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第88話 sleepland④


「こんなの本当に意味があるのか?」


 フォーマルハウトが机に置かれたメモをもう一度見返す。

 A4サイズの紙を二つに折りたたんだメモ紙にはアルタイルの字でこう書かれていた。


(部屋に誰もいない状態であなたが未明子としている事を話して)


 メモと言うにはあまりに大きな紙を机に戻すと大きくため息をつく。


「つまり独り言を言えってことだろ?」


 フォーマルハウトは自分の部屋の中を見渡した。


 別に録音機などが置いてあるわけでもないのでここで喋ったところで誰かに聞かれる事はない。

 仮に隣の部屋にアルタイルが潜んでいて壁に耳をあてて聞いていたとしても、こんな立派な建物だ。防音はしっかりしている。

 大声で話したところで聞こえはしないだろう。


 ではいつの間にか盗聴器がしかけられている?

 先日アルタイルがここに来てからフォーマルハウトは一度も外に出ていない。

 気付かれずにそんな物を仕込むのは無理のある話だ。



 フォーマルハウトが未明子から命令されたのは「私以外に今している事を伝えるのを禁じる」と言うものだった。

 会話は勿論、何かに書くのも、音で残すのも、仮に暗号にしたとしても伝えるという行為である以上能力は発動するだろう。


 だけど今は誰もいない状態。

 つまり何を話しても伝わりようが無いので服従の固有武装は発動しないのだった。


 誰も聞いていないのに話す意味があるのか分からなかったが、アルタイルにやると言った以上はやらざるを得ない。

 フォーマルハウトは床に座ってベッドに背中を預けると、部屋の天井を見ながら話し始めた。


「とりえあず言われた通りにするか……誰も聞いてないって分かってるのに独り言すんの恥ずかしいな。あー。あー。私はいま未明子と一緒にある悪だくみをしている」


 恥ずかしいのを我慢して話し始めたが何も変化は無い。

 自分の声が部屋の壁に吸い込まれていくだけだった。


 眉間にシワを寄せながらも話を続ける。 


「悪だくみと言っても私が言い出したんじゃない。未明子が言い出したんだ。ここに閉じ込められてすぐだったかな。血相変えた未明子がここにやって来た。私はとうとう復讐されるのかと思ってワクワクしていたんだが、未明子の口から出たのは ”お前に仕事ができた” だった」


「仕事の内容は簡単に言うと人さらいだ。敗北して消滅が確定した世界を見つけて、そこから一人さらってくる。さらってきた奴は別のユニバースのこのマンションに監禁する。その際、逃げ出さないように未明子が服従の固有武装の力を使って命令をかけるんだ」


「そうやって週に2~3人くらいさらってきては逃げ出さないように命令をかけて監禁していったんだ。ただその内問題が起こった。私のアニマが足らなくなったんだ。そもそも戦いの後で回復中だったからな。そんな状態でアニマの消費が激しい私の固有武装を連続して使用すれば、まあ尽きるわな」


「それ以来、未明子は私にアニマの供給をするようになった。未明子は何故か異常にアニマの供給量が多かったから私の普段の回復量と合わせればまあ何とかなった。そうやって未明子はさらった奴を監禁し続けた」


「さらう目的を聞いた時は相変わらずイカレてると思った。そもそも消滅する別のユニバースから人をさらってくるなんてルール違反だ。本人が希望したなら別だが、何も知らない奴を力ずくで連れてくるなんて完全に管理者を怒らせるような行為だ。私は止めたがそれでも未明子は続けた」


「人さらい自体にも驚いたが、その対象者にはもっと驚いた。私達がさらい続けているのは別の世界の犬飼未明子だ。こちらの世界の未明子が ”他の世界の自分なら、さらおうが命令しようが問題ない” と言い出したんだ。私はユニバースを飛び回り、消滅が決まった世界を見つけてはそのユニバースの未明子をさらった。だから今とあるユニバースは未明子大集合状態になっている。一つの部屋に10人くらい未明子がいるのは異常な光景だよ」


