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第93話 cross the line③

 光の道を抜け、ゲートを出ると馴染みのある風景が広がっていた。


 大きな交差点に、左右に林立するビル群。

 正面に見える建物の壁面には大きく「八王子駅」と書かれていた。

 未明子とも何度か買い物に来たことがある場所だ。

 

「八王子か。市街戦になるね」

 

 先に到着していた夜明が周囲を見渡した。


 八王子は駅を中心に東西南北1キロくらいは建物が連なり大きな公園なども無い。

 どこで戦ってもそれなりの高さの建物が存在する。


「建物の影に隠れれば守りは硬いが攻めるには厄介だ。それに……」

「はい。視界が悪いので戦況を把握し辛い、ですね」

「その通り」


 夜明から戦術指南を受けた稲見が答える。

 

 稲見が前の世界でどれほど戦いの経験を積んだのかは分からないが、少なくともこれまで生き延びている。

 戦い方に関する判断力は低くないはずだ。


「では稲見くん、私が補助するから君に作戦を任せよう」

「分かりました」


 夜明から作戦立案を託された稲見は駅の方に歩くと、駅の向こう側に見える境界の壁を指さした。


「あそこに壁があるなら、ちょうど駅を挟んでの戦いになりますね。敵がわざわざ誰を相手取るか宣言してくれたので一旦はその通りに作戦を考えましょう」

「一旦はってことは相手が変わる可能性もある?」

「あの3人が正直者とは限りませんからね」


 稲見は背負っていたリュックからタブレットを取り出すと、お絵描きアプリを起動した。

 指で書き込める画面の左側に○を二つ、右側に○を一つ書く。


「黒馬おみなえしと藤袴が犬飼さん。葛春桃がそれ以外と戦うと宣言しました」


 〇に敵の名前と、それに対峙する仲間の名前を書き込んでいく。


「現状、葛春桃とは4対1です」

「うむ。私達4人で葛春くんを速攻で倒して未明子くんに合流するのがいいだろう」

「私もそう思います。それと、こちらは4人いるので伏兵作戦を提案します」

「伏兵作戦?」

「はい。私以外の誰か、攻撃能力のある人に最初は隠れてもらうんです。1人いないのはすぐにバレると思いますが、敵は常に周囲を気にして戦わなければいけません」


 どこに敵が潜んでいるか分からない状況で戦うのは思った以上に負担が大きい。

 頭数に余裕があるなら悪くない作戦だ。


「面白いかもしれないね。ツィーくんに姿を消してどこかに隠れてもらって、相手が隙を見せたら一気に叩く戦法でいこうか」

「みなさんもそれでいかがでしょうか?」


 このメンバーはいつも全員で正面から戦っているので、たまにはそういう搦手を試してみるのもいい経験になりそうだ。

 それに葛春桃の嫌がる顔を想像するのは楽しい。

 稲見の作戦を採用して自信をつけさせる意味でも賛成だった。


「アタシはそれでいいよ! ツィーは?」

「五月がいいなら私は構わんぞ」

「私もいいわよ! どうせやる事は変わらないし!」

「梅雨空、暴走しちゃ駄目だよ?」

「分かってるわよ」

「じゃあ稲見の作戦で行きましょうか。まあ私と梅雨空の二人で攻めれば速攻片付くでしょ」

「こらこら、油断してはいけないよ。セレーネの私兵と言うからにはあの3人で私達を殲滅できる実力があってもおかしくない」


 夜明の言う通り油断してはいけない。

 ただ、仮に敵がそれぞれ1等星と同等の力を持っていたとしても、この4人と1人で戦うのは相当厳しいだろう。

 すばるが欠けているとはいえフォーマルハウトと全く同じ能力を持った敵を倒したメンバーなのだ。


「では、もし対戦相手を変えて来た場合にどうするか決めたいと思います」


 タブレットの画面をスワイプして何も書かれていないページを開くと、今度は先に私達の名前を書き込んでいく。

 五月の名前だけは、隠れているという意味で画面の端っこに記載されていた。

 

