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第83話 まちカドで見つけた 大事な宝物⑤


 アルフィルクからの模擬戦の提案。


 確かに一度も戦闘経験のない羊谷梅雨空に、戦いがどういうものか分かってもらうにはちょうどいい。

 ムリファインのロボットの姿さえ見たことない彼女にステラ・アルマがどんな存在かを理解してもらう意味でも重要だ。

 

「あー、やったね模擬戦。懐かしいなぁ」

「盛り上がってるところ悪いけど、私いきなり戦うのなんて無理よ?」

「大丈夫よ。ゲームでいうチュートリアルみたいなものだから」

「チュートリアル? 私の時はアルフィルクにいきなりボコボコにされたんだけど……」

「そうだったかしら?」


 その当時のことを私は知らないけど、アルフィルクと夜明のことだから本当に容赦なく未明子をボコボコにしたような気がする。

 そのノリで羊谷梅雨空もボコボコにされたのではたまったものではない。

 心が折れてやっぱり辞めますとでも言われたらどうするつもりなのか。 


「あれ。でも狭黒さんいないよ? どうやって戦うの?」

「なに言ってるの。未明子がやるのよ」

「私がやるの!?」

「あなたも先輩になったんだから後輩の育成くらいやんなさいな」

「提案したのアルフィルクなのに」


 これぞアルフィルク。

 言い出しておいて全部丸投げするのが彼女のスタイルなのだ。


 でも考えようによってはスパルタのアルフィルクよりも、優しい未明子が教えてあげた方が羊谷梅雨空の為になるかもしれない。


「私が教えるなら戦闘形式じゃなくて本当にチュートリアルみたいに丁寧に教えるからね?」

「あらお優しい。良かったじゃない梅雨空」

「いきなり呼び捨てにされるのムカつくわね。さっきから何であなたが仕切ってるの?」

「私がここの最古参だからね。一応リーダーのステラ・アルマでもあるし」

「だからって何でもかんでも言う通りになんてしないわよ。私はすばると稲見と犬飼さん以外の指示は聞かないから」

「は? 何でその三人の言うことは聞くのに私の言うことは聞く耳持たないわけ?」

「あの三人にはお世話になってるもの。あなたとは今日会ったばかりでしょ?」

「言うわね。来たばっかりの新人が何をキャンキャン吠えてるのよ」

「何よ」

「そっちこそ何よ」


 あ、あ、あ……。

 いきなり険悪な雰囲気になってしまった。

 うまくやれると思ったのに同族嫌悪の方が強いみたいだ。

 

 何とか(なだ)めたいけど、こういう時に私が出ていくとアルフィルクが余計にヒートアップしちゃうのよね。


 五月もすばるも呆れて見てるだけだし、未明子はアルフィルクのやり方を尊重するから止めに入らないし、夜明はいないし、どうしたらいいのかしら。


 私が困ってアタフタしていると、一人の少女が二人の間に割って入った。


「アルフィルクさん、少し落ち着いてください。羊谷さんも熱くならないでください」


 ああ、稲見だ。

 こういう時に仲裁に入ってくれるポジションとして最高のキャラクターだ。

 私が望んだ救世主は一番年下の女の子だった。


「初対面で距離感が掴めないのは仕方ないです。でもこれから仲良くしていくには相手の気持ちが分からない内に言い争ったら駄目だと思います」


 何かとても大人な説得が始まってしまった。


「アルフィルクさんの言い分も羊谷さんの言い分も分かるので、まずはいったん適度な距離を取りましょう。何もいきなり親友になる必要はないですから」


 年の離れた子にそう諭されてしまったら大人としては引かざるを得ない。


「「ふん!」」


 二人は居心地悪そうに顔を背けると、物理的にも距離を取った。

 

 うーん。

 距離の取り方まで似た者同士。

 絶対に仲良くできると思うんだけどな。


 

「双牛ちゃん凄い! そういう収め方もあるんだ」

「本当にこのグループに必要な人材よね。あれで16歳なんだから良くできた子だわ」

「ふふ。そうでしょうそうでしょう」


 フェルカドがふふんと得意気な顔をする。

 このお姉さんたまに可愛いさ出してくるわね。


 稲見は羊谷梅雨空の方に歩いて行くと、落ち着いた声色で話しかけた。


「羊谷さん。模擬戦と言っても感覚を掴むだけで乱暴なことはありません。言い方は悪いですけど、ゲームみたいなものだと思ってもらえれば大丈夫ですよ」

「別に、稲見が気を使ってくれなくても私はやるわよ」

「ありがとうございます」


 あんな優しい声で(なだ)められたら、ささくれた気持ちも和んでしまう。

 しかもいつの間にか彼女をやる気にさせているのも凄い。


「犬飼さん、模擬戦はお任せしてしまって大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫だよ。訓練も良くやってるし危険の無いようにするね」


