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第76話 星のダイアローグ①

 

 フォーマルハウトとの戦いからあっという間に三ヶ月がたった。

 

 夏が終わり、秋の風が吹き始めた頃からそれぞれの生活が忙しくなり始め、私も学校のテストだの何だのと翻弄される毎日を過ごしていた。


 驚いたことにその間に戦闘は一度も行われなかった。


 最初の頃はみんなソワソワしながら過ごしていたものの、二週間を過ぎたあたりで緊張するのにも飽きたみたいでさっさと日常モードに戻っていた。

 

 あまりの切り替えの良さに呆れてしまったけど、気がつけば私もすっかり普通の学生生活に戻っていたので、まあいい感じに染められたものである。



 まもなく11月も終わり。

 季節は完全に冬に変わった。



 この三ヶ月で特筆すべきなのは、新しく仲間に加わった稲見とフェルカドがその潜在能力を発揮したことだった。


 稲見はすばるから教わった事を凄まじい勢いで吸収し、高校に通っていなかったせいで遅れていた学力をあっと言う間に取り戻していた。

 それだけなら優秀な学生で終わっていたのだが稲見の本領はそこではなかった。


 勉強を教えてもらいに暁邸に通っていた稲見は、勉強の合間に人見知りの終わったサダルメリクとゲームで遊ぶようになっていた。

 育ちの関係でゲームで遊ぶのが初めてだった稲見は、最初こそ純粋に遊んでいるだけだったようだが、次第にオリジナルのゲームを作る楽しさに目覚めたらしく、サダルメリクとゲームの開発に没頭するようになった。

 

 ボードゲームでもTRPGでもアイデアが出ればテストプレイを重ねてブラッシュアップし、遊べるレベルにまで昇華させる。

 そんなのをいくつか作っている内に、二人はとうとうテレビゲームの企画まで完成させるに至った。

  

 それをすばるの勧めですばるのお父さんにプレゼンしたところ、何と企画が通り実際のゲームを作る事になってしまったのだ。

 二人は企画グループに呼ばれて発案者として方針にしっかりと関わり、完成したゲームには名前がクレジットされるらしい。


 稲見はこの短期間でゲームを創る才能を開花させ、まさかのゲーム企画者という肩書きを得ていたのだった。


 ちなみに、普通の人からすればハンドルネームみたいなサダルメリクは置いておいて、稲見に関してはこの世界の双牛稲見に存在がバレないように「双子うし」と言う名義にしたそうだ。


 今は学校と会社の手伝いとサダルメリクとの遊びで大忙しの生活を送っている。

 本人は大変ながらにとても充実していると言っていた。



 稲見のステラ・アルマであるフェルカドは、アルフィルクの建築事務所で働き始めるとすぐに会社の頼れるお姉さんになった。


 元々細かい仕事が得意なのに加え恐ろしいまでの事務力の高さを持っていたフェルカドは、長年放置されてゴチャゴチャになっていた事務系の仕事を綺麗にまとめ上げた。

 更にスタッフのスケジュールを完璧に管理していった結果、各々の作業効率を40%も上げたのだ。


 いつもみんなが死ぬ思いをして切り抜けていた繁忙期を、残業、及び地獄の泊まり込みなど一切発生させずに終わらせ、最後の案件が片付いた日には事務所で拍手が起こったらしい。


 一人の力でそこまで改善される会社もどうかと思うが、最早あの事務所はフェルカド抜きでは機能しなくなっているそうだ。

 当然スタッフからは多大な信頼を得て、フェルカドを連れてきたアルフィルクは絶賛された。


 結果、アルフィルクはフェルカドにベタベタになった。


 時間が合えば二人で出かけ、仕事のみならず日常生活においても二人でいる事が多いようだ。 

 仕事の愚痴や普段の生活で気になっている事をどれだけ話してもフェルカドが受け止めてくれるので、アルフィルク的にはとてもありがたい存在らしい。


 アルフィルクにそのあたりのフォローは夜明では駄目なの? と聞くと


「夜明はすぐに問題提起と解決策を出してくるのよ。そうだけどそうじゃない時ってあるでしょ?」


 と言っていた。


 問題が早く片付くならそっちの方が良いと思うけど……。

 その辺りは私にはよく分からない世界だ。


 何にせよ稲見とフェルカドは想像以上にみんなに馴染んで、今やそれぞれで会ったり食事に行ったりもするらしい。

 うまくやっているみたいで何よりだ。



 あと小さい所で言うと、ツィーがあの後すぐに引っ越しをした。

 引っ越し先はすばるが建てたマンションだ。


 本人は五月が気に入った物件だし、手伝っている老人ホームに行きやすくなるから引っ越したと言っていたけど、多分フォーマルハウトと一緒に住む二人を気遣っての行動だと思う。


