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絆の誓い~王国に託された選択

作者: 橘 優月

第一話 遠い昔の思い出

『ヴィエラはねー。エドゼルのお嫁さんになるのー』

 幼い姫はそう言って一緒に育ってきた王子にくっつく。王子もまんざらではない。その仲の良い異母姉弟に二人の母は微笑む。

 

 それは遠い昔の思い出。戻ってこない時間。

 幼い頃に誓った禁断の絆

 

 ヴィエラは部屋の大きな掛け時計が時刻を告げる音を奏でてはっとする。手にはあの頃一緒に遊んだおもちゃがある。

 

「無理な話よね。父とは血がつながってるのだから」

 母親が違うだけだ。ある意味兄弟となる自分とエルドゼルとは永遠に結ばれない。それでもこのエドゼルと求める心は止まらない。自虐的な笑みを浮かべてヴィエラはその部屋から立ち去った。

 ヴィエラとエドゼルはまだ知らない。己の出自の秘密を。それは父である王と二人の妃しか知らない秘密だった。

 

 十八年前、城門の側でヴィエラは見つかった。泣いているヴィエラを第一妃エリアンナは抱き上げる。夫の王とはもう、長い間子に恵まれない。

 ふっと思う。この子を育てようと。子のできない自分への神の贈り物だと思っていた。エリアンナの姿は優雅で上品なたたずまいを持っていた。少しカール気味の髪の毛を背中に長し、夫はこヴェルモント王国の主だった。

 自分に子ができないため、王は第二妃、アンネリスを娶ったが、アンネリスも病弱で嫡子を産むことはなかった。今は、療養所で静かに療養しているはずだ。まさか、その頃、アンネリスも庭でエドゼルを見つけていたとはつゆほどにも知らない。

 

 こうして見つかった赤子の出自の秘密は密やかに埋没されていった。

 

「お母様? 何か気がかりでも?」

 読書の手が止まったエリアンナにヴィエラは声をかける。美しく育ったヴィエラを見つめる。ヴィエラの髪は美しく長く背にのび、深い色合いで思いやりに満ちた瞳は愛情深く育った証だった。

「あなたは綺麗に育ったわね。そろそろ婚礼を挙げる歳ね」

「お嫁になんて行かないわ。この王家の役目を果たさないと」

 そう言って今度はヴィエラが思考に埋没していく。

「ヴィエラ? 何か悩み事でも?」

 母の声にはっとしたヴィエラは少しだけ微笑んで違う、と言う。

「私が本当にお父様とお母様の娘か時々わからなくなるの。こんなに親に似ない姫なんているのかしら、と」

 そう。ヴィエラは自らの出自の秘密を感じ取っていた。父にも母にも似ていない自分は王家の人間ではなく、どこかからもらわれてきた娘なのでは、と。

 王室の血の濃さはどこの王室でも周知の事実だ。どこかしら誰かに似ている。それが自分にはまったくない。

 異母弟と血がつながってないならどんなに良いだろうか、とヴィエラは思う。

 ヴィエラは幼い頃に思った以上にエドゼルを求めていた。エドゼルも父と継母の第二妃とは似ても似つかない。

 

 いっそ他人同士で結婚できれば良いのに。

 

 だが、父は一緒のはず。この禁断の恋心は隠し通すしかなかった。

「ヴィエラ?」

「この本は何度も読んで飽きてしまったわ。図書室で違う本を持ってきます。お母様も何か別の本がいる?」

「そうね。違う本を選んできて頂戴」

 優しく微笑む母に母ではないと思う、とは到底言えない。母も継母も自分達に惜しみない愛情を込めて育ててくれた。自分のこの気の触れた思いは封印するしかないのだ。近親相姦など、罪でしかない。ヴィエラは自分の気の触れた考えを一掃した。

 

 第二話 禁断の恋心

 図書室には先客がいた。エドゼルだ。たくまく鍛え上げられた肉体を持ち、今では国の兵達を率いることもある優秀は皇太子だった。第一継承権はヴィエラにあるものの、周辺諸国と同じで、男子の方が王位継承には有利だった。

