12 認められました。
「あら!」
私の持ち帰ったコヤーデルを見て、リサさんは笑顔を浮かべた。
「五匹もいるじゃない! 初めての仕事だったのに、さすが魔法使いね」
「ありがとうございます」
えへへ。褒められた。
「ふふふ。ぼくらが手伝ったからな」
「ぼくらもさすが」
褒められることに目敏いとりとねこが私のローブの袖からぴこりと顔を出す。
「はい、あんたたちも頑張ったね」
リサさんに撫でられてとりとねこも嬉しそう。これはかわいいポイント貯まったな。
苦労したかいがあったね。
「はい、これが報酬ね」
リサさんがカウンターに並べてくれた紙幣。10マグ札が10枚。
「100マグ札一枚の方がいいかしら?」
「あ、いえ。こっちのほうがありがたいです」
そんな大きな買い物しないし。細かい方が助かる。
「なーんだ、紙かー」
「ちぇ、コインが良かったね」
袖から覗いていたとりとねこは、がっかりしたように袖の中に戻っていく。
なぜかこのふたりはコインが大好きで、紙幣にはあんまり興味を持たない。
まあ、興味持たれても困るからそれでいいんだけど。
「じゃ、この書類に必要事項を記入してね」
「はい」
私が書類を書いている間に、後ろにいたジョイスさんが「それで、リサよう」と話し始めた。
「このお嬢ちゃんが帰り道に、ゲボンたちに襲われたらしいんだよ。コヤーデルを横取りされそうになったんだとよ」
「ゲボンたち?」
リサさんの声がたちまち険しくなった。
「あいつら、また」
道すがら私から状況を聞いていたジョイスさんの説明に、リサさんは大きなため息をついた。
「加入したばかりのソロの女の子を狙うなんて」
「今度という今度は許せねえ」
ジョイスさんがどん、とカウンターを叩いたので私の署名は最後にびっくりしたみたいに跳ね上がってしまった。
「もう追放だ、そうだろ」
「そうね、仕方ないわね」
リサさんは頷いて私に顔を向けた。
「ごめんなさい、フィリマ。スレンダーポットの冒険者がみんなそんな連中だとは思わないで」
「もちろんです」
私が言うと、とりとねこがまた袖から顔を出した。
「ジョイスは助けに来てくれたしな」
「そうそう。急いで来てくれたよ」
「おう」
ジョイスさんはちょっと嬉しそうな顔をする。
「まあな。当然のことをしたまでだ」
「でも、遅かったけどな」
「うん。全部終わった後だったけどね」
「やめなさい」
私はふたりを袖に押し込んだ。
「むぎゅ」
「ふみゅ」
「まあ、その」
ジョイスさんはきまり悪そうに、禿げ上がった自分の頭を手でごしごしとこすった。
「遅くなって悪かったな」
「いえ、全然」
慌てて顔の前で手を振る。
「この子たちの言うことは気にしないでください」
袖の中から「なんだとー」「気にしろー」というくぐもった声が聞こえてきたけど、黙殺した。
「とにかく、もうこれ以上は大目に見られないわね」
リサさんが言った。
「報告書を作るわ。フィリマ、疲れているところを悪いけど、詳しい話を聞かせてくれる?」
「あ、はい」
「その後で、ゲボンたちの宿に行ってギルドからの除名を通告するわ」
「あいつら、どうせどっかで飲み歩いてるぜ」
ジョイスさんが吐き捨てた。
「見つかりゃいいんだがな」
どうだろう。
私は三人が最後に見せた表情を思い出す。
多分、飲みに行く元気もないんじゃないかな。
そのとき、どやどやと誰かがギルドに入ってきた。
「ゲボン、てめえ!」
ジョイスさんが叫ぶ。入ってきたのは、まさにその三人だったのだ。
「このスレンダーポットの面汚しが!」
「ま、待ってくれ」
ゲボンさんは右腕を包帯でぐるぐる巻きにして吊っていた。神官に治療してもらうお金もないのかもしれない。
「俺たちは、この街を出ていく」
「はあ?」
ジョイスさんが目を剥いた。
「なんだと?」
「いや、だから」
ゲボンさんは、ジョイスさんの隣に私がいることに気付くと、また「ひいいっ」と声を上げた。
「ゆ、許してくれ」
「許すも何も」
私はゲボンさんの後ろにいる仲間の男が右手に包帯を巻いていることを確認する。唯一、大きな怪我をしなかった男は私と目を合わせることも怖いようにうつむいた。
「私、特に身の危険を感じるほどのこともなかったから」
そう言って微笑んであげると、ゲボンさんは身体をガタガタと震わせはじめた。
別に怖がらせるつもりもないのに。
ジョイスさんはぽかんとしている。
私は彼に「絡まれたけど魔法で切り抜けた」としか伝えていないので仕方ない。まさか相手がこんな大怪我を負っているとは思っていなかっただろう。
「俺たちは明日には出ていく。だから勘弁してくれ」
ゲボンさんはそれだけ言うと、また仲間と一緒にギルドを飛び出していった。
呆気にとられたようにそれを見ていたリサさんは、我に返ったように私を見て、それからあはははは、と豪快に笑った。
「これはとんでもない子が入ってきちゃったみたいだね、ジョイス」
「お嬢ちゃん」
ジョイスさんも頭を振りながら苦笑いする。
「あんた、猫かぶってやがったな」
「いえ、そんな」
「ねこはかぶっていない!」
「そう! ねこは袖の中!」
とりとねこが張り切って袖から顔を出したけど、私はまた二人を袖の中に押し戻した。
「まあなんにせよ、改めてようこそスレンダーポットへってとこだな」
ジョイスさんは言った。
「今度の魔法使いは大丈夫ってことだ。な、リサ」
今度の?
それがちょっと気になったけど。
「そうね」
リサさんも笑顔で頷いた。ジョイスさんが大きな手で私の肩を叩く。
「フィリマ。お前はもう、うちのギルドの仲間だ」




