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7 洗濯石を作ろう。

 

 とり「皆さん、こんにちは」

 ねこ「こんにちはー」

 とり「ここで皆さんに、フィリマが大量生産して売りさばこうとしている洗濯石について説明しておこう」

 ねこ「とりさんやさしいー」

 とり「ふふふ。ぼくはぬいぐるみ界一のやさしさを持つとりだからな」

 ねこ「ひゅーひゅー」

 とり「洗濯石というのは、これだ(ふこり)」

 ねこ「青い石だね。(ごんごん)普通の石と同じくらいの硬さ。別に、光ったり震えたりするわけじゃないけど、いい匂いがします」

 とり「ねこくん、いいところに気が付いたな」

 ねこ「えへへ」

 とり「その名の通り、洗濯石とは洗濯するときにたらいに水と一緒に入れる石のことだ。これを一緒に入れてごしごしと洗濯すると、水が泡立って黄ばみや油汚れみたいなガンコな汚れもきれいに落ちて、しかも洗い上がりにいい匂いまでするという優れモノだ」

 ねこ「ぼくらもお世話になったねぇ」

 とり「うむ。ぼくらが可愛くていい匂いのするぬいぐるみでいられるのも、洗濯石のおかげと言えなくもない」

 ねこ「あと、ちゃんと洗ってくれるフィリマのおかげ」

 とり「そうそう。我々は感謝を忘れないぬいぐるみ」

 ねこ「りっぱ」

 とり「洗濯石は、使っているうちにだんだんこの青い色が薄くなってくる。普通の石と変わらないような色になってしまったらそれで終わりだから、新しいものに買い替えてくれたまえ」

 ねこ「はーい」



 さて、洗濯石作りです。

 ええと、洗濯石というのは……と説明しようと思ったけど、なぜだか読者の皆さんはもう分かってくれている気がする。皆さん、いつの間に勉強されたんですか。ありがとうございます。

 それでは、始めます。

 まずは、洗濯石に塗布するための塗料づくり。

 これが一番大事です。

 だって、洗濯石の洗濯石たる所以は、この塗料に詰まっていますからね。

 昨日、市場で売られていたのは昔からあるオーソドックスな紺色のやつだった。

 でも私の「魔女フィリマの洗濯石」は、三色。

 赤、緑、黄色。

 その三色が並ぶと、お花畑みたいで素敵でしょ。

 用意するのは、薬草と顔料。

 退職金の残りをはたいて買った貴重なハーブ五種類を、絶妙な塩梅で調合します。

 ここを失敗すると、とんでもないものができてしまうので慎重に。

 それから、鍋に少しの水を入れて、調合したものをじっくりと時間をかけて煮詰めていく。

 時々、魔力を鍋に落として、匂いを確認する。

 最初はいかにも薬湯っていう感じの匂いだったものが、だんだんと爽やかな匂いに変わってくる。

 魔力の落とし方で、匂いも千変万化する。私が目指したのは、トウェンティブラッドの朝食でよく食べられていた、ブラッディオレンジの香り。

 柑橘系の、爽快で強すぎない香りが好きだ。

 ずっと煮ているとだんだん嗅覚が麻痺してくるので、時々外に出て深呼吸。

 たまに、裏庭で遊んでいるとりとねこも呼んで匂いを確認してもらう。

「ふたりとも、ちょっといいー?」

「んー? なんだフィリマ」

「どうしたどうした」

 ふたりはふこふこと寄ってくる。

「洗濯石の匂いを確認してほしいんだけど」

「えー? 今とり帝国作ってたのに」

「たのにー」

「ちょっとの時間だから。終わったらまた作ってきていいから」

「仕方ないなー」

「ないなー」

 ふたりはかまどの近くに寄っていって、くんくんと匂いを嗅ぐ。

「うーん。オレンジっぽいけど」

 とりはふこりと首をひねる。

「でも、まだちょっとハーブ臭いな」

「そうだね」

 ねこもしっぽを振りながら頷く。

「ぼくの知ってるトウェンティブラッドのブラッディオレンジじゃないかも」

「やっぱりそっか。じゃあもうちょっとだね」

「うむ。がんばれフィリマ」

「がんばれー」

 ふたりはまたいそいそと裏庭に戻っていく。

 そんなことを繰り返して、ついに匂いが決まった。

「おお、懐かしのトウェンティブラッド」

 匂いを嗅ぐなり、とりはふこりと胸を張った。

「思い出すよ。あの暴力と頽廃の街で何人の命知らずとやり合ったことか」

「とりさんかっこいい!」

「やり合ってません」

 でも、これで匂いはオーケー。

 次に、顔料を投入。

 まずは緑色を作ろう。

 顔料は入れすぎても足りなくても、変な色になっちゃうから、気を付けて。

 鮮やかな緑色に変わったところで、火を止めます。

 冷めると固まってしまうので、ここからはスピード勝負。石の表面に魔力を込めながら刷毛で塗り込んでいく。

 大きなたらいに入れる大きめの石と、小さなたらい用の小さめの石と。

 急げ急げ。

 全部で二十個。

 はい、できた!

 朝から作り始めたのに、できた頃には日はすっかり傾いていた。

 そう言えば、お昼も食べてない。

 ずっと強い匂いに包まれていたせいで、食欲が全然湧かなかった。

 かまどは顔料の鍋で埋まっちゃってるし。

 ……また乾パンでいいか。

 手を洗いに裏庭に出ると、とりとねこが一生懸命木の枝で井戸の周りを囲っている。

 何してるんだろう。

 私が枝を踏み越えると、「ぶぶーっ!」「ぴぴぴーっ!」とか叫びながらとりとねこが飛んできた。

「この枝からこっちはとり帝国の領土である! とり帝国への不法侵入は禁ずる!」

「禁ずる!」

「えー? 井戸使いたいんだけど」

「ふふふ。井戸は我々が押さえた。水源の確保は国の要」

「ふふふ。くにのかなめ」

「そうなんだ。よかったね」

 気にせず井戸から水をくみ上げ始めると、とりとねこは「あっ、勝手に!」「やめなさい!」とかわあわあ騒いでたけど、私がばしゃばしゃ水で顔を洗い始めたら逃げていった。

 濡れるのが嫌なぬいぐるみたちである。

「ねえ、遊び終わったらこの枝片付けといてよねー」

 ふたりのふかふかした背中にそう呼びかけたけど、返事はなかった。

 まあいいのです。絶対聞こえてるし。

 外に椅子を出して、暗くなっていく空を眺めながら乾パンを齧っていたら、とりとねこがふこふこと寄って来た。

 見ると、枝は井戸からちょっと後退していた。水源の確保は諦めたらしい。

「フィリマ、洗濯石できたのか」

「できたのかー」

「うん、最初の緑はね。あと、黄色と赤を二十個ずつ作るよー」

「それを市場に持っていって売るのか」

「うん、そう」

「ぼくらも応援するぞ」

 とりはふこりと胸を張る。

「なにせ、ぬいぐるみ屋さんでめちゃくちゃ売り上げている実績があるからな」

「きっとフィリマの洗濯石もめちゃくちゃ売れるよー」

 ねこも腕をぴこぴこと動かしている。

「うん。お願いねー」

 私はふたりの頭をふこふこと撫でた。

 いっぱい売れるといいなあ、洗濯石。

 カフェの開店資金、10万マグくらいはほしいけど、5万マグくらいから始められるかな。

 ふふふ。




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