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第78話 星のダイアローグ③


 それぞれがそれぞれの顔を見渡し、最後に私の方を見直す。


 全員が「え? もう一回言って?」とでも言わんばかりの表情を浮かべていた。


 私は同じ口調でもう一度同じ事を言う。


「この戦いは月の女神セレーネが仕組んだ遊び。あいつの主催してるゲームなのよ」


 その言葉への反応は人それぞれだったが、分かりやすいのはやっぱりアルフィルクだった。

 目に見えて怒っている。


 逆に冷静だったのが夜明とすばる。

 この二人に関しては怒りよりも呆れているように感じた。


「興味深い話になってきたね。月の女神セレーネは何だってこんなゲームを開催したんだい?」

「それを説明するには私達ステラ・アルマの本来の役目の話をしなくてはいけないわ」


 私はこの場にいるステラ・アルマの顔を眺めた。

 

 今にも怒り出して質問攻めしてきそうなアルフィルク。

 眠たそうにして何を考えているんだか分からないサダルメリク。

 不審な顔でこちらを見ているフェルカド。

 そして、複雑な表情を浮かべたツィー。


 ステラ・アルマは等級が高いほど多くの真実を知っている。

 ツィーだけはこれから話す真実を何となく理解しているのかもしれない。


「私達ステラ・アルマの本来の役目は星の粛清。宇宙で知的な存在が問題を起こした時にそれを取り締まるのが本来の役目なの」


 それがステラ・アルマの真実。


 それを聞かされて呆気に取られていたのは人間側よりもステラ・アルマ側だった。

 自分達の認識とは大きくズレているその真実に理解が追い付いていないようだ。


「ほ、星の粛清?」

「恒星・惑星・衛星。星と名のつく全てで宇宙の調和を乱す者を監視して、必要があれば処分する。その実行を任されているのが私達ステラ・アルマよ」

「ちょっと待って! 私達は確かに星の化身だけど地球の人と一緒に地球を守るのが役目じゃないの!?」

「広義的に解釈するならそれも間違っていない。でも私達の ”今回の任務” は地球を守る事ではないわ」

「……なるほどね。本来の目的は月の粛清か」

「さすが夜明。その通りよ。私達が今回動いたのは月の女神セレーネの暴挙を止める為」


 少ない情報から事実を繋ぎ合わせるには二つの能力が必要になる。

 一つは想像力。

 そしてもう一つはそれが事実であると認められる許容量(キャパシティ)

  

 夜明は私の話した事実を素直に理解しそこから更に一つの事実を導きだした。


 そして同じように理解し納得した者。

 逆に事実を認められず納得のいかない者が如実に別れていた。


 自分の役目が地球を守る事、引いては夜明を守る事とは乖離していたアルフィルクは私に食ってかかった。

 

「そんなの嘘よ! もしそれが本当なら私達が地球で争い合う意味がないじゃない! その月の女神を倒して終わりでしょ!?」

「あなたの言う通りよ。セレーネは増えすぎた地球をオモチャのように破壊して遊んでいた。それは宇宙から見ても到底許される行為では無いわ。今回の任務を受けたステラ・アルマは総員で月に攻め込んで、月の防衛を崩しながらセレーネを追い詰め粛清寸前まで行ったの」

「じゃあ何でそこで決着がつかなかったのよ!?」

「セレーネから申言があったの。自分がやっているのは地球の救済であり、自分が討たれようと誰かが行わなければならない。ならばステラ・アルマが遂行するのが宇宙の均衡を保つ最善の行為であると」

「それはあまりに都合の良すぎる物言いではありませんか? 自分を正当化する言い訳に聞こえます」

「そもそも何で月の女神様がアタシ達の星を勝手に壊したりしてるの?」


 我慢して話を聞いてくれていたが、とうとうすばると五月も口を挟み始めた。

 このままだと質問攻めになって話が進まなくなってしまう。


 でもこうなる事は分かっていた。

 だから私は一つ提案をする事にした。


「少しだけ時間を取りましょう。だからここまでの話を自分の中で整理してちょうだい。その上で一人ずつ質問に答えて行く事にするわ」


 私がそう提案すると、席を立ち上がらんばかりに質問を投げかけようとしていたメンバーはお互いの顔を見合わせ、一度息を入れる事にしたようだった。

  

