55 謎の指輪
私が夕食を食べている間も、とりとねこはテーブルに置かれた指輪に挑んでは跳ね返されていた。
「くそう。強情な指輪め。どうしてもぼくよりもフィリマがいいって言うんだな」
「私のために争わないでー」
ねこがとりと指輪の間に立って、何か言っている。どういう立ち位置なんだろう。
「こうなったら力づくだぁ!」
「きゃー」
ねこの悲鳴。いや、あなたは関係ない。
ばちーん。
「うわー」
「とりさーん!」
そんな小芝居を見ながらご飯を食べ終えました。ごちそうさま。おいしかったです、ゴファンさん。
「もうやめときなさい」
私がひょいっと指輪を摘まみ上げると、とりはふこぽこと悔しそうにテーブルを叩いた。
「くそぅ、どうしてフィリマには触れるんだ」
「泣かないで、とりさん」
ねこと抱き合っているとりは置いておいて、私は指輪をじっくりと眺めた。
外側にも内側にも、何の刻印も入っていない。
これじゃ、何にも分かんないな。
今回の依頼、本当に分かんないことが多すぎる。
私はちらりととりを見た。
とりはたまに突然謎の推理力を発揮するんだけど、今聞いたらまたさっきみたいに電池が切れちゃうかな。っていうか、電池って何だろ。
魔力の関知を試みる。
魔力は、有している。
弱いけれど、何かの魔法のかかった指輪であることは間違いない。
魔の力や呪いがこめられていれば、私の感知によってどす黒く見えるはずだけど、それもない。
この指輪からは特に悪い魔力は感じない。
振ったり、回したり、上に投げたりしてみたけど。
指輪は何の反応も示さない。
本当に私を所有者と認めているのだとすれば、何かの反応があってしかるべきなんだけど。
……そうだよね。やっぱり、指輪だもんね。
一番の使い方って言ったら。
ちょっと怖いけど。
これも仕事だ。
ええい。
私は指輪を右手の薬指に嵌めてみた。
ぎゅ。
……あれ。
第二関節で引っかかった。
ちょ、ちょっと私には小さかったかな。
指輪をそっと外すと、さっきまで騒いでいたはずのとりとねこがじーっとこっちを見ていた。
「ちょっとちょっと、見ました? とりさん」
「ええ、見ましたわよ、ねこくん」
ふたりはひそふこと話し始める。
「ええい、みたいな顔で思い切って指輪をはめようとしてましたけど」
「ええ。本人はその気でも、指の方にその気がなかったみたいで」
「もぎゅ、ってなってましたわね、薬指が」
「ええ。こんな顔で」
とりが手羽で自分のほっぺたを上に持ち上げる。
「まあ、とりさんったら、薬指さんの顔真似がお上手」
「うふふふふ」
「おほほほほ」
「うるさいなあ、もう」
私はふたりを指でぺんぺん、と弾いた。
「あー」
「わー」
ふたりはテーブルの下に落っこちていく。
まったくもう。薬指の顔真似って何だ。
ちょっとサイズを見誤っただけじゃないか。
これは私には、ピンキーリングだったということで……。
もう一度、今度は右手の小指に嵌めてみる。
よし、すっぽりと入った……けど、これは。
なんだか、ちょっとちくちくする。
ちくちくする指輪って、嫌だ。
外そうとしたら。
あれ。
抜けない。
「あ。フィリマが指輪抜けなくなってる」
テーブルの下から、とりがふこりと顔を出した。
「ほんとだー」
ねこもその隣からぴこりと顔を出す。
「おかしいわ。呪いなんてかかってないのに、抜けなくなるなんて」
私は指輪を摘まむ手に力を籠める。
「このっ……」
「ぼくらも手伝うぞー」
「おー」
とりとねこがふこふこと寄ってきた。
指輪にふこりと手を添えて……
ばちっ。
「あー」
「きゃー」
うん。まあ、そうなるよね。
私は汗だくになって指輪を引っ張ったけど、ちっとも抜ける気配がない。
さすがにおかしい。
関節に引っかかって、ならまだ分かるけどそうじゃない。全然動かないもの。
これはもう、魔法のせいだと言って間違いなさそうだった。
それにしても、エルシアに何て言おう。
試しに嵌めたら抜けなくなっちゃった。てへ。
って言ったら、呆れられるだろうなあ……。もしも奥様に知られたら、「我が家に落ちていた指輪を勝手に嵌めただって? そんなやつは処すしかないねえ」なんて言われるに決まってる。
まずいぞ、これは。
こんこん。
「きゃああ」
「ええっ」
ドアが開いて、びっくりした顔のエルシアが顔を出した。
「どうされましたか、フィリマさん!」
「何でもないのよ、エルシア!」
私はとっさに右手を自分の背中に隠した。