「エドゼル……」

 そんな眩しい異母弟を見つめてヴィエラは立ち止まる。ヴィエラに気づいたエドゼルは親しみを込めた笑みを返す。

「違う本を探しに来たの? 姉さん」

 母達が友人以上に親密だったようにヴィエラとエドゼルも親密だった。その近さがヴィエラには年々恐怖になっている。

「ええ。母の分も」

 喉が渇いて上手く声が出せない。あのたくましい胸に抱かれているところを想像してしまってヴィエラは禁断の恋心を持て余していた。

「それならこれがいいよ。自然と人間の物語がある。僕達はもう少し、こういう生き方をしないとね」

 エドゼルは本を渡そうとしてヴィエラの手に触れる。エドゼルもはっとして触れた手を離して本が落ちる。二人の間に緊張感が漂う。

 エドゼルもまたヴィエラを求めていた。だが、エドゼルもその禁断の恋心を封印していた。最近はわざと外の巡回に行って会わないようにしている。こうして久しぶりに会うと押さえていた情熱がこみ上げる。それを振り切るように本を再び手に取るとぽん、とヴィエラの手に置いて図書室を去る。いつまでもヴィエラが見つめているのを感じながら。

 

 薄々と二人とも感じていた。禁断の恋心に。あってはならない恋心に。だが、異母兄弟という血のつながりが二人を阻んでいた。二人とも異母兄弟と信じて疑わなかった。

 

「ヴィエラ。どうした。こんな所で立ち尽くして」

 国王アレクサンドルに声をかけられてヴィエラは冷や水をかけられたように驚いた。

「お父様。図書室に本を借りに来たのです。エドゼルがこの自然と人間の物語の本を紹介してくれました。お父様……」

 私達は本当に姉と弟なのですか? と聞きかけて踏みとどまった。血がつながっていないという証拠はどこにもない。

「なんだ?」

 ヴィエラの苦しげな声に何かがあると察知しつつも平然と聞き直す。もしや、という思いもあるが、まさか、という思いもあった。

「いいえ。なんでもありません」

 ヴィエラはそう言って立ち去る。

 あんなに眩しく笑っていた娘が何事かに悩まされている。父として愛情をかけて育ててきた。その娘の心に踏み込めないのを父、アレクサンドルはふがいなさを感じていた。

「そういえばリーデン王国から手紙が届いていたな。目を通そう」

 小さく呟いて父は立ち去った。

 

 第三話 禁断の恋

 

 あの図書館での出会いから数日後、エドゼルは馬で近くの森にやって来ていた。ここはヴィエラともよく遊んだ場所だ。かくれんぼなどして楽しい時間を過ごした。ヴィエラに会いたい気持ちを抑えてエドゼルはこの思い出の土地に来ていた。

 だが、そこにはヴィエラがすでにいた。泉のほとりで顔を手で覆っていた。小さな泣き声が聞こえる。苦しそうなその涙にエドゼルはたまらなくなって馬を下りるとヴィエラの元へ駆け寄った。

「エドゼル……」

 呆然と弟を見上げたかと思うとヴィエラの瞳から大粒の涙がこぼれだした。

「姉さん!」

 エドゼルはヴィエラを思いっきり抱きしめる。姉の涙が心に痛かった。

「エドゼル……。どうして私達は血がつながっているの? こんなにも好きなのに」

 そう言ってわっと泣き崩れる。そのヴィエラの顔を上げさせるとエドゼルはヴィエラの涙を唇で拭き取り始めた。

「エドゼル。いけないわ。私達は血がつながっているのよ……」

 止めようとするヴィエラだが、もうエドゼルには止められなかった。頬をさ迷っていたエドゼルの唇がヴィエラの唇に触れる。エドゼルは思いの丈を込めてキスをする。気づけば、ヴィエラもエドゼルの首に手を絡めて深いキスを交わしていた。

