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4-6 最後の仕掛け

 ……もう一度だけ。


 本当に、それだけでいい。


 大きなことはしない。

 死も、消失も、世界の歪みも要らない。


 今回は、

 分かりやすいものにする。


 翌朝、校内に小さな噂が流れた。


 旧棟の倉庫で、

 「誰かの名前が書かれた紙」が見つかったらしい、と。


 名前は一つ。

 はっきりと。

 読み間違えようのない文字。


 ——七村。


 ああ、これでいい。


 人は名前を見ると、

 意味を探す。

 理由を探す。

 責任を探す。


 探偵の子は、きっと来る。

 偶然じゃない、と言う。

 誰かが仕掛けた、と言う。


 少年は——

 どうする?


 ヴェルモラは、息を詰めて待つ。


 観測する。

 今回は、観測する。


 倉庫の扉が開く。


 メガニコが先に見つける。

 紙を拾い上げ、息を呑む。


 「……七村」


 振り返る。

 当人は、少し離れた場所に立っている。


 「これ、どういうこと?」


 声が揺れる。

 当然だ。

 名前は、人を引き戻す。


 さあ。

 説明しなさい。

 否定しなさい。

 関与しなさい。


 ——どれでもいい。


 七村は、紙を見る。


 少しだけ、視線を落とす。


 そして言う。


 「それ、僕の字じゃない」


 ……それだけ?


 メガニコが続ける。


 「でも、誰かが書いたんだよ。

  わざわざ」


 七村は、少し考える。


 「書いた人が、そうしたかったんだと思う」


 「理由は?」


 「理由は、書いてない」


 紙が、風で揺れる。


 名前は、そこにある。

 でも、それ以上は増えない。


 七村は、紙に触れない。


 メガニコは、しばらくそれを見てから、

 ゆっくり畳んで、元の場所に戻す。


 「……これ、事件にしない」


 「うん」


 短い返事。


 それで終わり。


 倉庫を出る二人の背中を、

 ヴェルモラは見送る。


 ……馬鹿みたい。


 名前を出せば、

 必ず縛れると思っていた。


 名前は、

 一番簡単で、

 一番残酷な道具なのに。


 それでも、成立しない。


 私は、何を期待していたの?


 最後に残ったのは、

 怒りでも敗北感でもない。


 ただ、空白。


 観測しても、

 何も増えない空白。


 ……もう、だめね。


 ヴェルモラは、視線を外す。


 「これで終わりよ」


 誰に向けた言葉でもない。


 「次は、もう——

  見ない」


 それは宣言じゃない。

 降参でもない。


 ただの、

 手放しだった。


 名前は、

 風で、どこかへ飛んでいった。

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