第四話 "紫雨と団子"
魔物の襲撃から一週間経った。あの後私は、沙羅に運ばれて医者の元で三日過ごす羽目になった。
なぜ三日かと言うと、目立った傷もなく、倒れた原因も疲労が原因だろうと言われたからだ。そして今は沙羅の家で過ごし、ちょうど筋トレをしていたところだ。正直、あのくらいで倒れてしまう自分が情けなく感じてしまった。
(こんなに動けなかったのか?あれだけで倒れるものなのだろうか?)
「...鍛えなければ...」
「紫雨さん! あれ、どうしたんですか、険しい顔をしてましたけど?」
「あぁ、沙羅...その、あの戦いの後で倒れてしまっただろう?あの調子で、少し身体を動かしただけで倒れてしまうのが情けなく感じてな...」
「あれで、少しだけなんですが....」
沙羅の顔がだいぶひきつっているようだ。
(何か変な事を言ったか?)
「それより、私に何か用事があって来たんじゃないのか?」
彼女を見ると普段から身につけている和服とは違い、全体的に豪華で華やかな和服を着ていた。そしてなによりも腰のあたりに刀をつけているので、いつもと様子が違うのがすぐにわかった。
「あ、うっかりしてました。今からお城、つまりこの国の中心となる機関の上賀城に地域の長として月に一回ほど報告会みたいなのがあるんですよ。でも今日はこの村が襲撃にあったので、緊急で報告会を含めた会議が行われるんです。」
「...なぜ、緊急なんだ?村の襲撃は珍しい事なのか?」
「いや、えっと...弱い魔物が襲ってくることはたまにあったのですが...今回みたいに集団で襲ってくる事例は初めてのことで」
(なるほど、つまり魔物の集団が襲って来た理由を調べるためでもあるのだろう。それに私が最後に斬りつけた男も何かを言いかけていたような...)
「それに、魔物をほとんど一人で倒した紫雨さんにも会わせてくれないかと、将軍様から言われたんですよ。」
「つまり、ついて来てほしいと?」
「はい!準備ができたら行きましょう」
(.........)
紫雨は少し、疑問を抱いたような顔をしていた。
(なぜ私が一人でほとんど倒した事を知っているんだ?沙羅ぐらいにしか見られてないはず、それに7日も間を空ける必要があったのだろうか?)
「どうかしましたか?」
「...ん?あぁなんでもない。とりあえず、私は準備をしてくる。」
さまざまな疑問が頭に浮かんだが、とりあえず支度を済ませることにした。
そして私は後悔する事になる。
ほとんど情報がない以上、まずはその将軍様にあたって直接聞くのが一番早いだろうと思った自分の甘い考えに...
私たちはしばらくして、上賀城の城下町に着いた。
「上賀名物の団子はいかがですか〜!」
街が賑わっていて見慣れないものばかりなのだが、最初に耳に入ってきた言葉が、これだった。見てみると一人の老人と手伝いをしている娘らしき人物が団子やら焼き物やらを作りながら、客を呼び寄せている。
なかなかに人がいて、どうやら店は繁盛しているようだ。
「紫雨さんどうしたんですか?あ、もしかしてあのお店が気になります?」
「あぁ、少しな。」
どうやらあのお店に興味を示しているのが顔に出ていたらしい。
「ちょうど小腹も空きましたし、食べに行きましょう!」
そう言われ、私たちはお店に並ぶ事にした。
近くまで行くと甘くいい香りが、強くなっていく。
私は自分が子供のように目を輝かせている事に気が付かなかった。
「いらっしゃい!ご注文は?」
「紫雨さん、何にします.....って、このお団子ですよね?」
「...ん?なんでわかったんだ?」
「お店の近くに来てからずっとあのお団子を見てましたよ!」
「...そうか、じゃあそれで頼む」
どうやら沙羅には優れた観察眼があるらしい。
目線だけでなにが欲しいかまで分かるとは、私も彼女を見習わないとな。
そんな事よりあの団子はどんな味がするのだろうか、私の直感では味は最上級の物のはずだ。
「はい、紫雨さんどうぞ。」
「これは...」
一つの串に小さな白いお団子が刺さっている。それだけでも十分なのにその上には輝かしい光沢を放つ粒あんが綺麗にかかっていた。
私はこのお団子に運命的な何かを感じていた。その可愛らしい姿に胸の鼓動が高まる。
「これが、恋なのか...では、頂こう。」
柔らかでもちもちした感触の団子、この噛む感触がなんとも癖になった。加えてこの甘すぎない上品な甘さが彼女の心を掴んでいた。
擬音語にモニュモニュとつきそうな食べ方をしていた彼女の顔は沙羅でさえ一度も見たことのない幸せそうな顔をしていた。
(紫雨さんの顔が溶けてる...可愛いですね!)
「...ん?いつのまにか無くなってしまったな...」
紫雨が気づいた頃には串に団子はなかった。あるのはただの新品同様の棒だけであった。
その事に気づいた彼女はすごく残念そうな顔をした。
「ふはは、いい食べっぷりだなぁ、ほらもう一本やるよ。あんまりにも美味しそうに食うもんだからサービスだ。」
老人が私にサービスで団子をくれらそうだ。私の心臓の鼓動がまた、高まるのを感じる。
「ほらよ」
「本当にいいのか?では、ありがたく頂くとしよう。あと、持ち帰りの分も買いたいのだが。」
私はすぐさま沙羅から貰ったお小遣いの袋を差し出して帰りに食べる団子を買おうとした。しかし、沙羅は少し、驚いた顔をしたと思えば、少し厳しいそうな顔つきでわたしが払おうとしたお金を取り上げてしまった。
「だめですよ!今から将軍様に会いに行くんだから、帰りにまた私が買いますから。紫雨さん行きますよ!」
「...私の団子が...」
沙羅は私が取った団子を取り上げ老人の元へと返した。そして、私ごと引っ張りながらお城へと向かって行った。
私は引きずられながら、先ほどの老人にお礼をして、沙羅にバレないように団子を食べていた。
「また待ってるぜお嬢さん!」
私は老人がそう言いながら手早く団子を作り、この町に溶け込んでいることがとても頭に残っていた。
特別編
「お父さんどうしたのそんなにご機嫌で」
ふと、横を見ると娘がいた。どうやら俺の機嫌がいい事を不思議がっているようだ。俺はいつも機嫌はいいと思うのだが。
「おう、蜜どうした?俺はいつもこんなんだろ。」
「いや、いつもより機嫌いいと思うよ。」
「そうか?まぁ、そうだなぁ、今日来たお客さんにな昔に俺が初めて団子を作って売って、それを初めて買ってくれたお客さんに似て髪が紫でよ。そのお客さんの反応がたいそう良かったから、なんだか懐かしくてそれで、機嫌がいいかもな。」
そういえば彼女以外に紫色の髪は見た事がなかった。それも印象的だった理由だろう。
「そうなんだね、でもお父さんが初めて団子を売ったのって40年前でしょ?よくそのこと覚えてるね。」
「まぁ、そんだけ印象に残るお客さんだったんだよ」
この話で思い出したが、今日のお客さんも昔のお客さんもおんなじ反応だったような気がする。
だけども、40年も同じような容姿を保てるだろうか?いや、そんな人間など存在するわけがないはずだ。
(まぁ、俺の思い違いなんだろうな)
男はそう思いながら団子をまた作り売りを繰り返していった。あの日と同じように咲いていた桜の花を見ながら懐かしい思い出に微笑むのであった。
見てくれてありがとうございます!
これからまた、少しずつ書いていくのでもし良かったら感想をお願いします!




