56 指輪の力
「お片付けに参りました」
エルシアはそう言って、食器を片付けていく。
「ああ、ごめんなさい。自分で厨房に持っていけばよかったわね」
「そんな。いいんですよ」
「そうだぞ、フィリマ」
とりが横から口を出す。
「どうせ一人で行ったら迷子になるんだから」
「そうそう」
ねこもふこふこと頷く。
「フィリマにはぼくらのような野生の方向感覚が備わってないから」
「野生……?」
いろいろと言いたいことはあったけど、まあそれはいいとして。
「エルシア。その後、何か変わったことは?」
「いえ、今のところは」
エルシアは首を振る。
「今夜はご主人様や奥様の外出もありませんし、静かな夜です」
「そう……」
「それじゃ、失礼しますね」
「あ、うん」
エルシアが出ていったあと、私は息を吐いて右手をテーブルの上に置いた。
「ふう」
「かくしごとー」
とりがふよふよと変なダンスを踊りながら私の手の周りをまわる。
「フィリマのかくしごとー」
「かくしきれるかなー」
ねこもふよふよと妙なダンスを踊ってとりと一緒に回り始める。
「きっとばれるよかくしごとー」
「やめなさい」
ふたりをぺぺん、と指で弾く。
「きゃー」
「うわー」
ふたりともまたテーブルの下に落ちていく。
まさか、この指輪って魔法を封じる効果があったりしないよね。
ちょっと心配になる。
魔法、使ってみようか。
小さな明かりの魔法を指先にともす。
その瞬間。
ぼうっ。
「えっ」
「放火魔!」
「人間バーナー!」
とりとねこが足元で叫んだ。
それもそのはず、私の指先から炎が勢いよく噴き上がったからだ。
とっさに消して事なきを得たけど、危うく天井まで焦がすところだった。
「あぶなっ……」
「フィリマ嬢、調整が下手すぎやしませんか」
「ねえ。いくらなんでも下手すぎてびっくり」
いや、それはそう。さすがに私もここまでのミスはしない。
ということは……。
「この指輪だ」
もう一度、ぐっと引っ張ってみるけど、やっぱり抜けない。
厄介な指輪を嵌めてしまった。
「この指輪が、魔法を増幅させてるんだ」
だから、感じる魔力はごく微細なものだった。
言うなれば、この指輪はただの筒のようなもの。小さな口から大きな口へと、増幅させるだけの装置。
試しに、左手で魔法を使ってみるけど。
ぼうっ。
「hyuuuu!」
「huuuuh!」
とりとねこの歓声がうざい。
やっぱり炎が噴き上がってしまう。
嵌めている手だけ、ということではないみたいだ。
「まいったな、これは……」
屋内で、それもこんなあちこちに高級なものがありそうなお屋敷で、魔法の調整がバカになってしまったのはかなりまずい。
「どうしよう……」
……とはいえ。
そんなことで怯んでいるようなら、冒険者など務まらないわけで。
「まあ、しょうがないか」
「おお、フィリマ嬢が開き直った」
「たまに調子いいときはちゃんと開き直れるんだよねー」
「そうそう。調子悪いと開き直りそうで直らないからな」
「うるさいなあ、人を魚の干物みたいに」
まあとにかく、怪奇現象の活動時間と言えば、夜。
夜なのですよ。
私は夜がとっぷりと更けるのを待った。
とりとねこはベッドの上で転がって遊んでたけど、「さ、そろそろ寝るか……」みたいな雰囲気を出し始めていた。
そうはさせませんよ。
お仕事は、ここからが本番です。
「行くよ、ふたりとも」
私は立ち上がった。
「とりさんとねこくんは、道順を覚える係ね」
「えー。これからまだ外に行くのか」
「せっかく今日はもうベッドでふころんしようと思ってたのにー」
「遊びに来たわけじゃないのよ、ふたりとも」
ぶうぶう文句を言うふたりをローブの袖に入れる。ふたりは右と左の袖からぴこりと顔を出した。
「じゃあ、出発!」
「おー」
「わー」
棒読みの返事が左右から聞こえたけど、私は元気に部屋を出た。




