37 冒険者の立ち位置って。
市政庁。
スレンダーポットの街では例外的に大きな建物だ。
なにせ、五階建てだ。街のどこにいても見つけることのできるシンボルみたいな建物だ。
ここに来るのは二回目だ。
一度目は、転入の手続をしたとき。
あの時はまだ誰も知り合いがいなかったけど、今日はアランさんたち“白い燕”の三人も一緒だ。
いつの間にか、たくさんの知り合いができた。
街のいろんな人に助けてもらって、今日まで過ごしてきた。
ゴブリンを退治して、この街にちょっと恩返しができたような気がしている。
「冒険者ギルドの報告の関係で来ました」
一階の受付でアランさんがそう伝えると、職員さんは私たちをちらりと見て、
「三階の治安局」
と階段を指さした。
「行こう」
慣れている様子のアランさんは、すたすたと階段へ向かう。
その後に私たちも続いた。
「あれー?」
ドスンさんの肩の上でとりが首をひねる。
「くす玉とか花束とか、そういうのがないぞ。なんだか表彰される雰囲気じゃないな」
「そっけないね」
とアランさんの肩の上でねこもちょっと不満そう。
「ぼくら、名誉市民なのに」
「ハイソサエティなのに」
「恥ずかしいから、ぶつぶつ言わないの」
階段をぺたぺたと三階まで上る。
天井から吊り下げられた案内板に従って、治安局の受付にたどり着いた。
「おー、ここか」
とりとねこがきょろきょろとあたりを見回す。
「ツェディクさんはいるかな」
「ぼくら、お肉もらったお礼言ってないもんね」
「ツェディクさんはいないと思うよ」
上級警士とはいえツェディクさんは実働部隊の人だ。市政庁にはいないだろう。
「多分、今日も市場の派出所にいるよ」
「なあんだ」
「ざんねん」
「ほら、静かにして」
治安局はやっぱり市政庁のほかの部署とは雰囲気が違って、厳粛な感じがする。ちょっと緊張する。
軍と似た空気かも。
「冒険者パーティ“白い燕”のアランです。ゴブリン退治の報告に参りました」
受付にいたのは、かなり太ったおじさんだった。アランさんがそう声をかけると、大きな目をぐるりと向けて、太い腕をぐい、と突き出した。
「報告書」
「ああ、はい」
アランさんがリサさんから預かっていた書類を差し出すと、おじさんは無言で受け取ってぱらぱらとめくる。
それから、脇の箱に書類をぽん、と放り込んだ。
「4番で待て」
「はい」
私たちはぞろぞろと、4番と書かれたテーブルへと移動する。
「とりさん、あのおじさんえらそうだったね」
「うむ。本当はぼくのほうがえらいのにな」
「そうだよね。とりさんのほうが絶対にえらいよ」
「まあ体形はぼくに似てるけどな」
「でもとりさんのほうが手触りがいいよ」
「向こうはぼくよりは弾力がありそうだったね」
ふこふこズがひそひそと話している。
やめなさい。
と思ったけど、それはそれとして、ふたりの言う通り、あんまり友好的じゃない雰囲気が続いてる。
私はそっとアランさんに尋ねてみた。
「もしかして、私たちあんまり歓迎されてない感じですか…?」
「ああ、まあそうだろうね」
アランさんの答えはあっさりしていた。
「基本的に、冒険者なんて素性の分からない流れ者みたいなものだから。酔ってケンカをしたり、お金に困って空き巣をしたりして治安局に捕まる冒険者も結構いるからね。向こうとしては歓迎という雰囲気にはならないだろうと思うよ」
「あ、そうなんですか……」
確かに、冒険者になろうなんて言う人は、定職に就いていない(就けない)人がほとんどだ。自分を棚に上げて言いますが。
中には、犯罪に手を染めてしまう人もいるだろう。旅から旅の生活だから、犯罪を犯してもさっさと逃げればいいと割り切っている人もいるかもしれない。
「広域の指名手配を受けている元冒険者も、割といるからね」
「なるほど……」
冒険者っていうのは、そもそもが「よそ者」なんだ。
街の人たちの冒険者を見る目は、温かいものばっかりじゃないってことなんだろうな。
「それじゃあ、やっぱり今回はちゃんと表彰されないといけませんね」
私が言うと、アランさんは「え?」と目を瞬かせた。
「だって、冒険者ってアランさんたちみたいな素敵な人たちなんですから」
そりゃ、コヤーデルを横取りしようとしたゲボンさんたちみたいな人もいるけど。
でも、ゴブリンを退治するために命を懸けていたアランさんたちの、この街を守ろうという心は間違いなく本物だ。
そして、すぐに駆けつけてくれたジョイスさんたちの仲間を思う気持ちも。
「もっと街の人たちに、皆さんの頑張りを認めてもらわないと」
私が言うと、アランさんは微笑んだ。
「そんなことを言われると新鮮だな」
「思いっきり実績をアピールしましょう」
私は握りこぶしを作った。
「おお、フィリマ嬢が表彰を狙っている」
「我々と同じハイソサエティに加わろうとしてますな」
「まあ、それには我々の審査があるんだけどな」
「オーディションに受かっていただかないと」
とりとねこがわけのわからないことを言っていると、4番の席に担当者が現れた。
「お待たせしました」
眼鏡をかけた、クールな感じの女の人だった。