「この場合でも犬飼さんには黒馬おみなえしを相手してもらえますか?」

「了解。攻撃して誘いをかけてみるよ」

「葛春桃と藤袴ですが、私と梅雨空さん、夜明さんと五月さんでチームを組んで戦いましょう」

「なるほど。指示役を二手に分けるんだね?」

「はい。私と五月さんが組んじゃうと最初は私だけになるので梅雨空さんと組ませて頂きます。夜明さんが最初1人で対峙することになってしまうので申し訳ないですが……」

「伏兵役がいるならいくらでも対応してみせるよ」

「ありがとうございます。どちらと戦うかは相手の能力を見て決めましょう。夜明さん、こんな感じでどうでしょうか?」

「問題無いと思うよ。後は戦闘中にいかに臨機応変に立ち回れるかだね」


 稲見が二つのパターンをタブレットに書き込み全員に共有する。

 事前に戦闘の陣形を図で見られると理解が早い。

 タブレットを持ち込んでの作戦会議は稲見らしい発想だった。



「よし、じゃあそろそろ戦闘準備をしようか!」


 それぞれが作戦を把握したところで、未明子が突然仕切りを始めた。

 いきなり元気な声をあげたので稲見が驚いている。


 ……まあ、私達には未明子のテンションが上がった理由は分かっているのだが。


「………………あの、犬飼さん? なんで私の方をじっと見てるんですか?」

「え? 稲見ちゃんがフェルカドさんとどんなキスをするのか楽しみだなと思って」

「へ!? み、見るんですか?」

「うん。戦う前の私の楽しみだし」

「その……見られてると恥ずかしくて……」

「大丈夫だよ! 恥ずかしいのなんて最初だけだからさ!」

「これからずっと見る気ですか!?」


 だと思ったわよ。

 以前ツィーに教えてもらった通り未明子はこの時間がとても好きらしい。

 この前の梅雨空の時もガン見してたし、まだ見たことの無い稲見とフェルカドのキスは絶対見てみたいんだろう。


「もうみんな照れなくなっちゃったから稲見ちゃんの反応が新鮮だよ! フェルカドさんとちょっと歳の差があるし、どんな雰囲気になるのか……あだだだだだだだ」


 まあそんな横暴を私が許すわけが無い。

 未明子の長い後髪を引っ張って稲見から引っぺがした。


 未明子が髪を引っ張られて上を向いている間に稲見に目配せすると、稲見はペコリと頭を下げて、フェルカドに抱き着いていかにも慣れていなさそうなキスをしていた。


 ふふん。未明子はこれが見たかったんでしょうけど、残念でした。


「未明子、歳下の子を襲うのはやめなさいよ」

「襲ってないよ! ってかいまアルフィルクも見てたじゃん!」

「私はあなたみたいな下心は持ってないから」

「失礼な。私は戦いの前に清いものを見たかっただけなのに」

「それよりも梅雨空を見なさいよ。あっちのが面白いわよ」

「ソラさん? あ、真っ赤な顔してる」


 アルフィルクに言われて梅雨空を見ると、顔を紅葉のように赤くして俯いていた。

 ムリファインは変身するのにキスが必要ないから梅雨空はキスそのものに慣れていないのだ。


「どうしたの梅雨空? 女の子同士のキスに興奮しちゃった?」

「うっさいわね! 何で変身するのにキスするのよ! ムリみたいに血を吸えばいいじゃない!」


 梅雨空は怒りながらそっぽを向いてしまった。

 そして何かブツブツ言いながら服を着崩して、ムリファインに血を吸うように催促している。


 ムリファインは気まずそうに梅雨空の元に行くと肌に齧りついていた。

 相変わらずステラ・アルマが血を吸っているのは不思議な光景だ。


「なに? アルタイルも吸血に興味あるの?」 

「あるわけないじゃない。まさかアルフィルクは興味あるの?」

「ないと言えば嘘になるわね。許されるなら何でも試してみたいじゃない」

「私は断然キスの方がいいわ」

「それは個々の好みの違いよ。ま、やり方は色々あるんでしょ?」


 それだけ言うとアルフィルクは夜明の元に行ってしまった。


 まさかアルフィルクまで吸血に興味があるとは思っていなかった。

 もしかしたら私が知らないだけで、他にも血を吸ったり、別の方法で人と交流しているステラ・アルマがいるのかもしれない。

 