 未明子が稲見にサムズアップで応えた。


 この空気なら物騒な戦いにはならなそうで安心した。

 アルフィルクには悪いけど人をその気にさせるなら煽りよりも懐柔だと思う。


 そのアルフィルクはと言うと、展望ホールの端っこの方で難しい顔をしていた。


 まあ本人的には面白くないんだろう。

 でも事の始まりは自分の性格のせいだと自覚して頂きたいところだ。

 


 未明子が管理人に訓練用ユニバースへのゲートを開いてもらうように交渉を始めた。

 交渉とは言ってもいつもやっているので難しい手続きなどはない。


 ただ戦闘で稼いだポイントを向こうのユニバースに滞在する時間で消費してしまうので、あまり訓練を長引かせるとポイントが無くなってしまう。

 この後ムリファインの強化にもポイントを使うだろうし、なるべく消費は抑えたいところだ。


 フォーマルハウトとの戦いで武装を全部壊されてしまって、その修復で大量のポイントを消費してしまった私はあまり大きな声で言えない立場なんだけどね……。


 みんなが羊谷梅雨空に説明をしている間に、稲見がアルフィルクの方へそろそろと近寄って行った。

 私もさり気なく近づいて二人の会話を盗み聞きする。


「夜明さんの体調は大丈夫そうですか?」

「え? ええ。今日は家で大人しくしてるらしいわ」

「心配ですよね。これからどんどん寒くなるし体調崩さないといいですけど」

「大丈夫だと思うわよ。この前稲見が教えてくれた床暖房を設置したら猫みたいにゴロゴロしてたし」

「あ、あれ設置したんですね。でもあのまま寝ると風邪引くんで気をつけて下さいね」

「さっき家を出る前に言っておいたわ。それこそコタツを取り上げられた猫みたいに文句言ってたけど」

「じゃあ帰りにチュールを買っていってあげないといけませんね」

「そうね。お留守番のご褒美を買っていってあげないと」

「ふふふ」


 その会話で和んだのか、アルフィルクの表情が柔らかくなっていた。

 不機嫌モードになっていたアルフィルクへのフォローもかかさない。稲見本当に凄いわね。

 


「向こうのユニバースに移動するのは私達だけでいい? 双牛ちゃんとフェルカドさんも来る?」

「あ、私達は大丈夫です。戦闘タイプじゃないのでお邪魔になってしまうかと」

「了解。じゃあ私達だけで行くからモニターで見ててね」


 未明子が羊谷梅雨空とムリファインと一緒に管理人の開いたゲートの中に入って行く。


「この前の戦いもそうですが、まさかモニター観戦ができると思っていなかったですね。犬飼さんと夜明さんの模擬戦の時はわざわざわたくし達も移動して観戦していたのに」

「すまんな。てっきり現地で見たいんだと思ってお前たちも送り込んでいた」

「いやーアタシが見たい見たいって騒ぎすぎたね。今となってはモニター観戦の方が見やすいよ」

「凄いわね。現地で観戦してて戦いに巻き込まれなかったの?」

「セレーネさんが微妙にユニバースを移動させてくれて薄い膜の中から見てた感じだったよね」

「ユニバースを二つ用意しなくてはいけない分、モニタリングするよりあっちの方が労力がかかるんだ」

「げ! じゃあ無理して大変な手段取ってたんだ!」

「何でも相談してみるものですね。……ところで」


 全員が一斉に私を見る。


 な……何? 

 私なにか変な事を言ったかしら?


「アルタイルは向こうに行かないのですか?」

「え? ……あッ!!」


 そうだった!

 何をボケていたんだろう。

 私が行かなかったら未明子は生身のままなのだ。

 呑気にモニターを眺めている場合ではない。


 みんなの失笑を買ってしまい、顔を真っ赤にしながらゲートに向かう。


「アルタイルさーん! 頑張って下さいねー!」


 稲見が手を振って応援してくれた。

 うう……何だかんだで私まで稲見にフォローされてしまったわ。


 申し訳ないやら情けないやらで後ろ髪を引かれながら、私はゲートに駆け込んだ。






 ゲートを抜けた先は拠点の目の前の交差点だった。

 管理人が分かりやすく同じ場所にしてくれたらしい。

 

