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第9話 それは はじまりの法則④

 ミラの操縦席は思った以上に操縦席だった。

 もっと生物的な内臓の中みたいなものをイメージしていたんだけど、漫画やアニメに出てくるみたいに、なんだかよく分からない計器類やレバーがついていて、目線の先は大きなモニターになっている。


 椅子に座ると心が安らぐように落ち着いた。

 ここがミラの中だからだと思う。

 機械的な操縦席なのに、どこかミラの匂いがした。


『椅子にベルトがついているからそれで体を固定して? 固定できたら左右にある操縦桿を握ってほしいの』


 ミラの声が響く。

 この中だったら普通に会話できるみたいだ。

 私は椅子から出ているベルトを締めると、操縦桿を探した。

 左右のちょうど握りやすそうな位置にレバーがそれぞれ出ている。


「これかな?」

『……ん』


 なんかつやっぽい声が聞こえたんだけど。


「ミラさん?」

『……私も誰かに乗ってもらうのは初めてだから、慣れなくて……』


 そんな声が出るようなところを握って大丈夫なんだろうか。

 とは言え操縦桿というからにはここを握らないと操縦できないんだろう。

 私はなるべく力を込めない様にそっとそのレバーを握った。

 レバーを握ると、前方のモニターにが入る。


『操縦と言っても、それを握ったまま私を動かすイメージを持ってもらえば、未明子の思った様に動くことができるわ』


 それは非常に助かる。

 こんな計器類とか何を表しているのかさっぱりだし、どのボタンを押せばどうなるかなんて全然わからないので、一番心配していた操縦に関しての不安が消えた。

 しかしそうなると、このゴチャゴチャした見た目ってほとんど演出みたいなもんなんだなぁ。

 

 モニターにはさっきいた場所の街並が映っている。

 試しに少し動いて見ようと頭の中でイメージしたら、自分で動くのとほとんど変わらないように動かすことができた。

 首の向きを変えてみんなの方を見ると、九曜さんがこちらに向かって手を振っていた。


「アタシ達は観戦用のユニバースに移動するから、怪我しないように頑張ってねー!」


 そう言うと、再び光の入り口が現れて4人ともその中に入っていった。

 良かった。あそこに4人がいたままだと動くのにも気を使うところだった。

 私達と狭黒さん達しかいないなら、多少無茶をしても大丈夫だろう。

 

 ……。

 ところでその狭黒さんとアルフィルクはどこに行ったんだ?

 二人を探して周囲を見渡してもどこにも見当たらなかった。

 あんなに巨大なものを見失うなうなんて。


 ガァンッ!


 大きな音とともに右側から大きな衝撃を感じた。

 その衝撃でミラがよろめいたらしく、モニターごしの視界が斜めになる。


「ミラ!? 大丈夫?」

『アルフィルク達、容赦ないね。いきなり撃たれちゃった』 


 撃たれた!?

 アルフィルクが持っていた銃で撃たれたのか。

 こっちはまだ状況把握をしているところだったのに、いつの間にか開戦していたらしい。


 納得いかない気持ちはあるもののすぐに切り替える。

 私は右側が建物の陰になるようにミラを移動させた。


 頭で考えだけで動けるのは本当にありがたい。

 レバーを右に動かして、左に動かしてとか言われても正確な動作なんてできる訳がない。

 そもそも私はそういうのが苦手なのだ。

 

 逆に言うと、頭で考えられない場合は動けないと言うことでもある。

 動揺したり、他ごとを考えていると、それがそのまま動きにフィードバックされてしまうのだ。

 頭は冷静に。状況をしっかり読もう。


『未明子、大丈夫?』

「大丈夫大丈夫! 思ったより難しくない。それよりごめんね。ミラが怪我しちゃった」

『ううん、あれくらいなら全然大丈夫だよ』


 大丈夫と言われても、大事な人が傷ついていることには違いない。

 ミラを傷つけられて私は頭にきていた。

 撃たれた時は少し怖いと思ったのに、今は逆にやり返してやろうと言う気持ちが強くなっている。

 いくら美人コンビといえども、私のミラを傷つけられるのは我慢がならない。


「ミラが持ってる武器のことを聞いてもいい?」

『うん。私のステラ・アルマとしての武器の名前は ”ファブリチウス”。右手に持ってる長距離射撃武器だよ』

「えっと、スナイパーライフルだっけ? あんな感じの銃かな」

『そうそう! 普通の銃では届かないような遠距離から攻撃することができるの。このユニバースだと戦闘領域の端から端までは届くと思う』


 それは最強なのでは? 