「これが私と未明子がこの三ヵ月やっている事だ。本当は姫や夜明に伝えて止めさせたかったが、服従の固有武装で口止めをされてしまって伝える術がなかった。さすがに暁のお嬢さんにそれとなく伝えるのは難しかったから、姫が来てくれて助かったよ」


 そこまで話したフォーマルハウトがもう一度部屋を見渡すが、やはり何も変化は無かった。

 思っていた通りただ独り言を言っただけだ。


「だから意味あんのかこれ? これで全く意味が無かったら流石に怒るからな? あれか? ベランダ越しとかで聞いてんのか? 聞こえないだろそんな所にいても」


 フォーマルハウトは念の為バルコニーに出る窓を開けて外を見た。

 部屋から出るなと命令をされているのでバルコニーには出られないが、隣の部屋のバルコニーを見るくらいはできる。


 だがそこには誰もおらず、冷たい風が吹いているだけだった。


「そりゃそうだよな。そこで聞けるならそもそも固有武装が発動するハズだもんな」


 いまの状態であればどこに居ようとも聞くのは不可能、とフォーマルハウトが認識しているからこそ話す事ができたのだ。


「……さっむ」


 バタン


 フォーマルハウトが冬の風に吹かれて顔をしかめていると、玄関のドアが閉まる音がした。

 

 アルタイルが部屋を出たあと鍵は閉めていない。

 誰かが勝手に入って来たのかと部屋の中を探すも、誰かが潜んでいる気配は無かった。


「何だここ。もしかしてタヌキでもいるのか? そう言えばタヌキに所縁のある土地だったな」


 独り言を言わされるわ、玄関は勝手に開いて閉まるわで、フォーマルハウトは訳が分からなかった。


 そのうえ夜風で体も冷えた。

 不機嫌になりながら今度こそ玄関の鍵を閉め、冷えた体を温める為にお湯を沸かし始める。


 稲見からもらった紅茶でも飲むかと紅茶缶の蓋を開けるとすでに茶葉は切れていた。

 この前未明子が来た時に全部使い切ったのを忘れていたのだ。



「……何やってんだ私?」


 みなみのうお座一等星のフォーマルハウト。

 寒い冬の夜に一人、自分の行動を顧みていた。 






 そんなフォーマルハウトの部屋の前。

 

 誰もいない空間にツィーが姿を現した。

 薄皮一枚隔てたユニバースから元のユニバースに戻って来たのだ。

 

 これは夜明の立てた作戦だった。


 アルタイルと一緒に姿を消したツィーにフォーマルハウトの部屋に入ってもらい、アルタイルだけが部屋を離れる。

 そして姿を消したまま誰もいないと思い込んでいるフォーマルハウトの独り言を聞く。


 その作戦は見事に成功した。

 

「あいつ……やっていい事といけない事の区別もつかなくなったのか」


 そう呟いたツィーは、いま聞いた内容を夜明達に伝える為にマンションを後にした。











 その部屋の中にいたのは、全員未明子。

 制服を着ている子もいれば、私服の子や、寝巻きの子までいる。


 ただ髪型だけは共通して髪を伸ばす前のショートボブだった。

 こちらの世界の未明子だけが髪を伸ばしているのはステラ・アルマに関わったせいらしい。


 その10人に及ぶ未明子は思い思いの場所を眺めながらブツブツとこう呟いていた。


「ミラが帰ってきますように」


 焦点の合わない目でただそれだけを繰り返している。


 アルフィルクの予想通りだった。

 普段あんなに優しく接してくれていた未明子が、裏側でこんな恐ろしい事をしていたなんて。



 部屋の中に他のメンバーもやって来た。

 最後にフォーマルハウトと未明子もやって来る。


 そこに広がる光景を見たメンバーは、一同に驚愕の表情を浮かべていた。


 しばらく誰も何も言えなかった。

 その中で最初に口を開いたのは未明子だった。


「何でバレちゃったんだろう? おかしいな。フォーマルハウトへの命令がうまく機能しなかったのかな?」


 さっきまでの顔色の悪さは消えていた。

 飄々とそう言った未明子は、部屋の中央までやって来ると別の世界の自分の前に座り込んだ。


「いいアイデアでしょ? 星に願いが届くなら、こうやって別の世界の私を集めてミラが帰ってくるように願えば星が叶えてくれるんだもんね」


 別の世界でも自分は自分という認識らしい。

 まるで物を見るような冷たい目で自分と同じ顔を見つめている。

 