「やり方は色々か……」

「なら私達もやり方を変えてみる?」

「どういう事?」

「例えば鷲羽さんからキスしてもらうとか」

「わ、私から!?」

「たまには攻めっ気のある鷲羽さんも見てみたいな」

「う……未明子がそう言うなら……」


 言われてみればキスも体を重ねる時もいつも未明子に任せてしまっていて、私から行くことは無い。

 それでいいと思っていたけどずっと彼女に任せっきりというのも違う気がする。


 未明子を見ると、面白そうに目を閉じて私がキスするのを待っていた。


 改めて意識すると緊張してしまう。

 でもこんなので臆して未明子に嫌われるのは嫌だ。

 私は意を決して、彼女の肩を抱いて自分からキスをした。

 

 やってみて分かった。

 優しくキスするのって結構難しい。

 未明子は凄いなぁ。


「……うん。いいかも」

「本当に?」


 こんなたどたどしいキスでも良いと言ってもらえて安心した。

 未明子はしばらく自分の唇を触っていたが、突然何か思いついたようにニヤニヤしだした。


「帰ったらさ、いつもと逆立場でえっちしよっか」

「え!? どういうこと!?」

「今晩は鷲羽さんに頑張ってもらうの」

「ひぇえ……頑張ります……」


 さっきゲーム話で盛り上がったせいか未明子のテンションはいつもより高いみたいだ。


 私は人の事を言えないくらい顔を真っ赤にして、変身する為に未明子から距離を取った。



 他のメンバーはすでに準備を終えていたみたいで何故かツィーを中心に集まっている。

 私がその輪の中に入って行くと、ツィーがムリファインに何かを熱心に話していた。


「分かったか? ここではその掛け声で一斉に変身するのが決まりなんだ」

「えーそれ恥ずかしくないですか?」

「お前、アイドルが恥ずかしいとか禁句だぞ」

「もしかして例の掛け声を強要してるの?」

「アルタイル。お前も今回から言えよ」

「嫌よ。フェルカドだって困るでしょう?」

「いえ。私は楽しそうなので是非やってみたいです」

「ええ……」


 予想に反してフェルカドはワクワクしているみたいだった。

 普段はクールなお姉さんなのに、たまにこういう子供っぽい顔をするのが何とも可愛い。

 

 フェルカドのやる気にツィーは「そうだろうそうだろう」と満足気な顔を見せ、それを見たムリファインは諦めたようだった。

 アルフィルクは元々掛け声をあげる派だし、ここで反対するとややこしくなりそうだ。


 私は土壇場で裏切ることに決めた。


 5人で変身すると結構なエリアを取るので、お互いそれなりに離れる。

 特に私は変身する時に突風が起きてしまうので未明子達から一番遠い位置についた。


「よし、じゃあ行くぞ!」


 ツィーが普段出さないような声を出す。

 普段は会話に混ざるのも面倒くさそうなのに、こういう時に張り切るのは何なのよ。

 私は絶対に言わないぞと強く誓って、いつものように胸に手をあてた。


「「「「マグナ・アストラ!!」」」」

「へんしーん」


 隣から聞こえる4人の揃った掛け声に押されて、私の口から今までで一番気合の入っていない声が出た。






『フェルカドは思ってたよりかっこいいな!』

『フォーマルハウトとの戦いの時はじっくり見えなかったのよね』


 またツィーとアルフィルクが新しい機体のビジュアルチェックを始めた。


 私もフェルカドのロボット姿は戦闘前に少し見ただけで、戦闘後はそれどころでは無かったのでほとんど覚えていない。

 ただ色が白黒だったのでパンダみたいで可愛いという印象だった。 


 落ち着いて見てみると、ツィーの言う通り細かなデザインが美しい機体だった。

 全体的に丸みを帯びているせいで小さく見える装甲も、上品な曲線で形作られていて気品さを感じる。

 白い体の胸部と腰部、それに手足の先に黒が入っているせいで確かにパンダのような色合いに見えるがコントラストがハッキリしていて力強さも合わせ持っていた。


 気になるのは防御型と言っていたのに盾などを一切持っていない事だった。

 バックパックにアサルトライフルを装備しているくらいで、他に武装のような物も見当たらない。

 サダルメリクのように盾を使った防御タイプでは無いのだろうか。


 一通りフェルカドの姿を眺めた後、稲見が仕切りを入れた。


「では五月さん、作戦通りどこかに隠れてください」

「おっけー! ツィー、隠れるよ」

『お前ら見とけよ。私がドロンするからな』


 ドロンと言うよりはスゥーという感じでツィーの姿が消えていった。


 前にすばるのマンションでも見せてもらったけど視覚的に姿を消せるのはもはや固有武装の領域と言っていい。

 姿どころか足音も聞こえず、ツィーの気配は完全に消えてしまった。

  

