5話
「……飽きた」
寝るの最高!
という生活も一週間もすれば、飽きてきた。
私は存外飽き性だったらしい。
「ひまひまひま、ひまだなー」
一人トランプも、一人しりとりも飽きてしまった。
食べ物は、聖なる力のおかげでお腹が減らないのでいらないけど。
……一人って意外と暇なんだなぁ。
なんか娯楽とかを見つけないと。
「よし!」
せっかく魔物の森が領地になったのだ。
魔物とご対面でもしてみましょうかね。
魔物も案外話せばわかるタイプかもしれないし?
魔物って、人間を襲うイメージしかないけども。
一人で家に閉じこもるよりは、楽しいかもしれない。
あくびをしながらベッドから起き上がり、寝室を出る。
ーードンドンドン。
「……ん?」
玄関の扉が強く叩かれている。
魔物って、扉を叩くとかできたっけ?
領主の私にご挨拶に来たのかしら。
あらまあなんて律儀。
案外、話が通じるかも。
「はいはーい」
ガチャリと扉を開けると、まず目に入ったのは、眩しい銀髪だ。
「……神官長?」
残念、無念、頭頂部はまだ薄くなっていなさそうね。
「そんな汗だくでどうしました?」
私は引退聖女の身。
今更、神殿に連れ帰るようなことはされないだろうけど。
「お前が! 結界を張っていたから中に入れなかった!!」
「……あ」
神官長は、どうやらここ2時間ほどドアを叩いていたらしい。
そういえば、寝る前に結界とか張ったような。
だって、大事な睡眠時間を面倒ごとに割かれたくないし。
私が家の扉を開けたことで、結界の中ーーつまり家の中に入れたわけだけども。
「それは、すみません」
ひとまず、神官長を応接室に通す。
ソファに座ると、神官長はじいっ、と私を見つめた。
「……リアナ」
「? はい」
「怪我……はないな」
まあ、ないですね。
ずっと、寝てただけだし。
「はい」
「病……には聖女のお前がなるはずがないか」
「そうですね」
頷く。
聖なる力が使える間は、神様の加護があるから、病になるなんてありえない。
「……」
途端に無言になる神官長。
え? なに、その察しろみたいな視線は。
私、何かしたっけ?
あっ、ああー、なるほど。
「すみません、神官長はコーヒー派でしたね」
コーヒーではなく紅茶を出したことに怒っているのだろう。
まったく、めんど……味にうるさい神官長サマだわ。
「違う」
あれー、違うんだ。
神官長は、アイスブルーの瞳を細めて、続けた。
「お前の胸に手を置いて考えてみろ」
私のつるぺた……じゃなくて、慎ましやかな胸に手を置いて再度考えてみる。
ええー、なんだろう。
あ! わかった。
「神官長が将来禿げるように願ったことですか? 聖なる力は使ってないので、効果はでてないようですが」
実は、後頭部がはげてたりするのかしら。
「違う! ……って、リアナ、お前と言う聖女は」
はぁーと谷底のように深く長いため息をつかれた。
「いやだなぁ、神官長。元聖女ですよ」
おほほ。まあ、正確には元繰上げ聖女ですが。
「……そうだな、元聖女だ」
神官長が頷いた。
どうやら、代替わりの儀式はしっかりばっちり行われたようだ。
しかし、そんなユリア様をほっぽって、私の元にくるとは余程の用事!
まーったく身に覚えがないけれど、なんの用事かしら。
「さて、そんなお前ならわかるな。……なぜ、手紙をよこさない?」
「……てがみ?」
? ? ?
縦社会の基本的な原則、何かあれば直ちに上司に報告連絡相談せよ。
しかし、私は元聖女。
もう神殿の鬱陶しい縦社会とは解放された身である。
そんな私がなぜ神官長に手紙など?
「一週間、待った。リアナ、お前には外傷もなく、病でもない。なのに……なぜ?」
そうですね、私が領地に来てから一週間ぐうたらニート生活をしてました。
まあ、手紙を書く時間があったかといえば、あっただろう。
一人しりとりをするくらい時間を持て余してたし。
「ええっと……? 書く理由がないから、ですかね」
まあ、元上司として心配してくれたのは有難いけど。
特に変わったことがないから、書いてない。
「!!、!!!!」
言外にそう伝えると、神官長は、目を見開いた。
えっ、怖。
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