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魔女フィリマ、新天地でスローライフを目指す(※相棒はとりとねこのぬいぐるみ)。  作者: やまだのぼる@アルマーク4巻9/25発売!


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17 ツェディクさんはお見通し。

 

 派出所に戻ってきたツェディクさんは、今日は制服姿だった。

 そういう恰好をしていると、やっぱり警士さんという感じ。

 部下の二人の警士さんから話を聞いて、ツェディクさんは顔をしかめた。

「またあの二人か」

「はい。毎回毎回、こっちの制止も聞かずに大騒ぎして。困ったもんですよ」

 おじさんとおばさんに挟まれて潰されていた警士さん(いや、私のせいなんだけど)がうんざりしたように言う。

「本当に一度がっちりとやっておかないと、大ごとになるかもしれませんよ」

「ああ」

 ツェディクさんはぽりぽりと顎を掻いた。

「だがあの二人はいがみ合っているようでいて、実際のところは……」

 そう言いかけてから、不審そうに周囲を見回す。

「それにしては、今日はやけにあっさりと引き上げたじゃないか」

「ああ、それなんですが」

 後から止めに入った方の警士さんが、口論していた二人の身体がいきなりくっつき合った状況を説明する。

「こっちも何が何だか分からなくて」

「私も突然潰されて、息が出来なくて」

 と潰された警士さん。

「……それで、理由は分かりませんが二人が急に身体を離して、お互いに真っ赤な顔でごちゃごちゃ言いながら去っていってしまったんですよ」

「……いきなり身体がくっついた?」

 ツェディクさんは険しい目をして、それから私に気が付いた。

「ああ」

 それだけですべてが分かったみたいな顔で、ツェディクさんは苦笑いした。

「空色のローブの魔法使い殿」

「は、はい」

「職務にご協力いただいてありがたいが、もう少しやり方はなかったのかな」

「え、ええと、あの」

 私はわたわたしながら、警士さんが困ってるみたいだったので、反発の魔法で二人を引き離そうとしたら、間違えて引き寄せの魔法をかけてしまったことを説明した。

 ツェディクさんは分かっていたけど、二人の若い警士さんは驚いた顔をしていた。

「こんなつもりはなかったんです、本当にちょっと手助けをしようと」

 私はよほど必死な顔をしていたのだろうか。ツェディクさんは噴き出した。

「分かったよ」

「ほんとに、その、すみませんでした」

「分かったから、もういい」

 ツェディクさんが手を振る。

「なあ、ドーマ」

「いや、あいつらに潰されたときは死ぬかと思いましたけど」

 ドーマさんは人の良さそうな笑顔で言った。

「あの二人、ケンカを始めると一時間や二時間はざらなんで。こっちも他の仕事が出来なくて迷惑なんです。よく分かんないですが、帰ってくれたのは助かりました」

「け、結果オーライという感じでしょうか……」

「そういうことだ」

 ツェディクさんが頷く。

「もう次からは、余計なことはしないよう気を付けます……」

 消え入りそうな声で言うと、

「いや、次もあれを頼みますよ」

 とドーマさん。

「俺さえ間に挟まなければ、またくっつけてやってください。そうしたら、そのうち仲良くなるかも」

「いい加減なことを言うな」

 苦笑いでドーマさんをたしなめてから、ツェディクさんは私に向き直る。

「それで、君の方は何か用か?」

「あ、そうでした」

 私は改めてぺこりと頭を下げる。

「先日はありがとうございました。おかげさまで、元気も出ましたし、冒険者ギルドにも登録できました」

「ああ、そうか」

 ツェディクさんは私のローブの首元に付いている冒険者バッジを見て微笑んだ。

「よかったな。もう仕事を受けたのか?」

「はい、昨日と今日でさっそく二件こなして」

「もう二件も? さすが魔法使いだな」

「いえ、そんな」

「いつものぬいぐるみたちも冒険者をやってたりはしないよな」

「登録しようとしていましたが、断られてました」

「おかしなぬいぐるみだな」

 ツェディクさんは笑う。

「まあとにかく、それなら生活の基盤は作れそうだな」

「はい。商売は追々、資金を貯めつつやっていこうと思います。……あ、そうだ」

 私はローブの袖から洗濯石を取り出した。

「これ、よかったら」

「洗濯石か。君の大事な売り物じゃないか」

「お礼の気持ちです。受け取ってください」

「いや、別に俺はそういうつもりでは」

「あの、ほんとに使ってみてください。自信作なんです。きっとよく汚れが落ちると思います」

 ツェディクさんは私の顔を見て、また笑った。いつもの近づきがたい雰囲気が、笑った途端にふっと消える。

「試作品というわけか。分かった、使ってみよう」

 ツェディクさんは緑色の洗濯石を受け取ってくれた。

「それでよかったら、他の同僚にも薦めてみるよ」

「あ、いえ。別に宣伝のつもりでは……!」

「分かってる。この街での君の生活がうまくいくよう祈ってるよ」

 ツェディクさんは私の肩をぽんと叩くと、派出所へと入っていく。私も、ツェディクさんとドーマさんたちに会釈して、派出所を離れた。

 ふう。

 さてお礼も済ませたし、市場で買い物をしてからとりとねこを迎えに行きましょう。

 食材のほかにも、こまごまとしたものが家に足りなくなっている。

 それに、冒険者の仕事を始めたおかげでいろいろとほしいものも増えてきてしまって……。


 ……おや?


 買い物に夢中になっているうちに、はたと気付いた。

 マルクさんのお店って、どこだっけ。

 ええと、落ち着いて。

 自分が今いる場所を確認するんだ。

 派出所から右に進んで、生地屋さんを覗いて、それから果物屋さんを見て、海沿いの街だけに何軒もある魚屋さんに次から次に声を掛けられて……ええと、そこでどっちに曲がったんだっけ。

 考え始めたらどんどん分からなくなってきた。

 うん、これはだめだ。歩き出そう。

 そのうちに、見覚えのある道に出るはず。

 うん、きっとそう。

 自分に言い聞かせて、私は歩き出した。




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