「凄い。こんな風に姿を消せるロボットもいるのね」

「前に説明した固有武装の他に ”特性” っていう能力を持ったステラ・アルマもいるんですよ」

「ふーん。アルタイルが空を飛べるのは固有武装? 特性?」

『私のは特性ね』

「ムリは何か特性持ってないの?」

『わた……ボクは特性ないよ』

「そうなんだ。頑張って何か作んなさいよ」

『無茶言うなぁ』


 特性ばかりは持って生まれた能力なので仕方が無い。

 それにサダルメリクのようにデメリットを持つ特性だってある。

 内緒だけど私のもう一つの特性だって人に言えたものじゃないしね。



「みんな、壁が消えるよ!」


 夜明の忠告で全員が境界の壁の方を向く。

 紫色の壁がドロドロと溶けるように消えていきお互いのエリアの行き来が可能になった。


 いつもなら早めに進軍するのだが今回は中央に駅がある。

 駅で接敵して戦闘開始となると戦い辛い。


 それに今回は向こうから戦いを吹っ掛けてきているので、わざわざ罠があるかもしれない敵のエリアに近づくよりも自軍エリアで待ち構える方針だ。


「北斗七星か。特別な2等星には嫌な思い出があるね」

『あいつら強かったものね』

「でも私達も強くなっています。あの時とは違いますよ」

「そうだね。味方も増えた。ここで勝利してセレーネに一泡吹かせてやろう」


 ここで勝てばセレーネも私達を警戒せざるを得ない。

 正式に敵と認められれば未明子の罪も有耶無耶になるだろう。

 あの傲慢少女達には申し訳ないけど、その為に叩き潰させてもらう。


「夜明さん! 駅の方を見てください!」


 今度は稲見が叫んだ。


 見ると駅の上空に3つの大きなゲートが開いていた。

 そのゲートはいつも見ている正面向きでは無く、下向きに口が開いていた。


 まるで空から何かが降ってくるかのような開き方をしたゲートだった。


 そのゲートからゆっくりと3体のロボットが姿を現す。


 

 3体の内、向かって左側の機体は白い騎士のようだった。

 西洋の甲冑をイメージしたような美しい装甲を纏い、腰部分にマントのように赤い布を巻きつけている。

 右手には身の丈程の大きな槍を持っていて、陽の光に照らされたその姿は神々しさすら感じた。


 その反対側、向かって右側の機体の印象は真逆だった。

 一言で表すなら死神。

 黒地に銀色と赤色のラインが入った機体色で、まさに死神のような黒いボロボロのローブを纏っている。

 何よりも目立つのは左腕に抱えた(ひつぎ)だ。

 これまた自分の体と同じくらいのサイズの棺を大事そうに抱えている。

 その異様な姿は、美しい白騎士とは別の世界の存在のように忌まわしい雰囲気を醸し出していた。


 中央の機体は両脇の2体に比べると特徴が少なかった。

 赤を基調とした機体色に黒のラインが入ったカラー的にも大人しいデザインだ。

 サダルメリクほどでは無いが少々サイズが大きいという以外には際立ったところは無い。

 武器などは何も持っておらず、代わりに背中に大きなタンクを2つ背負っている。 

  