 元々自分という人間に対しての価値を低く見ているのと、鯨多未来の部屋で見た ”ある物” が関係して別の世界から自分を集めるなんていう馬鹿げた行動に出たのだろう。


「でもまだ30人くらいしか集まってないんだよね。せめて1,000人くらいは集めたかったんだけどフォーマルハウトのアニマが続かなくてさ」

「だから血液の供給の話をしだしたの?」

「まあそれもある。鷲羽さん言ってたじゃん。血液が一番アニマが濃いって。なら唾液じゃなくて血の方がアニマの回復も早くなるかなと思ったんだよね」

「無理に決まってるでしょ……」

「そうかな? アニマの供給だけなら他にも手段はある。もし血でも駄目なら、ほら、前にやらかしちゃったんだけど、核にゲロ吐くとかね。あれはミラに申し訳ない事をしちゃったなぁ……」

「違う! アニマの供給の話じゃなくて願いの話よ! たった1,000人集めたところで星が願いを聞き入れるわけないでしょ!?」

「1,000人はただの目標だよ。別に人数を決めてるわけじゃない。ミラが帰ってくるまで何人だってさらってくるつもりだよ」


 長く伸びた髪の間から狂気を含んだ目が覗く。

 この目がいつも私を見るあの優しい目と同じとは思いたくなかった。

 

「みんなに内緒にしてたのは謝るよ。言ったら絶対止められると思ったからさ。ベガさんにフォーマルハウトと何かしてるんじゃないかって言われた時はドキッとしたよね。まさにその通りだったからさ。ベガさんにも悪い事しちゃったな」


 未明子がため息をついて立ち上がる。

 そして玄関に向かって歩き始めた。


「これは私だけがやっている事だからみんなには関係ないです。バレたらペナルティとかあるみたいなんで知らなかった事にしておいて下さい。フォーマルハウト、今日の目的の世界へのゲートを開いて」


 私達を無視して未明子はフォーマルハウトに指示を出した。


 流石にそれは見逃せない。

 まだ話は途中だしこんな事を続けさせては駄目だ。


 私が未明子を引き留めようと動いた瞬間、横からアルフィルクが走って来た。

 アルフィルクは未明子の前までやってくると勢いそのまま平手打ちをかます。


 パシーンと良い音が響いて未明子の顔が弾かれる。



「……やっぱりアルフィルクには殴られるか」


 未明子が叩かれた頬を撫でながら言うと、アルフィルクは間髪入れずに反対の頬を引っ(ぱた)いた。


 二度目の乾いた音が部屋に響く。

 

