2.魔族のお見合い
フィートバルとクオリーオは、屋敷からしばらく歩いた先にある野原に着いた。
クオリーオは先ほどのドレス姿のままだが、フィートバルは皮鎧をまとい、背にはロングソードを背負っている。
フィートバルは野原の上に、拳ほどの大きさの石を置いた。
複雑な模様が描かれたその石は、地面に置かれると明滅し始めた。素早くフィートバルが身を引くと、その石は辺りの地面から土塊を集め始めた。土塊は次々と集まり積み上がり、やがて身の丈3メートルほどの巨大な人型となった。
先ほどフィートバルが置いた石は、土属性のゴーレムを作り出す魔道具『ゴーレムの石』だ。魔導技術の発展によってこうした魔道具が安価で手に入るようになっていた。
「訓練用の土属性のゴーレムだ。こいつで魔法を試す。こんな感じでいいんだよな?」
「はい。『魔族のお見合い』魔獣を使うことが多いですが、もちろんゴーレムでも大丈夫です。要は実戦形式で魔法の使い方を見ることができればいいんです」
フィートバルが構えて魔力を込めると、剣が震えだした。
そして、刀身が炎に包まれた。フィートバルの剣もまた魔道具である。刀身には魔力の通りをよくする『魔導石』がいくつも埋め込まれている。この『魔導石』によって、効率よく魔力を纏わせることができるのだ。
そして、フィートバルは一気に間合いを詰めた。ゴーレムが反応して手を振りかざすが、その動きは彼の踏み込みに対してあまりにも遅かった。
「『猛火の斬撃』!」
剣に付与された魔法の炎はその威力を増大させる。フィートバルの繰り出した斬撃はゴーレムの左肩口から入り、一瞬たりとも止まることなく腰まで抜けた。胴体を斜めに切られたゴーレムは、なすすべもなく地に倒れて砕けた。
その残骸から炎が燃え上がった。剣に付与された魔法の追加効果だ。
斬撃の威力を引き上げ、斬った相手を燃え上がらせる。それがフィートバルの魔法だった。
「俺の魔法はどうだった?」
「ええ! 素晴らしかったです!」
クオリーオは絶賛した。その顔は真っ青で、辺りに白い冷気が舞っていた。
人間なら顔を紅潮させ興奮するような場面で、この令嬢は顔色が青くなり冷気を出すようだった。
「ゴーレムを両断する破壊力。なによりも、その操作が精妙でした。炎の魔法は威力が拡散しがちですが、それを剣の一撃に無駄なく集中させる技術が凄かったです。今の一撃は上級魔族にも引けを取らないものでした」
「さすが魔族だ。そういうところをわかってくれるのはうれしいなあ」
フィートバルの魔法は斬撃と共に繰り出す、見た目が派手な魔法だ。その派手さゆえ威力にばかり目が行ってしまい、魔力の精密な操作までわかってくれる者はなかなかいない。
クオリーオの絶賛は続いた。
「大胆にして緻密。夜の営みでも、激しく攻め立てつつ、女性を細かに気遣うことが期待できます。今の魔法を見せれば、魔族の令嬢だってメロメロになること間違いなしでしょう」
「は!?」
話がいきなり妙な方向に飛んだので、フィートバルは思わず間抜けな声を上げてしまった。
クオリーオは不思議そうに首をかしげる。
「どうしたんですか、フィートバル?」
「今のは……俺の魔法に関する評価だよな?」
「ええ、そうです」
「なんで『夜の営み』なんて言葉が出てくるんだ」
「え? 『魔族のお見合い』での魔法の見せ合いなのですから、『夜の営み』について話が出るのは当たり前じゃないですか」
クオリーオは平然と語っている。ふざけている様子はなかった。
フィートバルはしばし黙考して考えをまとめてから、ようやく口を開いた。
「えーと、つまり、だ。『魔族のお見合い』ではお互いに魔法を見せ合って、その、何て言うか……『夜の営み』の相性を知る……ってことでいいのか?」
「はい、そうです」
