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第84話 まちカドで見つけた 大事な宝物⑥

 この訓練用のユニバースに来てから十分ほど経過した。


 それはつまり羊谷梅雨空がムリファインに乗ってからまだそれだけの時間しかたっていないと言う事だ。


 そして二つの固有武装を使ってみて自分がいかに物騒な武器を持っているのかも理解したはず。


 その上で戦ってみたいと言うのだから、彼女はやはりステラ・カントルとしての素質は高いのかもしれない。



『いきなり殺意を持った相手と戦うより、初戦は未明子が付き合ってあげた方がいいんじゃない?』

「私は別に構わないけど……」

「やった! せっかくなら戦ってみたかったのよね。ムリもいい?」

『大丈夫だよ』


 最初に会った時は戦いなんて御免だと言っていたのにすっかり乗り気になっている。

 何とも血の気の多い性格だ。

 そのあたりもアルフィルクと同じ空気を感じる。


「じゃあ実戦形式でやりましょう。こっちは慣れてるのでソラさんは好きなように戦ってみて下さい」

「分かったわ。胸を借りるつもりでやらせてもらうわね!」


 未明子は数々の戦いをくぐり抜けた経験者だ。

 さらに(アルタイル)に乗っている以上、戦士の中でも上位の強さを持っている。

 今さっきステラ・アルマに乗ったばかりの新人など相手にもならないだろう。


 そんな戦力差があるのだから夜明との模擬戦のように一方的にならないようにしなくては。



 羊谷梅雨空は中央通りを歩いて行くと、50メートルほど離れたところでこちらを振り返った。


「わし座のアルタイルって言うくらいだから、その背中の翼が飾りってことは無いわよね?」

「そうですね。何ならこちらの手の内も晒しましょうか?」

「別に構わないわよ。いざ戦いになったら相手がどんな強さなのかなんて分からないものね」


 間違いなくステラ・アルマでの戦いは初めてのハズなのにまるで経験者のような口振りだ。


 よく見ると立ち姿にも隙がない。

 完全な素人とは思えなかった。


『もしかしてあなたも武術経験があるの?』

「そんなの無いわよ。ただ小さい頃から面倒な連中に絡まれる事が多かったから、荒事には慣れてるかもね」


 なるほど。

 確かにあの性格は面倒に巻き込まれやすそうだ。


 戦闘経験はなくても修羅場を切り抜けてきた経験が彼女の立ち姿に現れているという事らしい。

 ステージ上での胆力もそういうので培われてきたモノなのかもしれない。



「じゃあ行くわよ!」


 羊谷梅雨空が掛け声をあげ、突進してきた。

 

 姿勢良く、重心をやや前に持っていき一歩一歩を軽やかに踏み込む。

 体の動きをイメージ通り操縦に反映させる初心者とは思えない走り方だった。

 

 距離20メートル……10メートル……。

 

 そして数メートルまで近寄ったところで強く一歩を踏み込むのが見える。


『未明子!』

「分かってる!」


 未明子は背中の翼を広げると、後方に加速した。


 このまま接近戦に付き合ってもいいが、彼女の戦い方が分からない以上まずは様子見が正解。


 羊谷梅雨空は読み通り左足で地面を蹴ると、こちらに飛び込んできた。

 そして右手の武器の先端に備え付けられた刃物を槍として突き出してくる。


 あのセプテムとか言う武器、換装無しに射撃にも近接攻撃にも使えるのは厄介だ。


 槍の突きを回避して、腰にマウントされているサーベルを取り出す為に腕を後ろに回す。


 こちらのその動きに合わせて


「そおりゃあッ!!」


 羊谷梅雨空は手に持った槍を投げてきた。


「ええっ!?」


 相手の突きに対応する分しか後退していなかったせいで、円柱状の槍があっと言う間に目の前まで迫る。

 その槍をかわすために、未明子は右側に急加速した。


 予想外の動きをした為に少しバランスを崩すもギリギリ回避には成功。

 槍は体のすぐ横を風を切って飛んで行った。


「いきなり武器を投げるなんて威勢良すぎない!?」


 未明子の驚きも尤もだ。


 今の攻撃で仕留められるならその選択もありかもしれないが、敵の能力も分からない内から唯一の武器を投擲するのはリスクが高すぎる。

 実際彼女はこれで攻撃手段を失ってしまった。


 だが、羊谷梅雨空の攻勢はここで止まらなかった。


「まだまだぁッ!!」


 彼女は着地と同時にもう一歩踏み込んでくると、今度は左手を突き出してきた。

 その左手は赤く禍々しい光を纏っている。


『あのやばい左手! 避けて!』


 あの左手は触れたものを元の状態に戻す。

 もし直接食らったら体がどうなるか分からない。

 少なくとも装甲が破壊されるのは間違いないだろう。


 つまり槍の投擲はおとりで、こちらが本命!