 一発目は予想していても二発目は予想外だったみたいで、両頬を殴られた未明子はポカンとしていた。


 その呆気に取られた顔に喝を入れるかのようにもう一発。

 最初に叩いて真っ赤になっている右頬に鋭い平手打ちが再度叩き込まれた。


 大振り三連撃の平手打ちを喰らった未明子はその場にペタンと座り込んだ。

 痛みに臆したと言うよりは、驚いて腰が抜けたみたいだ。


「馬鹿じゃないの!?」


 アルフィルクが座り込んだ未明子の首元を掴んで叫ぶ。


「こんな事してミラが喜ぶわけないじゃない!」

「アルフィルクはミラじゃないでしょ? ミラの気持ちを勝手に代弁しないでよ」

「こんな事するあなたより、私の方がよっぽどミラの気持ちを理解してるわよ!」

「じゃあそれでいいよ。これは私がミラに会いたくてやってる事だからアルフィルクには関係ないよ」

「友達が馬鹿な事をしてたら止めるでしょ!? それがそんなにおかしい!?」

「馬鹿な事やってる奴なんて放っておけばいいんだよ。アルフィルクの時間が勿体無い」

「よーし分かったわ。右と左どっちか選びなさい。選んだ方の頬が腫れるまで殴ってやるから」


 アルフィルクが腕まくりをして拳を握り込む。


 ヤバい。これは本気で殴る感じだ。

 もし未明子が素直に答えたら鉄拳が飛ぶのは目に見えている。

 いや、このまま黙っていても右の拳が今にも飛びそうだ。

 止めないと確定で未明子の顔がボコボコにされてしまう。


 私がアルフィルクの腕を押さえに動くと、同じようにすばると五月が動いた。


 すばるはアルフィルクを、五月は未明子を取り押さえる。

 遅れてしまった私もとりあえずアルフィルクを押さえた。


「アルフィルク。気持ちは分かりますが落ち着いて下さい。犬飼さんを殴ったところで状況は良くなりません」

「こんな捻くれた未明子は殴ってやらないと目を覚さないのよ!」

「目なら覚めてるよ。アルフィルクこそ目を覚ましなよ。もう一度ミラに会うのにこれ以外の方法は無いでしょ?」

「未明子ちゃんも煽らない! ちょっと落ち着こう。ね? 話聞くから!」

「あなたいつも私達を大切だって言うくせに肝心な事は相談しないわよね!? 本当はミラ以外なんてどうだっていいと思ってるんでしょ!?」

「そ……そんな……そんな事ない!! 私はみんなに迷惑がかかると思って黙ってただけだ!!」

「現在進行系で迷惑かけてんのよ! 何かやらかすにしても、どうしてまず私達を頼らないのよ!?」

「頼る!? 頼ったってどうにもならないでしょ!? ミラは死んだんだよ!? 頭を捻って死んだ人間が帰ってくるならいくらでも頭使うよ! それが無理だからこんな事してるんだよ!」

「死んだ人間はね! 生き返らないのよ! まだそれが分からないの!?」

「…………!!」


 そう言われた未明子が急に口をつぐんだ。

 まだ言いたい事はありそうなのに何故かそこで押し黙り、それ以上は口を開かなかった。


「死んだらそれで終わりなのよ……何をやったって……もう戻ってこないのよ……」

「アルフィルク。少し落ち着こう」


 興奮して肩で息をしているアルフィルクの元に夜明がやってくる。

 夜明がアルフィルクを抱きしめると、アルフィルクは夜明の胸に顔を埋めてすすり泣き始めた。


「狭黒さん……」 

「未明子くん。私は君のやりたい事を応援すると言った。だからこれが本当に君のやりたい事なら私は力を貸すよ」

「夜明さん!?」

「ざくろっち!?」


 夜明の言葉にみんな怪訝な顔をした。

 言われた未明子ですら神妙な表情を浮かべる。


「だからあまり遠くに行かないでくれ。せめて私達の手が届く範囲にいて欲しい。体も心も。そうでなくては私達が一緒にいるのは虚しいだけだ」

「……」

「アルフィルクの言った通りだ。どうにもならない事でもまず私達を頼って欲しい」

「これ以外にミラと会う方法は無い。狭黒さんだってそれは分かるでしょう?」

「まだ不可能だったという結論にぶつかった訳ではない。可能性が残っている内は考えるのをやめてはいけないよ」

「可能性は無いです」

「……では私があると言ったら君はこの場をおさめてくれるかい?」

「え?」


 夜明の口から衝撃的な発言が出た。


 鯨多未来を蘇らす方法がある?

 それはもしかしてステラ・アルマの復活の事を言っているのだろうか。


 確かにいずれ鯨多未来はどこかの世界に再構成されるだろう。

 でもそれは記憶を完全に失った未明子を知らない、言わば別個体だ。


 しかもその鯨多未来には別のパートナーを連れた敵として会う事になる。

 それは未明子が会いたい鯨多未来にはなり得ない。

 