 人が誰もいない桜ヶ丘の駅前に、未明子と羊谷梅雨空、ムリファインが立っている。


 人がいないこの世界はすでに消滅が決まった世界。

 つまり終わった世界だ。


 ムリファインはユニバースを移動できる能力を持っているが、わざわざ終わった世界に来ることはない。

 恐らくこの世界を見るのは初めてだろう。


 二人はキョロキョロと辺りを見回していた。


「話には聞いていたけど実際に来てみるとゾッとするわね」

「あそこにさっきまでいた秘密基地が見えますけど、あの中には誰もいないので壊れても大丈夫ですよ」

「へぇ。そうなんだ。壊していいならストレス解消になりそうね」


 壊す必要が無いなら壊さなくていいのに。

 このあたりの反応は人によって結構変わる。


 いくら誰もいないと分かっていても身近な建物を壊すのに抵抗がある人もいれば、逆に普段はできないからと喜々として壊せる人もいる。

 

 羊谷梅雨空は後者のようだった。


「で、ステラ・アルマはどうやってロボットになるの?」

「いつもみたいにムリちゃんとキスしてもらえればそれが変身の条件になるんですよ」

「何で私がムリとキスするの?」

「え?」

「え?」

「え?」


 私と未明子がそのセリフに驚くと、私達の反応を見た彼女も驚いていた。


「ムリちゃんとステラ・ノヴァの契約をしたんじゃないんですか? と言うか、この世界にはキスしてないと来られないんじゃ?」

「女の子同士でキスするわけないでしょ?」


 何か話が食い違っている。

 いや、ここに来られている以上食い違うわけないのだ。


 羊谷梅雨空はムリファインとステラ・ノヴァの契約を交わしている。

 少なくともキスはしていないと絶対におかしい。


 それにこの反応。

 この二人恋人同士じゃないの?

 

「鷲羽さん、ステラ・アルマとステラ・カントルはキスをしてステラ・ノヴァの契約をかわすって認識だったけど別のパターンもあるの?」

「そんなの聞いたことがないわ。ムリファイン、どういうこと?」

「あー……ステラ・ノヴァの契約はしています。でもわた……ボクと梅雨空は特殊な方法で契約をしているんです」

「特殊な方法?」


 完全に初耳だ。

 契約に別の方法があるなんて全く知らなかった。

 他の1等星との話でもそんなの出たことがない。


「変身もそれでできるんです。梅雨空、いつもみたいにお願いできる?」

「分かったわ。……どうぞ」


 彼女はそう言いながら着ている服の襟元を緩めて肩口を露出させた。

 そしてムリファインの身長に合わせて腰を下ろす。


 ムリファインは彼女の首元に手を回すと、晒されている肩のあたりに勢いよく噛み付いた。

 