 一度にたくさんの情報を詰め込まれても疑問ばかりが先行してしまう。

 ならばここで区切って気持ちをリセットしてもらった方がいい。


 

 机に突っ伏して頬杖をつく者、席を立って歩きながら考えをまとめる者、ホールの窓から景色を眺め物思いにふける者など三者三様の反応の中、未明子だけは一目散に管理人の元に駆けていった。


 そして煙たがる管理人の周りをウロウロし始めた。

 

 まあ、見た目は可愛いからね。仕方ないわよね。

 でも私の話そっちのけで管理人に興味津々なのはちょっと悲しいわね。


「これからセレーネさんって何て呼べばいいんですか? 個人の名前はあるんですか?」

「ある。普段セレーネを名乗れば、裏では好きな名前を名乗って良いとされている」

「えー! それ教え下さいよ。これからそっちの名前で呼びます」

「照れくさいから嫌だ」

「何でですかー? 私達の仲じゃないですか。教えて下さい!」

「やかましい。今まで通りセレーネで構わん」

「ちぇ。耳を触ってもいいですか?」

「触らせる訳ないだろう!」

「セレーネさんってウサギだから甘い物が好きじゃなかったんですね。やっぱりニンジンとか葉っぱ系が好きなんですか?」

「何でそんなに興味津々なんだお前。ほら、アルタイルがこっちを睨んでるからさっさと戻って話を聞いて来い!」


 管理人に言われてこっちを見た未明子は「おお、怖……」と呟くと、恐る恐る自分の席に戻ってきた。


 指摘されるまで気づかなかったけど、私は思ったより険しい顔をしていたらしい。


 未明子が席に戻る頃には他のメンバーも元居た場所に戻ってきていた。


「じゃあケモ耳少女にうつつを抜かしていた人も帰ってきたし話を続けましょう。まずは一番我慢ならなそうなアルフィルクからどうぞ」

「何か言い方に棘があるわね。とりあえずさっき聞いた内容は分かったわ。信じられないけどアルタイルが嘘をつく意味もないから本当なんでしょう。その上で私が聞きたいのは、何で私達はステラ・アルマ本来の役目を忘れてるのかって事よ。どうして自分の存在理由を忘れて地球で同士討ちをしてるわけ?」

「……さっきこの戦いは女神セレーネのゲームであると言ったわよね? まさにそれが理由なの」


 アルフィルクはゲームという言葉が気に入らないみたいで露骨にしかめっ面を浮かべた。


「セレーネからステラ・アルマが地球を破壊すべきと言われた時に問題が発生したわ。宇宙の均衡を守る為に増えすぎた地球を破壊するにしてもその選別はどうするのか? 増えすぎたせいで最早オリジナルの地球がどれなのか分からなくなってしまって選定基準が無かったのよ。その時にセレーネから提案があったの。どうせ地球を破壊するならば、地球の子と一緒に遊ぶべきだと」

「遊ぶってどういう意味よ?」

「それがセレーネの言い出したゲーム。ステラ・アルマは地球に降り立って自分の気に入ったパートナーを見つけ、そのパートナーのいる地球を守る為に戦い合う。そうして勝った地球を残し、負けた地球は消滅させる。そうすれば地球の数は減らせるしステラ・アルマは地球の子と長く一緒にいられる」

「まあそれだけなら我々も知っている内容だね。でもそれのどこがゲームなんだい?」

「さっきも言ったけど、ある程度の回数勝利すると管理者への挑戦権を得られる。そして管理者の提示した戦いに勝利した世界は今後一切、破壊の対象にならないの」


 つまり勝者への報酬。


 私達は地球の子と協力して別の世界のステラ・アルマと戦う。

 そして何度か勝利するとボスと戦う権利を得る。

 見事ボスを倒した世界は、消滅の危機から逃れる事ができるというわけだ。


「なるほど。私達に勝利条件を与えているのか」

「ですが、わたくし達はその条件が設定されているのを知りませんでした。アルタイルから聞かなければきっと今も知らないままでしょう。それでは意味が無いのでは?」

「これは完全にセレーネの性格の問題なんだけど、最初から全てを知らされて戦うよりも戦っているうちに真実に辿り着いた方が面白いからそうしたらしいわ。本来は勝ち進むうちに少しずつ管理人から真実を伝えられていくみたいね」

