27 何者と言われても。
結局、オルカタさんが押しても引いても、高圧的にどんなに命令してもスケルトンは止まらなかった。オルカタさんはちょっと半泣きになりかけていた。
実際の年齢はかなり上なんだろうけど、どう見ても男の子にしか見えないオルカタさんが目に涙をためている姿はちょっといたたまれなくて、仕方なく私がとりとねこに注意して止めることにした。
「そのスケルトンはオルカタさんのなんだから、勝手に持ってっちゃダメ!」
「えー」
ふたりはちょっと不満そう。
「せっかく仲良くなったのに」
「いっしょにとりねこゲームやろうって話をしてたのに」
「とり電鉄の電車にも乗せてあげようと」
電車って何?
「とにかくだめです」
腰に手を当ててスケルトンの前に立ちはだかると、とりとねこはしぶしぶその肩……鎖骨のあたりから下りた。
「フィリマがこういうことを言い出したときは聞いておかないと、あとが怖いからな。ほねっちよ、すまんな」
「また今度遊ぼうねぇ」
ふこふこと手を振るとりとねこ。スケルトンもちょっと残念そうに、かたかたと骨だけの手を振った。
聞き分けのいい骨でよかった。
きっと生前はいい人だったんだろう。
で、オルカタさんはといえば。
「どういうことだ……ありえない……絶対ありえない……」
青い顔で何やらずっとつぶやいている。
「ごめんなさい、オルカタさん。スケルトンお返ししますから」
そう言ったけど、心ここにあらずといった感じ。自分が死霊術で支配したはずのスケルトンをあっさり奪われたことがよっぽどショックだったみたい。
プライドを傷つけられたんだろうな。
申し訳なくて、とりとねこにも「ほら、あなたたちも謝って」と促す。
「ごめんなさーい」
「さーい」
ふたりが謝ると、オルカタさんはかえって何か恐ろしいものを見るかのように私を見た。
「お前、いったい何者なんだ」
「え?」
「俺の死霊術を無効化するぬいぐるみを二体も使役しつつ、自分は平然としているなんて……ただの魔法使いではないな。まだ世に知られていない上位職か」
「えっと」
何を言われてるのか、よくわかんないな。
「うちのとりとねこと遊んでいただいてありがとうございました。とってもいいスケルトンさんですね、今度ぜひうちにもお越しください」
あれ。自分でも何言ってるのかよくわかんなくなってきた。
「そうだ、ほねっち、うちに来いよ!」
「狭くて汚いけど眺めは悪くないよ!」
とりとねこも私の謎の言葉に乗っかって、適当なことを言い始めた。
「よせ」
オルカタさんは青い顔で首を振った。
「これ以上、俺のスケルトンにかかわるな」
オルカタさんはスケルトンに向かって何か呪文を唱えなおすと、スケルトンを連れてそそくさと、逃げるように丘を降りて行ってしまった。
「またな、ほねっちー」
「じゃあねー」
とりとねこがふこふこと手を振る。スケルトンが振り返って右手を振るのを見たオルカタさんの横顔は、絶望的な表情だった。
なんだか、ごめんなさい。
……ふう。
嵐のようにオルカタさんが去ったあと、アランさんたち“白い燕”の人たちにもほっとした空気が漂った。
「いやあ、フィリマさすがだな」
アランさんが笑顔で言った。
「オルカタはフーウ族だけあって、僕ら人間とはちょっと感覚や考え方が違うことがあってね。悪い奴ではないんだが、衝突も絶えないんだ。今日も危うく血を見るところだった」
「あ、いえ。私は別に何も」
謙遜でもなく、本当に何もしてない。したのはとりとねこ。っていうか、あのふたりもただ単に遊んだだけだし。
「珍しいものを見た」
ドスンさんがぼそりと言った。
「あんなオルカタは見たことがない」
パッスンさんはもうさっさと弓を下ろして、ぷかりとパイプをふかし始めている。
「ほねっち、いいやつだったな。今日はいい出会いがあった」
「あったねー」
とりとねこは満足そう。
「魔法のことは僕らにはよくわからないが、とりさんとねこくんはすごいぬいぐるみなんだね」
とアランさん。
「すごいというか、どちらかといえばかっこいい」
「そしてかわいい」
なんで褒められているのかよくわかってないくせに、そういう時はちゃんと乗っかる。
「じゃあ、あと少し。パトロールを続けよう」
アランさんの号令で、私たちはまた歩き出した。




