第三話 "紫雨の一太刀"
「クックック、どうしたぁ?小娘?なんだぁその気合いの入ってない攻撃は?」
なぜだろう?私は確かにあの男に対して確実な一太刀を浴びせた筈だ...傷がすぐに治ったのか?いや違うな...服があまり汚れていないことを考えるとやはり私の今さっきの一太刀では攻撃を通すことはできなかったらしい。
前のことはあまり覚えていないが、ここまで弱かったか?
「悪かったな、あなたの強さを見誤っていたらしい...次は本気で斬るからできればそこでじっとした貰えないだろうか?私としてもそっちの方が仕留めやすいからな」
「小娘!あまり俺を舐めると楽に死ねないと言っただろう?!その言葉を後悔するなよ?」
男がそういうと、いつの間にか自分の目の前から消えていた。あれほどデカかった存在感は嘘のように消え失せ、私はどうやら男を見失ってしまったようだ。いや、本当に私が見失ってしまったのだろうか?
「逃げたのか?」
<オラァァァ くらえ小娘!>
ドゴォンと音がしたと思うと、突然男が家から飛び出してきたと思ったら目の前にはもうすでに男の武器が目の前にあった。
「....、掠ってしまったか...」
避けたもののギリギリで左腕を掠ってしまった。
「あなた...何が目的だ?」
男は考える素振りをすると口を開いた
「小娘、お前にはそんな事を聞いている場合なのかぁ?後ろの娘はどうでもいいのかなぁ?」
そう言われ、振り返ると沙羅が苦しそうにしながら魔物の群れに押さえつけられているのが見えた。」
(こいつらいきなり集まって)
(っ、沙羅!)
「〜…まぁ別に教えてやっても...」
「ふっ……」
男が話しているその刹那、少女の刀が自分の首を切り裂こうとするのに気づいた。まるで音はなく、その気配すらも目の前にあるはずなのに、全てに溶け込んでいるのか、男はそれを捉えることは無かった。
(は?)
男が気がつく時にはすでに首は切り裂かれるどころか、もはや繋がっていなく、少女の足元と地面に倒れる映像が男にただただ流れた。まるでそれが自然だというかのように。
(嘘でしょ…あれだけ速く斬れるものなの?)
「沙羅、大丈夫か?どこか、怪我などはないだろうか?」
「えっと、その、大丈夫そうです。」
「そうか…それなら良かった…」
バタッ……
沙羅の無事に安心したのかそのまま力が抜けていってしまった。
「大丈夫ですか!? どこか怪我をしてたり?」
「大丈夫だ、たださっきので力を使い切ってしまったらしくてな、すまないな」
「いえ、おかげで助かりました!休んでいてください、今、おぶって行きますから!」
そう言うと彼女は私の身体を背中に乗せて、歩き始めた。
「案外力があるんだな…」
「そうですか?結構動いてるからですかね?」
彼女は嬉しそうにそう話すのでだんだんと疲れが出てきたのか、眠くなってしまった。
「いきなりなんですが…名前は紫雨でしぐれはどうでしょうか?
その理由なんですけど、さっきの音もなく敵を鮮やかに斬っていたじゃないですか、それが。雨のなかでも綺麗だなと思いまして。」
「………」
今言う事なのかと思ってしまったが、私は静かにその名前に頷くのであった