 

 管理人を見ると、間違いないと首を縦に振った。 


「えーと……結局私達が役目を忘れている理由は何なの? 今の説明だとセレーネが性格悪いってのしか分からないわ」

「そう。性格歪んでるのよアイツ。だから全ての真実が漏れないように、私達1等星以外のステラ・アルマは記憶を操作されてるの」

「何……ですって……」


 これがステラ・アルマに取っては一番衝撃の大きい真実。

 性格の歪んだ女に勝手に記憶をいじくられているのだ。


 その真実にアルフィルクとツィーは勿論、普段冷静なフェルカドまで険しい顔をしていた。


 ……サダルメリクだけは何だがよく分からない顔をしている。

 未明子もそうだけど、こちらの想定外の反応をされると不安になるわね。


「き、記憶の操作って……私達全員が?」

「1等星以外の星には等級によって記憶の消去が行われている。秋の四辺形みたいな特別な2等星は戦いを取り仕切っている存在がいるところまでは覚えているわ。でもそれ以上の事は忘れている。同じように通常の2等星はステラ・プリムスの存在まで。3等星以下は自分が星の化身である事と、地球の消滅を懸けた戦いが行われている事しか覚えていないわ」

「嘘でしょ……」

「でもさ、なんだって女神様は等級によってそんな差をつけたんだろうね?」

「まあ今風に分かりやすく言うとソーシャルゲームのレアリティみたいなものじゃない? レアリティの高い多くの情報を持った星が仲間に加わればそれだけ戦いを有利に進められる。情報がどれだけ重要なのかは言うまでもないわね?」

「まさしくゲームですね……」

「これがステラ・アルマが本来の役目を忘れている理由。セレーネの遊び心が最悪の形で出てる部分よ」


 アルフィルクは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 何か口に出したくて仕方ないが、ここで癇癪を起こしてもその原因になった者には届かないと理解しているからだ。

 

「ではアルタイル 。次にわたくしから良いでしょうか?」

「すばるは何を聞きたい?」

「いまの話を聞いて思ったのですが、どうしてステラ・アルマはセレーネの提案に従ったのでしょうか? 特に記憶の操作など絶対に呑みたくない条件だと思うのですが」

「そうね。表立ってはみんな猛反対したわ。でも心の底ではセレーネの提案に興味津々だったの」

「ステラ・アルマに何かメリットがあったと言う事ですね?」

「その通り。私達ステラ・アルマは地球の子に異常な程執着していたのよ」

「執着? わたくし達にですか?」

「私達の正体は星。暗い宇宙で孤独に漂うだけの存在。自分以外を全く知らなかった私達は、地球の子という血と体温を持った温もりのある存在と触れ合ってみたかったの」

「孤独と言っても何か問題が起これば星達で集まると言っていませんでしたか?」

「いまの私達の姿は地球に降り立つ為に月の力によって与えられた姿。本来の姿はもっと概念的な無形の存在なの。言葉も無く、意思の信号のようなものでコミュニケーションを取るわ。そんなモノがどれだけ集まったって何の温かみも無いのよ」


 所詮私達は星の化身。

 星から与えられたエネルギーの固まりでしかない。

 そんな私達が人に惹かれるのは必然だった。


「私達は地球の子が持つ心も、感情も、言葉も、羨ましくて仕方が無かった。私達が何億年かけようとも決して手に入れられないものを持った地球の子達と触れ合えるなら、セレーネの甘言に乗るのも悪くないと思ってしまったの」