 左手を避けるためにもう一度後方に加速する。


 さっきの急な加速でバランスを崩していた為に、この加速では思ったように距離を取れなかった。

 でも左手を避けるくらいならワケはない。 


「いや違う! これもおとりだ!!」


 未明子が何かに気付いて叫んだ。


 左手を突き出している羊谷梅雨空を見ると、右手に何か丸い筒のような物を持っていた。


 あれは何?

 さっき聞いたムリファインの武器は二つ。

 右手の槍と左手の還元フィールドだけのはずだ。 


「こっちが本命よッ!!」


 羊谷梅雨空は右手にもった筒のような物を放り投げてきた。


 こちらに迫ってくるその形状を見てようやくそれが何かを理解した。


 擲弾だ。

 セプテムから発射する擲弾を放り投げてきたのだ。


 さっきの爆発を見る限りあの擲弾は着発信管。

 衝撃で爆発するタイプの弾丸だ。


 誤爆しないように耐衝撃用のカートリッジにしまっていた予備弾丸を直接投げつけてきた。


 あの弾が直撃しようものなら大ダメージは免れない。

 防御に失敗したら腕が吹き飛ぶ威力だ。

 絶対に回避しなければいけない。


 だけど二度加速した直後で体勢が悪い。

 回避の為にここからもう一度加速するとコントロールを失うリスクがある。

 最悪自分の加速によって地面に叩きつけられる可能性もあった。


 それは未明子も理解していたようで、回避という選択肢は潔く捨てた。


 代わりに背後に回した右腕を振りかぶる。

 腰にマウントされていたサーベルを取り出し、飛んでくる擲弾を真っ二つに切断したのだった。


 切断された擲弾は目の前で爆発した。


 それを咄嗟に腕をクロスしてガードするが、爆風を完全には防ぎ切れずに吹き飛ばされてしまった。

 だが直接命中させられるよりは遥かにマシだ。



 吹き飛ばされ地面に叩きつけられる前に、空中で小さな加速を連続して体制を直す。

 うまくバランスを立て直す事に成功すると、更なる追撃を避ける為にもう一度後方に加速して十分な距離を取った。

 

 

 爆発をガードした腕を見ると、両腕の装甲がボロボロになっていた。

 それに体の装甲もやや焦げ付いている。


「鷲羽さん大丈夫!?」

『け、結構深いダメージを受けたわね。でもあの状況での防御としては正解よ』


 まさか最初の攻撃からあんな大胆な攻め方をしてくるとは思わなかった。

 どういう思考回路なら予備の弾を投げつけてやろうという発想になるのだろうか。


 だがあんな近距離での爆発、仕掛けた方もタダでは済まないはずだ。



 爆発地点から発生した黒い煙が晴れて行く。


 煙の向こうには左手を前に突き出したムリファインの姿があった。

 予想通りあっちも被害を受けたようで、下半身の装甲がボロボロに焦げていた。


 ただ左手を中心に上半身はほぼノーダメージの様に見える。


「ちょっとムリ! 爆発が無効化できなかったんだけど!?」

『だからわ……ボクの左手は無効化するんじゃなくて、元の状態に戻すだけなんだってば!』

「爆発を元の状態に戻せるんじゃないの!?」

『爆発の元の状態って何さ!?』


 どうやら左手の能力を使って爆発で発生する効果を無効化するつもりだったらしい。

 

 聞くだけなら突飛な発想のように思えるが、結果だけを見れば左手から発生するフィールドでかなりの範囲を防げている。

 今の攻防に関してはあちらもある程度の正解を叩き出しているのだ。

 

『あんな捨て身の戦法、どうやったら思いつくのよ!?』

「ソラさんのこれまでの人生を想像したくないね……」


 私と未明子は呆れてしまった。

 

