60 恩人オブ命
「奥様! 奥様! どうかお待ちください!」
私は庭師さんたちを押しのけて、転がるように奥様の前に出た。
「あ。フィリマだ」
「おーい、フィリマー」
とりとねこがのんきに、奥様に摘ままれたまま手を振っている。
「ん? 何だい、お前は」
「昨日ご挨拶に伺いました、冒険者のフィリマです」
「ああ……」
奥様は思い出したような思い出してないような顔をした。
「そういえば、そんなこともあったかねえ」
「すみません、そのぬいぐるみたちは私の連れなんです。ご無礼は謝罪いたしますので、なにとぞ処すことだけは……!」
「処す?」
奥様は、とりとねこを交互に見た。とりとねこは身体をにょいーんと伸ばして奥様に謎のアピールをしている。
「何言ってるんだい、あんた。こんなぬいぐるみ処してどうするんだい」
「そ、それじゃあ」
「誰が処すなんて言ったんだい。私はたっぷりご褒美をあげなきゃねって言ったんだよ」
「ご、ご褒美……」
それ、“処す”の隠語とかじゃないんですか。
「ぃやったー、ご褒美!」
「世はまさに大ご褒美時代!」
とりとねこは摘ままれたまま、ふこふことはしゃいでいる。
「まあ、お前のだって言うなら話が早い」
奥様は、とりとねこを私にぽいっと投げてよこした。
「わー」
「なー」
くるくる回転したふたりは、私の手の中にぽふりと納まった。奥様、意外にコントロールがいい。
「それじゃ、朝食の後に私を訪ねてきな」
「お、奥様をですか」
「ああ。たーっぷりとご褒美をあげるから」
奥様はそう言うと、ひーっひっひっひ、と魔女顔負けの笑い声を残して去っていった。
よ、よかった……。
助かった……。
「いやー、ご褒美だってさ、ねこくん。困ったねえ」
「ねー。別にご褒美がほしくてやったわけじゃないのに。困っちゃうねえ」
とりとねこが勝手にふこふこと照れている。いや、絶対に欲しがってる。
そんなことよりも。
「ふたりとも勝手に部屋を抜け出して、こんなところで何やってるのよ」
「いや。庭師さんたちの声が聞こえたから」
「指輪が戻ってるぞーって言ってたから」
「それが誰の功績なのかをきちんと伝えなきゃと思って」
「功績イズマイン」
「そ、そう……」
さすが、自分たちの褒められる場面は決して見逃さないふたりだ。私はぐっすり寝てて全然気付かなかった。
「で、でも!」
思い出した。
「さっきの女の人がこのお屋敷の奥様なのよ! そこのおばさん、なんて呼んじゃだめよ! 奥様のご機嫌次第で処されるところだったじゃない!」
「処されるところだったの?」
「ぼくらが?」
「そうよ! 燃えるゴミと紙一重!」
ふたりは「ひょー」とか言いながら身体を縮めた。便利な身体だ。
「じゃあ、フィリマが助けてくれたのか!」
「恩人オブ命」
「い、いや、まあ……」
ちょっと誤解があったっぽいけど。
「そんなところよ。ふたりとも、勝手な行動は慎んでください」
「はーい」
「ほーい」
ふたりが適当な返事を返してきたところで。
私は三々五々仕事に散っていく庭師さんの一人を捕まえた。
「あの、すみません。あの銅像の指輪って、いつのまにかなくなっていたんですか?」
「あー、そうなんだよ。俺たちにはよく分かんねえけど、なくなったときは奥様がだいぶおかんむりで、屋敷の隅々まで全部調べさせられたんだよ」
「そうなんですか」
私は銅像の手に嵌った指輪を見る。
「こんなところにあったら、誰にでも持ち出せそうですけどね」
「それがそうでもねえんだってさ」
庭師さんはちょっと気味悪そうに指輪を見た。
「普通の人間じゃ、どんなに引っ張ったって抜けやしねえんだって。それどころか、無理に持っていこうとすると電気を流されるらしいんだ。だから、俺たちゃそんなおっかねえもんには触れもしねえのさ」
「なるほど……」
「なんにせよ、見つかってよかったよ。奥様のご機嫌もよくなるし。ありがとよ」
「あ、いえ……」
見つけたのはとりとねこだから……。
っていうか、やっぱりどうもあの指輪がこのお屋敷の異変と関係していそうな気がする。
奥様に会ったときに、聞いてみよう。
私はそう決心した。




