28 だからだー!!
「あー、今日もいっぱい歩いて疲れたな」
「つかれたー」
とりとねこが、ふここここ、と元気に家の中に駆けこんでいく。
今日も、家に帰り着いたのはすっかり日が落ちた後だった。
仕事が遅くなった日は、町はずれのこの家まで帰ってくるのが結構大変だ。
冒険者の仕事をメインでやってるうちは、街の中心部に宿を取ったほうがすごく楽なんだけど。
そうしない理由は、まあいろいろあるけど、一番はお金だよね、やっぱり。
せっかく苦労して稼いだお金が宿代で消えちゃったら、バカみたいだもん。
それならちょっと大変でもこうやってうちに帰ってきたほうがいい。
仕方ない。自分で決めて買った家だもの。
「疲れたからこのままベッドにダーイブ」
「あー、とりさんずるーい。ぼくもダーイブ」
ふここん、ふここん。
ベッドに飛び乗って、そのまま転がってるふたり。
……元気だな。
全然疲れてるようには見えないんだけど。
よく考えたら、ドスンさんとかアランさんの肩に乗っかってたからほとんど歩いてないんだよね。何が「いっぱい歩いた」よ。
と一瞬思ったけど。
今日のふたりは、確かに大活躍だった。なので、私も文句は言えない。
私もこのままベッドにダイブできたらどんなにいいか。
でも、今日は汗だくだ。水で体を拭いて、着替えてからじゃないと気持ち悪くて眠れない。
「すやすやすやすや!」
「あ、とりさんがもう寝ちゃった! ぼくだって! すやすやすやすや!」
「すやすやすやすやすや!」
「すやややや!」
「ふんかふんか!」
横になって、自分の寝息をよくわからない擬音で表現するふたり。
……。
やっぱりちょっと元気すぎてむかつくなあ。
結局あの後、オルカタさんが去ってからもパトロールを続けたけれど、ゴブリンの形跡を発見することはなかった。
「ゴブリンいないじゃーん」
「見つけたかったー」
残念そうなとりとねこに、アランさんが、
「見つけたら大変だからね。そのときは大至急で報告して、広範囲の捜索を行って対処しないといけない。まあ、そうめったに見つかるものでもないんだよ」
と説明してくれた。
「そうなのかー」
「じゃあ仕方ないねー」
あきらめるのも早いふたり。
とりは相変わらずドスンさんの肩の上にいる。ねこはアランさんの手の上だ。
「……そういえば、あの」
私はふと、気になったことを口にした。
「さっき、魔法使いが歓迎できないって、オルカタさんは言ってましたけど……」
その言葉に、アランさんの顔が曇る。
「昔、何かあったんですか。魔法使いの信用を落とすようなことが」
どうも、オルカタさんの口ぶりから察するにそんな感じだった。
「ああ、うーん」
アランさんはあからさまに困った顔をした。
「すごい昔の話なんだよ。だから、僕たちもよく知らないっていうか」
「そうなんですか?」
「うん。いい加減なことは言いたくないし、もしどうしても知りたいのなら、ギルドでリサにでも聞いてみるといいよ」
なんだかはぐらかされた気がする。
ちょっともやもやは残ったけど、仕事中にする話でもない気がしたので、
「わかりました」
と頷いた。
「まあ、気にすることないよ」
と、アランさんはフォローするように言ってくれたけど。
パトロールを終えてギルドに戻ったころには、もう酒場に冒険者の皆さんがあふれていて、リサさんとそんな話をすることもできなかった。
……また今度訊いてみよう。
魔法使いが歓迎されていないって言っても、ジョイスさんやリサさん、それに今日のアランさんたちだってちゃんと受け入れてくれてるわけだし。
そんな重い話でもないと思う。多分。
そんなことを考えながら寝る支度を整えて、ベッドに行くと。
ん?
くさい。
なんだろう、このにおい。
えっ、くさいくさい。
なんというか、汗だくのおじさんが目の前に座ってるような感じ。
なんだこれ。
においの元をたどっていった私は、思わず大きな声をあげてしまった。
「とりさん!」
「んがっく」
ほんとに寝ていたとりが、ぴこりと体を起こす。
「な、なんだなんだ」
「どうしたどうした」
ねこも起きだしてきた。
「くさい!!」
私は叫んだ。そうだ。そういえば。
「とりさん、今日ドスンさんの鎧の隙間に潜り込んでたでしょう!」
「ああ。もぐりこんだよ」
とりはうなずくと、にょるんと体を縦に伸ばす。
「こうやって体を細くして」
「だからだー!!」
私はがしっととりを掴んだ。
明日がお休みでよかった。
「今から洗濯します」
「ええっ」
「このにおいのまま寝たら大変。取れなくなっちゃう」
「わー、とりさんたいへーん」
「あなたもついでに」
「えー!」
ねこもとりと一緒に遊んでたんだから、くさいに決まってる。
ああ。やっと眠れると思ったのに。
私はぶうぶう言うふたりを掴んだまま、中庭へと出るドアを開けた。




