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魔女フィリマ、新天地でスローライフを目指す(※相棒はとりとねこのぬいぐるみ)。  作者: やまだのぼる@アルマーク4巻9/25発売!


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14 人にもぬいぐるみにも向き不向きってもんがあるそうです。

 

「お嬢さん一人かい」

 市場の立つ広場の入り口。

 やって来た私に、依頼人のデリンさんはあからさまにがっかりした顔をした。

「参ったな、冒険者ギルドには男手がいるって伝えたはずなんだが」

「ちょうど今日は城壁修理の報酬が20パーセントアップされたんです。これまで安すぎて全然人が集まらなかったらしくて」

 私は答える。

「それで、力自慢の人たちはみんなそっちに行ってしまいました」

「そうかい。それなら壁はあっという間に直っちまうだろうな」

 肩をすくめてデリンさんはふさふさの口髭をもさもさと揺らした。

「向こうも急いでるんだろうが、こっちだって急いでるんだがね。こんな若い女の子をたった一人送ってよこされたって」

「ひとりではない」

 私のローブの袖から、とりがふこりと顔を出した。

「ぼくがいる」

「そして、ぼくもいる」

 ねこも顔を出す。

「ぬいぐるみじゃないかよ」

 デリンさんはため息をついた。

「お嬢さん、依頼書はちゃんと読んできたんだよな?」

「はい、もちろん」

「ぬいぐるみで悪いかー。かわいいんだぞー」

「だぞー」

「ちょっと静かにしてて」

 ふたりを袖に押し込む。

「いずれにしても、デリンさんの依頼を受けた冒険者は、私一人です」

 まだ不満そうなデリンさんに、私はきっぱりと言った。

「仕事はきちんとします。ご心配なく」



 まあそこまで言うなら、とデリンさんが私を案内してくれたのは広場の奥。

 そこに敷かれた筵の上に、重そうな麻袋がででんと積まれていた。

「注文してた小麦が昨日、急に届いたんだ」

 とデリンさん。

「いい加減なんだよ、先月は半分しか届かなかったくせに今月は十日も早くこんなにもたくさん。しかも倉庫は向こうだってのに、こんなところに下ろしていきやがった」

 そう言いながら、麻袋をぱんぱんと叩く。

 中身みっしりで、すごく重そう。

「向こうの倉庫に詰めなくちゃならないんだけど、俺は店の方もあるからさ。それでギルドに急ぎの依頼を昨日出したんだが」

「小麦を運ぶなら、魔動車を使えばすぐだぞ」

 とりが余計なことを言った。案の定、デリンさんは嫌そうな顔をする。

「冒険者を二、三人雇うよりも車一台出す方がよっぽど高いだろ」

「そうなのか」

「そうだよ」

 デリンさんは口髭をまたふさりと揺らす。

「お前がどっから来たのか知らないが、田舎では人間の方が安いんだよ」

 デリンさんの言う通り、トウェンティブラッドみたいな大きな街ならともかく、スレンダーポットのような地方都市にはまだそんなにたくさん魔動車が普及しているわけじゃない。

 だから力仕事は、基本的に動物や人の力に頼ることになる。

「必要なのは男手だよ。ぬいぐるみなんかいくら連れてきたって、袋を一つも運べないだろ」

「えっ、こんなにかわいいのに?」

「そう。そんなにかわいいのに」

 私は何も言ってないのに、とりがデリンさんと勝手に話している。とりが可愛いことは認めてくれるみたい。

「あのな、人にもぬいぐるみにも向き不向きってもんがあるんだよ。重いものを運ぶなら、ごつい男。酒場の呼び込みをするなら若い女の子。そうだろ?」

「じゃあ、ぼくらみたいなかわいいぬいぐるみは?」

「ぬいぐるみは、あれだ。ほら。店に子供を呼び込みたいときとか」

「子供?」

 とりは黒いビーズの目をきらりと光らせる。

「やれやれ。子供の怖さを知らないようだな、デリンさん」

 とりはえらそうに首を振った。

「あいつらときたら、噛むわ、投げるわ、よだれを垂らすわ、鼻水を付けるわ。あいつらとじゃれあうのは、ぼくらぬいぐるみにとっては命懸けなんだぞ」

「そういうもんかね」

 デリンさんは肩をすくめる。

「ぬいぐるみの事情は知らんが、それならどっかの女の子の部屋の窓辺にでも座ってればいい」

「ああ、いいね。そういうのだよ、デリンさん。分かってるじゃないか」

「だろ?」

 どんどん話がおかしな方向に行ってる気がする。ねこはとっくに飽きて、勝手にくるくるまわって遊んでいる。

「ごほん」

 私は咳払いした。

「ええと、つまり私はこれを倉庫に運び込めばいいんですよね」

「ああ、そうだった」

 デリンさんは我に返ったように頷く。

「だけど、あんた一人じゃどう考えたって無理だろ。今日中にだぜ。こんなところにゃ置いておけないんだから」

 デリンさんは念を押す。

「まだ晴れてるが、もしも雨でも降ってきたらおしまいだ。だから意地張らずにできないんならできないって言ってくれよ。ギルドは頼りにならないし、よそから人足を集めないといけないからさ」

「心配ご無用です」

 私はローブの袖を捲る。

「ご無用」

「むよう」

 とりとねこもふこりと腕を上げる。

 デリンさんは私の細い腕を見て、それから首を振った。

「まあ、一時間もやってみりゃ無理だって思い知るか。じゃあ、頼むよ」

 ため息をつきつきデリンさんが行ってしまうと、小麦袋の山の前には私ととりねこだけが残された。

「デリンさんはあんなことを言ってたが」

 とりがふこりと私を見上げる。

「どうするんだ、フィリマ。とりあえずジョイスでも引っ張ってくるか」

 それに答えず、私は袖からペンを取り出す。

「じゃああん」

「おお」

「ペンだ」

 とりとねこもざわめく。

「どうした、フィリマ。ペンなんか出して」

「ふふふ」

 とりとねこにも一本ずつ配る。

「はい、どうぞ」

「あ、どうも」

「これはこれは」

 ちょっと嬉しそうに受け取るふたり。

 さあ、仕事を始めましょう。

「じゃあ、この袋一つひとつにこれで目と口を描いて」




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