47 働かざる者食うべからず
そーっと厨房を覗いてみると、湯気の上がるたくさんの鍋が目に飛び込んできた。
どうやら、昼食の準備の真っ最中。
忙しく立ち働く男の人たちに混じって、小さいふこふこのやつがふたつ、てんてこまいで働いていた。
「とりさん、そこの野菜切っといてくれる!?」
「ざっくりとでよければー」
「ざっくりといっちゃおう!」
「承知!」
ふここここ。ざくざくざく。
「ねこくん、そっちの鍋とボウルを流しに持っていっておいて!」
「まかされよー」
ふここここ。がらんがらん。
……働いてる。
とりとねこが、めちゃくちゃ働いてる。
厨房のスタッフと一緒に、ずっとここで働いてたみたいなフットワークで。
何でそんなものがあるのか知らないけど、とりとねこサイズの白いコック帽までかぶっている。
「ゴファンさん、野菜切ったぞー」
「ありがとう! 次はそっちの野菜も!」
「はいよー」
たたたたた。ふこふこ。
「ゴファンさん、お鍋置いたー」
「ありがとう! 次はそっちのボウルも!」
「はいさー」
ばたばたばた。
「……あのー」
おそるおそる声をかけた。
「あのー、すみません……」
私に最初に気付いたのは、妙に慣れた手さばきでふここここんと野菜を切っていたとりだ。
「ゴファンさん! 人手!!」
とりは私を手羽で指差して叫んだ。
「えっ」
「人手、発見!」
「えっ、えっ」
「おお!」
厨房で一番声を出して働いている、戦士みたいな体格の男の人が駆け寄ってくると、私の手をがっしりと掴んだ。
でっかい手。
ゴファンさんって、確かエルシアが言ってた副料理長さんの名前だよね。
「急な来客でスタッフが三人も抜けてしまってね! 困っていたんだ!」
ゴファンさんは言った。
「とりの手も借りたいくらい!」
とりが後ろから付け加える。
「ねこの手も!」
ねこも得意げに付け加える。
「そういうわけで、手伝ってもらえないか!」
「は、はあ」
困ってるみたいだし、手伝うのはやぶさかではありませんけど。
「ゴファンさん、味付けとかは任せちゃだめだぞ」
「フィリマは適当だから」
「そんなこと、最初からやりません」
私はローブの袖をまくる。
流し台にたくさんたまった鍋。
これをどんどんきれいにしないと、次のお料理が作れない。
「じゃあ、洗い物やりますね」
「おお!」
ゴファンさんは、ぱあっと顔を輝かせた。
「やってくれるか、ありがとう! ええと……」
「フィリマです」
「フィリマ! ありがとう!」
「いえ」
「料理長に言って、給金は出すからね」
「いえ、結構です」
「さああと少し! みんな頑張ろう!」
「おー!」
元気に答えるみんな。一番でっかい声ではりきってるのは、うちのふたりだ。
積まれた鍋やボウルを洗っているうちに、食べ終わったお皿が続々と戻ってきた。
これも洗わないと。
じゃぶじゃぶ。
「この屋敷で働く人間は、数が多いからね」
とゴファンさん。まだ鍋を振るって何か作っている。
「まずはご主人様や奥様の食事を作って、その後で使用人の食事を作るんだが、急な来客でアフタヌーンティーにスタッフが三人引き抜かれてしまったんだ。メッシ料理長も夕食のための買い出しに市場に行っているし、このままじゃ使用人のみんなに食事がいきわたらないところだった。それを救ってくれたのが、突然現れたこのふたりだよ」
「ふふふ」
器用に芋の皮を剥きながら、とりが得意そうに胸をそらす。
「助けを必要としている人がいれば、そこに必ず現れる。それが」
私が洗い終わったお皿を拭いてくれていたねこが、さっとポーズをとる。
「そう、それが!」
とりとねこはふたりでかっこいい(?)ポーズをとった。
「ぼくたち、とり帝国!」
「おー」
ぱちぱちぱち。
厨房スタッフの皆さんから、温かい拍手。恐縮しかない。
「じゃあ、今戻ってきているお皿は、使用人の皆さんの食べたあとってことですね」
「ああ。今作っているこれが我々のまかないだ。一緒に食べようじゃないか」
「いいんですか?」
「もちろんだとも」
「ぼくらは要らないぞ」
「そのへんで霞を食べるから」
「素晴らしい。なんて燃費のいいぬいぐるみなんだ!」
「てへへ」
「えへへ」
「じゃああと少しですね」
私はお皿を洗う。確かに大人数だけあって、どんどんお皿が運ばれてくる。
「すみません、これで最後なんですが」
食べ終わったお皿を運んできたメイドさんが、厨房に顔を出した。
「まだ、お部屋に戻っていないお客様がいるので、その分のお料理は……」
と、そこでそのメイドさんと皿を洗っている私の目が合った。
あ。エルシアだ。
「フィ、フィリマさん!!」
エルシアが叫んだ。
「どうしてこんなところでお皿洗ってるんですか!」
「あ。えーと」
別に悪いことしてるわけじゃないけど、なんだか気まずくて、とっさに私は言い訳した。
「私だけじゃなくて。ほら」
皮むきをしているとりとお皿をしまっているねこを指さす。
それを見たエルシアが目を真ん丸にした。
「ゴファンさん!」
エルシアの声が厨房に響き渡った。
「どうしてお客様を働かせてるんですか!」