 エドゼルの唇が首を伝い胸元へ続く。そこまで来て、二人ははっと我に返る。それでも二人は離れなかった。はだけた肌を合わせてお互いを感じていた。

「姉さん、いや、ヴィエラ、俺はヴィエラを愛している。ずっと言葉にできなかった。禁忌の言葉だとはわかっている。だけどヴィエラもそうなんだろう? 俺を愛してくれている。そうなんだね?」

 ヴィエラは優しく熱いエドゼルの言葉に肯いて言う。

「愛してるわ。ずっと前から。でも私達は父と血がつながっている。どう転んでも結ばれないのよ」

 ヴィエラが落涙する。

「どこか知らない町に行こう。俺達の名前も顔も誰も知らないところへ。そこで一緒に暮らそう。もう、この思いは止められないんだ」

 エドゼル、と驚きの表情で見上げていたヴィエラの顔が輝き始める。そう。昔見たあの笑顔が蘇る。

「エドゼル。大好きよ。そうね。一緒に暮らしましょう。そして二人で生きて行きましょう。私にもこの思いは止められないわ」

「ヴィエラ。ようやく言ってくれたね。好き、と愛している、と。君と一緒なら怖いものはない」

 二人は泉の側でいつまでも熱い抱擁を交わす。

 

 二人の禁断の恋はついにパンドラの箱を開けてしまったのだった。

 

 第四話 舞い込んだ縁談

 

 泉のほとりで愛を確かめ合った二人はそれから一緒に遠乗りにでかけたり、秘密の小屋で逢い引きを重ねてきた。二人の愛はとどまることを知らなかった。ただ、一線を越えることはまだできなかった。二人とも怖かった。愛すれば愛するほどに血がつながっている事実が重かった。

 

 そんなある日、父アレクサンドルがヴィエラに縁談が来ていると話した。

「リーデン王国のマクシミリアン王子だ。年も近い。いい夫婦になれると思う。嫁いでみるか?」

 一般の国王なら国益を考えてすぐに嫁げ、と言うところだが、アレクサンドルは娘に深い愛情を注いできた。無理矢理、意の沿わぬ結婚を押しつけたくはなかった。

 ヴィエラの顔は青ざめていた。

「ヴィエラ?」

 通常の驚き方ではない。アレクサンドルは娘を見る。

「そのお話、少し考えさせてください」

 いつも通りに去って行くようにも見えたが、そうではない何かをアレクサンドルは感じた。最近、エドゼルと一緒の所をよく見かける。その時のヴィエラの微笑みは輝いている。

 

 まさか、あの事実を知っているのか?

 妻と夫しか知らぬあの出生の秘密を。そして二人は恋仲なのか?

 

 アレクサンドルに恐ろしい考えが浮かんだ。二人の姫と王子に王家の血が流れていないとすれば統治者にはなれない。ましてや拾い子と知られれば、国民は違う王家に連なる人物を国王にしたがるだろう。王家が途絶える。

 だが、あのように青ざめた娘を無理矢理嫁がせるなどできはしない。アレクサンドルは妃たちと話し合いを持つことにしたのだった。

 

 一方、縁談の話を聞いたヴィエラは問題を抱え込んで森の泉に来ていた。いつもここでエドゼルと待ち合わせる。今日は巡回に行って会わない事になっているが、どうしても来てしまった。早くエドゼルの顔が見たい。この爆弾のような思いを解放したかった。

 いずれ来る話だとわかっていた。

 けれども、エドゼルと愛を交わした今では考えられない。

 やっぱり、城を出るしかないの? あの優しい、温かな母や父を置いて。

「ヴィエラ?」

「エドゼル!」

「父上がヴィエラの様子が変だったと聞いて、もしかしてここに来てるんじゃないかと思って……」

 エドゼルが全てを言い終わらないうちにヴィエラはエドゼルに抱きついていた。

「エドゼル。抱いて。今すぐに」

 ヴィエラの大胆な発言にエドゼルは衝撃を受けて立ち尽くしてしまったのだった。

 

  第五話 禁忌の愛と国との両天秤 

  