 そしてその3体は、いずれも私のように空を飛んでいた。



「ちょっと! あいつらも空飛んでんじゃない! あれも特性!?」

『嘘でしょ? 私以外にも空を飛べる機体があるの?』

「参ったね。空を飛べるとなると機動力に圧倒的な差が出る」

「そこまでは想定していませんでしたね……」


 稲見が悔しそうな声を出すがそれは仕方が無い。

 私だって空を飛べる機体があるなんて知らなかったのだ。

 1等星の機体でも知る限り重力下を自由に飛べるのは私だけのはずだ。

 ましてや2等星の中にいるなんて完全に想定外だ。



「サルウェ。地上を這う下賤な星の子よ」


 中央の機体から葛春桃の声がする。

 やはりさっきの立ち位置通りの機体に乗り込んでいるようだ。


「改めて自己紹介するわ。セプテントリオン、葛春桃とおおぐま座2等星フェクダ」

「セプテントリオン、藤袴とおおぐま座2等星ミザール」

「セプテントリオン、黒馬おみなえしとおおぐま座2等星アリオト」


 名乗りを終えると、3体がこちらに向かって飛んで来る。

 そして私達が立っているすぐ前に着地した。


 3体とも機体サイズはそこまで変わらない。

 だがそれぞれの機体が凄まじい威圧感を放っていた。

 

 それはフォーマルハウトのように見た目の禍々しさや機体性能では無く、3体とも数えきれないくらいの戦いをくぐり抜けて来た歴戦の精鋭だと分かるオーラを纏っていたからだ。


 さっき葛春桃が1等星はオーラを纏っていると言っていたが、目の前の機体からはまさにそれをひしひしと感じた。



「さあ。睨み合ってても仕方がないわ。さっさと始めましょう」


 葛春桃のその言葉とともに、左右の機体が上空へ飛び上がった。

 そして白騎士が私を見る。


「犬飼さん。私がお相手します」


 黒馬おみなえしの声だった。

 あの白騎士に乗っているのが彼女で間違いなさそうだ。


 未明子が稲見を見る。

 作戦参謀の稲見が頷いたので、未明子は私を白騎士の元へと向かわせた。


「分かりました。勝負です!」


 藤袴という少女が乗っている死神のような見た目の機体は、見ているだけですとでも言わんばかりに離れた位置を飛んでいた。

 本当に黒馬おみなえしは1体1で戦う気のようだ。


「ここだと思い切り戦えませんね。少し離れませんか?」


 私が戦うには広いエリアが必要になる。

 アル・ナスル・アル・ワーキを放つことも考えるとフォーマルハウト戦のように離れて戦った方がいい。

 未明子もそれには同意だったみたいで、みんなが固まっている場所から東の方に向かって飛んだ。



 後をついてくる黒馬おみなえしと、そのずっと後をついてくる藤袴。

 2体が私についてくるなら、葛春桃も宣言通りに全員を1人で相手するつもりらしい。

 伏兵を1人配置した上での3対1。

 こちらが圧倒的に有利だ。


『これなら向こうは早く決着がつきそうね』

「そうなるといいけど……」

『どうしたの?』

「黒馬さん、凄く強い気がする」


 未明子の声には余裕が無かった。

 フォーマルハウトと戦っていた時ですら余裕があったのに、あの白騎士を前にした未明子は少し焦っているように感じる。


『それでも私と未明子なら勝てるわよ』

「うん。頑張ろう」


 気休めにしかならない声をかけ、他のメンバーから離れていく。


 遠くの方に大きな川と橋が見えた。

 十分距離を取れたと判断して空中で停止する。

 そして後をついてくる白騎士に向かい合った。


 白騎士も私達から少し離れた場所まで来るとそこで停止して、こちらを見据えた。


「やっぱり犬飼さんがアルタイルの契約者だったみたいですね」

「そうです。唯一空を飛べるステラ・アルマだと思っていたんですけど、黒馬さん達のステラ・アルマも空を飛べるんですね」

「セプテントリオンの機体は全機重力下飛行ができます。なので存分に空中で戦って頂いて大丈夫ですよ」


 黒馬おみなえしの声は未明子とは対極的に弾んでいた。

 わざわざ未明子と戦いたいと宣言してきたくらいだから思い通りの展開を楽しんでいるのだろう。


「分かりました。同じゲーム好きとして絶対に負ける訳にはいきません」

「私だって負けませんよ。私とアリオトの力を見せてあげます」


 未明子は腰にマウントしたサーベルを取り出して右手で構える。

 そして白騎士に向かって加速しながら叫んだ。

 

「ラウンド(ワン)!!」


 すると白騎士も槍を構えてこちらに突進しながらこう返してきた。


「ファイト!!」


 八王子の空にサーベルと槍が斬り合う音が響き、セプテントリオンとの戦いが始まった。

 

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