51 二つの不思議
引き続き、このマートン家で起きてる不思議なことを整理中。
「それから、さっきの厨房だよね」
私は言った。
「ねこくんがしまってくれたはずのボウルが、また出てた」
「でてた! ふしぎ!」
ねこが腕をぴこりと上げる。
「ぼく、ちゃんとしまったのに!」
「うん」
そう。
すごくちっちゃいことだけど、これが一番はっきりとしたおかしな現象だ。
あのボウルを見つけたときは、厨房の忙しさはもうピークを過ぎてひと段落してたから、ゴファンさんやほかの料理人さんがばたばたしてて出しちゃったっていうことはないはず。
だから、ボウルが勝手に出てきたとしか考えられない。
あと、考えられるのは、ねこくんがやっぱりしまってなかったっていうパターンか。
「それはない」
「ないない。ちゃんとしまったもん」
「私の心を読むのやめてってば」
「フィリマはすぐに顔に出るからな」
「読むのかんたーん」
「ま、まあボウルのことは不思議だったけど。あとはさっきの消えちゃった男の人だよね」
私たちをここまで連れてきてくれた人。廊下の角を曲がった途端、消えてしまった。
隠れるようなところもなかったのに。
「あの人、最初に会った門番の人だよねー」
「え?」
ねこの言葉にびっくり。
「会った人?」
「うん。門で最初に、待っててって言ってそのまま帰ってこなかった人ー」
「えー?」
確かにあの門番さんもさっきのおじさんも、二人とも暗い顔してた気はするけど。
「そう? 違うでしょ」
「ちがわないよー」
「だって、服装が全然違うじゃない」
「フィリマよ」
とりがえらそうに、ふこー、とため息をついた。
「ぼくらけものは羽毛や毛皮を替えられないが、人間は服を替えられるんだぞ」
「そりゃそうだけどさ。でも、なんでさっきまで門番やってた人が、次に会った時に普通の使用人の服着てるのよ」
「その理由を推理するのはぼくらの仕事ではない」
とりはいつでもえらそう。
「ぼくらはかわいくふこふこしているのが仕事だからな」
「そのとおり!」
ねこも同調する。
「はいはい。かわいいポイントたまってるといいね」
「そうだ、明後日はポイント5倍デーだから、マルクさんのお店の手伝いに行かないと」
「あそこならギルドと違って、かわいいポイントもらい放題だもんね!」
「早く解決して帰ろう」
「そうしよう」
「むさくるしい仕事場で悪かったわねー」
かわいいポイント、結構ためてるみたいだけど、いつになったら記念品と交換できるんだろう。
それはそうと、確かに早くこのお屋敷の事件を解決しないと。
何も分からないままで二泊も三泊もしていたら、そのうち奥様に処されてしまいそう。
「ということで、不思議なことは二点に絞られたな」
とりが自信満々に言った。
「えー?」
そうかな。
「色々出したじゃない」
「ほとんど、フィリマの勘違いとかだったぞ」
「そうかなあ」
あんまり納得いかない。
「じゃあ、その二点って何よ」
「一つはもちろん、ねこくんがしまったはずのボウル」
「うん」
「そしてもう一つは、忽然と姿を消してしまった案内おじさん」
案内おじさんって。
でもまあ、確かに。
「はっきりとおかしいのは、その二つかもね」
「そうだろう」
とりはふこりと胸を張る。
「そして、ボウルが出しっぱなしになっていたのは、エルシアが依頼でも言っていた、この屋敷でよく起きている不思議な現象の数々と同じだ」
「ああ……そうだね」
ゴファンさんも言っていた。鍋や皿の向きが変わったり、そういう小さな不思議なことが起きるって。
「だけど、人が消えるなんて話はエルシアもしてない」
「……そうだ、ね」
そんなことが起きていれば、もっと大騒ぎになっているはずだ。
「つまり、案内おじさんの消失はこの屋敷で起きているほかの怪奇現象とは種類が違うということだ」
「う、うん」
どうしたんだろう。急にとりがすごい。
「ということは、だ」
「うん。ということは」
「……」
「……」
「……」
「……?」
「あー、とりさんの電池が切れたー」
急に動かなくなったとりを、ねこがずるずると引っ張っていく。
「急に難しい話はじめたから、あぶないと思ったんだー」
「で、電池?」
「ちょっとほっとけば治るから」
ねこは、とりをぽふりとベッドに寝かせた。
「あとはフィリマがやっといてー」
なんだ、それは。
肩透かしを食らったけど、でも、とりの言うことは核心に迫ってたような気もする。
もう少しじっくり考えてみよう。
そう考えて、椅子に座っているうちに……
あれ?
部屋がすっかり薄暗い。
眠ってしまっていたらしい。




