18 一方そのころ、ふこふこたちは。
とり「いらさいいらさーい。かわいいぬいぐるみさんのお店ですよー」
ねこ「かわいいぬいぐるみさんが売ってるかわいいぬいぐるみさんのお店でーす」
とり「おっ、そこのいかついお兄さん! どうですかこのうさぎさんのぬいぐるみ!」
いかついお兄さん「え? 俺?」
とり「お兄さんみたいな人がぬいぐるみを愛でてると、そのギャップがいいんですよねー」
ねこ「ギャップ萌えで、もてもて」
いかついお兄さん「そ、そうかな」
とり「そうそう」
ねこ「そうそうそう」
いかついお兄さん「じゃあ、これください」
マルクさん「まいどあり!」
とり「あり!」
ねこ「あり!」
とり「さあさあ、いらさいいらさいーい。ふっこふこのぬいぐるみですよー」
ねこ「ふっこふこですよー」
女の子「ママ、あのぬいぐるみほしーい。買って買ってぇ」
ママ「今日はぬいぐるみを買いに来たんじゃないでしょ。あとでお菓子を買ってあげるから……」
女の子「えー、ぬいぐるみがいいよぅ」
とり「お嬢さん、さすがだねえ。うちのぬいぐるみに目をつけるとは(ふここここ)」
ねこ「くまさんもうさぎさんもいぬくんもいるよ! さあどれがいいかな?」
女の子「えっと、くまさん!」
とり「くまさん、いいよねえ。ぼくも大好きだよ」
ねこ「はい、くまさんどうぞ」
女の子「わーい、ありがとう」
ママ「ちょっと、勝手に受け取っちゃだめよ!」
とり「まあまあ、お母さん。ぼくらぬいぐるみがこんなことを言うのもなんですが、ストレスの多いこの現代社会において、ふこふこのぬいぐるみをぎゅっと抱くとそれだけでストレスが軽減するというデータがありましてですね」
ねこ「ぬいぐるみと一緒だと精神的に安定するっていうデータもあるんですよ!」
ママ「え、そ、そうなの?」
とり「ええ。騙されたと思って、さあお母さんもぼくを撫でてみてください」
ねこ「ぼくもぼくも」
ママ「え……(なでなで)あら、ほんとにふこふこしていて、いい手触りだわ」
とり「そうでしょう、なんだかほっとするでしょう」
ママ「そ、そうね」
ねこ「やさしい気持ちになるでしょう」
ママ「そうかもしれないわ」
女の子「あー、ママばっかりぬいぐるみさんなでてずるーい! 私もなでるー!(ぐにゅにゅにゅ)」
とり「もぎゅぎゅぎゅ」
ねこ「むにょにょにょ」
ママ「ほら、そんなに乱暴に扱ったらぬいぐるみさんの形が崩れちゃうでしょ、もっと優しく撫でてあげないと」
女の子「はーい」
ママ「それじゃ、このくまさんいただいていくわね。おいくらかしら」
マルクさん「まいどあり!」
・・・・
とり「ふう。結構売れたな」
ねこ「売れたね」
とり「前回はぼくらの出番がなかったからな。今回はいっぱいしゃべっておかないと」
ねこ「とりさん何言ってるのー?」
とり「ふふふ、こっちの話だよ。ところで、それにしてもフィリマは遅いな。派出所なんてすぐそこなのに」
ねこ「ツェディクさんと話が盛り上がってるんじゃない?」
とり「人見知りのフィリマと、あの愛想のないツェディク上級警士がか? ねこくん、それはないな(ふこり)」
ねこ「えー」
とり「ぼくの予想はこうだ。派出所に挨拶に行ったフィリマは、そこで揉め事が起こっているのを見かけて、よせばいいのに魔法で手助けをしようと試みる」
ねこ「ふむふむ」
とり「しかし例によって魔法を失敗してかえって事態をめちゃくちゃにしてしまう。そしてツェディクさんに注意されたりする」
ねこ「あらら」
とり「でもまあ、そこまで本気では怒られなくて、フィリマがお礼を言ったり洗濯石をあげたりして、最後は和やかに別れる」
ねこ「おー」
とり「人見知りのフィリマは緊張から解放されて、市場のお買い物を楽しむ。ふんふふーんとか鼻歌を歌いながら新しい食器だの生地だの果物だのを見て回っているうちに、はたと気付くんだ。あれ、ここどこだろうって……」
ねこ「学習してない!」
とり「そしてよせばいいのに、とりあえず適当に歩き回ってみること数時間、ついに自分がどこにいるのかさっぱり分からなくなってしまった」
ねこ「助けに行かないと!」
とり「とまあ、これはさすがに冗談だよ。ねこくん、本気にしてはいけない」
ねこ「冗談かあ! びっくりした!」
とり「さすがにフィリマもそこまで学習しない女ではないさ。きっとツェディクさんが派出所に不在で、その帰りを待っているんだろう。ツェディクさんも忙しいからな」
ねこ「あー、きっとそれだよ!」
とり「ふふふ。そういうわけでぼくらはもう少しマルクさんを手伝う必要がありそうだ。いらさいいらさーい」
ねこ「いらさーい。かわいいぬいぐるみのお店でーす」
*****
ああ……。
道の脇に思わずしゃがみこむ。
足が棒のようになりました。
もうだめだ……。
何度道を変えても、結局ここに戻ってきてしまう。マルクさんのお店も派出所もどこにいってしまったんだろう。
この市場、絶対おかしいよ。何か魔法がかかってるのかもしれない。
すみません、とその辺の人に声を掛けられればいいのかもしれない。でも生来の人見知りだから、それもできない。
ああ……買い物袋が重い。
だんだんと傾いてくる太陽を見上げながら、ため息をつく。
お店の人たちが片づけを始めている。
とりとねこが売り子をやってるからには、マルクさんのお店も売れ行きが良くてそろそろ片づけを始めてるかもしれない。
帰らなきゃ。
仕方なく立ち上がると、「ねえ」と後ろから声を掛けられた。
危ない。
こういう弱ってるときに声を掛けてくるのは、すりとかだ。
そこは学習していたので、きっと振り返る。
「はい?」
でも、そこにいたのは私と同じ歳くらいの女性だった。




