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魔女フィリマ、新天地でスローライフを目指す(※相棒はとりとねこのぬいぐるみ)。  作者: やまだのぼる


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53 暗い空の下

 

 おじさんは、すうっと滑るように廊下を歩く。

 暗くて寒い廊下。

 何だろう。

「あのー、とりとねこ……」

 おじさんの背中に声をかけるけど、おじさんは振り返ってもくれない。

「とりとねこ、知りませんよね?」

 無反応。

 一言くらい返してくれたっていいのに。

 おじさんは私の前を無言で歩く。

 廊下は、ずいぶん長い。

 この廊下、こんなにずっと真っ直ぐだったっけ? この辺で一回くらい曲がってなかったっけ?

 そんな疑問が浮かんだけど、自分が方向音痴なことは分かってるので、自分の感覚にも自信がない。

 ああ、軍にいたころなら、こんな風に方向音痴なんてこともなかったのにな。

 あのころとは、私自身が何もかも違う。

 すたすたすた。

 廊下は長い。

 どこにも着かない。

「あのー……そういえば」

 ダメもとで、おじさんに声をかける。

「準備って、何のですか?」

 おじさんは、準備ができたとかなんとか言ってた。

 それが何なのかを聞いていなかった。

「これから何か始まるんですか?」

 でもおじさんはやっぱり何も答えてくれない。無言で歩き続ける。

 感じ悪いな、もう。

 それにしても、寒い。

 暗いせいで、足元がほとんど見えない。

 おじさん、よくこんな暗い中をすたすたと歩けるな。

 私は自分の両腕をさする。寒い。鳥肌。

「着いたら、一枚羽織るものを貸してもらってもいいですか?」

 私の声は、廊下に妙に反響する。

「夜がこんなに冷えると思わなくて。山の手のお屋敷って、どこもこうなんですかね?」

 しーん。

 一言くらい返してくれたって。

 そのとき、突然おじさんが止まったので、私はその背中にぶつかりそうになった。

「わっ」

「着きました」

「へっ」

 思わず間抜けな声を出してしまった。

「どうぞ」

 おじさんは振り向きもせずに横にどく。

 そこはもう屋敷の中ではなかった。

 冷たい風が吹いて、私の髪を揺らした。

 暗い空の下、吹きさらしになっているのは、無数のお墓だった。

「……え?」

 おじさんを見る。

「どういうこと……」

 言葉を継げなかった。

 おじさんの目があるはずのところには、何もなかった。二つの黒々とした空洞があった。

「準備が整いました」

 おじさんは言った。

「さあ、どうぞ」




 がば、と跳ね起きる。

 その勢いで、椅子から転げ落ちそうになって慌てて肘掛けを掴む。

「……え」

 薄暗い部屋。

 私はまた、自分にあてがわれた客室にいた。


 ……夢?


 夢を見ていたのだろうか。

 ……きっと、そうだ。

 その証拠に、相変わらず部屋は暗いけれど、さっきまで感じていた寒さがもうなかった。

 すっかり慣れ親しんだ、スレンダーポットの温暖な気候だ。

 もちろん、暖炉なんて要るわけもない。

 私は部屋を見回して、それからさっき見たものが夢だったと確信した。

 ベッドの上にメモ紙が置いてある。そこに下手くそな字で『とり帝国領土』と書かれていたから。

 あのふたりがいるのなら、これは夢じゃない。

「ほら、これ。とりさん」

「いいじゃないか、ねこくん。よし、徴収しよう」

「はーい」

「うふふふふ」

「えへへへへ」

 微塵の緊張感もない声は、ベッドの下から聞こえてくる。

「ちょっと、ふたりとも何してるの? ベッドの下なんて汚いよ!」

「……ねこくん、今フィリマの声がしたような気がするが」

「した気がするね、とりさん」

 出てこない。ベッドの下でひそひそと話し合っている。

「いいから出てきなさーい」

「わあ」

「きゃあ」

 悲鳴を上げて、とりとねこがベッドの下からふこふこりんと転がり出てきた。

 案の定、埃まみれだ。

「何してるの、ふたりとも!」

「いや、領土の点検を」

「そうそう、とり帝国の検地を」

 あわあわしながら説明するふたり。何をしてるんだ、ほんとに。

「ん?」

 とりの手羽に、何かが嵌っている。

「とりさん、何それ」

「ああ、これか」

 とりはさっと手羽を背中に隠す。

「やらないぞ」

「要らないけど、指輪に見えたよ?」

「ぼくらがここで拾ったんだ」

 とりは、ふこりとベッドの下を指さす。

「だから、ぼくらのものだ」

「違います。この部屋のものは、マートン家のものです」

「えー」

「勝手に持ってったら、奥様に処されるよ」

「それは困る」

 とりは、渋々手羽を私に見せる。

 そこに確かに、小ぶりの指輪が嵌っていた。宝石の付いていない、シンプルなデザインだ。

「誰かが落としたのね。エルシアに渡しておくわ」

 私は、指輪をすぽりと抜く。

「あー」

「一つの指輪が」

「世界を救う冒険が」

「自力で捨てたかった」

 よく分からないことを言って残念そうにしてるふたり。

 そのとき、こんこん、とノックの音がした。




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― 新着の感想 ―
夢オチでほっとしましたけど初夢だとしたら嫌な夢ですね…!!! 本年もやまだ様のご健康とご活躍を祈念しております。
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