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旦那と自分と子分と代償と、

作者: 雪野鈴竜

こちらも「シガーデス」と同じく、夢で見た内容を、少し改変して小説にしました。

 自分は化け猫達を束ねている親玉さ、今日も今日とて、下っ端共に指示を出し、漸く解放され住処に戻る。住処にはドアもなければ鍵もない。神聖的な石の作りの場所だ。真ん中に堂々と、“主”の寝床がある。

 寝床には住処の主である巨体のお面が、ちゅるちゅると自分サイズのつけうどんを食している。自分は前々から気になっていた。アレはなんなのだろと……食事にしては頻繁的に食べるし、それも極端に量が少ない時もあれば多い時もある。

「旦那、前から思ってましたが、それはなんですかぃ?」

 主は最後の一本をちゅるんと食べた後に、こう言った。

「天啓」

「はァ……」

 イマイチよくわからないが、主はどのタイミングで機嫌を損ねるかわからない。あまり触れずそっとしておくのが吉だ。教えてくれる時に教えてくれるだろう。

……なんとなくだが、あのつけうどんの麺は、“人の子の無意識から出た取引”なのかもしれない。主は前に自分にこう言ったことがある。「生命は常に欲を出し続け、見境なく見えぬ者に願っている」と、人の子は怪異に対し、信仰する者もいれば、拒絶する者もいる。

 そんな拒絶する者も、勝負事でも命に関わる事でも、無意識に「頼む、勝ってくれ」「助かってくれ」などと願う時がある。そういった状況の時、神でも妖でも、勝手に“何かと引き換えに”願いを叶い、奪う時があるとか。

(俺もそれで助かって、旦那の飼い猫になったんだがねェ……)

 右手で後頭部を掻きながら、過去と現状を思い出す。死にかけの自分は、旦那に命を拾ってもらい、願いを叶えてもらった代わりに、“永遠に彼と共に”居なくてはならない。命令にも従い、任務も遂行する。彼と共に居なくてはならないから、万が一怪我を負っても死ぬこともない。一部があれば再生してもらえる。

 これは地獄なのかなんなのか、しかし後悔はしていなかったから文句はない。する資格もない。

 あの時──自分は確かに願った。“自分の家族を玩具(がんぐ)にし、虐殺した人の子に復讐心を抱き、誰か自分の力だけでは無理だから殺してくれ”と──

 人の子と立ち向かったが死にかけた自分は、人の子の後ろに突如現れた巨体が目に入った。口から発してはいなかったが、脳内に響き渡った──“取引は成立だ”と。

 命は重い。人の世界でも妖の世界でも、“命を奪う”というのはそれ相応の代償がある。生きるために食す命も、無意識に“生きるために食べる”という代わりに、生きている内は常に何が起きるかわからないギャンブルを味わっている。

 自分は……されたことの恨み、復讐心のために人の子を大量に消してもらった。代わりに、そのまま死ぬことは許されず、寿命をなくされずっと使われ続ける身となった。

 煙管を片手に、決して変わることのない曇り空を見上げる。……ここの天気はずっと湿っているが、自分達には住み心地が良いし、嫌いではない。

(天啓……か、)

 チラリとカラになったお椀を見る。……そういえば、人の子の世界は、歌手でも作家でも、何かしらのユーメイジンさんは早死にすることがある。

(まぁ、いいか。)

 興味が薄れた自分は、視線をお椀から空へ変えた。

「おやぶーん!!」

「ん? ぉ、お!? 小僧どした!」

 コイツは最近自分に懐いている子猫だ。他の猫に虐められているのを気まぐれで救った。自分は代償を貰っていないが、彼は何と引き換えになったんだろうか……そういえば、右目の視力は失われたと言っていた気がする。それか。

「これ! これ! たいりょーに釣れたんだ! お面さんと親分で食ってくれ!」

 重いバケツをドンッと地面に置いた子猫に、どうりで先程から一生懸命んしょんしょと重いバケツを持っていた訳だと。自分はヘラヘラと笑いながら言う。

「俺たちゃからしたら腹いっぱいだが、旦那のあの巨体じゃ足りるわけ──」

「私がなんだって?」

 真後ろにいたんかい。後できっと折檻だ! ちくしょう!

「お面さーん!! オイラ! こんなに釣れたんだ! 見て! 見て!」

「旦那にそのキラキラとした穢れなき顔でお面呼ばわりできんのは、きっとオメェくらいだよ。」

 真顔でトゲを言ってやったさ、なんのことかと首を傾げたがな!

お楽しみ頂けたら幸いです。

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