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第91話 cross the line①

 この時の私はまさかベガがそんな行動に出ているなんて思ってもいなかった。

 

 彼女がこの世界にやってくるのは当分先になる。

 問題が起こるにしてもそれからだと高を括っていたのだった。


 だから未明子が管理人から呼び出されたのも、いつものようにたわいも無い用事だと思い込んでいた。


 事態が予想以上に悪い方向に進んでいるのを自覚したのは拠点に呼び出された未明子が管理人に拘束された時だった。




「犬飼。どうしてお前が拘束されているか分かるよな?」

「えーと……心当たりは、あります」


 未明子の体には透明の輪が三本巻き付いていた。

 その輪はそれぞれ肩・腕・足に巻き付いて身動きできない程に強く縛られている。

 初めて見るタイプの拘束具だ。


 足を縛られているせいで立っていられず、未明子は拠点の地面にコロンと転がっていた。


「何か申し開きはあるか?」


 管理人の口調は厳しい。

 いつもの穏やかさは消え、血の通っていないような冷たさを感じる声だった。


「一応、何で拘束されたかを確認してもいいですか?」

「重大なルール違反だ。他のユニバースから無断で人を攫ってきたな?」

「はい。間違いありません」

「……間違いであって欲しかったよ」


 いつものように帽子を目深に被っているせいで表情は見えないが、落胆したように肩を落とす。


 管理人の仕事はこの戦いを管理する事。

 当然違反行為をした者には罰を与えなければいけない。

 ここにやってきたベガが未明子に手を出して罰を受けたのと同じだ。

 

「こちらからも一つ確認をする。これはお前の独断でやったと言う事でいいんだな?」

「はい。それも間違いありません」

「他の者は……そこにいるアルタイルも関与していない、で間違いないな?」

「はい。鷲羽さんも関与していません。私だけでやりました」

「未明子!」

「アルタイル。黙っていろ。不利になる」


 管理人は、手に持っている長い棒のような物を向けて私を静止した。


 あれがどんな道具なのかは分からないが、こちらに向けるからには何かしらの抑止力を持っている道具なのは間違いなさそうだ。


「手を貸したのはフォーマルハウトか?」

「そうです。アイツに服従の固有武装で手伝いを命令しました」

「分かった。聞きたいことはそれで十分だ」

「動機とかは……」

「必要ない。聞いたところで何も変わらん」

「そうですか」


 いま分かるのは、とにかく未明子の人攫いが管理人にバレたと言うことだ。

 そしてこれから何らかのペナルティが与えられる。


 今までこんな風に誰かが管理人に拘束された経験なんて無かったからどんなペナルティが与えられるか分からない。

 でも警告なしでいきなり拘束されるからには、それなりに重そうなのは予想がつく。


 管理人がそっぽを向いたので、急いでスマホを取り出してグループラインにSOSを打った。


 何にせよまずはみんなに知らせなくてはいけない。

 夜明とアルフィルクは近くに住んでいるから数十分もあれば駆けつけてくれるだろう。

 それまでは何とかして時間を稼がないと。


「いやー思ったよりも早くバレちゃったね」

「三ヶ月間も気付かれなかったのにどうしていきなり気付かれたのかしら……もしかしてとっくに気付いていたのに泳がされていた?」

「そうかもしれないね。でもこうなった以上は大人しく罰を受けるよ。そもそも悪いのは私だし」

「でも罰の内容によっては抵抗するからね」

「うう……本当はやめてって言いたいけど、この前の約束があるから言えない」

「そうそう。こういう時にあの約束が生きてくるのよ。絶対私も巻き込んでもらうから覚悟しておいて」 


 私は未明子のパートナー。

 問題が起きて私だけ蚊帳の外なんてまっぴら御免だ。


 だからこそ、この後何が起こるか考えなくてはいけない。


 すぐに思いつくのはステラ・ノヴァの契約解除。

 もしくは戦う権利の剥奪。


 いえ、そんなのだったら全然いい。

 もし未明子を別のユニバースへ追放するなんて事になったら、それはもう看過できない。


「こちら9939号。応答よろしいか?」


 いつの間にか管理人がトランシーバーのような物を使ってどこかと連絡を取っている。

 そしてさっき未明子に確認していた内容を伝えていた。



 月の科学力は良く分からない。

 地球よりはるかに発達している筈なのに、今だにあんな端末を使って通信をしている。


 ステラ・アルマの怪我を癒すライトだって、もっと宇宙的な無駄の無いデザインに出来るだろうに、わざわざ古式ゆかしい形をしているのは何かこだわりがあるのだろうか。


 何にせよ管理人は月側の存在。

 報告ならば女神セレーネの組織と連絡を取っているのだろう。


「対象者はあと20分程で到着予定だ。到着次第拘束。拘束後にまた連絡を入れる」


 ……え?


