29 さわやかな朝のはずが。
「おーい」
「おーい、フィリマー」
とりとねこが向こうでうるさい。
昨日は遅かったんだから、もうちょっと寝かせてよ。
ゴブリン対策のパトロールで疲れて帰ってきたのに、そこからふたりを洗濯する大洗濯大会が始まったんだから。
いや、ほんとにくさかったもんなぁ……。
あのままで寝てたら、ふたりにもベッドにもすっかりにおいが染みついちゃってたと思う。早めに気づけて良かった。
「おーい」
「フィリマー」
朝日が差し込んできて、部屋はすっかり明るい。
これから真夏に向かっていくので、そのうちに寝苦しい夜も来るんだろう。でも、今のところは、すごく快適。
ということで、もうひと眠り。ぐう。
「おーい、フィリマー」
「フィリマやーい」
うーん。
「フィリマフィリマフィリマー」
「ママママママー」
「ああ、もう」
うるさい。
目を開けると、窓際でとりとねこが逆さになってぷらぷらと揺れていた。
昨日、寝るときに私がピンチに干したからだ。
洗濯ばさみで挟む場所は、ふたりのお尻あたりについてる、ちっちゃな四角い布切れみたいなやつ。
見たことのない文字が書かれていて、前にとりに「これなんて書いてあるの?」って聞いたら、「ああ。メイドインチャイナって書いてあるのさ」と言われた。
なに、その呪文。
「え、どういう意味」と聞いたんだけど、「メイドインチャイナはメイドインチャイナだろう。どういう意味もくそもないぞ」とかなんとか言って、教えてくれなかった。
で、まあその布切れは、こういう時便利なのだ。体を洗濯ばさみで直接挟んだらかわいそうなので、その布を挟んで干してあげるというわけだ。
だから、さかさまになってるのだ。
昨夜はさかさまのままで干されたふたりは、ぷらんぷらんと体を揺らして、お互いにふこりとぶつかるたびに、
「あはははは」
「うふふふふ」
とか笑いあってたけど、しばらくして静かになった。寝たらしい。
それで私もようやく眠りについたんだけど。
「フィリマー」
「フィリフィリフィリマー」
「はいはいはい、わかったわかった」
今日は、まだ朝早くだっていうのに、起こされてしまった。
「どうしたの、とりさん」
私は言った。
「もうピンチから下りたいの? でも、昨日の夜中に洗ったばっかりだから、そこで朝日を浴びてちゃんと乾かないとだめだよ」
「わかってるぞ、フィリマ」
ぷらんぷらんと揺れながら、とりは答えた。
「そんなことで呼んだわけではない」
「ではない」
ねこもぷらぷらと揺れながらとりの真似をする。
「じゃあなんで呼んだのよ」
「窓の外を見るのだ」
「へ?」
ベッドから体を起こして窓の外を見る。
そこには、一羽のカラスがちょこんと止まっていた。
「カラスだね」
と言うと、とりは、
「窓を開けてくれー。ぼくを下ろしてくれー」
とまた身体をぷらぷら揺らす。
「仕方ないなあ」
鳥同士、何か話でもあるんだろうか。
とりをピンチから降ろして、窓の前に置いてから、窓を開ける。
建付けが良くないので、がたがたと驚くくらい大きな音が出たけど、カラスは逃げもしなかった。
肝の据わったカラスだな。
たまにいるよね、こういう鳥。主にカラスが多いけど。
「かあ」
とカラスは一声鳴いた。
「やあ、カラスくん」
とりはふこりと手を上げる。
「今日はどうしたんだね」
「かあ、かあ」
「ふむふむ」
「かあかあかあ」
「なるほどな」
「とりさんだけいいなー」
ねこはピンチに干されたまま、くるくると回っている。
「ぼくにも猫が訪ねに来ればいいのになー」
「うん。そうだね。……で、とりさんとカラスは何を話してるの」
「さあ」
ねこは悪びれる様子もなく言った。
「だってぼく、ねこだもん」
そりゃそうだよね。
と、そのとき、ばさばさ、と羽をはばたかせて、カラスが飛び去って行った。
わあ、すごい。
カラスとはいえ、翼を広げた時の大きさは相当なものだ。
迫力がある。
「とりさん、何を話してたの?」
「ああ。カー公はぼくが中庭で仲良くなったとり帝国の臣民なのだが」
「カー公っていうんだ」
勝手にとり帝国の臣民に入らされてるけど。
「カー公が言うには、空を飛んでいて、すごいものを見つけたんだそうだ」
「すごいもの? 何?」
「ゴブリンの痕跡だってさ」
とりはため息をついた。
「残念だが、今教えてもらってもな。すまないがその仕事は昨日だよ、と話しておいた」
「いやいやいや」
仕事がどうとかじゃない。ゴブリンの痕跡ですって?
「大変じゃない!」




