3.氷結のダンス
「テーブルマナーも様になってきましたね」
クオリーオが来てからひと月ほど過ぎた夕食の席のこと。ブリジーアは、クオリーオの所作を褒めた。
この一か月の間、ブリジーアがつきっきりで貴族としてのマナーを教え込んだ。平民暮らしをしていたクオリーオはほとんど何も知らなかった。挨拶ぐらいしか教え込まれていなかったようだった。
だが、彼女は細かなマナーをすぐに身につけていった。普通なら時間をかけて身体に覚えこませないとこなせないような細かな動作も、短期間で器用にこなした。繊細なコントロールができるのは魔法ばかりではないようだった。
クオリーオの乳母は彼女のことを『すごいテクニシャン』と称したと言うが、まさに慧眼だったと言えるだろう。
クオリーオ、フィートバル、ブリジーアの今夜も三人そろって食卓を囲んでいた。
最初の頃はナイフやフォークの扱いが危なっかしかったクオリーオだったが、実に落ち着いたものだった。今では食事をしながら談話を楽しむ余裕もできていた。
「今日の肉料理はどうかしら、クオリーオ?」
「ソースの味が深みとコクがあって、おいしいです。でもやっぱり魔族としては、魔力のない料理は物足りない感じがしますね……」
「そうですか……やはり魔族が一番重視するのは魔力なのですね」
「人間の味や食感に対するこだわりはすごいと思います。魔族の料理はどうもその辺はこだわっていないようなので、こちらに来てから驚いてばかりです。でも、どんな味も舌触りも、魔力のおいしさにはおよびませんね……」
ブリジーアの問いかけに、クオリーオは物足りなそうな顔で答えた。
クオリーオとの食事では様々な発見があった。
白い肌に身体にまとう冷気。クオリーオは見た目通りの氷属性だ。だから熱い食べ物は苦手かと思われたが、そんなことは無かった。
彼女の吐息一つで、焼き立ての肉だろうと凍りつき、熱いシチューもたちまち湯気を失った。
最初の頃、クオリーオはカチコチに凍らせた肉や野菜を固いクッキーでもかじるみたいに食べていた。フィートバルはその豪快な食べっぷりを気に入っていた。だが、ブリジーアに「大きな音を立てて食べるのははしたない」とたしなめられて改めた。
クオリーオは自らの放つ冷気も細かな調整ができた。今ではほどよく凍らせて、雪を食むように静かに食べている。それはそれでなんだかかわいらしくもあった。
そんな細やかなことが得意なクオリーオだったが、味にあまり気にしない様子だった。肉も野菜も好き嫌いせず淡々と食べた。
味がわからないのかと思ったが、実は味覚は鋭敏で、教えれば肉や香辛料の種類を正確に判別できるようになった。逆に言えば、教えるまでそうしたものをあまり知らなかった。これはクオリーオに限った話ではなく、魔族全体がそうらしい。
魔族が一番こだわるのは、食べ物にこもった魔力の量だった。主食は魔獣の肉や魔草。人間の食用には向かないような肉であろうと、魔力がありさえいれば魔族は好んで食べる。消化能力や毒への耐性も人間とは別物らしい。
魔族の魔力に対するこだわりは強い。貴族階級ともなると、魔力にあふれた希少な魔物の肉に対し、調理用の魔道具を使って更に魔力を高めて食すそうだ。魔族にとって、上質な魔力はが重要事項であり、味や食感は二の次なようだった。
「この分では食料面での貿易は難しそうですわね……」
ブリジーアはがっかりしたようにため息をついた。
彼女はここのところ、魔族に対してどんな食べ物がいいのか試していた。
今日の肉料理も彼女の手配した絶品料理のひとつだ。だが、クオリーオの反応はこれまでと変わらなかった。
「いや、そうでもないぞ。そうした商売にならなそうなところにこそ、意外とチャンスがあるものだ」
「あらフィートバル、なにかいい考えがありますの?」