「狭黒さん。今は冗談は聞きたくないです」

「私が冗談を言う……こともあるか。でもミラくんに関して冗談を言うほど野暮じゃないよ」

「無理です。ステラ・アルマの固有武装には死者を生き返らせる能力は無いと聞きました。そんな都合のいい話はありません」

「そうだね。私もその方法を考え出したわけじゃないよ。たまたま偶然、状況が揃いつつあるだけなんだ」

「どういう事ですか?」

「詳しい方法はまだ言えない。確証も無いのにここで自慢気に語ったらそれこそ未明子くんに怒られてしまうからね。だから今は可能性があるとだけ伝えておくよ」

「……それはどれくらいの可能性なんですか?」

「万に一つ」

「万に一つ…………死んだ人間に会うなんて不可能を考えたら随分と高い可能性ですね」


 未明子は目を閉じて考え出した。

 

 正直、夜明の言い分は信憑性に欠ける。

 未明子を落ち着かせる為の嘘かもしれない。

 

 そんなあるか分からない可能性に賭けるよりも、やはり自分で何とかすると言い出す可能性は高かった。

 もしそうなったら、もう力ずくで止めるしかない。


 周囲を見るとすばるはそれをある程度覚悟しているようだった。

 未明子の返答次第では飛びかかって締め落とすのも止む無しという顔をしている。

 

 後は夜明の言っている可能性と自分の気持ちを天秤にかけて、未明子が夜明を選んでくれる事を願うしかなかった。



 随分と長い時間考え続けた未明子がようやく目を開く。


「分かりました。では観念します」

「……ありがとう」

「でもそれは狭黒さんの言う可能性が実を結んだ時だけです。それが駄目だったら私はまた同じ事を繰り返します」

「未明子!?」

「ごめんね。アルフィルクの言った通りかもしれない。私はやっぱりミラが一番大切で、ミラ以外の人はどうしてもミラの次なんだ。これだけ私の為に考えてくれる狭黒さんも、私を怒ってくれるアルフィルクも、私を認めてくれる暁さんも、私に優しくしてくれる九曜さんも、私に喝を入れてくれるツィーさんも、こんなに私の事を好きでいてくれる鷲羽さんも、ここにいないみんなも、私の大切な人だけど、でもそれはやっぱりミラがいてこそなんだ」


 分かっていた事だけど改めて言われると心が痛む。

 でも私はそれでもいいから未明子と契約を結んだ。

 ここで嘆く権利は無い。


「起こった事を悲しんでいてもミラは絶対に帰ってこない。だから私はミラを殺した張本人のフォーマルハウトだって利用するし、別の世界の自分だって利用する。今この手の中にある可能性を全部使ってもう一度ミラに会うつもりです」

「……ミラくんが帰ってきた時に怒られるかもしれないよ?」

「前にも言ったと思いますけど、怒ってくれるなら私は嬉しい。もう一度怒られたい」

「管理者を敵に回すかもしれないよ?」

「じゃあ私は管理者と、セレーネと戦います」

「ふむ……」


 夜明も同じように目を閉じて考えだした。

 でも夜明はさして時間もたたない内に目を開けると、もう一度未明子に向き合った。


「では私は君の味方でいよう。褒められない手段を使ってミラくんに怒られた時、一緒に怒られてあげよう。そして一緒にセレーネと戦ってあげよう。だからまずは私の可能性を信じてくれ。それが駄目だった時に改めて君と一緒に星に願いを届けよう」


 狂っている。

 狭黒夜明も。


 だけどそれが嬉しくて仕方がなかった。

 夜明がどれだけ未明子を大事にしているか、それがよく分かった。


「ありがとうございます。それなら私はもう何も言いません。これ以上は何もしません」

 