「いいのかい? 本当に」

「ええ」

 逢い引きを重ねていた小屋に二人はいた。

 ヴィエラは肯く。二人の距離が近づいていく。

 もう誰にも止められなかった。禁忌の愛はもう走り出してしまった。

 

 時間を経て、ベッドで肌を触れ合わせていると、ヴィエラはそっと言う。

「縁談が舞い込んだの。でも、私は……」

「いいよ。全てを話さなくても。一緒に城をでよう。そして君と君の子と三人で田畑を耕しながら暮らそう。身分なんていらない。ヴィエラさえいてくれればいい」

「エドゼル。愛しているわ」

 体を起こすともう何度も交わした深いキスをする。もう二人とも心の限界を超えていた。

 

 そして、流石にこの小屋でひと晩を過ごすわけにはいかないと思った二人は城へ帰る準備をしていた。

 

 その時、ぐらり、と地が揺れた。その後に来た縦に突き上げる長い衝撃に立っていられない。激しい地震に襲われ、エドゼルは思わずヴィエラを抱き上げると小屋の外へでた。間一髪で崩壊した小屋の下敷きにならずにすんだ。

「今のは……。お母様!」

 繋いでいた馬は綱が切れて逃げた。エドゼルはヴィエラを抱き上げると城へ戻る。エドゼルの鍛え上げられた筋肉と体力であっと今に城の近くに戻ってこれた。さすがに城に抱き上げて帰ることはできない。二人は走って城へ向かった。

「お母様!」

 あちこち崩れた城の中をそれぞれ母を探して走る。

 二人の母は無事だった。無事を確認するとエドゼルとヴィエラはすぐに父のいる執務室へ急いだ。

 強固で頑丈な城でさえ、崩れているのであれば国のあちこちで建物が倒壊している。この惨事の収拾に当たることを二人はとっさに判断していた。

「エドゼルにヴィエラか。二人してどうした。父はこれからこの大地震の収集に行かねばならない。話なら後だ」

「話などありません。私にけが人の介護をさせてください。曲がりなりにも母から治癒魔法の手ほどきを受けております。魔力を使わずともけが人の介護の方法も教えてもらっています。どうか、この地震の指揮を執らせてください」

「ヴィエラ。そなた、いつの間に」

「国に大事があればいつでもこの命捧げるつもりでした。のんびりと嫁ぐなんてやっている場合ではありません。まずは国を立て直さなければ」

「私は倒壊した建物の下敷きになっている国民の救助に向かわせてください。騎士団と協力して国の一助となる覚悟です」

 エドゼルが言う。

 二人の子が口をそろえて国のために力を尽くすと言ってきた。その目は浮ついた戯れに遊んでいる目ではなかった。ヴィエラもエドゼルも国王の器だ。どちらかが欠けてもならないのだ。国王アレクサンドルは即座に指示を出していた。

「ヴィエラはエリアンナとアンネリスともに城でけが人の看護を。エドゼルは生き埋めになっている民を助けるのだ。父も陣頭指揮を執る」

「はい!」

 二人は声をそろえて答えるとそれぞれの持ち場に走り出した。その後ろ姿にふと思う。

 あの二人は愛し合っているのかもしれない。だが、危険を顧みず国の救助を申し出た。二人の血のつながりのない事を伝え、一緒にこの王国を守らせるべきなのかもしれない。

 ふっと頭によぎった考えは今考える事ではない。頭の隅に押しのけて国王アレクサンドルは指示をだしに謁見の間に急いだ。


 第六話 国の復興と現れた魔術師

 

 ヴィエラは次々と広間に運び込まれてくるけが人に治癒魔法をかけていく。重症の患者を引き受け、ある程度まで回復させると、母達に任せた。経験では母達の方が上だ。最終的な判断は二人の母にまかせた。運ばれてきたけが人の中には、もう無理な患者もいた。痛みを和らげることしかできなかった。ヴィエラは涙を浮かべ、その手を取る。中には子供もいた。いたいけな子供の死にヴィエラは涙を懸命にこらえ、次のけが人の手当に移る。