「確かに食材そのものは魔族との貿易には向かない。だが、調理法はどうだ? 魔力の籠った料理は人間の魔法使いにとってもいい滋養になる。魔族の調理器具で作った料理は、魔法学園の高級メニューにいいかもしれない」
「調理用の魔道具を輸入するわけですか。悪くないですね。じゃあ……魔族には香辛料を売るというのはどうでしょう?」
「ふむ、香辛料?」
「魔族は味にこだわりはありませんが、感覚は鋭いようです。魔力が高い料理に味わいと言う付加価値をつければ、貴族などの富裕層は興味を示すかもしれませんわ」
「なるほど、うまくいけば、魔族の側には香辛料の需要が生まれるわけか……いけるかもしれないな!」
フィートバルとブリジーアはあれこれと意見を出し合った。
こうした情報をまとめて王室に報告している。この『白い結婚』は人間と魔族の融和政策の第一歩であり、王室から助成金が出る。
これまでのクオリーオとのやりとりを王室に報告してきた。なかなかいい反応を得られた。
有用な情報を報告すれば、特別手当てとか出るかもしれない。そんな考えもあり、二人はことあるごとにこうした相談をしているのだった。
「お二人とも、何て言うか考え方が柔軟ですね。先日の『魔族のお見合い』でも、高い魔力ばかりでなく、魔法の使い方も実戦的でした。人間の貴族と言うものは、みんなそうなのですか?」
二人の様子を眺めながらクオリーオが問いかけた。
するとフィートバルとブリジーアは顔を見合わせ噴き出した。
「ははっ、そういうわけじゃないよ」
「ふふふ、そうですわね。私たちはちょっと特別ですわ!」
「そうなんですか?」
「俺たちは家に期待されてなくて、だから自由にやらせてもらっていてな」
「それで、冒険者なんてやってますの。二人組の冒険者パーティー『熱き風の探索者』。冒険者ギルドでも、ちょっと有名ですのよ?」
誇らしげに語るフィートバルとブリジーア。
だが、クオリーオはその言葉に愕然となった。
「ぼ、冒険者!?」
顔を真っ青にして冷気をまき散らしながらクオリーオは後ずさった。
この怖がりようにはフィートバルとブリジーアも驚いた。
「どうしたんですの、クオリーオ?」
「す、すみません。子供のころから冒険者が怖くって……」
「冒険者が怖い? どういうことですの?」
「子供のころ、『悪いことをすると怖い冒険者がやって来て心臓をえぐる』と教え込まれていました。あの強い魔王様を討ち果たした勇者も元々は冒険者だったのでしょう? だから今でもなんだか怖くって……いえ、フィートバルとブリジーアが怖いってことじゃないんですよ?」
言葉では怖くないと言いながら、クオリーオの声は震えていた。子供の頃に根差した恐怖は今もなお生きているらしい。
人間からすれば魔王を討ち果たした勇者は最高の英雄だ。
しかし魔族からすれば、最も強い魔族である魔王を倒し、たくさんの魔族を殺した殺戮者。勇者という称号は、魔族にとって恐怖の象徴なのだろう。
実際、魔族由来の素材は優秀な魔法の触媒だ。100年前はいろいろあったらしい。
人間と魔族の認識の違いは意外なところにある。
そんなことを改めて知ることになった三人だった。
「そろそろクオリーオの社交界デビューを考えなくてはなりません」
食事を終えて、紅茶を飲んで一息ついたころ。ブリジーアはそう切り出した。
確かにクオリーオは物覚えが良く、マナーもだいぶ身についてきた。だが社交界へのデビューとなるとまた話は違ってくる。
本来、貴族の礼儀作法と言うものは、生まれたときから教育を受け時間をかけて身に着けていくものだ。
そういう意味ではクオリーオは危ういところがあった。
平民として育ってきたクオリーオは、貴族としての経験が圧倒的に足りない。そうした者は貴族の社交の場で思わぬミスを犯すものだ。