 それだけ言うと、未明子は憑き物が落ちたように部屋のソファに座りこんだ。

 体力と気力を全て使い果たしたかのように顔に疲労が広がっていく。


 きっと未明子だって自分が恐ろしい事をやっているのは理解していたんだろう。

 それでも鯨多未来と会う為に無理をしていた。

 そこから解放されて張り詰めていた気持ちが途切れたのだ。


 ぐったりとした未明子の隣に夜明が座った。


「さて。ではここからは私も同罪だ。未明子くん一人で悩む時間は終わりだよ」


 夜明からの優しい言葉だった。

 一人で背負い込んでいた心には響く言葉だろう。

 でも夜明だけにそんな役目をやらせる訳にはいかない。


「私も同伴させてもらうからね」


 私は夜明と反対側のソファに座った。

 未明子の隣を独り占めなんてさせない。


「いいのかいアルタイルくん。まずはこの未明子くん達を何とかしなくてはいけないんだよ?」

「愚問ね。別の世界の存在でも私が未明子から逃げるわけないでしょ?」

「それもそうだね」


 私の好きな未明子はどの世界だって同じだ。

 例え私を好きになってくれなかったとしても大切な存在に変わりは無い。


「ずるいじゃない。夜明がそっちに行ったら私もそっちに行かざるを得ないわ」

「アルフィルクは何だかんだ甘いから勝手にこっちに来ると思っているよ」

「ほんっと自分勝手なパートナーだこと」


 アルフィルクもソファに座ろうとしたが、すでに定員いっぱいだったので、渋々夜明の隣に寄り添った。

 

「アルフィルク……」

「そう言えばいつぞやの戦いの時に借りがあったのを思い出したわ。今回はそれでチャラにしてあげる」

「あーそう言えばモスモスくんから守ってもらったね。忘れてた」

「夜明は忘れないでよ!」


 そんな事があったんだ。

 私の知らない未明子とアルフィルクの話だ。


「そういう意味で言えばわたくしも犬飼さんには借りがありますね」

「暁さん……」


 すばるがこちらにやってくるとソファの前に正座した。

 そこから未明子の顔を覗き込む。

 

「あの時わたくしの心を守ってもらったからには、今度はわたくしが犬飼さんの心を守る義務があります」

「あれはそんなつもりじゃ……」

「犬飼さんにそのつもりは無くともあの時どれだけ心が楽になった事か。それを考えれば一緒に悩むくらい何て事はありません」

「……ありがとうございます」

「アルタイル。何ですかその顔は?」

「別に何も言ってないじゃない」


 相変わらず、すばるはあの件をぶり返してくる。

 すばるはやらかした方なんだから困るのはそっちなんじゃないの?

 何で事あるごとに私の反応を窺ってくるのよ。



「え……えっとアタシは……」


 五月がアワアワと焦りだした。

 多分、何か未明子に借りが無いか思い出しているんだろう。

 別に無理して流れに乗らなくてもいいのに。

  

「アタシも未明子ちゃんには借りがある!」

「えっと……何かありましたっけ?」

「楽しかった!」


 多分、未明子的にはその言葉が嬉しかったんだと思う。

 暗く沈んでいた顔が少しだけ明るくなった。


「ミラちゃんが帰ってくればまたみんなで楽しくなるし! うん。だから私もこっち側かな」

「五月は何でそんなにいっぱいいっぱいなんだ」

「ツィーはどうするの?」

「私はミラにコイツを任されているからな。飼い犬が飼い主の元に戻るまでは世話しなくてはいかん」

「そうなんだ。……そうなの?」


 私達に聞かれても困る。

 鯨多未来とそういう約束をしてるのかもしれないけど、多分ツィーが勝手に言ってるだけだと思う。


「みんな……」

「管理人と戦うならここにいないメンバーにも話を通さなくてはいけないがね。まずはこのメンバーでどうするか考えるとしよう」


 凄い。

 未明子が今まで積み重ねてきたものがここに来てしっかりとみんなを繋いだ。


 正解を選ばなくとも。

 間違った道を選んだとしてもみんなで考えていける。

 一緒に悩んでいける。

  

 私はこのユニバースに来て良かった。

 大好きな未明子と大好きな仲間達とこんなに楽しく過ごせているのだから。


 この後何が起こったとしても、みんなで乗り越えていこう。







「よし。じゃあ綺麗にまとまったところでこのマンションにいる大量の未明子の処分を考えようか」


「「「「「「「お前が仕切るなッ!!」」」」」」」



 すみっこの方にいたフォーマルハウトがいつもの空気を読まない発言をして、全員から総ツッコミを食らった。



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