「ヴィエラ。もう、治癒魔法はその辺にしておきなさい。あなたの命が逆に危ないわ」

 母、エリアンナが言う。それに首を振るヴィエラである。

「いいえ。私はこの国に命を捧げます。罪深い私にできるのはこれだけ……」

 その言葉に母、エリアンナには察しが付いた。

「エドゼルと何かあったのね?」

 その問いにヴィエラは答えなかった。視線をそらすと、またけが人の看護に当たり始めた。エリアンナは第二妃のアンネリスに耳打ちする。

 そう、とアンネリスは肯く。

「薄々気づいていたわ。二人が深く愛し合っていることを。見ない振りをしてきたけれど、国が復興すれば、世間に言いましょう。二人の秘密を。そうすればあの二人にも幸せがやって来ますわ」

「そうね。この話はこの事態が収拾してからね」

 そう言ってエリアンナは看護に尽くし始めた。

 

 一方、四つの騎士団をまとめて陣頭指揮を執っていたエドゼルも自ら現場に入って倒壊した建物から何人も救出した。しかし、夜露をしのぐ物資は足りなかった。エドゼルは自分の持っている領地から物資を取り寄せた。エドゼルの治めている領地は壊滅的な被害は免れていた。

 そしてあるとき、他国から救援物資が届いた。近隣の国も被害はあったが、震源地となるヴェルモント王国よりは格段に被害は少なかった。

 物資についている国の名前にこの中にヴィエラに縁談を申し込んできた国があるのだろかと、思いもしたが、すぐに切り替えて物資を運ぶことに手を貸した。

 

 姫と王子の献身的な働きで、被害は次第に収まってきた。街の復興にはまだ時間がかかるが、広間に避難したり、怪我をしている人間はいなくなり、人々は再び安心して暮らせる時期がやって来た。

 ヴィエラとエドゼルは国の復興に奔走していた。そんな二人を見ていた母二人は、出生の秘密を明らかにすることを決めた。父、アレクサンドルもどちらかを王位継承者とするよりは二人で治めさせる方がいい、と思い始めた。権力を二分することとなるが、それはそれでこの国の平和に繋がるかもしれないもう、ヴィエラの縁談は断っていた。

 

 そして、国の復興の祝いに広間で宴会が行われることとなった。ヴィエラはそこでマクシミリアン王子との縁談を発表されるのではと暗い気持ちになっていた。エドゼルはこの国の王にふさわしい働きをした。彼こそ国王になるべき人間。自分はエドゼルへの愛を胸に城を出ようと計画し始めていた。

 

 そんな二人の元にある魔術師がやってきた。奇妙な事に血を分けてもらえないかと言ってくる。不思議に思いつつも考え事に忙しいヴィエラは何も思わず、血を分け与えていた。

 同時に魔術師はエドゼルの血ももらっているという。

「魔術師さん。あなたはその血で何をするの?」

 険しい顔をした魔術師は今夜明らかになると言って下がる。ヴィエラはそれ以上追求せず、考え事に没頭し始めた。

 

第七話 絆の誓い


 宴会が始まった。王族の一人としては参加せずにはいられない。ヴィエラもエドゼルも重たい気持ちで参加していた。宴会もかなり進んだ頃、国王は姫と王子を女王と王とし、この国の継承者とする、と発表した。ヴィエラ達の尽力を認めていた者達はまったく反対もしなかった。そこへ、待ったをかけたのが妃達である。

「お母様?」

「母上?」

 二人の子は不思議に母達を見ている。妃達はこれまで重くのしかかった秘密を暴露することにしたのだ。

「私はヴィエラを城門の近くで見つけ、拾い子を娘として育ててきました。二人に血縁関係はありません」

「エドゼルも、私が療養所にいた折に、庭で泣いていた赤子です。国王とも母の私とも誰とも血はつながっておりません」

 二人の急な発言に宴会場はざわめいた。

「国王。本当に姫と王子とは血がつながっておられないのですか?」

 若い大臣となった貴族が聞く。国王を補佐する貴族の当主の大半は今度の地震で亡くなったり、当主を退いていた。

「いかにも。我々とは血はつながっていない」

「それでは、この血がつながっていない姫と王子に王位を継承させるのですか? そもそもこのような発言、何を目的に……」

「二人が愛し合っているからだ。禁忌を越えて尚二人は結びついておる。そしてそれよりも国民を優先して国の復興に尽力したのは見てきたであろう。この子らしか王位を継承させる資格はない」

