41 結局、今日もギルド。
「……それで、連れてきたの?」
「はい」
私は神妙に頷く。
リサさんは、ギルドのカウンターに座るほねっちを見てため息をついた。
もうすっかり日の暮れた冒険者ギルドは、今日もお酒を飲む冒険者の皆さんで賑わっている。
みんな毎晩お酒飲んでるよね……。よくお金が続くなあ。
「連れてくるつもりはなかったんですけど」
一応、私は言い訳した。
「しばらくその路地で待ってみたんですが、オルカタさんは来なくて。完全に死霊術の効果も切れてしまっていたし、オルカタさんが帰ってくる気配もなかったので……その路地にメッセージを残して、とりあえずここに運んできました」
「まあ、おかしなやつに犯罪とかに使われるよりは、うちに持ってきてもらったほうがいいけど」
「すみません」
「謝ることじゃないわよ」
そう言って、リサさんはほねっちをもう一度見た。
「どうせうちに来る人間には、骨くらいで驚くようなのはいないから」
「まあ、そうですよね……」
みんな冒険者だ。スケルトンくらいは見たことがある。
ほねっちの頭蓋骨の眼窩からはとりとねこがそれぞれ顔を出して遊んでいる。
「かといって、いつまで置いておくか。この子たちの巣にさせておくわけにもいかないし」
「ほねっちはいつか帰ってくる」
右の眼窩から、とりが偉そうに言う。
「だから、それまでの間はぼくらがこうやって守ってあげないと」
「あ、それ守ってくれてるんだ……」
「そのとおり」
「えー、ちがうよー」
左の眼窩から出たり入ったりしながら、ねこが言った。
「このままほねっちが帰ってこなかったら、仕方ないからこの中をとり帝国の植民地にしようってとりさん言ってたよー」
「ねこくん!」
とりが大慌てで手羽をパタパタさせる。
「それは秘密だといったじゃないか!」
「そうそう、秘密なんだよ」
ねこはふっこりと頷く。
「だからフィリマもリサも、誰かに言っちゃだめだよ」
「はーい」
リサさんがくすくす笑いながら返事する。
「へーえ。ほねっちの頭蓋骨を植民地にねえ」
私が冷たい目で見ると、とりは眼窩からぽろりと落っこちて転がってきた。
「ちがうんだ、あれは言葉の綾というか帝国の密約というか」
帝国の密約って何だ。
「とにかくぼくは最悪の事態を想定しただけで、ほねっちが早く元通りに動いてくれればそれに越したことはない。なあ、ほねっち」
ほねっちの二の腕辺りをぽふぽふと叩くとり。
焦ってる焦ってる。
まあ、それは別にどうでもいいとして。
「オルカタさん、どこへ行ってしまったんでしょう」
「最近、うちにはほとんど顔を出していないのよ」
リサさんは顔を曇らせた。
「登録だけはしているんだけど、定宿にもあまりいないみたいだし、連絡がつかなくてね」
「そうなんですか」
「ええ。だからこの前、フィリマやアランたちが街の外の丘で出会ったっていうのが、すごく久しぶりの消息なのよ」
「そうだったんですか……」
「オルカタのやつ、な」
どすり、と私の隣のスツールにジョイスさんが腰かけた。古い木製のスツールは、ぎいっと悲鳴を上げる。
「仕事はしてたみたいだぜ」
「してた?」
リサさんが眉を顰める。
「冒険者以外の仕事を?」
「いや」
ジョイスさんは首を振る。
「冒険者稼業を続けてたらしい。ギルドを通さずにな」
「もぐりで?」
「ああ」
冒険者ギルドを通さずに冒険者的な仕事を受けることは、別に違法でも何でもない。
本人が望むなら、ギルドに属することなく冒険者を名乗って仕事を受けることは可能だ。
そうすれば、報酬からギルドの手数料を差し引かれることもない。
でも、それをする人はほとんどいない。
なぜかといえば、いくつも理由はあるけれど、たとえば、ギルドには大小さまざまな依頼が集約されてくること、それから一番のトラブルの元である報酬の交渉も任せられること、それに、前回のゴブリン退治のときにそうだったように、冒険者同士の互助機能が働くこと、などなど。
メリットとデメリットを天秤にかければ、どう考えてもギルドに属したほうがいい。
手数料だって大した金額じゃないしね。
このスレンダーポットの冒険者ギルドは規模が大きいとは言えないけれど、市政庁との関係も良好だし、十分にその機能を果たしていると思う。
だから、冒険者が「野良」(ギルドに所属していない冒険者は、しばしばこう呼ばれる)で仕事を受けるメリットはほとんどない。
それなのに、オルカタさんはどうして……。
そう考えたとき、彼が言っていた言葉をはっと思いだした。
「魔法使いだと? それなら、あいつと同じってことか?」
そうだ。
オルカタさんはなぜか魔法使いに敵意を持っていた。
どうしてだろう。
それが関係しているのかもしれない。
ちょうどいい機会だった。
聞いてみよう。
「ねえ、リサさん……」
「あ、あのっ! すみません!」
あう。
私の質問は、突然の女の子の声にさえぎられてしまった。
見ると、どこかのお屋敷で働いていそうなメイドの格好をした十代後半くらいの女の子が涙目で立っていた。
「はいはい」
リサさんが返事をする。
「もしかしてお仕事の依頼かしら?」
「は、はい、そうです」
女の子は、こくこくと頷いた。
かわいそうに、酒を飲んで大声を上げている凶悪な見た目の冒険者の皆さんにすっかり怯えているようだ。
幸いというかなんというか、私が初めて来たときみたいに絡まれることはなかったみたいだけど。
さすがにみんな、冒険者と依頼人の見分けくらいつくってことなのかな。
「ここに来るまで、怖かったでしょう。人相の悪い奴らばっかりだから」
リサさんは優しく言った。
ジョイスさんがジョッキを抱えたまま、「へっ」と笑う。
「大丈夫よ、とりあえずそこに座って」
「あ、はい……」
女の子は促されるままにスツールに腰かけ、私たちにもぺこりと会釈した。
「あ、どうも……」
怖くないよー。
できるだけ愛想のいい笑顔を返しておく。
と思ったら。
「ひいっ!」
わあ。
隣の人にも会釈した女の子は、それが人ではなくて骨だったことに気づいて悲鳴を上げた。
「あ、怖がらなくて大丈夫よ。それ、ただのオブジェだから」
とっさにリサさんがフォローした。
「あ、そ、そうですよね。偽物ですよね。びっくりした……」
女の子はほっとしたように照れ笑いを浮かべた。
「すみません、大きな声出して」
「いいんだよー」
「きにしてないよー」
「きゃああああっ!?」
いきなり人骨の中から声がして、女の子はくたりと気を失った。
「おおっと」
ジョイスさんが太い腕で女の子を支える。
「こらー!」
私が怒ると、ほねっちの中からふたつのけものがぴゅー、と出てきて逃げて行った。




