20 一人は気楽だけれど。
「……パーティでの仕事、ですか」
「ええ」
リサさんは頷いた後で、私の表情を見てくすりと笑う。
「あんまり気乗りしたいみたいね」
「あ、いえ。そういうわけじゃ」
冒険者ギルドの受付。
私はここ十日ほどでソロの仕事五件をこなし、駆け出し冒険者としては順調な滑り出しを見せていた。
いつものように仕事を終えて、書類にサインするためにギルドに帰ってきたら、リサさんにパーティでの仕事を受けてみないかと話を向けられた。
パーティでの仕事っていうのはもちろん、華やかな舞踏会とか結婚式で何かお仕事をするっていう意味ではない。そっちのパーティではない。
他の冒険者とチームを組んでの仕事をしてみないか、っていう意味だ。
それを聞いた途端、自分の顔が強ばったのが分かった。
そして案の定、これまでいろんな冒険者を見てきているリサさんにはすぐに見抜かれてしまった。
私の、人見知りの部分が思いっきり出てしまった。
知らない人と一緒に何かをする、ということを想像しただけで勝手に顔が強ばってしまう。
もちろん、私も一応いい歳の大人として、初対面の人とお仕事をすることもできます。ちゃんとそのために必要なコミュニケーションも取ります。
ただ、やっぱり苦手なものは苦手で……。
一人が気楽だ。
一人でふこふこのけものをふたつ連れて、自分のペースで依頼をこなせるならそれに越したことはない。
そう思う自分がいることは否定できない。
でも、ソロで受けることのできる仕事には限りがあって、報酬も多くはないということは薄々感じ始めてもいた。
「フィリマは腕がいいって噂が、この前のゲボンたちの件で一気に広まってね」
とリサさん。
例の、コヤーデルを横取りしようとした冒険者たちの件だ。本当に彼らはスレンダーポットを出て行ってしまったらしい。
その顛末をジョイスさんが面白おかしくみんなに話して聞かせるものだから、なんというか、期待値ばかりが上がってしまっているのは自分でもなんとなく分かっていた。
「ほら、見て」
リサさんが広げてみせたのは、私を臨時メンバーとしてパーティに加えたいという要望書。
五枚もある。
「あなたと仕事をしたいっていう要望がこんなに来てるのよ。ソロじゃ稼げるお金もたかが知れてるし、専属メンバーっていうわけでもないんだから、やってみてもいいんじゃない?」
私がパーティで活動を始めれば、冒険者ギルドとしても助かるのだろう。
ソロの仕事は気楽で楽しい。最初はもらった報酬で当座をしのげるという嬉しさで、先のことはそんなに考えられなかった。
でもリサさんの言う通り、ソロの仕事をどれくらい続ければカフェの資金を貯められるの? という疑問も湧いてきてしまっていた。
高台から、眼下の素晴らしい景色を見下ろせるカフェ。
そのためのお店の改装や器材、食材といった初期投資。そして、展望台。
この前、とりとねこにはコヤーデルを何匹捕まえればいいのか、なんて聞かれたけど。
何匹捕まえたって無理だ。
生活はできる。食べてはいける。
街のはずれに住む冒険者の魔法使いとして。
でも、それは私がしたかった生き方じゃない。
軍を離れてまでやろうと思ったことじゃない。
それを実現するためには、ちょっと気の乗らないことにもチャレンジしないといけないのかもしれない。
「……分かりました」
私は覚悟を決めた。
「ええと、それじゃあジョイスさんたちのパーティから始めようかと」
ジョイスさんたちなら、一番親しくしているし、他の人と一緒にチームを組むというプレッシャーも減る。
「え? ジョイス?」
リサさんは自分の持つ要望書を見た。
「来てないわよ?」
「え、ジョイスさんは出してくれてないんですか」
この前も、機会があったら一緒に仕事しような、なんて言ってくれてたのに。
人と一緒に仕事したくはないけど、一緒に仕事したいと思われていないと分かると、それはそれでショック。自分でもめんどくさいやつだと思う。
「まあジョイスのパーティは魔法使いが必要な依頼なんかほとんど受けないから」
リサさんは明るく言って、要望書をカウンターの上にずらりと並べる。
「ほら、選んで。どれがいい?」
さすが、リサさんはやり手だ。私の気が変わらないうちに、話をどんどん進めてしまう。
「ええと」
私が一枚一枚必死に吟味していると、リサさんが今気づいたように周囲を見回した。
「そういえば今日はあのふたりは?」
「ああ、とりとねこですか」
「ええ」
「あのふたり、いつの間にか街のいろんな人と知り合いになってて。ここに来る途中に何とかさんって男の人と会って話が盛り上がってたので、私だけ先に来ました」
「そうなの」
リサさんは驚いたように目を見張る。
「確かに、喋るぬいぐるみっていうだけで、目立つものね」
「はい。しかもマルクさんのお店でぬいぐるみの売り子までしていたので」
私よりもよっぽど街に馴染んでいる。
それが悔しいような、誇らしいような。
ちょっと複雑な気持ちを抱えている。
「いやー、もりあがったもりあがった」
「すっかり長話しちゃったねー」
噂をすればなんとやらで、とりとねこが元気よくギルドに入ってきた。もう自分の庭みたいに堂々としてる。新入りの私はまだちょっと遠慮してるのに。
「フィリマ、いるかー」
「いるかー」
「いるわよ」
見ると、ふたりとも頭の上に小さな麦わら帽子をのっけている。
ぬいぐるみサイズの、可愛いやつ。
「どうしたの、その帽子」
「ああ、これか」
とりは得意げにふこりと胸を反らす。
「帽子屋のジャクソンさんからもらった」
「ジャクソンさんって、さっきの人?」
「うむ」
「どうしてジャクソンさんがそんな特注っぽい麦わら帽子をふたりにくれるのよ」
「この前、マルクさんの店でバイトしてるときに声を掛けたんだ」
ついに自分でバイトって言い始めた。
「そしたら、ジャクソンさんと一緒にいたお孫さんがぼくらのことをえらく気に入ってな。それまでちょっとぐずってたらしくて」
「ぼくらと話してたら、泣いてたその子も笑顔になったんだよねー」
とねこ。
「そのお礼に、わざわざ作ってくれたらしい」
「らしい」
ねこもとりの隣に並んで得意そう。
「それはよかったね……」
すごい。そのコミュニケーション力を少し分けてほしい。
「明日の仕事はもう決まったのか、フィリマ」
「ぼく、またコヤーデル捕まえるやつがいいな」
「ちょっと待って。その件で悩んでるから」
私はまた要望書に向き直った。
五枚もあると、かえってどれを選んでいいのか分からなくなる。どれでもいいような、どれもだめなような。
「うーん」
私は要望書の前で髪をぐしゃぐしゃと掻きむしった。