 いまあの管理人はわざわざこちらに聞こえる声で何て言った?

 20分後に対象が到着?

 ここに転がっている未明子がその対象でしょ?


 考えられる理由は一つだ。

 他のメンバーが集まるまで。少なくとも夜明がここに来るまでの時間を稼いでくれている。


 つまり出来る範囲で庇ってくれているのだ。


 そう考えればさっき私が喋ろうとしたのを止めたのも、拘束相手を前にしてそっぽを向いたのも理解できる。


「セレーネさん。ありがとうございます」


 未明子も管理人のその態度には気づいたようだった。


「何の話だ? 拘束されるのが好きなのか?」

「いえ。何でもないです」

「ワタシは少しここを外す。いいか、その拘束はワタシ以外には絶対に解除できない。だから逃げるなよ? 頼むからそこで大人しくしていろ」

「はーい。大人しく転がってます」


 それだけ言うと管理人は奥の部屋へと姿を消した。

 

 もう間違いない。

 拘束した相手から目を離すなんて普通はありえない。

 間違いなくあの管理人は任務を遂行しつつ、こちらに有利な状況になるように動いてくれている。


「とんでもない管理人もいたものね……あなた達どれだけ仲良しなのよ?」

「私もちょっと驚いた。気にかけてくれてるとは思ってたけどここまでなんて」


 未明子は転がりながらも嬉しそうな顔をしていた。

 

 ……とは言え、ペナルティまでは避けられそうにない。

 あの管理人に月の組織の決定を覆すような力は無いからだ。

 危機的状況は変わらずである。




「みんなからの返信はあった?」

「全員既読がついてる。あ、マンション組はもう五月の車でこっちに向かってるみたい。梅雨空とムリファインも一緒だわ」

「あれ? 九曜さんの車って普通の乗用車だよね? 6人だと全員乗れなくない?」

「体の小さいムリファインはお膝の上か、荷物扱いで最悪トランクね」

「うへぇ……後で謝っておこう」

「夜明とアルフィルクもタクシーに乗ったって。流石にすばるとサダルメリクはちょっと時間かかるみたいね」


 それでも全員が向かってくれている。

 メッセージを打ってからまだ数分。

 こんなにすぐに動いてくれるのには感謝しか無い。


「さっきセレーネさんが連絡してたのって月の女神の方のセレーネかな?」

「アイツが(いち)管理人とやり取りするとは思えないけど、月の誰かではあるでしょうね」

「これでここにセレーネが来てくれたらそのまま倒しちゃうのに」

「もう完全にセレーネと敵対するつもりなのね。他の世界との戦いを勝ち続ける自信は無かった?」

「そんなことは無いけど私達が戦ってるのを見て楽しんでる奴がいるなんて悔しいじゃん。そいつを倒せばこの戦いは終わるんでしょ?」

「セレーネのゲームは終わるでしょうね。でもそうしたら増え続ける地球をどうするか考えなければいけないわ」

「そっか! 地球が増えるのとセレーネのゲームは関係ないんだもんね」

「そういう意味ではアイツの考えたこの戦いも無意味では無いんだけど……」

「だからと言って遊ばれてるのは嫌だな」


 当たり前の話だけどこれまでセレーネを倒した者はいない。

 挑んで敗北したのか、そもそも誰も挑戦はしていないのか。

 人の中には未明子と同じように考える者もいるだろうから、おそらく前者なんだろう。


 私と未明子ならアイツを倒せるのだろうか?

 この戦いを終わらせられるのだろうか?


