21 初めてのパーティ任務です。
「やあ、フィリマだね」
待ち合わせ場所に指定されていたスレンダーポットの西門前には、一見して冒険者と分かる三人組がたむろしていた。
その中のリーダー格、戦士の格好をしたアランさんが近付いていった私を見て声を掛けてくれた。
「はい。フィリマ・エルベルトです。今日はよろしくお願いします」
「来てくれて嬉しいよ。軽戦士のアランだ。よろしく」
アランさんはにこやかに手を差し出してきた。私もそれを握り返す。
やっぱり戦士だけあって、細身でも手はごつごつしている。
軽戦士というのは、スピードとテクニック重視で戦う戦士系の職業だ。アランさんも細身の剣と動きやすそうな鎧を身につけていて、典型的な軽戦士という感じだ。
「こっちが重戦士のドスン。それから狩人のパッスンだ」
アランさんは仲間を紹介してくれた。
重武装でパワー重視の重戦士と、弓矢による遠距離攻撃主体の狩人。がっしりした巨漢のドスンさんと、抜け目なさそうな雰囲気の小柄なパッスンさん。どっちもやっぱり戦士系の職業だ。
彼ら三人のパーティ“白い燕”が、私が五枚の要望書の中から選んだパーティだった。
「ぼくら“白い燕”は基本的にこの三人のパーティでね。仕事に応じて、追加メンバーを加える形で活動してるんだ」
とアランさん。
「それで今回はゴブリン対策のパトロール業務だから、魔法使いの君に加わってもらったっていうわけさ」
「はい」
街の周辺では、定期的に冒険者によるゴブリン駆除のパトロールが行われる。
放っておくと、気付かないうちにゴブリンの巣があちこちにできていて、その襲撃で街が大打撃を受けるなんてこともざらにあるので、小さな芽のうちに摘んでおかなければならない。
戦闘力は大したことないけど、数だけはとにかく多いのがゴブリンの厄介なところだ。一匹見たら十匹はいると思え、というのはゴブリンを相手にする上での常識だ。
弱いし初心者にうってつけの魔物に思えるかもしれないけれど、ゴブリンとの戦闘で命を落とす冒険者は決して少なくない。
その多くは、やっぱり数を少なく見積もったことが敗因だろう。
人間や他の動物の常識で計ってはいけない。人間型の魔物だけど、繁殖力だけで言えば虫に近いかもしれない。本当に驚くほどの短時間でとんでもない数になることがあるのだ。
数が増えてしまうと、余程の腕利きでなければ戦士だけでは対応しきれない。一度に相手できる数には限りがあるからだ。
その点、魔法使いなら弱めの魔法でも広範囲にかけることで一網打尽にできるというわけ。
「ゴブリン退治なら任せてください」
私が自信を持って請け負うと、アランさんは微笑んだ。
「頼りにしてるよ。なにせぼくらは三人とも戦士系だからね」
さっきからアランさんばっかり喋っている。ドスンさんとパッスンさんは何も喋らない。
ぼくらは三人とも、のところでドスンさんが彫像のような無表情のままで微かに頷いたような気がする。
パッスンさんは暗い顔のままでどこか遠くを見ている。
多分、狩人は目が命だから普段からなるべく遠くを見ているようにしているのだろう。知らないけど。
……パーティ選び、失敗したかなあ。
私、選択肢をいっぱい与えられるとかえって分かんなくなるタイプだから。
二択くらいならしっかり考えて選べるんだけど。
五つも選択肢があると、何だかどれも一緒に見えてきて、最初は一番だめに見えたやつが逆に一番いいような気がしてきて、そして結局いつも選択を誤る。
今回も、ほかにもっと友好的そうなパーティがあった気がするけどなあ。どうしてこのパーティにしちゃったんだろ。
なんとなく、戦士三人だけの方が私を大事に扱ってくれるんじゃないか、とか、重宝してくれるんじゃないか、と思ったんだっけな。
うーん、あんまり覚えてない。いつもこうなんだよなあ。
そんなことを考えていると、私のローブの袖が、もこもこ、と動いた。
「困るなあ、フィリマ」
「え?」
「彼らにぼくらの紹介もしてもらわないと」
えらそうにとりが顔を出した。
「そうそう。今日一日、生死を共にする仲なんだから」
物騒なことを言いながらねこも顔を出す。
「“白い燕”のお三方、はじめまして。ぬいぐるみ界で唯一の冒険者、すてきなとりです」
「同じく、かっこいいねこです」
ローブの袖から、ふたりでぴこぴこと手を振る。
はいはい。もう勝手に言っててください。
「おお、君たちが」
アランさんは目を輝かせた。
「他の冒険者仲間から聞いてるよ。ギルドに顔を出した初日に、あの“スレンダーポットの門番”ことジョイスに真っ向勝負を挑んで、馬鹿力の連続攻撃をひらりひらりとかわした挙句に、たった一撃で床に這わせた凄腕のぬいぐるみ二人組がいるって」
「え」
何だ、その話は。
尾ひれ背びれどころじゃない付属物が付きまくってて、事実が原型をとどめてないんですが。
「君たちがそのふたりなのかい」
「うん、まあおおむねその通り」
とりが認めちゃった。
「ジョイス、思いっきり倒れてたよね」
ねこも言う。嘘ではない。嘘ではないけど。
「やっぱり本当だったのか」
アランさんは感心したように首を振る。
「いやあ、君たちに手伝ってもらえれば勇者に聖剣、魔王に魔剣って感じで、怖いものなしだ」
「あ、いえ。そんなに期待されても」
私が言いかけたけど。
「大丈夫。ぼくらがいるからには、大船に乗ったつもりでいたまえ」
とりがまたえらそうに言っちゃった。
「なにせぼくらは水に浮くからね」
ちょっと待って。それは大船が沈む前提で話してるよね?
「いやあ、頼もしいよ。なあ、ドスン、パッスン」
アランさんに話を振られて、ドスンさんは一瞬アゴだけで頷いたような、全然動いてないような。パッスンさんはどこか遠くを見たままで、
「ああ、そうだな」
と気のない返事をよこした。
私、この人たちとちゃんとコミュニケーション取ってやっていけるんだろうか。不安になってきた。お腹痛い。
「それじゃあアラン、こんなところでグダグダしていてもしょうがない。さっそく出発しようじゃないか」
なぜかとりが仕切っている。
「そうだね。よし、みんな行こう!」
アランさんが言った。
こうして私の初めてのパーティ任務は始まった。