「それで提案に従ったのですね」

「最初は少しだけ地球の子達と触れ合ったらセレーネを処罰するつもりだった。でもあなた達と触れ合う内に私達はあなた達から離れるのが惜しくなってしまったの」


 さっき私が ”終わらせる権利” という言葉を口にした時、ここにいるステラ・アルマは総じて怪訝な表情をしていた。

 自分の愛する人を守りたい気持ちは本心でも、戦いが終わってしまうのには抵抗があるからだ。


 もし戦いが終わってしまったら自分達は必要無くなってしまうかもしれない。

 例え世界の安全が保障されて平和に暮らしていけるようになっても、いつか人の気持ちが冷めて自分から離れていってしまうかもしれない。


 それならいっそ戦いを終わらせずにずっと寄り添いたい。

 ステラ・アルマの深層意識にはそんな感情が渦巻いているのだ。


「だから私達はこれが本来の役目からズレた事だと分かっているし、記憶の操作を受けてでもセレーネの思惑通りに戦いを続けているのよ」

「そういう事ですか……納得いたしました」

「すばるは私達の我儘に巻き込まれているのに納得できるの?」

「はい。わたくし個人の考えで言わせていただくと、ステラ・アルマがわたくし達に興味を持ってくれたおかげで月の女神の暴挙に対抗する選択肢が生まれたのだと考えます。もしステラ・アルマがわたくし達など歯牙にも掛けない存在だったら、もしかしたらこの世界はメリクに滅ぼされていたかもしれません」

「そんな事、しないって。その場合も、何か別の方法を、考えてたと思うよ」

「ふふ。それにこうしてメリクと出会えたのもステラ・アルマのその選択(ゆえ)と考えると、否定する気持ちは生まれませんね」


 すばるが優しい笑顔でサダルメリクの頭を撫でた。

 サダルメリクは不服そうに口を尖らせているが、頬を赤らめて嬉しそうにしている。


「ありがとう。そう言ってもらえると安心するわ」

「いえ。……わたくしからは以上となります」

「あ! すばるくんの質問ついでに聞いてもいいかな? さっき君達の姿は月の力によるモノだと言っていた。ならばロボットの姿になった時に地球の武器を持っているのはやっぱりその月の影響なのかい?」

「そうね。月は……セレーネはずっと地球を見続けてきた。だから地球での戦いには地球の兵器という考えがあったのだと思う。それがステラ・アルマの姿に反映されたと私達は考えているわ」

「まあそうだろうね。何光年も離れた星が地球の兵器なんて知らないだろうしね」


 セレーネの提案に従ったとは言えこの武器に関してだけは反発した方が良かったと思う。

 地球の兵器は暴力性が強い気がする。


 とは言え、ステラ・アルマの中には地球の兵器に興味のある星もいる。

 それに相手を滅ぼす以上、どんな物を使ったとしても本質は変わらない。

 そこに何かを求めるのは思い上がりだ。


「じゃあ次はアタシが聞いてもいい?」


 私が自分達の姿を憂いていると五月が声を上げた。 


「アタシはさっき聞いたのと同じなんだけど、どうして月の女神様には地球を壊して遊んだりする権限があるの? 地球はその女神様の物ってことなん?」

「地球がセレーネの物ということは無いわ。少し話が逸れるけど、この世界には色んな創作があるわよね? ジャンルはそれぞれだけど地球が宇宙から襲われる作品がたくさんあるわ。そういう作品でいつも地球が襲われているのは何でだと思う?」

「え? そりゃ地球の人が創った創作だからじゃないの?」

「勿論そうだけど、それには地球の子が本能的に感じている危機感があるからよ」

「危機感?」

「そう。地球には管理者がいない」


 私がそう言うと、急にすばるとサダルメリクの顔が明るくなった。

 サダルメリクに至っては何故か顔を蒸気させて興奮している。


星辰(せいしん)の位置が変わって旧支配者が眠ったので、地球は人が栄えたのである」

「何が何ですって? サダルメリクはどうしていきなり流暢に話しだしたの?」

「アルタイル。メリクは気にせず続けてください」


 二人が何に対してそんなに目を輝かせているのか全然分からなかった。

 夜明とアルフィルクが呆れた顔をしているから多分知らなくていい事なんだろう。


「えっと……話を戻すと地球には星を管理する管理者がいないの。宇宙広しと言えど、ここまで文明が栄えた星で管理者がいないなんてレアケースよ。大抵の星は何かしらの知的存在が管理をしているものなの」