彼女は魔族だ。人間の常識が通じないこともある。先ほど冒険者と言う言葉に恐怖を示したように、予想もしない場面でやらかしてしまう懸念もあった。
クオリーオの立場は魔族の賓客という特殊なものだ。そして彼女の行動一つで、魔族に対する印象に大きく影響するかもしれない。
王室からすれば、あえて低い爵位の貴族を使った実験的な試みだ。少々失敗したところで大局に影響は無いだろう。だがブリジーアは、親しくなったクオリーオにつつがなく社交界デビューしてもらいたいという思いがあった。
「ブリジーア、社交界へのデビューってどんな感じになるんですか?」
「夜会や舞踏会と言った社交パーティーに参加して、まずは挨拶ですね。魔族の令嬢が王国に来ていることは、噂である程度は広まっているようです」
ブリジーアは社交界にも明るい。だからクオリーオのことが少し噂になっていることは知っていた。どうも王室は隠ぺいするのではなく意図的に限定した情報を流している節がある。おそらくはクオリーオの社交界デビューの地固めをしているのだろう。
そうした背景もあり、ブリジーアはそろそろクオリーオの社交界デビューを計画しなければならないと思っていたのだ。
「貴族との挨拶なんて、想像しただけで肩が凝りそうです。舞踏会で踊るくらいなら、魔法でなんとかなりそうですけど……」
「踊るのに魔法ってなんのことだ?」
クオリーオのつぶやきをフィートバルが聞きとがめた。
「いえ、ええと。貴族の優雅なダンスとかではなく、あくまで平民の遊びみたいなものなんですけど……」
クオリーオは氷の魔法を使ったダンスについて説明した。それは彼女にとっては普段からやっていた遊びの一つに過ぎないものだった。
だが、二人は違う反応を見せた。
「なるほど、それは使えそうですわね」
ブリジーアはにやりと笑い、フィートバルはうなずく。
その二人の様子は、子供の頃に聞いた冒険者の姿を思わせるものがあって、クオリーオはぶるりと震えてしまうのだった。
夜。ある領地で、貴族の舞踏会が開催されていた。
大きなホールにはいくつかのテーブルが置かれ、ドレスや式服で着飾った貴族令嬢や貴族子息たちが談話していた。
その一角ではホールお抱えの楽団が演奏している。今演奏されているのは穏やかな曲だった。ダンスをするため会場中央に広く空いている。まだ、踊る者は一人もいなかった。
会場のそこかしこに生じるざわめきには、何かを期待する響きがあった。
今夜、魔族の令嬢がこの会場にやってくるという噂があるのだ。
誰も踊らないのは、みな魔族の令嬢を待っているのだった。
「ご来場のみなさん、突然失礼いたします! 私はブリジーア・ウィンダルトン男爵令嬢と申します! みなさんにお知らせがあります!」
突然、ホールの一角に設けられた演壇から声が響いた。参席者の目が集まる。
そこには若草色のドレスを纏った金髪の令嬢、ブリジーアがいた。
「皆様もお噂でご存じかと思いますが、この舞踏会に魔族の令嬢クオリーオ嬢がやってきます! 彼女は王国史上初めて人間と『白い結婚』をした魔族です!」
会場のざわめきが高まる。魔族の『白い結婚』の噂までは出回っていたが、名前までは明らかになっていなかったのだ。
「クオリーオ嬢はその夫、フィートバル男爵子息と共に、皆様にダンスを披露いたします! 人間と魔族のダンス、どうかお楽しみください!」
その言葉と共に、会場の明かりが落ちる。
そしてホールの一角が照明の魔道具によって照らし出された。
そこに立つのは二人の男女。
男爵子息フィートバル。
燃えるような赤毛に紅い瞳。その身にまとうのもまた赤。要所を金で装飾された立派な式服だ。
背が高くがっしりとしている。それでいて無駄な筋肉のない引き締まった身体は、まるで多大な戦果を挙げ式典に招かれた将軍のようだった。