「ええっ!?」

「何してるの!?」


 ムリファインの犬歯が羊谷梅雨空の肌に食い込み、赤い血が垂れる。

 苦痛に歪む彼女の顔の横でムリファインはその血を飲んでいた。


「吸血!? そんなのでいけるの!?」

「た、確かに血液が一番アニマの濃度が濃いって言われてはいるけど、実際に摂取するのは初めて見たわ……」


 ムリファインが彼女の肩周りについた血を綺麗に舐め取ると、傷口から流れていた血が止まっていた。

 原理はよく分からないけどあれで止血できるらしい。


 あんな風にアニマを供給しているなら羊谷梅雨空のアイドル衣装の露出が抑えられていたのも理解できる。

 下手に肩を出したらムリファインの噛み跡が見えてしまうからだ。


「ボクは血液でアニマを補給するタイプなんです。ステラ・ノヴァの契約もこれで済ませました。だから梅雨空とキスしたことはありません」

「そんな方法で契約できるなんて驚きだわ……でもこの世界にも入れているしキスするのと同じ効果があるみたいね」

「何かカッコイイ!」

「み、未明子はそういう反応なのね。でもアイドルでボクっ子で吸血鬼って属性盛り過ぎじゃない?」

「いや、あの、ボクっ子でも吸血鬼でも無いですから……」


 確かに一人称は強要されているみたいだし、血を吸って生きてるわけじゃないから吸血鬼は言い過ぎか。


「それにあなた達恋人同士じゃないの?」

「違うわよ。確かにムリの事は好きだけど恋愛の好きとは違うわ」

「そんな事ないと思いますよ。梅雨空は自分が女の子好きって認めたくないみたいです」

「違うって言ってるでしょ!?」


 何か微妙な関係みたいね。

 ステラ・カントルに選ばれるのは女の子が好きな女の子のハズだから、羊谷梅雨空がムリを好きなのは間違いないと思うんだけど。

 まあ、そこは当人たちの自由よね。


「もういいからさっさと変身してみせて!」

「分かった。じゃあ見ててね」


 ムリファインは私達から離れると、交差点の中央あたりまで歩いて行った。


 そして右手を空に掲げ囁く。


「……ケンタウルス、(つゆ)をふらせ……」


 その言葉と共に彼女の周りに赤い水溜りのようなモノが湧き上がってきた。


 その赤い水溜りが広がり、大きく波打つと、ムリファインの体を包み込んでしまった。


「ええええ!? なにあれ!?」

「変身の仕方が全然違う!?」


 赤い水溜りは一瞬でその体積を倍増させると、数十メートルの赤い水柱となった。

 水柱を形成する赤い水はドロドロとしていて血液を連想させる。


 その水柱が段々と人の形を取り始め、水がこぼれ落ちて行く。

 やがてその赤い水が全てこぼれ落ちると、そこには巨大なロボットの姿があった。


 赤と黒で構成された禍々しいデザインのロボットは、猫背のように背中を曲げて立っていた。

 右手には円柱状の槍を持ち、左手は血液が固まったカサブタのようなもので覆われている。

 何より特徴的なのはその顔で、ロボットというよりも悪魔が仮面を被ったような恐ろしいシルエットだった。


 さっきまでの可愛らしい女の子が変身した姿とはとても思えない威圧感を感じる。


 変身の仕方も何故ああも違うのだろうか。

 単にムリファイン特有の変身なのか、もしくは血液を摂取している事に関係があるのかもしれない。


 それにどう控えめに見ても、味方側の機体よりも敵側の機体のようだった。



「ムリ! あなたカッコいいじゃない!!」


 だけどパートナーの受けはいいようだ。


「すごーい! カッコいい!!」


 そして私のパートナーの受けもいいようだった。


 見ようによってはフォーマルハウトよりも禍々しいのに、ああ言うのが中二心とか言うのをくすぐるんだろうか。

 私は正直ちょっと怖い。



「梅雨空、左手に乗って!」


 恐ろしい見た目にそぐわない可愛い声。

 サダルメリクといい声の可愛いステラ・アルマは(いか)つい見た目のロボットになるのかしら。


 羊谷梅雨空はムリファインの左手に乗ると操縦席に運ばれていった。

 運ばれている間も目を輝かせていたので、彼女に恐ろしいなんて感情は一切ないらしい。

  


「じゃあ私達もやろっか」


 未明子が私のそばにやってくる。

 ムリファインの姿に驚いている場合じゃなかった。

 私も変身しなくては。


 未明子は私の手を取ると、いつものように優しくキスしてくれた。

 アニマとともに彼女の温かい気持ちも流れ込んでくる。


 絶対血よりもこっちの方がいい。



 私も未明子から距離を取ると、自分の胸の前で左手と右手を組んだ。


 ……変身


 イーハトーブのメンバーは変身する時にヘンテコな掛け声を出しているけど私は恥ずかしくてダメだった。

 セリフを叫ぶよりはムリファインみたいに詩を読むほうが好みかもしれない。


 全身を光が包みこみ、体がロボットの姿へと変わっていく。

 視界が上がって未明子の姿が遠ざかる。


 周囲に風が巻き起こり、私の背中から大きな翼が生えた。


 未明子は今回はちゃんと建物の影に隠れていたみたいで、変身の終わった私の元に駆けてくる。


 私は未明子を手に乗せると操縦席に運んだ。


 彼女が椅子に座って、緩衝膜と装甲で操縦席を覆えば準備完了だ。


「へぇー。アルタイルもカッコイイじゃない」

『ありがとう。その声こっちに聞こえてるわよ』

「え!? ここで喋ってる声って外に出てるの?」

「それが外部通信ですね。あと味方同士だったら操縦席の内部で通話もできますよ」

「凄いわね。ロボットアニメで見たのと同じじゃない」

「内部通信はある程度離れるとできなくなっちゃうので注意して下さいね。あとムリちゃんから聞いたかもしれないですけど、操縦桿を握れば自分のイメージした通りに動けます」


 それを聞いた羊谷梅雨空は、前後左右に動いたり、飛び上がったり、大きく動いて見せた。

 

「本当だ! 操縦って言っても考えるだけなのね」

「一度走ってみてください。走る速度によって慣性のかかり方が大きく変わるので、止まる時はそれも計算に入れて下さいね」


 未明子の指導の元、簡単な動きを実践していく。

 ステージに立ってダンスをやっているおかげか予想以上に身軽に動けていた。


「あと、それぞれのステラ・アルマが固有武装って言う武器を持っています。いまムリちゃんが右手に持ってるのがそれだと思います」

「見た感じ槍みたいね。ムリ、これどうやって使うの?」

『これは ”セプテム” って名前の武装だよ。これ自体の種別は槍じゃなくて銃なんだ。グレネードランチャーにカテゴリされるから、その穴が空いてる所から強力な弾を撃ち出せるよ』