 でもはっきり言って恐怖を感じる攻撃だった。

 槍の投擲も、左手の奇襲も、その後の擲弾の直接投擲も、私の加速力と装甲があったから何とかなっただけだ。 

 判断を少しでも間違えたら十分敗北もあり得た。


 羊谷梅雨空とムリファインは成果についてギャアギャアと言い争いをしながら投げ捨てられたセプテムのところまで歩いて行った。

 そして落ちていたセプテムを拾い上げると、グルグルと手の中で回転させてこちらに突き付ける。


「いまのはちょっと失敗したけど、次は絶対あてるからね!」


 その言いように軽くめまいを覚えてしまった。

 ちょっと間違えば自分にも被害が及ぶような危険な戦い方をしたのに全く応えていない。

 次はもっと酷い目に合わせてやるからな、と言ってるように聞こえた。

 

『な、何あのバーサーカー!? 怖いんだけど!!』

「ソラさんまさかの戦闘特化型の人だったかぁ」  

 

 これはとんでも無い人物が仲間になってしまった。

 おそらくモニターで観戦している拠点のメンバーも同じ事を感じているだろう。

 

 今回は物騒な戦いにはならないと安心していたのに蓋を開けてみればお互いすでにボロボロだ。


 未明子の時もそうだったみたいだけど、模擬戦ってもう少し平和にできないものなのかしら……?











 羊谷梅雨空の戦術はシンプルだった。

 とにかく攻める。

 

 セプテムのリーチを活かした素早い槍撃。それに蹴りを併用した体術も使っていた。 

 考え得る限りの攻撃を繰り返し攻め続けるのが彼女のスタイルのようだ。

  

 だが冷静に見極めればそこまで複雑な攻撃ではない。

 フェイントなどもかけてこないのでかわす事はできる。

 これに関しては彼女の戦闘経験の無さが出てしまっていた。


 こちらの攻撃に対しての防御は更に雑だった。

 無理なく回避できる時は回避するが、そうじゃない時は体で受け止めていた。

 つまりダメージを受けながら反撃してくる。


 私からすると信じられない戦い方だ。

 状況を分析して有効打を打つわけでは無く、攻撃が有効打になるまで打ち続けるという戦い方だ。

 自分が受けるダメージを減らす事よりも相手にダメージを与える事を最優先にしている。 


 しかも困った事にどんどん動きが鋭くなっていく。

 今や槍の攻撃を回避するのに加速が必要になってしまった。


 フェイントなしのただの攻撃を加速で回避しなくてはいけなくなるなんて、羊谷梅雨空の潜在能力はどれほどなんだろうか。


 だけど、彼女のスタイルはステラ・アルマの戦い方としては相性が悪かった。


「あんなに全身の力を使って動いたらアニマ切れになっちゃうね」

『そうね。おそらくあと3分もしたらアニマ切れで決着じゃないかしら』 


 素早い動きをするには操縦者がそう動けるようなイメージが必要になる。

 そのイメージ通りの動きをステラ・アルマがすればその分エネルギーを消費していく。

 五月のように動きの無駄を省ければいいのだが、いまの彼女の技量ではそこまでは無理だ。


 ムリファインは2等星。

 平均内蔵アニマを考えればそろそろガス欠になる頃だった。 


「くそ! やっぱり翼持ちは早いわね。こちらの攻撃があたらないじゃない!」

『いやいや梅雨空。初めてでここまで動ければ良くやった方だよ』

「私達は良くやったじゃ駄目なのよ! 常に成果を出していかないと駄目なの!」


『彼女、何にでも全力で立ち向かうのがモットーみたいね』

「うん。かっこいい」


 あの日ステージで彼女を見て、今日戦ってみて。

 羊谷梅雨空はアイドルだろうと戦いだろうと、何かをやる時は常に全力なんだと分かった。


 いまこの瞬間だけが勝負。 

 次に頑張ればいいなんて発想は無いみたいだ。


 その姿勢には尊敬を感じる。


「じゃあエネルギー切れで決着はちょっと消化不良かもしれないね」

『未明子?』


 未明子は後方に二度加速すると、今度は上空に向かって加速した。 

 空に飛びあがり相手を上空から眺める位置を取る。

 

 そこでアル・ナスル・アル・ワーキを展開した。


『撃っちゃうの!? 大丈夫!?』

「直撃はさせないようにするよ。でもこの攻撃でソラさんとはキチンと決着をつける」


 6つの砲身が一斉に羊谷梅雨空に向けられる。


 もしこの攻撃が直撃したら大ダメージを与えてしまうだろう。

 未明子はそれを技量で何とかするつもりのようだ。


「お! その攻撃カッコイイわね。左手のでっかい針みたいなのが切り札かと思ったら、そっちが本命なのね」

「ムリちゃんの左手でこの攻撃も元の状態に戻せるんですかね?」

「さあ? でもそっちがその気ならこっちもそれなりの覚悟で迎え撃たないとね」


 こちらの固有武装を前にしても彼女は臆する事はなかった。


 確かにエネルギー切れで決着なんかよりも、こうやってイチかバチかの攻防で決着をつけた方が彼女も納得がいくだろう。


「これで終わりです! アル・ナスル・アル・ワーキ!」


 未明子がようやく正しい武装名を名乗ってくれた!