 じゃあその戦闘領域の端まで行って、そこから撃ち続ければ簡単に勝てるのではと短慮してしまう。


『でも真っ直ぐしか撃てないから、射線をずらされたり、建物の陰に隠れられると当てるのは難しいと思う』

「そりゃそっか。でもうまく当てたら相手を倒せるくらいの威力はあるの?」

『アルフィルクは3等星だから、直撃したら一撃で倒せると思う』

「つっよ! 等星の差って凄いんだね」

『その差を補うのがステラ・カントルだよ。狭黒さんはステラ・カントルとしては私達の中で一番強いから、油断してると簡単にやられちゃう』


 あの人、やっぱり言うだけあったか。

 しかも頭を使って戦うタイプっぽいから、こちらも作戦を立てないとまずい。


『もう一個ファブリチウスには特性があって、砲身を中央から畳むことが出来るの。そうするとそこにも銃口がついてて、そこからは威力の高い広範囲の攻撃が出来るわ』

「砲身を畳む? あ、確かに真ん中から折れそう」


 ミラにファブリチウスと呼ばれた武器を見ると、銃の中央あたりに取っ手がついていて、そこを軸に折り畳むことができそうだ。


『その代わりに射程は短いけどね。長距離一点射撃と、近距離広範囲射撃のモードチェンジ出来るのが私のステラ・アルマとしての固有武装なの』


 長距離と近距離を使い分けることが出来るのは戦術の幅が増えるな。

 特に近距離攻撃は、相手に知られていないなら奇策になる。


「ところでステラ・アルマの固有武装ってことは、アルフィルクにも固有武装があるってこと? なんかたくさん武器がついてたけど」

『アルフィルクの固有武装は、武器そのものじゃなくて、武器を数多くマウントしておける全身のウエポンラックなの。右手のアサルトライフル、腰のガトリングガン、それと脚についてるクレイモアっていう弾がたくさん出てくるお部屋みたいなのと、肩にも爆弾がしまってあるわ』


 ミラの説明が何かかわいい。

 弾がたくさん出てくるお部屋かぁ……いや怖いなその武器!


『後でまた説明があると思うけど、戦いで勝つと誰でも使える武器を購入できたりするのよ。アルフィルクの使ってる武器は、そうやって買い増やしたものなの』


 なるほど。そうやって増やした武器を全身に装備できるのがアルフィルクの固有武装ってことか。

 と言うことは、もしかしたらミラの知らない武器を隠している可能性もある。


『確かまだ余裕があるはずだから、後でお買い物しようね』


 私の彼女は戦闘中でもホニャホニャしていて癒される。

 いや、いかんいかん! 絆されてる間にやられてしまっては元も子もない。

 

 あれから動きのない美人コンビの動きを探るために、建物の陰から様子を伺った。

 当たり前だけど見える位置には姿は無い。

 攻撃された方向を警戒したいけど、すでに別の場所に移動しているかもしれない。

 自分の武器の特性的にも、少し距離を取った方がいい気がする。


「ここに隠れていても有利にはならないから、ちょっと移動するね」

『分かった!』


 勢いよく建物の陰から出ると、さきほど攻撃された方に銃を向ける。

 銃を向けたまま警戒しつつ反対方向に移動する。

 試射を兼ねて牽制で一発撃っておくか? 

 うまくいけば相手の反応が見られるかもしれない。


 いや、効果が見込める以外に手の内を明かしちゃ駄目だ。

 ただでさえ狙撃系と目星をつけられているのに、威力を見せてしまったら対策を取られる。

 ここは温存してチャンスを待とう。



 ブロック1つ分くらい移動した所で、再び建物の陰に姿を隠す。

 相手の動きは無いけど絶対何か狙ってる筈だ。


 そしてここでようやく自分に違和感を感じた。



 私、なんでこんなに戦略的に動けてるの?



