3話
翌朝。
待ちに待った、翌朝だ。
私は、既にまとめていた手荷物を持って、神殿に別れを告げた。
「本当に行かれるんですか?」
心配そうな顔をしたのは、私の後輩とも呼べる次代聖女候補たち(ユリア様を除く)だ。
ユリア様は、もちろん、戴冠式の準備をしている。
「もちろん! じゃあ、みんなほどほどにがんばってね」
何かいいことでも言おうとしたけれど、あんまり思い浮かばなかった。
それに適度って大事だ。
頑張りすぎるとほら、私みたいに血とか吐く。
それは良くない。
「リアナ様……私は」
ひらひらと手を振って、馬車に飛び乗ろうとすると、一人の聖女候補がかけてきた。
メグミ。彼女は、次代の次席。
つまり、私と同じような立場にある彼女。
「私は、今でもリアナ様が最も聖女に相応しいと思っています」
――ユリア様という、圧倒的な光。
そんな光の輝きを知っている彼女にそう言われるのは、素直に嬉しい。
「ありがとう」
まぁ、私のことなんてユリア様の威光と共にすぐに忘れ去られる。
彼女たちも忙しくなるだろうし。
聖女様が、全てを見るのは難しい。
取りこぼしがないように、手を広げるのは彼女たちの役目だ。
「それでは――」
「神官長、いらっしゃらないのですね」
ぽつり、とメグミが零したその言葉に首を傾げる。
「神官長は、ユリア様のところでは?」
だって、戴冠式前だし、神殿の最高権力者がいないのは逆にどうかと思う。
「でも、神官長は――」
メグミは、何か言いたげに私を見た。
「? どうしたの?」
「……いえ。差し出がましいことを申しました」
メグミは小さく首を振った。
そして、私の手を握る。
「どうか、リアナ様の道行きに幸多からんことを」
その祝福の言の葉は、聖女候補たちが一番初めに習う基本的なものだ。
でも、だからこそ、誤魔化しが効かない。
「……ありがとう」
きっと、ユリア様が、次代じゃなかったら。
メグミはもっと脚光を浴びるはずだ。
それだけ、基礎を大切にした、柔らかな聖なる力で祝福ができるのだから。
そう言いたい気持ちをぐっと抑えて、微笑んで、今度こそ馬車に乗り込んだ。
徐々に遠ざかる、神殿を横目に、先輩が歌ってくれた子守唄を口ずさむ。
神殿に初めて来たのは、10歳の時。
それから、もう12年も経った。
22という年齢は、庶民なら行き遅れ。
貴族なら、まぁないこともない。
まあ私は、今は爵位を賜ったとはいえ、もともと平民。
でも、恋愛なんてしなくても、私は何と言っても領主さまなわけだし。
たとえ、魔物がうようよいる森でもね。
だから、一人でも生きていくぜ。
目指せ、おひとり様の悠々自適なスローライフ!!
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