 

 私の喜びに呼応するように、肩に固定された4門の砲身と、腕の下方に固定された2門の砲身からピンク色のビームが発射される。


 ビームは全て羊谷梅雨空のいる位置よりもやや右側を狙っていた。

 これなら彼女が何らかの動きをすれば直撃は無い。

 せいぜい1発がかするくらいで済むはずだ。


 だが羊谷梅雨空はそのビームを回避するつもりは無いようだった。

 体を半身に構え、左手を突き出している。

 アル・ナスル・アル・ワーキすら左手の能力で捌こうとしているのだ。

 

『あの子何でそこまで冒険心が強いのよ!?』

「私はソラさんなら絶対そうすると思ったよ!」

『ええ!?』


 未明子はアル・ナスル・アル・ワーキを放った直後、羊谷梅雨空の方に向かって加速した。


 ビームの後を追って突進する。


 アル・ナスル・アル・ワーキの砲撃の内、1発が直撃コースだった。

 羊谷梅雨空はその1発を左手で迎え撃つ。


 ビームが狙い通りに着弾すると、ビームは左手の少し手前でピンク色の光の粒に変わった。

 ”元に戻す”能力がどの範囲までを対象とするのか分からないが、とにかく無効化には成功している。


 だが他の5発のビームはそのまま地面に着弾した。

 地面がボコリと膨れ上がり大爆発を起こす。


 着弾地点から爆風が発生し体が押し返される。

 それに抵抗するように加速を続け、未明子は爆風と共に発生した土煙の中に突っ込んで行った。


 煙の中は何も見えなかった。

 でも羊谷梅雨空がいた場所はだいたい分かっている。

 未明子はその位置に向かって右手のサーベルを振り下ろした。


 (くう)を斬るかと思われたその一撃は、ガキィン! という金属音と共に止められた。


 煙の中からボロボロになったムリファインが姿を現し、持っている槍でサーベルの一撃を防いでいたのだ。


『何で今の攻撃が受けられるの!?』

「流石バーサーカー。本当に強いね」


 未明子はサーベルを弾くと後方に加速する。 

 それに合わせて、羊谷梅雨空は再びこちらに飛び込んで来た。


 黒煙の中から飛び出てきたその姿は、ボロボロになった体と合わさってまさに悪魔のようだった。

 その悪魔が右手の槍を突き出してくる。


 未明子は槍の投擲を警戒して、今度は後方ではなく左側に加速した。

 これなら槍を投げ飛ばすにも、擲弾を撃つにしても一度武器を構えなおさなくてはいけない。


 ……はずだった。


 羊谷梅雨空は、持っていた槍を反対方向に向けると、地面に向かって弾を発射した。

 地面に弾丸が撃ち込まれて爆発が起きる。


 その爆発で発生した爆風に乗って、羊谷梅雨空はこちらに加速してきた。


 私はもうワケが分からなかった。

 たしかに足元で爆発が起きたらそれで加速する事はできる。

 

 でもたった今アル・ナスル・アル・ワーキの爆発に巻き込まれてダメージを負ったのに、更に自分でダメージを増やすの?

 

 実際ムリファインはもう痛々しいほどにボロボロになっている。

 それでもなお、執念としか言いようのない追撃を仕掛けてくるのだ。


「おらああああああああッ!!」


 まるで私達が長年追い続けた復讐相手でもあるかのように、羊谷梅雨空は左手を突き出して飛び込んできた。

 さっきとは逆で今度は左手の能力が本命のようだ。


 こちらの動きよりも相手が飛び込んでくるスピードの方がはるかに速く避け切れない。


 できる限り体を引いたが、赤い光に包まれた左手がとうとう私の体を掴んだ。

 

 その瞬間、私の体の装甲が光の粒になって消えていく。

 それはステラ・アルマが消滅する時に残す光の粒と全く同じだった。

 元の状態、つまり星のエネルギーに戻されているのだ。   


 全身に悪寒が走った。

 やっぱりこの左手は最大限に警戒しなくてはいけなかった。

 このまま掴まれ続けたら私の体は消滅してしまう。

  

