24 とりが見つけた。
……しーん。
とりが手羽で指した私たちの背後には、誰もいなかった。
「……え?」
思わず間抜けな声を漏らしてしまう。
ちょっと気まずい沈黙。
「……骸骨のような魔物なんて来ない」
パッスンさんが沈黙を破ってそう口にした。
「俺が見ているんだから」
それはそうだ。
パッスンさんは狩人だから、こういう警戒がすごく得意なはず。
普通に考えて、とりが見つけられる程度の魔物なんて、とっくに見付けているだろう。
「いないねえ」
ねこもアランさんの肩の上で無邪気に言う。
「そこにはただ、風が吹き抜けているばかりであった」
何を詩的なことを言ってるの。
「ちょっと、とりさん」
恥ずかしさと申し訳なさで、私はドスンさんの肩の上のとりに近付く。
「何をおかしなことを言ってるの。今は仕事中なんだから、いい加減なこと言っちゃだめだよ」
「えー?」
とりはふこりと手羽を動かす。
「おかしなことって、やっぱりゴブリン以外のことは言わない方がよかったかな」
「そうじゃなくて」
なぜそんなにゴブリンにこだわるのか。
「いないものをいるって言っちゃだめってこと」
「いないもの?」
とりはふこりと首をかしげて、間抜けな顔で私の顔を見た後で、「ああ、なるほど」と言いながら手羽をふこりと叩いた。
「そういうことか。さてはフィリマ、とりの目を舐めてるな」
そう言って、黒いビーズの目をきらりと光らせる。
「いや、別に……。ぼくは鳥目だから暗くなると何にも見えないって、とりさんがよく騒いでるのは知ってるけど」
「暗いところはぼくの敵だからな。代わりに、ねこくんは夜目が利くので暗いところが得意だ」
とりはなぜか得意げに言う。
「でもだからって、とりの目がねこよりも劣ってるなんて思っちゃいけないぞ。ぼくらには人間よりもねこよりもはるかに優れた遠目がある」
「え?」
「フィリマたちが見えてないところまで、ぼくには見えてるってことさ」
自信満々なとりに、ちょっと戸惑う。
「いったい何を言って――」
私が言いかけたとき、いきなりパッスンさんが「うあっ」と声を上げた。
「あれは」
「えっ」
パッスンさんが見ている方に私も目を向けたけど、何もいなかった。ねこが言った通り、草が風になびいているばかりだ。
だけど、しばらく見ているうちに私にもようやくわかった。
ずっと向こうに、草の揺れが不自然なところがある。
そこに、何か白いものが見え隠れしていた。
あれだ。
あれは、おそらく骸骨。
「スケルトンだ……」
えっ。まさか。
私だって目は悪い方じゃないのに。軍で鍛えた人間なのに。
「あれを見つけてたってこと?」
「そうなんだよ」
とりはなぜかちょっと恥ずかしそうに言った。いつもは、もっとしょうもないことでも偉そうにするくせに。
「ゴブリン対策なのに、他の魔物を見つけてしまった。困った。こういうときはどうすればいいのかな」
「いや、どうすればって……そこはゴブリンにこだわるところじゃないでしょ。すぐに教えてください」
「え、いいのか」
「当たり前でしょ」
「なーんだ」
とりはあからさまにほっとしたようで、
「それをもっと早く言ってくれよ」
とか言いながら、ドスンさんをぺしぺし叩いている。
「やめなさい」
「近付いてくるぞ!」
アランさんが叫んだ。
見れば、スケルトンが草を踏み分けながら、ぎこちない動きでこちらにゆっくりと近付いてきていた。
「俺の弓は、骨とは相性が悪い」
とパッスンさん。
確かに、矢は骨をすり抜けてしまいそう。
「ドスン、頼む」
「ああ」
ドスンさんが大きな斧を背中から下ろした。
「おお、やるのか、ドスン」
とりはちょっと嬉しそう。
「私の魔法で焼き払いましょうか」
そう進言してみたけど、アランさんは首を振った。
「いや。敵はたった一体、魔法を使うのはもったいない。フィリマの力はまだ温存しておいてくれ」
「分かりました」
実は、遠くの敵にピンポイントで魔法を当てるのは苦手だ。もちろん、スイッチを入れれば別だけど、できればあまり入れたくはない。
だから、焼き払いましょうか、なんて中途半端に物騒な言い方をしてみたんだけど。
ドスンさんがやる気になってるようだし、アランさんも剣を抜き放っている。ここはお任せしよう。
「とりさん、ねこくん、戻っておいで」
「はーい」
ねこは素直にふこここ、と戻ってきたけど、とりはさっき自分で言ってたみたいにドスンさんの鎧の隙間ににゅるんともぐりこんだ。
「ぼくは結構。ここにいるから」
ああ。あんなところに入ったら臭くなるのに……。
まあ自分の選択なら、それはいいとして。
私の肉眼でもはっきりとその姿を捉えられるようになったスケルトンは、剣と盾で武装していた。どちらも死者の持ち物らしく錆びついてはいるけれど、油断はできない。
スケルトンの力量は、生前のその人の力量に大きく左右される。だから、見た目だけで弱い魔物と侮ることはできないのだ。
万が一、大英雄の骨っていうこともあり得るのだから。
スケルトンの相手はドスンさんたちに任せるとして。
私は周囲に目を走らせた。
骨は、勝手に動いたりはしない。
動くとすれば、理由となる可能性は二つ。
その場所がひどい瘴気に汚染されているか、それともどこか近くに骨を操る術者がいるかだ。
この丘が瘴気に侵されているとは考えられない。とすれば、答えは後者だ。
この近くに術者がいる。
死者の肉体を操るのは、ただの魔法使いではない。
死霊使い、ネクロマンサーと呼ばれる術師だ。
死霊使いも参戦してくるとすれば、戦いは危険なものになる。
私は薄い魔力の膜を周囲に張り巡らせる。
コヤーデル捕獲のときにも使った、生物感知の魔法。
この魔法には、生命を持たないスケルトンは反応しない。
だから、人間大の反応があるとすれば、それだ。
私は集中する。
……いた。