「月にはセレーネがいると言っていたけど他の惑星にもいるのかい?」

「いるわ。人間が感知できないだけで火星にだって土星にだって管理者はいる」

「興味深い話だ。その話も詳しく聞きたいね」

「それは今度話しましょう。地球には管理者がいないから宇宙から目をつけられやすいのよ。それで今回は一番近くにある月に目をつけられたってわけ」

「そうしたら地球が星の力によってどんどん増えていたから、これ幸いとオモチャにしだした訳か」

「セレーネは救済だって言ってるけどね。何にも考えずに破壊を続けるのを救済とは認められないわ」

「え? じゃあそのセレーネって人は誰にも怒られないから好き勝手やってるだけ?」

「その解釈で間違ってないと思うわよ」

「はぁー。アタシその女神様は好きになれないわ」


 こうやって真実を話しているだけでもセレーネの性根の悪さが伝わっていく。

 私達だってあの女は好きになれないし信用できない。


 それでも今はあの女を討伐するよりも地球の子達と触れ合っていたいと思ってしまうから、きっと私達の性根の悪さも同じだ。

 

「五月はそれでいいか? 次は私が質問したい」

「うん。私はもう大丈夫。ツィー聞きなよ」

「アルタイル。月の話を聞いてからずっと引っかかっている事を聞いてもいいか?」

「引っかかっている?」

「ああ。地球が増え続けているなら、それに応じて月も増え続けているのか?」

「あ。そうじゃん! 地球が増えてるなら月とか他の星とかもそれに合わせて増えてないとおかしいよね?」

「……それは説明の難しいところなのよね。結論だけ言うと増えているのは地球だけで、地球以外の星には全く影響が無いわ」

「でもそうすると変じゃない? 例えば別々の地球から人工衛星を打ち上げたら、宇宙にもの凄い数の人工衛星が存在しちゃわない?」

「領海の考え方……みたいなものかしらね。地球を陸地として、宇宙を海とすると地球から20万キロくらいまでが地球と見做(みな)されているみたいなの。その範囲までは同じように増えているから、その宙域にあるものはその世界固有のものね」


 つまり地球を中心として半径20万キロの宇宙空間までを「一つの世界」として増え続けているようだ。


「じゃあその範囲を越えたら全部の世界の物が混ざっちゃうんだ!」

「そういう事ね。別々の世界から来たロケットが全く同じタイミングで月に着地したら、別々の世界のロケット同士が遭遇してしまうのよ」

「待て待て待て。そんなのここ何十年かで一度や二度くらいあったんじゃないか? 月への着地じゃないとしても人工衛星なんてそれこそ星の数程とばしてるぞ?」

「あったんじゃない?」

「え?」

「偶然人工衛星が遭遇してしまった事もあったと思うわよ。でもそれをおいそれと公表はしないんじゃないかしら。宇宙に自国の飛ばした衛星と全く同じ物が見つかったからって、それを国民には教えないでしょう」

「じゃあ私達に知られないように隠してるってこと?」

「そうかもしれないし、何者かがそうならないように調整しているのかもしれない。宇宙のことなんてほとんど解明できていないけど、地球のことだって分からないことだらけでしょ?」


 詳しいことは私も知らない。

 この世界だって全ての人が全ての真実を知らされているわけではない。

 説明の難しい事実や都合の悪い事実を秘匿するなんてありふれている。

 