 戦いなんてまったくの素人なのに、こんなに状況判断ができるのおかしくない?

 何だ試射を兼ねて牽制で一発って。私のどこから出てくる台詞なの? 人生で一回も口に出したことないよ。


「ミラ。何か私おかしい。戦いに関してやたら頭が回るようになってる」

『あ、気付いた? それはステラ・アルマに搭乗することによって身につく能力なの』

「どういうこと!?」

『未明子の力が私に流れ込んでるように、私の力も未明子に流れ込んでいるの。その一つが戦闘思考能力の補助。未明子がいま効率的に動けているのは、それによって戦いに関する視野と判断力が向上しているからなのよ』


 ステラ・アルマ何でもありだな!

 そう言えば操縦席に乗り込んだ時も、普段だったら車のシートベルトでさえ苦戦する私が、何の苦もなくベルトを締めていた。あの時からすでに効果が出ていたってことか。


「ひぇ。こうやって自然と戦いに身が染まっていってしまうのか」

『私はどちらかと言うと、無茶な操縦で怪我をしたり、間違って味方を攻撃しちゃわないための防御的な能力だと思ってるよ』


 それは言いえて妙だと思った。

 攻撃的な意味でも優位に働く能力ではあるけど、下手な動きをしないというのはとても大切な防御能力だ。

 もしこの能力がなかったら、最初の攻撃を受けた時に慌てて転倒していたかもしれないし、隠れようと思って建物に激突していたかもしれない。

 それに攻撃だって、何も考えずに当たらない攻撃をやたらめったら撃ちまくって状況を悪くしていた可能性が高い。

 もし模擬戦じゃなくて実戦だったら味方を巻き込む最悪の行動になる。

 車だって、早く走ることよりもルールを守って安全に走ることの方が遥かに大切だ。

 そう考えると、この能力は何よりも必要な能力に思える。


『でもあくまで補助をするだけだから、今うまく動けているのは未明子の能力によるものが強いと思うよ』


 そうなのだろうか。

 でも私はただの女の子好きの女子じょしで、特別運動能力や判断力が高い訳でもない。

 私の普段持っている能力を伸ばしたところで、こんなにうまく戦いに活かせるとはとうてい思えなかった。

 もしかしたら前世は凄腕のスナイパーだったんだろうか。それならあの動きにも納得がいくのだが。


 ……あ!


 私は一つの事実にたどり着いてしまった。

 まいった。おそらく間違いないと思う。


 いま強く出ている私の能力の正体、それは



 毎日毎日ミラのことを覗き見ていた観察力だ。



 授業中でも、休憩時間でも、下校時でも、ミラがいれば気づかれないように彼女のことを見ていた。

 距離を置いて後をつけたり、あるいは建物の陰に隠れたり、まるでストーカーのようにミラを見ていた。

 いまこんな事を考えているんじゃないか。

 友達ときっとこんなことを話しているんじゃないか。

 こういう事が好きそう、嫌いそう。

 そんな風にミラに関することを無限に考えていた。

 

 それがいま、戦闘思考補助という能力の助けをかりて、戦いにおける相手の動きの予想と立ち回りに活かされているのだ。


「あー! 私ってやつは! 私ってやつは!」

『ど、どうしたの未明子! 大丈夫?』


 ミラに心配してもらうのも情けない。

 ただ私の陰湿な性質が出ただけだったとは口が裂けても言えなかった。

 

 でもこれで納得はできた。

 しかも自分の中で言っちゃあ悪いが自信があって、信頼できる能力だ。

 ミラには言えないけど強い武器が私にもあったのだ。


「大丈夫! 私の能力とミラの能力は相性がいいことが分かった」

『そうなんだ。でも私はずっと分かってたよ』


 そう言ってもらえると嬉しい。

 やっぱり私の彼女は最高だ。

 じゃあここはやっぱり、いいところを見せてミラにも私のことを最高だと思ってもらわなきゃ。


 そう思っていた矢先、ガガガガガ! という嫌な音が耳に入ってくる。


「おわわわわわ! なんだ一体!?」

『攻撃されてる!? 位置がバレた!?』


 建物の陰から顔をだして周りを見ると、少し離れた場所に激しい銃撃が加えられていた。

 しかもその攻撃はだんだんとこちらに近づいてくる。


「掃射!? ガトリングガンか!」


 アルフィルクの腰にマウントされていたガトリングガン。

 あの連続で弾を撃ち出す銃は、掃射と言われる攻撃に適している。

 ある程度の場所を定めてそこからなぎ払う様に撃つことで、逃げ場なく射撃を加えることができる。


 このままだとすぐにこの場所も攻撃される。

 ここにいてはダメだ!