「ソラさん! ごめんね!」


 未明子はそう叫ぶと、体を掴んでいる羊谷梅雨空の左手を掴み返した。

 その状態で後方に加速する。


 すると掴んでいる箇所を支点として体が反転した。

 その反転に合わせて未明子は羊谷梅雨空の頭を蹴り上げたのだった。


 大きく鈍い音が響き、吹っ飛ばされる羊谷梅雨空。


 反動で地面に叩きつけられる私。



 二つの機体が地面に転がったところで、この戦いは終わりとなった。






「悔しい! もうちょっとで勝てるところだったのに!!」


 地面に寝転がったまま操縦席から羊谷梅雨空が叫ぶ。

 彼女が何を叫ぼうが、ムリファインはすでにアニマ切れ寸前でこれ以上は動けないようだ。


 こちらは装甲こそ破壊されたものの動けない程ではない。

 だがかなり追い詰められたのも事実だ。


 未明子の機転が無かったら本当にあのまま負けていたかもしれない。


『梅雨空、操縦席を開くから降りてもらえる? 変身が解けそう』

「変身が解けたらどうなるの?」

『そこから落ちるよ』

「嘘でしょ!? 早く、早く開いて!」


 開かれた操縦席から羊谷梅雨空が出てくると、何とか動いたムリファインの右腕に乗せてもらって地面へとおりる。


 それを見届けたムリファインの体が徐々に赤い水に変わっていき、溶けるように消えた。

 

 変身解除の仕方も違うらしい。

 体が赤い水になって消えるのはちょっとショッキングな絵面だ。


 さっきまでロボットのムリファインが寝転がっていた場所の中心に、人間姿のムリファインが寝転がっていた。


「ちょっと大丈夫!? って、何であなた裸なの!?」

「梅雨空がダメージを気にせず突っ込むからだよぉ……」

「え!? まさかロボットの時に受けてた傷って生身にも反映されるの!?」

「ああ……そう言えばその説明してなかった……」


 羊谷梅雨空はそのルールを知らなかったらしい。

 だからあんなに無謀な突進を繰り返していたのか。


 いやそうか?

 彼女の場合それを知っていても同じ行動を取った気がする。


「鷲羽さん、私も降りるよ」

『分かったわ。ちょっと待ってね』


 こちらも操縦席を開き、出てきた未明子を右手に乗せて地面におろした。

 未明子が少し離れたのを確認すると変身を解除する。


 いつものように体が光に包まれて視界が下がり、肉体を取り戻す。


「アルタイルは変身する時も戻る時も綺麗よね。なんでムリと違うの?」

「ステラ・アルマの変身はみんなこうですよ。ムリちゃんの方が変わってるんです」

「へえ。じゃあムリは個性的ってことね」

「まあ……はい、そうですね」


 未明子が珍しく呆れていた。

 あのおどろおどろしい変身を個性的と言えるならこの二人は相性抜群だろう。

 私はあんな変身の仕方は絶対に嫌だ。


「でも羊谷梅雨空の戦いのセンスには脱帽だわ。できるならもう二度と戦いなくないわね」

「そうなの? 私は結構楽しかったけど」

「あんな爆発だらけの戦いを楽しまないでちょうだい」


 なんだろう。

 こう、お互い別の話をしてるみたいに何かがズレている気がする。


 私は怖かった戦いが彼女にとっては楽しかったなんて戦闘狂もいいところだ。

 改めて彼女にはバーサーカーの称号を贈ってあげたい。



「ねえ、ところでアルタイルはそれいいの?」

「え? 何が?」

「おっぱい丸見えだけど」


 ……え?

 

 羊谷梅雨空に言われて自分の体を見ると

 私の着ている服はちょうど胸の部分だけ無くなっていた。

 

 そう言えばムリファインの能力で体の装甲を消されたんだった。

 装甲が無くなれば着ている服がこうなるのは当然だ。


「!!」


 私は急いで胸を隠した。


 顔を赤くしていると未明子が自分の着ている服を脱いで肩にかけてくれた。


 見たわよね? と彼女の顔を伺うと「バッチリ」と笑顔で返してくれた。

 恐らくモニターで見ていた拠点組にもしっかり見られたに違いない。


 羊谷梅雨空がそれなりに申し訳なさそうな顔を浮かべて言った。


「あー、なんかごめんね。でもかわいい胸ね」


 何よそれ!

 何のフォローにもなってないわよ!


「もう絶対! 絶対あなたとは戦わないからッ!!」


 私の悲痛な叫びが、誰もいない世界に響いた。



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