クオリーオは背が低く、その言動も少し子供っぽいところがある。そんな少女が当たり前のように『夜の営み』について語るのは、なんだか異様なものがあった。
だが、『魔族のお見合い』で『夜の営み』が関係するのは常識らしい。フィートバルは、彼女の姿を初めて見たとき以上に、種族の違いと言うものを感じていた。
「魔族の方が魔力を感知する能力が高く、魔法に関する知識も深いと聞いたことがある。でもまさか、そういう相性がわかるとは思わなかった……」
「ああ、言われてみれば人間はその辺の感覚が鈍いらしいですね。魔族の感覚では、当たり前にわかることなのです」
そうすると、フィートバルは『白い結婚』をした相手に意気揚々と性癖をぶちまけたことになる。
無性に恥ずかしくなってきた。
「フィートバル。何を恥ずかしがっているのですか?」
「何をって……そりゃお前、『夜の営み』のことなんて言い出すから……」
「わたしたちは『白い結婚』とはいえ夫婦なのですから、『夜の営み』の相性程度は知っていて当たり前じゃないでしょうか?」
「当たり前じゃない! 人間は普通、お見合いの前にお互いの性癖を明かしあったりしないものなんだ!」
いつまでたっても譲らないクオリーオに、ついにフィートバルは叫んでしまった。
クオリーオは大きく目を見開いた心底驚いた様子だった。
「え? そうなんですか?」
「そうなんだよ!」
「じゃあどうやって結婚前に『夜の営み』の相性を知るのですか?」
「そんなものは結婚して初夜を迎えるまでわかるはずがない!」
「それでは困ります。魔族にとって魔力は重要なもので、魔力の強い子を産むには『夜の営み』の相性がとても重要です。だからお見合いでお互いに魔法を見せ合うんです。相性が分からないまま結婚するなんてまずありえません。
わたしも、相手の魔力から多くの情報を読み取れるよう、子供のころから躾けられました。これは平民も貴族も変わらないはずです」
「人間と魔族は違うわかっていたつもりだが、まさかこんなところで文化の違いを思い知らされることになるなんて思わなかった……!」
人間の貴族だって相手は慎重に選ぶ。家の名と血筋を後世に残していかなければならない。家柄や財産、学業の優秀さに魔力の高さ。様々な要因を考慮したうえで相手を選ぶ。最終的には派閥や爵位によって決まるが、それでも出来る限り良い相手を娶るために検討を重ねる。
でも結婚前にわかるのはそこまでだ。『夜の営み』の相性となると、実際に肌を重ねるまではわかるわけがなかった。
「『夜の営み』の相性がわからないまま結婚して、人間は大丈夫なんですか?」
「そんなの大丈夫に……」
決まっていると答えようとして、しかし、フィートバルは言葉を止めてしまった。
彼も男爵家の子息だ。社交界の醜聞を耳にする機会は少なくない。
『夜の営み』の相性が悪いせいで不義を働く貴族はいる。妻だけでは満足できなくてあちことに愛人を囲っているという大商人というのも、そう珍しいものではない。
「……いや、あまり大丈夫とは言い切れない。それでうまくいかない夫婦もいる」
「ああ、やっぱりそうなんですね」
「そう考えると、結婚前に相性が分かるというのは意外と合理的なことなのかもしれないな……」
冷静になって考えると、案外バカにしたものでもないのかもしれない。考えようによっては、人間も見習って取り入れるべきことなのかもしれない。
そんな風に考えをめぐらすうちに、フィートバルは閃いた。
「そうだクオリーオ! 魔族が人間の仲人をするというのはどうだろう?」
「仲人ですか?」
「君の言う通り、人間はお見合いの段階では『夜の営み』の相性がわからない。だが魔族がお見合いに立ち会って、魔法を使うのを見れば……」
「それなら相性を見極められます」
「人間と魔族の融和は難しい問題だ。人間にとって有用な役割を魔族が担うことができれば、融和を進める一助になるかもしれない……!」
