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魔女フィリマ、新天地でスローライフを目指す(※相棒はとりとねこのぬいぐるみ)。  作者: やまだのぼる


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63 漬物石みたい

 私と奥様は、中庭のドルアティス候の銅像前にやって来た。

 強い者に靡くとりとねこは相変わらず奥様派なので、奥様の頭と肩の上にぽこりと乗っている。

「こんなところまで連れてきたからには、私があっと驚くような話をしてくれるんだろうね」

 と奥様。

 その頭からぴこりと顔を出したとりが、

「してくれるんだろうねえ」

 さらに肩の上のねこも、

「だろうねえ」

 そんなことを言いながら、ふたりでふふふふふ、と不敵に笑っている。

 奥様の権力をバックにしてるからか、心なしか悪い顔になっている。

 このふたりに権力を与えてはいけない。悪のぬいぐるみになる。

「奥様が驚かれるかは分かりませんが」

 私はそう前置きした。

「この銅像には秘密があります。それはかつてアリス・アンジェラが説明したこととは違うはずです」

 私は自分の右手に魔力を込めると、ちょっと背伸びをして銅像の右手と握手した。

「お? 握手?」

「友達になったの?」

 とりとねこがずれたことを言ってるけど、無視。

「この銅像が少し小さめに作られてるのも、こうして握手がしやすいようにです」

「なんだって?」

 私の魔力と反応して、銅像の右手が、まるで生きているかのような熱を帯び始める。

 もっと。

 もっとだ。

 私は手に力を込める。

 銅像の手が熱くてもう握っていられなくなったとき足元で、ごとんと鈍い音がした。

 それと同時に、銅像が急速に冷えていく。

「……なんだい、これは」

 奥様が呟く。

 銅像の足元の台座を構成する横板が一枚、外れていた。

 そこから、冷気が漏れ出してくる。

 この冷気は、きっと昨夜の夢で感じたあの寒さのもとだ。

「お屋敷の地下には、多分古い遺跡があります」

 私は奥様に言った。

「そこから漏れ出してくる悪いものを押さえるために、アリス・アンジェラはこの銅像を建てたのです。ドルアティス候の霊を慰めると嘘をついて」

「なぜ、そんな嘘を」

 奥様は険しい顔で、銅像の足元を見つめる。

「古い遺跡だって? それならそうと言えばいいじゃないか」

「有名な死霊術師として、自分の手には負えないと言いたくなかったんだと思います。自分にはとりあえずの対症療法しかできないなんてことは」

「あー、涼しい」

「ここなら食べ物も腐らないね」

 台座の足元でとりとねこはさっそくくつろいでいる。

「それに、本当のことを伝えたら、マートン家はお屋敷をここから動かそうとするかもしれない。それは避けたかったのだと思います」

「なぜだい。うちがどこに移ろうがあの女には関係ないじゃないか」

「この下の悪いものが、蓋を外されて大々的に広がってしまうから。そう考えたのではないでしょうか」

「うちの屋敷を、蓋扱いしてたってのかい」

「まあ言い方は悪いですけど」

「何て女だ。だから、信用ならないって言ったのに」

「それでもアリス・アンジェラの死霊術のおかげで、ここ数十年は平穏を保つことができたのだと思います。彼女自身も、自分が存命中は問題ないという自信があったからこそ、嘘をついたのではないでしょうか。ただ、さすがにその仕掛けにもガタが来てしまっている」

「もう一度、アリス・アンジェラ並みの死霊術師を呼べばいいってことかい」

「……私の専門ではありませんが、それはもう難しいかと」

「どうしてだい」

「先送りした分、この中の悪いものがさらに……なんというか、発酵しているといいますか」

「腐ってるってのかい!」

 奥様はぶち切れた。

「アリス・アンジェラ、あの詐欺師め! うちを漬物石みたいに扱いやがって!」

 叫びながら、短い腕をぶんぶん振り回す。

 その剣幕に、遠巻きに眺めていた庭師や使用人たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「奥様、落ち着いてください」

「ほら、この冷気でも浴びて」

「涼しいよー」

「あなたたちも、あんまり浴びない方がいいよ。悪い気に染まるよ」

「えー。ぼくら化学繊維だから大丈夫だよ」

「そうそう。一級化繊を舐めないでいただきたい」

 そんなことを言っているうちに、奥様が少し落ち着きを取り戻してくれた。

「それで? どうすればいいって?」

「一番の原因は、この指輪が外れてしまったことです。誰が外したのかは分かりませんが、アリス・アンジェラがかつて泊まった客室に転がっていた。そして、この屋敷でおかしなことが起き始めた」

「それもここのせいってことか」

「ここが原因といえばそうなんでしょうけど……。私も昨夜一晩でいろいろと不思議な目に遭いましたが、多分このお屋敷の怪奇現象って、ここの使用人さんだった人たちの霊が警告してくれていたのではないかと」

「使用人の霊?」

「はい。今、この屋敷はこれのせいで霊的にとても強い場所になってしまってるんだと思います。霊が現実に影響を与えやすい場所といいますか」

「心霊スポットってことだな、ねこくん」

「事故物件ってことだね、とりさん」

 足元でふこふこズが失礼なことを言ってる。

「だから、この屋敷でお世話になった人たちの霊が、危ないよ、気付いて、と伝えてくれていたのではないかと。弱い力しかない霊は、しまったはずのボウルをまた出す、みたいな些細なことしかできなかったようですが」

「ふん」

 奥様は鼻を鳴らした。

「うちの使用人は、義理堅い連中ばかりだよ。だけどまさか死んだ後まで仕えようとしてくれるなんてね」

「分かりづらい人もいましたけど、はっきりとそれっぽいこと、たとえば冷気や、墓地のイメージを伝えてくれた人もいました。けれど、霊たちがこの地下の悪い影響を受け始めているのも事実だと思います」

「ここの影響かい」

 奥様は足元の石を、台座の中に蹴り込んだ。

 一瞬の間があって、下から硬い音が返ってきた。

「悪いものってのは、何だろうね」

「すみません。私には、そこまでは」

 死霊術師ではない私には、詳しいことは分からない。けれど、善か悪かで言えば、この空気は間違いなく悪だ。

 ふと、この街で出会った死霊術師のオルカタさんのことを思い出す。

 街に相棒のほねっちだけを残して姿を消してしまったフーウ族のオルカタさん。

 もしかしたら、彼の失踪もこれと関係しているのかもしれない。

「うちの下に地下遺跡があるなんてね」

 奥様はそう言うと、身を屈めてとりとねこを摘まみ上げた。

「むぎょ」

「むにょ」

「それこそ、冒険者の出番じゃないのかい」

「私も、そう言おうと思っていました」

 私は微笑む。

「奥様、ぜひ冒険者ギルドにご連絡を。腕利きの冒険者に、この地下を探索させて悪の源を絶つべきです」

「中から見つかる宝物の半分は、うちがもらうよ」

 奥様は言った。

「やれやれ。マートン家の地下迷宮か。面白くなりそうじゃないか」






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― 新着の感想 ―
こっこれはっ! 迷宮冒険譚が始まりそう…! とりとねこを連れてのふこふこ冒険譚、めっちゃ楽しみです! (追記 ボリュームアップした「夜に二人」リライト版も毎日楽しく拝読しております)
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