 私は建物の陰から出ると、繰り出される射撃と反対方向に逃げだした。


 少し離れた場所にアルフィルクの姿が見える。

 腰にマウントされていたガトリングガンが前方にスライドして、それを左手で構えながらあたり一帯を撃ちまくっている。


 向こうもこちらに気づいたようだ。

 まんまとおびき出されてしまったが、逃げながらだとこちらからは撃つことができない。

 どこかで止まって狙いをつける必要があるけど、少しでも走るのをやめてしまったら蜂の巣にされてしまう。


 まてよ。

 あの角度の攻撃だったらもしかして……。

 私は走りながら背の高いビルを探した。


 するとすぐ側に手頃な高さのビルがあったので、そこに足をかけ、一気に大きくジャンプした!



 アルフィルクはこちらを見上げているが、ガトリングガンではこの高さを狙うことが出来ない。

 もし狙うなら、姿勢を変えてガトリングガンを構えなおす必要がある。

 その一瞬のスキがあれば十分だ。

 いける!

 空中でアルフィルクに狙いを定め、ファブリチウスの引き金に指をかける。


 するとアルフィルクは姿勢を変えることなく、待ち構えていたように右手に持っていたアサルトライフルでこちらを狙ってきたのだった。


「やられた! 本命はそれか!」


 こちらが狙いをつけるよりも早く、アルフィルクのアサルトライフルが火を噴く。

 私はとっさにファブリチウスを顔の前に掲げて防御姿勢を取る。


 ゴゴゴッという耳障りな音と共に、3発の攻撃が命中した。


「わぁああああッ!」

 

 被弾の衝撃を受け、爆煙に巻き込まれながら落下する。


 たいした高さではなかったが、地面に叩きつけられて轟音があたりに響いた。

 さらに落下の衝撃によって周囲の建物が崩れていく。



「おやおや! こんな単純な攻撃に引っかかるとは!」

『そうそう簡単に逃げられる訳ないでしょ!』


 立ち上った土煙の向こうから美人コンビの声が聞こえてきた。

 アルフィルクだけじゃなく、狭黒さんの声を出すこともできるのか。

 

 体が固定されていたとは言え、衝撃で私自身もダメージを受けた。

 でも実際に攻撃を受けたミラのダメージはもっと大きいはずだ。

 体の痛みと悔しさで体を起こすのも辛い。

 だけど……!



『ふん。やっぱりその程度の覚悟だったのね』

「ハッハッハ! このまま一方的に攻撃を加えて終わりとさせてもらおうかな」


 ゴッッッッッッッッ


 すでに勝ちが決まったかのように騒ぎ立てる声の主のすぐ横を、高速で赤いビーム状のエネルギーが通りすぎる。

 そのビームは、射線上の建物を巻き込んで破壊しながら、遥か遠くの丘に着弾して大きな爆炎をあげた。


 地面に叩きつけられながらも、声のする方に狙いをつけてファブリチウスを発射した。

 惜しいな。もうちょっと左を狙っていたら直撃していたのに。

 それにしても思っていた以上に破壊力がある。これは確かに食らったらタダでは済まない威力だ。


「ダメージを立て直す前にそのまま攻撃してくるとは……本当に君、初心者かい?」


 狭黒さんの声に、今までにない焦りが混じっているように感じた。

 その焦りを与えることができたなら、効果の高い一撃だったと思おう。


 私は周りの壊れたビルを支えに立ち上がると、改めて美人コンビの方に向き直る。


「ミラ。私の声も外に出せる?」

『いいよ。そのまま喋って』


 土煙が完全に払われて完全にアルフィルクの姿を捉えると、私はそこに向かってビシッと指を差す。


「とりあえず挨拶の一撃です! 初心者だからってなめてると、綺麗な顔に怪我しますよ!」


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