「へー面白そう。撃ってみてもいい?」

「じゃあ射程も見ておきたいからこの中央道路で撃ってみましょうか。せっかくだから何か目標が欲しいな。……あの背の高いマンションを狙えますか?」

「あれね。この手元にある引き金を引けばいいのよね?」

『うん。反動が強いから気をつけてね』

「了解。じゃあ腰を落として衝撃に備えて……発射!!」


 グレネードランチャーと言われていた通り、セプテムの銃口から擲弾(てきだん)が発射された。

 弾は放物線を描いて飛んで行くと狙い通りにマンションに命中した。


 そして命中した場所が大爆発を起こす。


 爆発した場所は粉々に吹き飛び、爆風が体に返ってきた。

 吹き飛ばされないように爆風に耐える。



 命中した場所から黒い煙が立ち上り、マンションはガラガラと崩壊して瓦礫の山に変わった。


「す……凄い威力ね……」

『固有武装だからね。ちなみに砲身と先端についてる刃は頑丈だから、刃の部分を突き刺した状態で発射もできるよ』

「なにそれカッコイイ。必殺技みたい」

『弾は砲身に2発。あとは腰にそれぞれ2発入りのカートリッジが2つあるから全部で6発撃てるよ』

「こんなの6発も撃つような戦いなの? 1発撃ったら敵も粉々じゃない?」

「まあ色んな戦いがありますからね。でもこれはかなり頼りになる武器だと思いますよ」


 未明子の言う通り固有武装としてはかなり優秀な武器だ。

 射程はそこそこだが弾速と威力は申し分ない。

 よほどの重装甲でなければ直撃で大ダメージを与えられるだろう。


「2等星は2つ固有武装を持ってるんだけど、ムリちゃん、もう1個はどんな武器なの?」

『もう1個は左手についてる武装ですね。梅雨空、駅の壁を左手で触ってもらってもいい?』

「ここ? 分かった」


 ムリファインの左手を覆うカサブタのようなものが赤く光る。


 光をまとった左手が壁に触れると、壁は一瞬でドロドロの液体に変わった。


「う、うわ! なにこれ!?」

『クー・ロウ。左手で触った、正確には左手の周りに生成したフィールドに触れたものを元の状態に戻せるんだ。いまはコンクリートの壁をセメントとその他の物に戻したんだよ』

「怖ッ! さっき私ここに乗ってたのに!」

『発動させなければ普通の左手だから大丈夫だよ』

「やっぱり人にも効くのね……あやうく水と炭素とアンモニアと石灰とその他諸々になるところだったわ」

『別に分解する能力じゃないからね?』


 何にせよ恐ろしい左手だ。

 例えば相手の武器に触ったらそれは素材に戻るんだろうか?

 銃から発射された弾だったらどうなるんだろう?

 素材に戻ったところで運動エネルギーは消えないから威力は変わらないのだろうか?

 夜明あたりが好きそうな能力だわ。


「アルフィルクと同じ中距離タイプかな?」

『そうね。近距離でも戦えるし汎用性が高そうだわ』


 私達の仲間は一点特化した性能のメンバーが多いから戦術の幅が広いタイプは貴重だ。

 それに能力も優秀だけど羊谷梅雨空の運動能力が高いのが素晴らしい。

 まさか初回からあんなに動けるなんて戦士としての素質はかなり高そうだ。


「あとどうしよっか? 基本的な動きと固有武装の能力が分かれば一応戦えると思うけど」

『そうね。防御のアレコレでも教えておく?』


 訓練でやった事がそのまま実践に活かせるわけではないが、訓練しない事は実践でもできない。

 何でもやっておいて損はないはすだ。


「これって模擬戦なのよね?」

「模擬戦とは名ばかりですけどね。動かし方に慣れてもらうのが一番の目的です」

『何かやってみたい事があるの?』


 人によっては操縦を怖がる人もいる。

 だけど彼女に関してはそれは無用な心配のようだ。


 すでに操縦にはかなり慣れているみたいだし、本人にやりたい事があるならやらせてあげてもいいかもしれない。 


 羊谷梅雨空は少し言いにくそうに、でもとても楽しそうにこう言った。


「ならさ。ちょっとだけ戦ってみない?」


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