 納得は行かなくても実際にそういう事実があると言われていないんだからそうだと思うしかない。

 事実の秘匿という意味で言えば私達ステラ・アルマに関する事実だって隠されていたんだから。


「じゃあ鷲羽さんがフォーマルハウトが宇宙からデブリを落とすのをやめさせたのはそういう事だったんだ」


 ここまで話を聞くだけだった未明子が言った。

 フォーマルハウトとの戦いでアイツが使った固有武装の話だろう。

 そう言えば今日まで説明できていないままだった。


「そう。呼び寄せたデブリが全部20万キロ以内の物ならいいけど、それよりも更に遠い所から呼び寄せた物なら別の世界に落ちる可能性もあったからね」

「あの時落ちてきたゴミってそんな速さで落ちてきてたんだ」

「そういう可能性があるかもってだけ。あの固有武装がどういう仕組みなのか良く分からないのよ」


 別にあの固有武装だけに限った話では無い。

 ステラ・アルマが持っている固有武装がどういう原理でその状態を作っているのかは分からない。


 私のアル・ナスル・アル・ワーキだって、ビームを発射してるとは言っても実際には何が出てるのか自分でも分かっていないのだ。


「ああ! あの時見えた火球はやっぱりフォーマルハウトの能力だったのか。良く対処できたね」

「夜明も見てたのね。未明子が慌てずに撃ち落としてくれたから何とかなったわ」

「前にああいうゲームをやった事があったんだよね。その経験が生きたよ」


 ゲームでやったからってそれを実戦で実行できるのは素直に凄いと思う。

 あまりゲームに肯定的なイメージは無いけど、そういうのが全部未明子の戦いに生かされているんだろう。

 

「一個いいか? 20万キロの範囲までが一つの世界と言うことは、38万キロ離れている月にロケットを飛ばして地球に戻ってくる場合、世界を分ける境界線みたいなのを通るんだよな? その境界線を間違えたら元の世界とは別の世界に戻ってしまう可能性もあるんじゃないのか?」

「それに関しても詳しく無いんだけど、確か世界にはそれぞれパスみたいなのがあって人はそこに紐づいているらしいわ。世界の境界線を跨ぐ時はそのパスのおかげで ”おおよそ” 元の世界に戻れるみたいよ」

「おおよそ? 戻れないこともあるの?」

「あるわよ。この世界でもたまにあるでしょ? 忽然と人だけが消えちゃう事象」

「ああ、メアリー・セレスト号事件とかか」

「あれも何らかの理由で別のユニバースに飛ばされてしまった……なんて可能性もあるわね。知らないけど」

「そのあたりは別にステラ・アルマが決めたルールでもセレーネが決めたルールでもないから詳しいことは分からないか」

「そういう事ね」


 ツィーからの質問はそこまでだった。

 少し意外な気もしたが、彼女に回るまでに色々と話してしまったから疑問も大分解消されていたのだろう。


「あとは……夜明は何を聞きたい?」

「そうだねえ。あるにはあるけど後で個別に聞いてもいいかい?」

「構わないけど、何か聞き辛い質問なの?」

「いや何。みんなで聞くほどの内容ではないんだ」

「分かったわ。じゃあ……サダルメリク、何かあるかしら?」


 サダルメリクはさっきの ”地球の管理者がいない” あたりで脱線したモードのままらしく、しきりにすばると何かを話していた。


 すばるの方が私に気づいて「先に進めてください」とばかりに手で合図する。

 

 まあ本人がいいなら別にいいけど。

 後でぶつくさ言われたら張り倒してやろう。


 残りは未明子と新しくこの世界に来た二人だ。


「未明子は何か質問ある?」

「私は無いよ」

「あら。こういうの未明子が一番食いつくと思ったのに」

「みんながだいたい聞いてくれたからなぁ。それに分からなかったら鷲羽さんに直接聞くよ」


 確かに私と未明子は常に一緒にいるのだから何か疑問ができたらすぐに聞いてくれればいい。

 でもこの三ヵ月間、特に何も聞かれなかったのよね……。


 残った二人の方を見ると、稲見は大分調子が戻ったらしく椅子に座りなおしていた。


 話すくらいはできそうだったので、何かあればどうぞ? と視線で伝える。


「あ……私もいいですか? フェルカドと同じ質問をしようと思ったので聞かせてください」

「二人まとめての質問なのね。何が聞きたいの?」


 稲見がフェルカドを見ると、フェルカドがこくりと頷く。

 

「結局、私達のする大きな選択って何なんですか?」


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