 何にしたってこの窮地を脱しなければいけない。

 私がどうすべきかを考えている内に、仲間達がやって来た。


 

「未明子! 大丈夫なの!?」


 アルフィルクが駆け込んでくる。

 後ろには夜明とマンション組。

 ほぼ同じタイミングで到着したようだった。


「ごめんねアルフィルク。バレてたみたい」

「何その愉快な格好。心配して飛んできたら簀巻きで転がされてるなんて面白すぎるんですけど」

「ね。私も簀巻きの経験は初めてだからちよっと楽しい」


 未明子は縛られたままゴロゴロと転がって遊び始めた。

 その様子を見てみんなひとまず安心したようだった。


「さすが管理人、甘くは無かったか。それでこれから何が起こるんだい?」

「私もよく分からないです。でもセレーネさんはできる限り庇ってくれてるみたいです」

「アタシ達が来るまで待ってくれてたんでしょ? ならこっち側についてくれるんじゃない?」

「それをすると彼女も反逆者になるわね。一応立場上は月の指示に従ってるみたいよ」

「ふむ。その方がいいかもしれないね。管理人がこちらの味方をしたらこの世界ごと消されかねない。それよりは上手く立ち回ってもらった方が結果的に有利だ」


「いつの間にか勢揃いしてるな」


 騒いでいたのが聞こえたのか管理人が姿を現した。


 少し離れた場所から、さっき持っていた棒を杖のように携えてこちらを見ている。

 ただ見ているだけでこちらに敵対するような気配は無かった。


 夜明が前に出て管理人と対峙する。


「すばるくんとメリクくんはティータイムで少し遅れているがね。で、未明子くんはどうなるんだい?」

「まもなく月からの使者がやってくる。犬飼の処分はその者達が下すだろう」

「まさか殺されないよね?」

「それは分からん。月が今回の件をどの程度の罪と判断したかによる」


 その言い方だと絶対に殺されないとは言い切れないみたいだ。

 ベガのように管理人から罰を受けるのではなく、わざわざ月から誰かがやってくるならやはりそれなりに重い罪と考えた方がいい。


「セレーネさん。どうして未明子くんのやらかしがバレたか教えてもらえたりするかな?」

「ワタシも良くは知らない。ただお前達ではない別のステラ・アルマから密告があったそうだ」

「私達じゃないステラ・アルマ? もしかして攫ってきた未明子の世界にいたステラ・アルマってこと?」

「それは無いよ。選別は慎重にやったからどの世界にもステラ・アルマはいなかったと思う」

「じゃあ一体誰が?」

「……あの、私思うんですけど」


 稲見が小さく手を上げた。


「前にベガさんが来た時にお話に出てた、アケルナルって人がどこかから見てたとか無いですか?」

「アルタイル、どうなの?」

「まいったわ……全然あり得るわね。ひとところにあれだけステラ・アルマとステラ・カントルが集まれば補足されてもおかしくないわ」


 稲見の言う通りだ。

 アケルナルの目があるのをすっかり忘れていた。


 恐らくあの夜の事件を別のユニバースから観測していたのだろう。

 そしてそれを管理者に報告して成り行きを見守る。

 アケルナルの好きそうな展開だ。


「ちょっと! 全然安全なタイプじゃないじゃない!」

「本当ね。認識を改めるわ」

「まあバレてしまったものは仕方がない。それよりもこれからやってくる使者とやらの対応を考えなくてはいけないね。全員の方針を決めておこう。もし未明子くんの身に危険が及んだらどうするか」