だが会場の皆がなにより目を引かれるのは、その隣に立つ令嬢だ。
背はやや低く、フィートバルと比べると頭一つは小さい。
髪の色は銀。照明の光を跳ね返すその輝きは、金属を思わせるものがあった。抜けるように白い肌は、人間の令嬢とは違った質感だった。うっすらと見える網目のような細かな線が、鱗の連なりであると何人が気づいたか。
身にまとうのは黒のドレス。その控え目な装いが、その肌の白さと異質さを際立たせており、やや短めのスカートが、その令嬢の可憐さをより引き立てていた。
そして、耳のあるべき場所にある、手のひらほどの大きさの魚のヒレ。身にまとう白い靄のような冷気。
魔族の令嬢クオリーオ。人とは明らかに違う存在がそこにいた。
そして二人は手を取り合い、滑るような足取りでホールの中央まで進んでいった。
いや、「滑るように」ではない。足をほとんど動かさず進む様は、実際に滑っているのだった。
「こ、氷!?」
子息の一人が思わず声を上げた。その言葉通り、フィートバルとクオリーオの足元には氷が張られていた。そこから感じられる魔力から、それが魔法によって作られたものだとわかった。
会場の照明が戻る。曲が激しいものに変わる。
そして二人のダンスが始まった。
時に寄り添い、時に離れ。円を描くように舞う。社交ダンスとは異なる、ホール全体を使った情熱的で大胆なダンスだった。
長身で体つきのがっしりしたフィートバルが、大きく動けばそれだけで目を引くものとなる。
一方で、クオリーオは小柄だ。フィートバルと同じ動きをしても、小さく映る。だがそれがかえって、この令嬢の可憐さを引き立てていた。
そんな二人の対比は、ダンスをより鮮やかに彩っていた。
その動きは派手で見栄えのいいものではあったが、貴族の社交ダンスのように洗練された動きではない。それでもなお、参席者たちはその光景に魅了されていた。
クオリーオの纏う冷気がダンスの動きで辺りをふわりと舞い散る。照明の光に照らされた冷気は、まるで夜空の星々のようにきらめいた。その幻想的な光景は、おとぎ話に記された妖精のダンスを想起させた。
多くの者たちが二人の繰り広げる幻想的な光景に魅了された。
だが、一方で、ダンスを楽しめない者たちもいた。
「なんてことでしょう! ホールを全部を氷漬けにしてしまうつもりですか!」
令嬢の一人が不満を吐き出す。確かに二人のダンスは見事なものだ。
だがそれはホールの床を氷漬けにしてやっていることだ。舞踏会どころではなくなってしまう。憤慨するのも無理はなかった。
「いえ、お二人の足元をよくご覧になってください!」
別の令嬢の声に促され、二人の足元を見る。
そして息を呑んだ。凍っているのは二人のいる床だけだった。二人の通り過ぎたはずの場所には、氷どころか水一滴残っていないのだ。
「足元にだけ氷を張って、通り過ぎれば跡すらも残さない……なんて細やかな魔法の制御でしょう!」
「う、嘘でしょう? 踊りながらそんな繊細な魔法を使っているというの!? 信じられませんわ!」
貴族の子息や令嬢の多くが魔法を学んでいる。そうした者たちは魔力も高い。その気になれば、ダンスホールを凍らせることもできるだろう。だがクオリーオ今やっているように氷の魔法を使えるかと問われれば、首を縦に振れる者などいない。
クオリーオの繊細にして緻密な氷の魔法は、王宮魔導士ですら不可能と思わせるほど高度なものだった。
幻想的なダンスに魅せられる者。その魔法の技術に戦慄する者。多くの視線を集め、やがて楽曲がクライマックスを迎える。
音楽に合わせてフィートバルとクオリーオの動きも激しくなる。二人は手と手をつなぎ合わせ、まるで風車のようにまわり続ける。
そして音楽が終わる。その時、二人は動きを止めた。
フィートバルはクオリーオの腰を抱いていた。
