46 たんけんちゅう。
もちろんエルシアだってそんなに暇じゃない。
貴族のお屋敷の使用人には、いろいろとお仕事があるのだ。
私一人にいつまでも関わってはいられない。
だから、とりとねこは私が探すことにした。
心配なのは、方向音痴の私にはもう二度とこの部屋が見つけられないんじゃないかということ。
初めて来たこんな広いお屋敷。それに、どこも同じ景色に見えてしまう。
「誰かに聞けば、教えてくれるよね」
「はい」
エルシアは頷く。
「第九号客室はどこか、と尋ねてください。うちの使用人なら、みんな分かりますので」
「了解」
これからお掃除だというエルシアと別れて、私はお屋敷の長い廊下を一人歩く。
「とりさーん。ねこくーん」
しーん。
いない。
広いお屋敷は、たくさんの人がいるはずなのに、妙に静まり返っている。
うーん。
あのふたりの移動速度だと、そんな遠くまで行くことはできないはずなんだけど。
誰かに持っていかれちゃったのかなあ。
きょろきょろしながら歩いていたら。
「……ん?」
とある部屋の前に、メモ紙が一枚ぴらりと落ちている。
「たんけんずみ」と子供みたいな字で書かれていた。
完全に、とりとねこの字だ。
こんこん、とノックしてみると、使用人っぽいおじいさんが顔を出した。
「はいはい」
「あ、すみません。ここに動いてしゃべるぬいぐるみがお邪魔しませんでしたでしょうか……」
「ああ、来たよ」
おじいさんはあっさりと頷いた。
「この部屋を探検させてくれ、なんて言ってね。何もないって言ったんだけど、隅から隅までふこふこ歩き回って、出て行ったよ」
「そ、そうですか。それはご迷惑を……」
「いや、別に。年寄りの話をいろいろ聞いてくれて、楽しかったよ」
おじいさんはちょっと嬉しそうだった。
さすがとりとねこ。もう心を掴んでる。コミュ力が高すぎる。
「どっちに行きましたか……?」
「向こうだと思うよ」
おじいさんは廊下の奥を指さす。
「あんまり奥に行くと、奥様の部屋だから気をつけなさいって言っておいたよ。ほら、奥様を驚かせたら、処されてしまうからねえ」
「そ、そうですよね」
ああ、早く見つけないと。
「楽しそうに、処されたらやばーい、とか言ってたよ、ふたりとも」
やばーい、じゃないよ。本当に分かってるんだろうか、まったく。
おじいさんにお礼を言って、また廊下を歩き出す。
しばらく行った部屋の前に、また「たんけんずみ」のメモ紙。
こんこん、とノック。
「すみません、こちらにとりとねこの生意気なぬいぐるみが来なかったでしょうか……」
「ああ、とりさんとねこくんね」
顔を出したエルシアとおんなじくらいの年のメイドさんは胸の前で手を組んだ。
「かわいかったー。触らせてくれたのよ。すっごくふこふこしてたわ。カガクセンイ? っていうの? それでできてるからって」
「それはよかったです。あの、それでその後どこに……」
「もっと大きな部屋が見たいって言うから、あの角を曲がった先に厨房があるわよって教えてあげたの」
「厨房ですか……」
さすがに食材と間違えられることはないだろうけど。
「料理長のメッシさんは厳しい人だけど、この時間はいないと思うの。副料理長のゴファンさんは優しい人だから、きっと歓迎してくれるはずよ」
「分かりました。行ってみます、ありがとうございます」
「また遊びに来てって言っておいてね」
手を振るメイドさんと別れて、教えられた角を曲がる。
少し前から漂っていた料理の匂いが濃くなってきた。奥の大きな扉から賑やかな音がしているので、あそこだなって分かった。
「そこに大皿を三枚並べて!」
「はいさ」
「こっちもできたよ、中皿三枚!」
「はいさー」
……。
……んー?
料理人さんの声に混じって、とりとねこの返事が聞こえる気がするなあ……?