「そんなもん全面戦争よ! どっちにしろケンカ売るつもりなんでしょ?」

「それは私のアテが外れたらって話だったんだが……稲見くんと梅雨空くんはそれでいいのかい?」

「私はみなさんがそのつもりなら構いません」

「私は良く分からないけど、この前聞いた話だとその月の勢力を倒した方が戦いが早く終わるんでしょ? じゃあさっさと叩き潰しましょうよ。ムリもそれでいいわよね?」

「え? 梅雨空がそれでいいならいいよ」


 基本的にこちらの方針に委ねてくれる稲見はいいとして、梅雨空までノータイムで賛成してくれるとは思わなかった。

 と言うか彼女だけはどうなろうとも月と戦う気みたいだ。

 仮に未明子への罰が穏やかに終わったとしても、月の使者に飛びかかっていかないか心配だ。


「承知した。すばるくんも同じ意見だし全員一致の認識で臨もう」

「……ありがとうございます」


 床に転がった未明子は簀巻き状態のまま頭を下げた。

 もともと決まっていた話だけど、改めてみんなが味方になってくれるのは心強い。


「お前達! 何を話しているのか分からんが一旦は犬飼の単独行動と言うことにしておけ! 最初から全員で敵対するなよ!?」


 管理人に怒鳴りつけられてしまった。

 ただ、怒鳴りつけてはいるけど内容としては忠告をしてくれている見事な味方ムーブに全員が微笑んだ。



 それと同時だった。



 展望ホールの大窓の前に、ユニバース移動の為のゲートが開かれた。


 管理人やフォーマルハウトが開くように、何もない空間にポッカリと開いたゲートはいつもより大きなサイズだった。

 使者は単独では無く大勢でやってくるのかもしれない。


 全員が未明子を囲んで身構える。

 私も未明子のすぐ横に座って何かあった時にはすぐに庇えるような体制を取った。


 やがて三つの人影が浮かび上がり、その人影がゲートから姿を現す。


 現れたのは白い軍服のような衣装をまとった三人組の女の子だった。


 本場の軍人が着ているようなカッチリとした軍服ではなく、長めのコートに紋様を縫い付けたようなデザインの衣装だった。

 前にすばるの家で見せてもらったミリタリーロリータに近いイメージだ。


 揃いの上着とブーツ。スカートだけは各々が違うデザインの物を履いていた。

 そして全員が腰に長剣を携えている。



 物々しい雰囲気をまとって現れたその三人は、ブーツをコツコツと鳴らし私達の前まで歩いてくると踵を鳴らして停止した。


 一人は稲見と同じくらい小柄な黒髪の少女。

 眠そうな目をこすりながらうつらうつらと立っている。

 彼女だけ帽子を被っているが、サイズが大きくて片目が隠れていた。


 反対側にいる一人はやたら猫背で人に媚びるような目をしていた。

 挙動不審で指を噛みながら私達をキョロキョロと見ている。

 

 その二人の間に立っている茶色いクルクルした髪の少女。

 立ち姿こそ美しいものの、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。

 他の二人に比べるとやたら短いスカートを履いていて、垢抜けた印象がある。


 少女は私達の奥に立っている管理人を見つけると高圧的な声で話しかけた。


「サルウェ。ここが9399世界で間違いないわね?」


 管理人はその質問に右手を胸にあて、敬礼のようなポーズを取りながら答えた。


「こちら9399世界で相違なし」


 9399世界。

 さっき管理人も口にしていた言葉だ。

 おそらく月による管理番号だろう。


 9,399個目の世界と言う事だろうか?


「了解した」


 少女は次にこちらを向くと拘束されている未明子を見た。

 簀巻きで転がされている姿が面白いのか、ニヤニヤした顔が更に歪みを増した。


「サルウェ。お前が犬飼未明子ね?」

「そうです」

「面白いことをやらかしたわね。別の世界から自分を集めて願いを叶えるつもりだったの?」

「そうです」

「当然それが違反行為なのは分かっているわよね?」

「はい」


 未明子は月からの使者の質問に素直に答えていた。

 元々罪悪感は持っていたし言い訳もない。

 彼女がここで反抗する理由は無かった。


「話が早くてよろしい。ではお前を月に連行する」


 そう言うと、クルクル髪の少女はコツコツと足音を立てて未明子に近寄った。

 

 それを見た五月と梅雨空が少女の前に立ち塞がる。

 少女は進行を邪魔され、冷たい目で二人を睨んだ。


「邪魔よ。どきなさい」

「待って。未明子ちゃんを月に連行してどうするの?」

「お前達には関係ない話だ。この件はそいつの単独行動なんだろ?」

「そうだけど、仲間を連れてくなんて言われて ”はいそうですか” なんて答えるわけないでしょ」


 絶対に道を譲らないという強い意志を感じる五月と、すでにケンカ腰な梅雨空。

 その二人に道を阻まれた少女は機嫌の悪そうな声を上げた。


「管理人! 話はついてるんじゃないの!?」

「生憎そこまでは分からない。ワタシは犬飼未明子の罪の確認と拘束までしか権限を持たない」

「ったく。それくらい臨機応変にやりなさいよね。仕事に忠実なのはいいけど私達の手を煩わさないで欲しいわ」

「あの。ちょっといいかい?」


 少女と管理人の話に夜明が割って入る。


「君達は月からの使者と伺っているけど、何か罪人を裁くような権利を持っているのかい? 見たところ三人とも地球人だろう?」


 その質問に少女がハッとしたような顔をする。

 そして道を塞いでいる二人から少し距離を取り、改めて姿勢を正した。


「そう言えば名乗るのを忘れてたわ。こんな事で呼び出されるのなんて久しぶりだしね」

  

