第一話 北藪夏乃は、死んだ
全校集会で、事故の話があった。
北藪夏乃が亡くなった、と校長は言った。
淡々とした声だった。言葉の選び方も、順序も、間違っていなかった。
それでも、体育館の空気は少しだけ重くなった。
七村は、床の線を見ていた。
自分の立っている場所が、どこにも属していないような気がしたからだ。
隣では、誰かがノートを広げている。
七村の隣の席には、いつもノートを開いている女生徒がいた。
何を書いているのかは、知らない。
文字なのか、図なのか、それとも落書きなのかも分からない。
今も、そのノートは開かれている。
ページはめくられない。
ペンも、止まったままだ。
名前を呼ばれることはなかった。
北藪、という名字だけが、何度か繰り返された。
七村は、前の席を見る。
そこは、空いている。
長い前髪だけが印象に残っていた。
顔をきちんと見たことは、なかった。
後ろから見えるのは、
いつも同じ位置で揃えられた黒い髪と、
動かない背中だけだった。
知らない人だった、と言えば簡単だ。
でも、知らないまま毎日そこにあった、というほうが近い。
七村は、それ以上考えるのをやめた。
考えたところで、
自分にできることは何もない。
校長の話が終わり、
ざわめきが少しずつ戻ってくる。
隣の女生徒が、ノートを閉じる。
その音は、小さかった。
七村は、そちらを見なかった。
見なくても、
隣に誰かがいることだけは、分かっていた。れた。




