64 チャンスだぞ
いきなり発見された、マートン家の地下迷宮。
それについて、冒険者ギルドに報告すると、リサさんにとても驚かれた。
「すごいことになるかもしれないわよ!」
と言われた。
全然そんな実感はなかったけど、リサさんの話を聞いているうちに、なるほど確かに、と思った。
地下迷宮というのは、ただそこにあるだけでものすごい経済効果をもたらす場所なのだ。
地下迷宮に眠る宝を求めて、一攫千金目当ての冒険者が集まる。彼らは街に定住している冒険者と違って、刹那的だからお金離れもいい。彼ら目当ての中小の商売人たちも集まってくる。さらにさらに、宝を売るルートを持つ大商人まで店を構えることもある。
今、地下迷宮のある有名な街はどこも、ものすごく栄えている。
まあ、その分治安も悪いけど。
スレンダーポットもそんな風になるのだろうか。
それはちょっと嫌かも。
……でも、あの地下迷宮はそこまで深そうでもなかったし。
大丈夫な気もするな。
リサさんには、今回の件で色々と特別手当が付くというような話をされた。
手元不如意の私にはありがたい話だ。
マートン家からも、報酬をはずんでくれるというような話があったらしい。奥様、ありがとう。
そんなわけで、とりあえず帰宅したのだが。
「あー。久しぶりの我が家」
「汚いながらも楽しい我が家」
とりとねこは、さっそくベッドの上でころころしている。
大げさだなあ。たった一晩、マートン家にお泊りしただけなのに。
「やっぱりうちのベッドが一番だな」
「ねー。お屋敷のベッドはもっとふかふかだったけど、でも違うんだよねー」
「うむ。この絶妙な硬さと薄さはお屋敷のベッドでは再現できないんだよな」
「ねー」
それは褒めてるのか。
まあ褒めてるってことでいいか、うん。
「この絶妙な湿り具合」
「この芳醇なかび臭さ」
いや、完全にディスってるね、これは。
「ちょっと!」
「わあ」
「うひゃ」
とりとねこはベッドからふころんと転げ落ちた。
「急に大きな声を出すんじゃない、フィリマ!」
「びっくりしたー。心臓とまるかと思ったー」
「ぬいぐるみに心臓はありません」
私はふたりを摘まみ上げて、テーブルにぽこりと置く。
「むぎょ」
「むぎゅ」
「さっきから黙って聞いてれば、湿ってるとかかび臭いとか、言いたい放題言ってくれるじゃない」
「やだなあ」
とりはふこふこと手羽を振った。
「かわいいぬいぐるみの、ちょっとした戯れじゃないか」
「そうそう。たわむれたわむれ」
ねこも全然反省する様子もなく、ふこりんとしている。
「それはそうと、フィリマ」
「何よ」
「今回の仕事、結構いい金額をもらえそうじゃないか」
とりのビーズの目がきらりと光った。
「チャンスだぞ、カフェを開く」
「……え?」
「そうそう」
ねこもテーブルの上でくるくる回転しながら言う。
「フィリマだって、いつまでも冒険者やってるつもりはないんでしょー? チャンスチャンス」
「チャンスって……」
そんな急に言われても。
「振るんだ、フィリマ。バットを振らなければヒットは生まれない」
「は?」
「突っ込めフィリマ! ペナルティエリアに入らなければPKは奪えない」
「それはちょっと違うぞ、ねこくん」
「てへへ」
……ちょっと何言ってるか分からない。
まあふたりの言ってることがよく分からないのはいつものことだけど。
「よく分かんないけど、確かに報酬は弾んでくれそうな気配だった」
「いえーい」
「ひゅー」
とりとねこはハイタッチする。
「だけど、さすがにカフェの開店資金には全然足りないよ。そこまでの額じゃないよ」
「えー」
「せこいぞ、貴族のくせにー」
ぶーぶー。とりとねこのブーイングを背に、私は窓を開ける。
カーテンが風をはらんで膨らんだ。
今日は結構風がある。
カーテンも開けると、月明りが部屋に差し込んできた。
ああ、夜風が心地いい。
しばらく外の景色を眺めているうちに、私も前向きな気持ちになってきた。
「でも確かにふたりの言う通り、チャンスではあるよね」
「お?」
とりとねこがぴたりと動きを止める。
「フィリマさん、やる気になりましたかな」
「どうでしょうね」
ふたりに構わず、私は部屋の隅を見た。
そこには、売れ残った洗濯石がまだ残っている。
「まさか」
とりが手羽をぴこりと上げた。
「フィリマ嬢、また洗濯石を量産しようというのでは」
「それはさすがのぼくでもドン引きです」
ねこがとりの陰に隠れる。
「売れないよ、フィリマ。諦めたほうがいいよ」
あのねえ。
「違います」
私は立ち上がり、壁のカレンダーをめくった。
「来月、市場で大市よりももっと大きな特別市が開かれるでしょ?」
「開かれるとも!」
とりが両手羽をふこんと上げる。
「ぼくは今から楽しみにしてるんだ。なにせ、その日ばかりは市場の外の道にまで店が並ぶらしい」
「楽しみだよねー。ぼく、マルクさんのお店でお手伝いする約束しちゃった」
「ぼくはひたすら歩き回ってみんなに可愛いって言ってもらう予定さ。かわいいポイントがどれくらいたまることか」
「いいなー。そろそろ景品と交換できるんじゃないー?」
「ふふふ。楽しみだよ」
……ずいぶん楽しみにしてたんだ。
まあそれはいいとして。
「その日に、臨時のカフェを出店しようと思うの」
「へ?」
「ぬ?」
「実店舗でやるのはすごくお金がかかるけど。市場で臨時のお店を出して、その日売り切る量を準備するだけなら、そこまでじゃないと思うから。ここにお店を開くためのリハーサルってことで」
「ほほう」
とりが手羽をくちばしの下に当てる。
「それはいいアイディアじゃないか。ぼくもかわいいポイントをためる合間に通りかかったら手伝うぞ」
「ぼくもマルクさんのお手伝いの合間に気が向いたら手伝うー」
「あ、ありがとう」
どうして片手間でしか手伝ってくれないの。
いやいや。このけものたちを当てにしてたらまた失敗する。
ちゃんと自分で頑張らないと。
そして、そこで評判が良ければ……
また一歩、夢に近づく気がする。




