の中の話題となっているものを中心に行われることが多く、そこから人々は何が起こっているのかを汲み取ったりすることもあるのだ。

現在の王国の現状を知らないアイシャにとっては、今の世の中がどうなっているのか知るのによい機会だと思えた。

「最近の流行は何ですか?」

ロイナーも観劇を見に行くことがないようで、気になって尋ねている。

「いくつか公演されているが、女神の祝福という題名があったから、これにしてみた」

アレスも詳しいことを知らないようで、題目だけで決めてしまったようだった。

「誰もが見るものだから、あまり偏った思想のものや、激しいものではないだろう」

「確かに、僕も昔見たことがありますが、気分が悪くなるような内容はなかったと思います」

「アイシャはただ楽しめばいいから」

観劇で何かを得てほしいということではなく、楽しむために行くのだとアレスは考えているようだった。

アイシャもどんなものなのか久しぶりだったため楽しみのほうが大きかった。

だが、この後実際に見た観劇はアイシャにとって決して楽しめるものではなかったことを、この時は誰も知る由がなかった。



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