54 静電気?
こんこん、というノックの音。
「はーい」
とりが勝手に返事をして、ふこふことドアを開ける。
「どなたー?」
そこに立っていたのは、エルシアだった。
手に、夕食の載ったお盆を持っている。
「あ、夕食?」
「はい」
「なーんだ」
食事という行為をしないとりは、興味を失ったみたいにふこりんと振り向いてねこのところへ戻っていく。
「あ」
私はテーブルを振り返った。
そこにはまだ手付かずの昼食。
「ごめんなさい、あれは夜食でいただくから」
「あ、いいんですよ」
そう言いながら、エルシアは気にする様子もなくテーブルに手際よく食事を並べてくれる。
「温かいうちにどうぞ」
「ごめんなさい、私の分まで。仕事が増えたでしょう」
「いえ、そんな」
「ご飯なら、時間になったら自分で取りに行くわよ」
「そういうわけにはいきません」
エルシアは首を振る。
「大事なお客様ですから」
「……ありがとう」
エルシアの気持ちはありがたいけど、それは私自身がお客様気分でいいっていう意味ではないからね。がんばらなきゃ。
「あ、そうだ」
私は、さっきとりが拾ってきた小さな指輪のことを思い出した。
「ねえ、エルシア。これなんだけど」
小さな指輪を差し出すと、エルシアはきょとんとした。
「はい。指輪、ですか」
「うん。このベッドの下に落ちてたらしくて」
「ぼくが見つけた」
とりがずずいっと出てきて自分の手柄をアピールする。
「ぼくが、この手で」
「そしてぼくも」
負けじとねこもみょいんと体を伸ばす。
「ぼくも、この手で」
「ベッドの下、ですか」
エルシアはとりとねこの頭を撫でながら、ちょっと困惑した表情。
「それでは、以前こちらの部屋に泊まられたお客様のものかもしれませんね」
「うん。私もそう思う。だから、落とし主が分かったら返してもらえれば」
「分かりました。それではお預かりしておきます」
エルシアが指輪を受け取ろうとした瞬間。
ばちっ。
「きゃあっ!」
「えっ」
突然、指輪が静電気みたいなものを発した。
「……何、これ」
私たちは顔を見合わせる。持ってる私の方には何の衝撃もなかったけど、触れようとしたエルシアは指に電流が流れたのか、手を押さえている。
「おー。静電気」
「冬場に起きるやつだな」
「あれ、痛そうだよねー」
「ぼくらも洗われた後とか、結構たまるからな」
とりとねこがふこふこと話し合っている。
「エルシア、どうせさっきまで洗濯物を畳んだりしていたんだろう」
とりがびしりとエルシアを指さす。
「そうすると体の中に、ぼくらのかわいいポイントみたいにいっぱいたまるんだよ、静電気が」
「びびびーって」
ねこが両手を頭の上で合わせて電気を表現する。残念ながら、腕の長さが足りずに頭の上で両手がお会いすることはなかったけど。
「そうか。静電気、ですかね」
エルシアが照れ笑いする。
「すみません、フィリマさん」
「ううん、私は大丈夫だけど」
エルシアはもう一度、おそるおそる指輪に手を伸ばした。
そして。
ばちっ。
「きゃあ!」
やっぱり、電気が走った。えっ。これはいくら何でもおかしい。
「おー、エルシアの静電気は無限大」
「人間発電機」
とりとねこは、呑気なことを言ってるけど。
「こんなに何回も静電気が走るわけないでしょ」
私は指輪をテーブルに置いた。
「ごめんなさい、エルシア。これ、もしかしたら今は私しか持てないのかも」
「えっ」
「指輪からほんの微かに魔力を感じるの。魔法の指輪なのかもしれない。そして、その所有者に私が選ばれてしまったのかも」
「そんなこと、みとめーん!」
突然、とりがテーブルによじ登って指輪にダイブした。
あっ……。
ばちっ。
「ぎゃふん」
「とりさーん!」
とりもやっぱり静電気でふころんと転がった。
「むう。さっきまでぼくが持っていたのに。人間に乗り換えるとは」
「浮気者ー。とりさんの仇ー」
ねこも指輪に突っ込んでいく。
ばちっ。
「きゃー」
「おのれ、よくもねこくんをー」
ばちっ。
「うわー」
「とりさんをよくもー」
ばちっ。
「きゃー」
ばちっ。
「あはははは」
ばちっ。
「うふふふふ」
すっかり楽しくなってしまった化繊のけものは放っておいて、私はエルシアに向き直る。
「ごめんなさい、私の方でちょっと調べてみるわね」
「分かりました。お願いします」
まさか、この指輪が屋敷で起きてる事件と関係しているとも思わないけど。
ばちっ。
「うわー」
ばちっ。
「きゃー」
「やめなさい」
私は指輪を持ち上げる。
後でしっかり魔法の検知をしてみよう。