クオリーオは腰をそり、両手を広げていた。
幻想的なダンスの最後を飾る、それが終わりの姿だった。
割れんばかりの拍手と喝さいが響いた。
過去、舞踏会でいかに見事な踊りを見せたとしても、こんなことはなかった。参席しているのは貴族の子息と令嬢だ。厳しく礼儀作法を躾けられた者たちが、そんな不作法をするはずがない。
だが今夜ばかりは熱狂していた。作法を忘れた。それほどのダンスであり、それほどの魔法だった。
フィートバルとクオリーオは称賛の声と拍手に礼をすると、颯爽と会場を去っていった。
「みなさん! 魔族の令嬢クオリーオ嬢と、フィートバル男爵子息へのたくさんの称賛、ありがとうございます! クオリーオ嬢は氷属性で熱が苦手であるため、今宵はこれで失礼させていただきます! それでは引き続き、舞踏会をお楽しみください!」
再び演壇に戻ったブリジーアが告げると、ホールの楽団が舞踏会にふさわしい落ち着いた穏やかな音楽の演奏を始めた。
しかし社交ダンスに興じる者はいなかった。皆、今見たばかりの素晴らしいダンスと魔族の令嬢について語るのに夢中になっていたのだ。
「大成功ですわよーっ!」
会場を後にした馬車の中。ブリジーアの喜びに満ちた声がはじけた。
「ああ、うまくいってよかった」
疲れた顔をしているがフィートバルは満足気につぶやいた。
「あんなにいっぱい拍手をもらえるなんて思いませんでした……」
クオリーオは喜びよりも戸惑いの方が大きいようだった。
「二人が去ってからも、ホールは二人の話題でもちきり! これなら計画もうまくいきそうですわ!」
先日、クオリーオが魔法を使ったダンスができると言った。その実演を目にしたブリジーアは確信した。
これは受ける。間違いなく受ける。
そして、このダンスを軸に作戦を立てることにした。
クオリーオは平民として生きてきた。通常通り社交界デビューしても、馴染むのは難しい。
そこでまずは魔法を使ったダンスを披露する。きっと人目を引くことだろう。人気も得られるかもしれない。ダンスを終えたら、理由をつけて、会話をせずに立ち去る。
そしてある程度の知名度を得たところで、本格的に社交界デビューするのだ。
人気を確立した状態であれば、多少ミスしたところでそうまずいことにはならないだろう。ダンスも芸術のひとつだ。芸術家と言うものは、多少奇妙な行動をとったところでそれなりに許されるところがあるのだ。
次に行ったのはクオリーオとフィートバルにペアのダンスを練習させた。
氷の上で滑って踊るというのは簡単なことではない。だがフィートバルはもともと近接戦闘を主体とする剣士だ。足腰は鍛えてあるし、バランス感覚も優れていた。すぐに氷の上での立ち回りを憶えた。
むしろ、ダンスの方が時間がかかった。フィートバルの芸術的センスは並程度だった。だから余計なことを考えさせず、とにかくクオリーオの動きをまねることに専念させた。
クオリーオとダンスをするとなれば、冷気にさらされることになる。これには冷気耐性のアクセサリをつけることで対処した。耐性系の装備品は高価なので、低価格のほどほどの性能のものを選んだ。それでも、ダンスくらなら十分だった。
一か月ほどの特訓を続けた。どうにか形になった。そして今夜、初めてのダンスを披露した。参席者たちの評価は上々。大成功と言って間違いないだろう。
「これならきっと素晴らしい社交界デビューを飾れますわ!」
「ああ、絶対上手くいくに違いない!」
フィートバルとブリジーアは嬉しそうに笑った。
クオリーオもまた、つられたように微笑んだ。だがその笑みは、未来が開けたことに期待する、明るいものではなかった。何かを諦めたような、どこか寂し気な笑みだった。
この日披露されたクオリーオのダンスは『氷結のダンス』と呼ばれ、貴族の間で広まっていった。