 国王が言う。それでは、と別の方向から声が上がった。

「血がつながっていないという証拠はどこにあるのですか?」

 答えに窮している三人の親にヴィエラはもういい、と言いかけた。

 その時、ヴィエラを誰かが押しとどめた。魔術師だった。

「ここにお二人の血と、血縁関係を調べる試験薬がありまする。これにそれぞれ入れて違う色がでましたなら、お二人に血縁関係はありません。とくとご覧下さい」

 魔術師は見たこともないような硝子の筒に二人の血をそれぞれの試験薬に入れる。しばらくするとヴィエラの血を入れた方は薔薇色に。エドゼルの血を入れた方は森の緑に輝き始めた。それを魔術師は貴族達にみせてまわる。

「お二人に血のつながりはありませぬ。どうかこの新しい統治者の誕生をお喜びください」

 そう言って魔術師は消える。

「我々をたぶらかそうとしているのか? あれは。見たこともない魔法だ」

 一人の貴族が言い出すと様々な声が上がってきた。それを国王は制止する。父親でも信じられなかった。あのように魔法で調べられるとは。

 だが、本当に血のつながりはないのだ。

「今見た者の中で二人は血がつながっていると思うものはいるか」

 父、アレクサンドルは周りを見渡す。有無を言わせぬ国王の声だった。確かに今の光と功績を考えれば違う、とは言い切れない。

「いないようだな。ヴィエラ、エドゼル。二人の婚姻を認める。お前達で復興した国を導いて行きなさい。では宴会の続きを」

 ヴィエラとエドゼルは顔を見合わせて固まっていた。血のつながりがない。今まで信じてきた家族のつながりが切れた。と、同時にこの恋は禁忌の恋ではなくなった。

 ほっとしてヴィエラはめまいを起こす。エドゼルが支える。近くにお互いの顔がある。二人とも顔が赤い。

「何をしてるんですか。認められたのですよ。二人の仲を。キスでもしてお上げなさい。エドゼル」

「は、母上?」

「それ以上の事に至ったのでしょう?」

「お母様!」

 顔から火が出るほど恥ずかしい。

「さ。皆の前で誓いのキスを」

 父親まで言ってくる。

「おと……」

 ヴィエラが文句を言いかけたその時エドゼルがキスをする。久しぶりのキスに情熱がこみ上げてくる。

「ほう。そこまでの仲だったか。縁談を進めておれば家出でもされそうだったな。さっさと婚礼を挙げなさい」

「はい!」

 二人の将来が明るくなった。闇が取り払われ、二人の絆は王国の復興の光の証となる。国民がどう受け取るかはわからないが、周りの貴族達はもう当たり前にしている。

 きっと、婚礼を挙げても非難はされないのだろう。

「こんなに単純な事だったなんて」

 ヴィエラはエドゼルの胸元で呟く。

「悩んでいたのが損だったね。ヴィエラ。愛しい人」

「大好きよ。愛しているわ。エドゼル」

 そう言って首に手を大胆にからませると深いキスをヴィエラはする。

「孫はいつになれば抱けるかしら」

「すぐよ。こんなに熱い仲なんですもの」

 仲良し妃二人は娘と息子の将来に思いをはせる。

 

 この二人の統治者誕生ににヴェルモント王国は再び繁栄と希望が確約された。

 エドゼルが誓う。

「もう一度誓うよ。ヴィエラを生涯愛し続けると」

「私もよ。エドゼル。一生離さないから」

 誓い合った二人の絆はいつまでも光り輝くのであった。



 王国に託された選択完

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