二人して盛り上がったところに、声をさしはさむ者があった。
「フィートバル! こんなところにいたんですのね!」
肩まで届く金髪をなびかせて、颯爽とした足取りで一人の令嬢がやってきた。若草色のドレスにかがやくような金髪が映えていた。意志の強そうなまっすぐな瞳の色は緑。すらりとした美しい令嬢だった。
「そちらがクオリーオ・マーズオーグ男爵令嬢ですね。私はブリジーア・ウィンダルトン男爵令嬢。よろしくお願いいたします」
「わ、わたしはクオリーオ・マーズオーグ男爵令嬢です。よろしくお願いいたします」
貴族の礼法に則り挨拶を交わし、お互いにカーテシーをする。
ブリジーアは厳しい教育を受けている令嬢だ。その動作は実に洗練されたものだった。だが、クオリーオも決して見劣りしないきちんとしたカーテシーだった。
フィートバルと初めて会った時もそうだった。平民暮らしだったクオリーオも、挨拶だけは仕込まれたらしい。
「ブリジーアは俺の幼馴染だ。人間の貴族令嬢としてのマナーを教えてもらうために、教育係を頼んでおいたんだ」
「『白い結婚』の契約が終わる時を見計らって屋敷についてみれば、お二人は出かけたというじゃありませんか。何事かと思って心配しましたのよ。言伝くらい残しておいて欲しかったですわ」
じろりと睨んでくるブリジーアを、苦笑して受け答えするフィートバル。
言葉ほどの険悪さはなく、気心の知れた穏やかさがあった。
「それよりも……クオリーオ様、お手を拝借!」
「へ?」
ブリジーアはドレスグローブを外しながらクオリーオに近づくと、彼女の了承を待つことなく、さっとその手を取って握手した。
「氷結の令嬢とお聞きしていましたけれど、貴女の手は本当に氷のように冷たいのですね! それに鱗! もっとザラザラしているものと思ってましたけど、こんなにすべすべしてますのね! 素敵!」
「おい、ブリジーア。そんないきなり、失礼じゃないか」
苦言を呈すフィートバルに、ブリジーアは笑みで答える。
「あら、クオリーオ様とはこれからしばらくお付き合いすることになるのでしょう? 変に気を使うより、こうして思ったことを気兼ねなく言い合った方がいいに決まってますわ!
それでクオリーオ様、私の手を握った感触はどうですか?」
「フィートバルの手より小さくてやわらかくて、あたたかいです……」
「それが人間の令嬢の手の感触です! よく覚えていてくださいね、クオリーオ様!」
「あの……わたしのことは、『様』をつけなくていいです。クオリーオと呼んでください」
「まあ! わかりましたわ。それでは私の名前も、呼び捨てで構いませんわ。ブリジーアとお呼びください!」
「わかりました、ブリジーア」
「ふふ、よろしくね、クオリーオ!」
どうやら二人は上手くやっていけそうだ。
フィートバルはほっと一息ついた。
そこに、ブリジーアの鋭い視線が突き刺さった。
「……それでフィートバル。クオリーオの手を握ったとはどういうことですか?」
「『白い結婚』が子作りをしない契約だからと言って、なにも手に触れることまで禁止されてるわけじゃない。これからうまくやっていこうと握手しただけだ」
フィートバルはクオリーオとの先ほどのやりとりについて話した。
クオリーオが貴族の血筋だが平民として暮らしてきたこと。『魔族のお見合い』のため、ここに魔法を見せに来たことなどについて、ざっと説明した。
「なるほど! 『魔族のお見合い』とは面白いですわね! 私の魔法も見てくださるかしら?」
「ええ、もちろんです」
クオリーオの了承を取り付け、ブリジーアはフィートバルに「準備よろしくお願いしますね」と言ってウインクした。
そして腰に差していた携帯用の魔法の杖を取り出す。この場所に来ていると聞いて、おそらくブリジーアもまた、魔法を使う機会があると予想していたらしい。まったくもって、準備のいいことだった。