 少女は腰に携えた長剣の鞘を左手に持ち、少しだけ持ち上げると(つか)に右手を添えた。


「我々は月の女神セレーネの命によりこの戦いの異物(イレギュラー)を討伐する部隊 ”セプテントリオン” である!」


 少女の名乗りと共に後方に控える二人も同じように柄に右手を添える。


「セプテントリオン・トレース。葛春桃(くずはるもも)!」

「同じくセプテントリオン・クアットゥオル。藤袴(ふじばかま)

「同じくセプテントリオン・クィーンクェ。黒馬(くろば)おみなえし」


 中央に立つ少女、葛春(くずはる)と名乗った少女が、腕を腰の後ろに回して片足をもう片方の足に揃え気をつけの姿勢を取る。


 後ろの二人もその動きに習い、さながら軍隊のような規律の取れた動きを見せた。


「私達には違反者を粛清する権利がある。よってその少女を拘束・連行するものである!」


 少女は厳しい表情でそう宣言した。



 セプテントリオン。

 私の知らない集団だった。


 私達が以前セレーネの元に攻め込んだ時にはいなかった者達だ。

 しかも彼女達は明らかに地球の子。

 セレーネとはむしろ敵対関係の筈だ。


 それを問いただそうかと思っていると、葛春桃が表情を崩しまた先ほどのニヤニヤ顔に戻った。


「まあ簡単に言うと私達はセレーネの私兵なのよ。だからアイツが管理者である以上、私達はあんたらを好き勝手できるってワケ」

「ボスを呼び捨ての上アイツ呼ばわりか。あまり褒められた部下では無いみたいだね」


 私が言いたかったことを夜明が代わりに言ってくれた。

 とても部下が口にするような言葉とは思えない。

 

「今はこの立場だけど私達も元々あんたらと同じだからね。仕方なく従ってるだけで別に好きじゃないわよあんな奴」

「ひぇ? も、桃さんそうだったんですか? 仲良くやってたみたいですけど……」

「うっさいわね! 上司の前ではヘコヘコするのなんて当たり前でしょ!?」

「ひッ! そっすね!」


 隣にいた藤袴(ふじばかま)と言う少女……少女よね? が威圧されて体をすくめる。

 この二人、どうも上下関係があるみたいだ。


 そしてその様子を見て与し易いと感じたのか、夜明はその藤袴の方に話しかけた。


「セプテントリオンの4番の子かな? 藤袴くん。セプテントリオンと言うからには君達は7人組なのかい?」

「ひっ……話しかけられた! す、凄いっすね。その通りです。セプテントリオンの名の通り、私達は北斗七星のステラ・アルマの契約者です。7人で任務にあたっています」

「ほうほう。他の4人はどうしたんだい?」

「今日は別の任務があって、そっちに言ってます」


 藤袴と名乗った少女は面白いくらいにペラペラと情報を話してくれた。

 彼女の喋り方はあの高圧的な少女に対してだけではなく、誰に対してもあんな感じらしい。

 ちょっと面白いわね。


「ちょっとフジバカ! 何でもかんでも喋ってるんじゃないわよ! 守秘義務!」

「ひッ! そうでした。ごめんなさい桃さん!」

「そこのお前も探り入れんな! 一緒に連れてくわよ!?」

「それは失礼した。ではこれだけ教えて欲しいのだが、未明子くんは月に連れていかれたあと無事に戻って来られるのかい?」

「はあ? そんな訳ないでしょ。本拠地に連れて行くんだからそのまま処分に決まってるじゃない」


 葛春桃がさらりと言い放つ。


 そうであって欲しくはなかった。

 だけどセレーネの私兵を呼び寄せてしまったのならそれくらいの扱いになるのは当然か。


 軽い罪ならわざわざ彼女達は現れない。

 重罪人を確実に連行する為の集団だろう。


 その言葉を聞いた私達は、この時点で覚悟を決めた。


 未明子の命がかかっているならこれ以上の探りは無意味だ。

 もう穏便な解決の道は無い。


 夜明が私達を見たので、全員で頷き返した。


「承知した。ではこちらからも一つ伝えたい事がある」

「はあ? 何よ一体?」


 夜明は不適な笑みを浮かべて一歩前に進んだ。


 そして葛春と名乗った少女に堂々とこう宣言した。


「私達は月に宣戦布告する」


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