42 女の子の依頼
「まったくもう。ほら、謝りなさい」
私につままれたとりとねこは、ぴよーんと身体を伸ばしたまま、
「ごめんなさーい」
と女の子に謝った。
「ぬいぐるみが喋ってる……」
幸い、すぐに目を覚ました女の子は、気絶させられたことも忘れて、目を丸くしてふたりを見つめている。
「お嬢さん、しゃべるぬいぐるみは初めてかい?」
とりが気取った感じでふこりと胸を張る。
つままれたまんまのくせに。
「興味があったら、触ってみてもいいんだよ?」
「えっ、えっ」
話しかけられた女の子は、戸惑ったように私ととりを交互に見る。
「あ、触ってみる?」
私はとりを女の子に差し出す。
「い、いいんですか?」
女の子は恐る恐る手を伸ばす。とりは身体をぐにょーんと伸ばしたまま、されるがままになっている。
「あー、ずるい! ぼくも! フィリマ、ぼくも!」
つままれたままのねこが、ぴこぴこと空中を走りだした。
「わあ」
「ふもっふ」
私の手から転げ落ちたねこは、そのままちんちろりんと女の子に向かって突進した。
「ぼくもさわってー」
「きゃああっ!」
不安そうにとりに手を伸ばしていた女の子は、いきなりねこに飛びつかれてまた悲鳴を上げた。
「ちょっと、ねこくん!」
とっさに私も手を伸ばしたので、気取った感じのとりがそのままぽてりと落ちた。
「んがっく」
「あ、ごめん、とりさん」
「や、やわらかい」
ねこを抱きしめた女の子が目を見張る。
「かわいい」
「そうでしょうとも」
女の子の手の中で、ねこはふこふこと頷いている。
「ずるいぞ、ねこくん。本当はぼくが触られるはずだったのに」
とりは足元でぶうぶう言っている。
「はいはい、そこまで」
リサさんが、ぱんぱんと手を叩きながら間に入ってきた。
「お仕事の話に戻りましょうね」
「あ、そうでした」
女の子は、自分がここにやってきた理由をやっと思い出したらしく、姿勢を正す。
だっこしたねこはそのままだけど。
「ちっ」
とりは舌打ちしてほねっちによじ登り始める。
「何か依頼があってきたのよね?」
リサさんの言葉に、女の子は頷く。
「はい」
女の子によると、彼女の名前はエルシア。
スレンダーポットの貴族マートン家で働くメイドさんだそうだ。
「マートン家って大きいんですか」
ジョイスさんにそっと聞いてみると、ジョイスさんは「まあな」と頷く。
「市長の一族だからな。それなりに力は持ってるだろうよ」
「そうなんですね」
エルシアによれば、最近、お屋敷で奇妙なことが立て続けに起こるのだそうだ。
たとえば、お皿が数枚なくなっていたり、開けたはずのカーテンが閉められていたり、椅子の配置が変わっていたり。
一つ一つはとても小さなことで、気のせいだったんじゃないかっていうようなことなんだけど。
でも、そういうことが何度も積もり積もると、だんだんみんな気味悪がるようになってきたそうで。
「幽霊なんじゃないかって、誰かが言いだして」
とエルシア。
「それで、みんな一人になるのを嫌がり始めて。変な影を見たっていう人も出たりして」
「まるで幽霊屋敷ね」
とリサさん。
「本当に、そんな感じなんです」
とエルシア。緊張をほぐすためだと思うけど、ずっと手に持ったねこの身体をぎゅむぎゅむしている。
ねこは気持ちよさそう。
「それで、その話が奥様にも伝わってしまって」
マートン家の奥様は、幽霊屋敷なんて噂が立つのは不名誉だから、さっさと原因を調査してほしいと、エルシアをギルドにお使いに出したということだそうだ。
「泊まり込みで、原因を探っていただきたいんです」
エルシアは言った。
「来月、大事なお客様がいらっしゃることになっているんです。ですから、できれば数日以内に突き止めてほしいと」
「なるほどね」
リサさんが頷く。
「そういうことなら……」
「俺はやらねえぞ」
ジョイスさんが言った。
「貴族のお屋敷ってガラじゃねえからな」
「そうね。大丈夫、私もそう思ってるから」
「……」
ちょっと悲しそうな顔でジョッキを傾けるジョイスさん。
でも仕方ないよね。私もそう思う。
「ぼくに任せておきたまえ」
「きゃああっ!」
急にほねっちが喋ったので、またエルシアは悲鳴を上げた。
「とりさん!」
「いや、別に驚かせるつもりは」
とりが眼窩からぽこりと顔を出す。
「ほねっちの中から声を出さないの!」
「えー。植民地なのに?」
諦めてなかったのか。
「でも、そうね」
リサさんが私を見て微笑んだ。
「こういう話は、マジックユーザーのほうがよさそうだわ。フィリマ、お願いできるかしら?」