やれやれと嘆息しつつ、フィートバルはふたたび『ゴーレムの石』を使って低級ゴーレムを生み出した。
三メートルに達する土でできた巨躯に対し、ブリジーアは余裕の笑みを浮かべて向き合った。
「『暴風の抱擁』!」
ブリジーアの魔法によって暴風が生み出される。その暴風は対象に絡みつき、その動きを阻害する。
ゴーレムは身動きひとつとれなくなった。
「『烈風の刃』!」
続いて繰り出されたいくつもの風の刃は、的確にゴーレムの関節部を切り裂いた。
ゴーレムは四肢を切り離され、地面に身体が落ちる前に首をはねられた。
ただの土塊に戻るゴーレムに背を向け、ブリジーアは優雅に一礼した。実に優雅な、貴族の令嬢にふさわしい魔法の技だった。
「私の魔法はどうでした、クオリーオ様?」
「魔力の高さに加え、拘束系魔法を発動したままの精密な魔法の射撃など、技術面でも見事なものでした。拘束してからの攻撃と言う段階を経たのも、実戦的で素晴らしいです」
「ふふ、ありがとうございます!」
ブリジーアは花のように上品に微笑んだ。
「『夜の営み』ではかいがいしく奉仕するタイプですね。大抵の男性から喜ばれると思います。きっと魔族の貴族子息からもモテモテになれると思います」
ブリジーアの笑顔が固まった。
「よ、夜!? な、な、何を言っていますのクオリーオ!?」
「いや聞いてくれブリジーア。これは実に画期的なことなんだよ」
驚くブリジーアに対し、フィートバルは『夜の営み』の相性診断の有用性について説明を始めた。
『夜の営み』の相性がわかればより優秀な血筋を残せること。魔族に仲人の役を与えることにより、人間と魔族の融和を押し進めることができることを力説した。
要所ではクオリーオが補足を加えた。魔力の継承における『夜の営み』重要性、高い魔力を保つことでいかに魔族がその力を高めてきたかを語った。
説得力のある完璧な説明だった。
「このおバカ!」
二人の完璧だったはずの説明は、ブリジーアに一言で切り捨てられた。
「『夜の営み』の相性が結婚前にわかるのは、確かに有用かもしれません! でも、貴族の婚姻の場で、そんなふしだらな話ができるわけがないでしょうっ!?
そもそも今の段階でそんなことが広まったらどうなると思いますか!? 噂に尾ひれがついて、『魔族は魔法を見ていやらしいことを考える邪悪な種族』などという、ぬぐいがたい悪評がつくことになりますわ! 融和どころか両者の溝は深まって、下手をすればまた戦いが始まりますわよ! わかっていますの!?」
きわめてまっとうな評価だった。
フィートバルは『白い結婚』からいろいろなことが起きすぎて、冷静でなかったとようやく自覚した。
その後もしばらくブリジーアのお説教は続いた。常識と正論に裏打ちされた反論の余地のないお叱りの言葉だった。フィートバルの思い込みに基づいた主張は完膚なきまでに否定された。クオリーオの魔族の視点からの言葉も、人間の常識に押しつぶされた。
「今後一切、『夜の営み』に関する話題は出してはなりません! わかりましたか!?」
「はい……わかりました……」
ようやくお説教が終わった時、クオリーオはぐったりしていた。
フィートバルは幼馴染のお説教好きには慣れていたが、それでもきついものがあった。初めて体験するクオリーオの消耗は、察してあまりあるものがあった。
クオリーオのヒレのような耳は小さくたたまれ、下を向いていた。飼い主に怒られた犬を思わせる哀れな姿だった。
そんな彼女に、ふと思いついたようにブリジーアは声をかけた。
「あ、そうそう。ただのちょっとした好奇心で参考までに聞いておきたいだけなのですけど……私とフィートバルの相性は、魔族的に見てどうなのでしょうか?」
「え? それはですね……」
真っ赤な顔をしてモジモジしながら、突然ブリジーアはそんなことを問いかけた。
