第四話:騒がしい前日と体育祭の始まり
俺はいつものように学校に来ていた。今日は体育祭前日である。その為か、クラスのみんなも少し浮かれているようだ。まぁ俺はそんなこと全然ないわけだが。
「おはよう白川君」
そうクラスの様子をぼーっと眺めていると生徒会の仕事を終えたであろう七海が挨拶をしてきた。
「おう七海か、おはよう」
と七海に挨拶を返すと不意に前の席に座っていた遥斗がこんなことを言ってきた。
「そういや明日って体育祭だけど怜人って家族とかくんの?」
「俺か?まぁ普通に考えて来ないだろうな。一人可能性はあるがまぁ来ないだろ。てか急にそんなこと聞いてどうした?」
「いんや?別に。ただ、光から家族の話聞いたことないなって」
「そうか?まぁ特に話すこともないしな」
と遥斗と会話していると横から視線を感じた。おっと七海の存在を忘れてしまっていた。俺は慌てて七海に話を振る。
「な、七海はどうなんだ?家族とか来るのか?」
「えっ?わ、私?まぁ来るんじゃない?」
「ふーん、そうか」
(家族.....か)
「どうしたの?白川君」
「えっ?あっいや、なんでもない」
「そう?なんかちょっぴり悲しそうな顔してたけど」
「だからなんでもないって。特に気にしなくていいから」
「そ、そう?まぁ怜人君がそういうなら」
と、七海は若干納得していない様子だったが、なんとか聞くのを諦めてくれたようだ。
とそんなこんなで気づいたら朝のホームルームの時間になっていた。教室のドアが開かれそのままホームルームが始まるのだった......。
昼休み。俺は自分の席で弁当を広げ、のんびりと昼飯を楽しもうとしていた。今日は体育祭前日ということもあって、クラスの連中はどこか浮かれた様子で、それぞれの机をくっつけたり、競技の作戦会議を開いたりと賑やかだ。俺はそういうのに混ざる気もなく、いつも通り静かに飯を食べようと思っていたのだが――
「怜人くーん!」
突如、そんな声が教室に響き渡ったかと思うと、次の瞬間、俺の視界が黒髪に埋め尽くされる。
「ぐはっ!? お、おい詩乃! いきなり抱きつくな!」
「えへへ~、会いたかったですよぉ、怜人くん!」
「いや、昨日も会っただろ!?」
詩乃は俺の幼馴染だ。別のクラスにも関わらず、こうして昼休みになると頻繁に俺のところへやってくる。しかも、無駄にスキンシップが多い。
「まったく……で、何か用か?」
「え? ただのスキンシップです!」
「帰れ!」
「ひどいっ!?」
大げさにショックを受ける詩乃。すると、その様子を見ていた七海が苦笑しながら話しかけてくる。
「相変わらずですね、神月さん……」
「七海ちゃんも一緒に怜人くんをモフモフしませんか?」
「し、しません!!」
「え~、残念です……」
「いや、お前は何を期待してるんだ」
俺が呆れてツッコむと、隣で弁当を食べていた遥斗も苦笑しながら話に乗ってくる。
「神月さんってほんと自由だよな」
「違いますよ、自由ではなく“本能”です!」
「怖えよ!!」
詩乃の謎の自己主張にツッコミを入れながら、俺はため息をついた。
「で、結局なんの用なんだよ」
「そうですね……あ、そうだ! 明日の体育祭、怜人くんの勇姿をしっかり応援しますね!」
「やめろ、俺は静かに参加したいんだ」
「そんなこと言って、本当は私に応援してほしいんでしょう?」
「全然そんなことないが」
「もう、素直じゃないんですから~!」
ニヤニヤしながら俺の肩をペチペチ叩いてくる詩乃。そんな俺たちのやり取りを見て、七海が少しムッとした顔になる。
「……なんだか、白川くんがやたら絡まれてると私まで疲れる気がします」
「同感だな……」
遥斗もどこか遠い目をしていた。
「まぁまぁ、いいじゃないですか~。ほら、怜人くんも笑って!」
「無理」
「えぇ~、じゃあ……くすぐっちゃいますよ?」
「勝手にしろ」
詩乃が俺の脇腹をくすぐろうとしてくる。しかし――
「……あれ?」
何も反応しない俺を見て、詩乃が首をかしげる。
「おかしいですね……普通ならここでビクッとなるはずなのに」
「俺がくすぐりに弱いといつから錯覚していた?」
「えぇー!? 怜人くん、くすぐったくないんですか!?」
「別に」
「なんてことでしょう……! 怜人くんをくすぐって動揺させる作戦が……!」
「そんな作戦を立てるな」
「うぅ、これは別の手を考えないとですね……」
詩乃が腕を組んで「むむむ」と悩み始める。いや、そこまで考え込むようなことじゃないだろ……。
「ねぇ、神月さん……白川くんに絡むのはいいけど、もうちょっと静かにできないの?」
七海が軽くため息をつきながら、呆れたように言う。
「うーん、それはちょっと難しいですね~!」
「やっぱりか……」
「まぁ、いつものことだし諦めろよ」
「はぁ……白川くんが大変そうだから、つい気になっちゃうのよ」
「なんですか七海ちゃん、もしかして私に嫉妬しちゃいました?」
「はぁ!? そ、そんなわけないでしょ!」
「えへへ、冗談ですよ~」
そんなやり取りを繰り広げながら、昼休みは騒がしく過ぎていった。そして...
ついにその日は訪れた。......体育祭。俺からしたら面倒この上ない行事である。そんな事を考えていると...
「おはようございます怜人君♪」
と後ろから詩乃が抱きついてきた。
「.........」
俺は抱きついてきた詩乃を無言で振り払い、腕を捻り上げる。
「痛たたたたたたたっ⁉︎ちょっと怜人君何するんですか‼︎」
何やら詩乃が騒いでいるが無視でいいだろう。そう考えた俺はいまだに俺にひねられた腕を押さえながら悶えている詩乃を置いて自分のクラスの待機場所に向かおうとしたのだが、
「ちょちょっ待ってくださいよ怜人君‼︎」
と、なんか後ろから変なやつが付いてきたが気にしないでおこう。
「.........」
「ちょっ無視しないでくださいよ‼︎」
今度は騒ぎ出した。なんだコイツ。
「......はぁ、なんだよ」
「いえ、特に用はありませんがただ怜人君について行こうかと」
「なんやねんお前」
いや、ほんとに謎である。何か用があって呼び止めたと思ったらただ着いていきたいと。いや、マジでなんなん?
「はぁ、ったく着いてくるのはいいがもう抱きついてくるなよ」
「ちぇ〜わかりましたよっと」
と俺は詩乃に釘を差してからもう一度歩き出すのだった......。