お説教で疲弊したクオリーオは反射的に答えようとしている。
「わーっ!? 何を聞いているんだお前は! クオリーオも答えようとするんじゃない! たった今、『夜の営み』について話すなって言われたばかりだろう!?」
「はっ!? ……そうでした」
「ふ……ふふ! ちょ、ちょーっと試して差し上げましたわ! うっかり答えないようお気をつけなさい!」
慌てて止めるフィートバル。我に返るクオリーオ。ごまかすように視線を逸らすブリジーア。
まさか説教したブリジーア本人がその禁を破ることになるとは。『夜の営み』の相性診断はやはり人間にとって危険な話題のようだった。あまり広めるべきではないのかもしれないと、今更ながらに思うフィートバルだった。
「そうだ。結局クオリーオの魔法を見ていない。見せてくれないか?」
「そうですね! ぜひ見たいですわ!」
気まずい雰囲気を変えるべく、フィートバルは提案した。ブリジーアも乗った。
「ええ、お見せしましょう」
クオリーオも快諾したので、彼女の魔法を見せてもらうことになった。
そして再び土属性のゴーレムが作り出された。
対峙するクオリーオは静かだった。これまでのどこか子供っぽい雰囲気は失せた。冷気を纏うその姿は、まるで氷の彫像のようだった。
やがて、ゴーレムが一歩を踏み出した。
それと同時にクオリーオは魔法を放った。
「『氷結の鏡面』」
ゴーレムの踏み出した一歩が滑った。その足元の地面は魔法によって凍っていた。ゴーレムは踏み出足を滑らされたのだ。
ゴーレムは鈍い。そんな急な動きには対応できない。なすすべもなく地面にその巨体を横たわせることとなった。
「『氷の楔』」
間髪入れずクオリーオが放った魔法は、倒れたゴーレムの上空に大きな氷の円錐を作り出した。
クオリーオが軽く手を振ると、氷の円錐はとがった先端を下向きに落下した。
氷の円錐に貫かれ、更に落下の衝撃も加わり、ゴーレムは身体の大半をバラバラに砕かれた。
「へえ……ゴーレムの動きを封じるという手順はブリジーアといっしょだが、転ばせるというのが面白い。タイミングも絶妙だった」
「最後の氷の円錐も見事でしたわ。魔力を使ったのは氷を生み出すところまで。威力の大半は、氷の重量によるものですわ。自由落下を利用したおかげで、あの威力のわりに使用魔力も少なかったようです。実に鮮やかですわ」
二人の称賛の言葉を受けてクオリーオは顔を真っ青にして冷気をまわせた。
どうもこの魔族の令嬢は、人が顔を赤らめる場面で青くなるらしかった。
「それで、参考までに聞かせていただきたいのですが、今のは『夜の営み』としてはどういう評価になりますの?
あ、これは引っ掛け問題ではありません。クオリーオだけ評価なしというのも、なんだか仲間外れみたいで気持ちがよくありませんからね」
クオリーオはちょっと考える込んだ様子だったが、やがて語りだした。
「自分で自分の評価をするのは難しくて……以前、乳母に見せたときは、『すごいテクニシャン』という評価をもらいました」
はにかんでそう語るクオリーオは、先ほどまでの氷結の令嬢ではなく、年頃の町娘のようだった。
「すごいテクニシャン……」
ブリジーアは顔を真っ赤にしてつぶやいた。
「……お前、何を想像しているんだ? 顔真っ赤だぞ?」
「な、な、なにも想像していませんわ! あなたこそ、変なことを考えてるんじゃありませんこと!?」
「男は将来に備え、いつだってそういう妄想をしているものだ!」
「開き直らないでください! まだお説教が必要ですか!? お説教して差し上げましょうか!?」
「お説教はもう勘弁してください……」
騒ぎ出すフィートバルとブリジーア。
泣きそうになるクオリーオ。
三人とも卓越した魔法を繰り出しておきながら、最後はどうにも締まらないままに。『魔族のお見合い』は終わったのだった。