 いくら能力で行動を制限されているとは言え危険な奴が近くに住んでいるのには違いない。

 何かあった時にすぐに対応できる場所に居を構えたんだろう。 


 ツィーが引っ越した事によって五月の家とは距離が離れてしまった。

 その辺りは大丈夫なのかなと思っていたら、九曜家が新しい車を購入したらしく、以前使っていた車が実質五月専用になり、前より気軽に遊びに行けるようになったそうだ。


 ただ五月的にはツィーとフォーマルハウトが同じ建物に住んでいるという事実は記憶から消しているとの事だった。


 うん。その気持ちはとても分かる。



 未明子はと言うと、色々と変化があった。


 大きな変化としては髪を伸ばした。

 ボブカットだったのが伸びに伸びて今は私と同じくらいの長さになっている。


 短い時はやや癖っ毛だったのに、肩を越えたくらいからストンとしたストレートな黒髪になったので、今までのボーイッシュなイメージから一気に清楚なイメージに変わった。


 私は可愛さが増した気がして好きだし、みんなにも概ね好評だけど、アルフィルクだけは前の方が未明子らしくて良かったと言っている。

 

 私に対しての接し方も随分と変わった。

 他のみんなと同じように大切な相手として優しくしてくれるようになったのだ。

 話し方や気の使い方も前よりグッと距離が近くなって、心を許してくれているように感じる。


 何より嬉しいのは困っている事や悩んでいる事を相談してくれるところだ。

 以前は何でも自分で決めて、後で結果だけ伝えられるみたいな事が多かったのに、今はまず私に話して意見を聞いてくれる。


 そばにいる相手として認めてくれたという実感があって、この三ヶ月間は穏やかで良い関係で過ごせていると思う。



 ……ただ、心の問題は時間では解決できなかった。

 

 今でも未明子の目は暗く濁ったままで、時折何を考えているのか分からない時がある。

 一緒にいる時に突然唸り出したり、頭を掻きむしったり、呼吸が荒くなって苦しみ出したりする。

 一過性の発作みたいなものですぐに落ち着くのだけど、その姿は痛々しくて見ていられない。



 鯨多未来が学校に来なくなった事に関しては「親の都合で一人暮らしができなくなり両親のいる地元に急遽帰らざるを得なくなってしまった」と言う事にして管理人が学校側に都合をつけてくれた。


 クラスメイトや友達は戸惑いながらも渋々納得していたが、未明子は時折教室に残っている彼女の机をじっと見続けている。

 彼女のいない風景に納得などできるわけがないのだ。


 鯨多未来の死に関して、アルフィルクが未明子と二人っきりで話した事がある。

 アルフィルクとしては心の中に溜まっているものを全部吐き出させてあげたかったみたいだけど、数時間話しても未明子は感情をうまく出せなかったようだ。

 

 ……だから未明子は、いまだに鯨多未来が死んでから泣いていない。 

 


 そしてその鯨多未来を殺したフォーマルハウトは、マンションにずっと拘束されているかと思えば週に2~3回は外に出ていた。

 主には未明子に連れられて報復を受けている、らしい。


 らしいと言うのは、未明子がフォーマルハウトと出かける時は私は付いて行っていないからだ。

 二人きりなんて危険すぎるから一緒に行くと言ったら、私がいると変な気を使ってしまいそうだから控えて欲しいとお願いされてしまったのだ。


 そう言われたら留まるしかない。

 どんな罰を与えているのかは知らないけど、フォーマルハウトと出かけて帰って来た未明子は少し機嫌がいい気がするので、きっとうまくガス抜きができているんだろう。



 そしてもう一つ。

 フォーマルハウトとの戦いの後、夜明が体調を崩す事が多くなった。

 

 夏から秋の季節の変わり目くらいで大きく具合が悪くなり、一度入院してしばらく会う事もできない程だった。

 今は退院してそれなりに元気しているが通院は欠かせないようだ。

 

 その意味でもフェルカドの存在は大きかった。

 おかげでアルフィルクは仕事に大きな穴を開ける事なく夜明の看病に時間を使えた。

 夜明にとってもフェルカド様様(さまさま)なのである。


 

 それぞれにそれぞれの忙しさがあった為、すばるの建てたマンションを見に行った後、全員で会えた事は一度も無かった。

 個別で会う事はあっても全員が一同に会するのは難しかったのだ。


 なので五月とツィーが聞きたがっていた「この戦いに関する真実」は、まだ誰にも話していない。


 二人にも伝えた通りこの話を始めてしまうと大きな選択を迫られる事になる。

 それがこの世界で戦うみんなに取って必要なのかどうなのかは私には判断できない。


 だから私からは何も言わない。

 みんなの意思が固まった時に初めて私は全てを話そうと思う。




 ……11月の最終週。


 管理人から届いたメッセージで久しぶりに全員が拠点に集まる事になった。


 届いたのはいつものように無骨で雑な内容だった。 

 たった一行のそのメッセージは、こう記されていた。


「一等星が来た」













 私が拠点に来たのは二ヵ月振りだった。

 一度未明子が管理人に聞きたい事があると言って付いてきて以来になる。


 あの時は二人だけだったから静かなものだったが、今日ここに集まったのは10人。

 管理人を含めれば11人がこの場所にいる。

 しかも全員が集まるのは久しぶりだったのでとてもザワついていた。


 管理人からのメッセージは穏やかとは言い難い。

 三ヵ月ぶりの緊張感のある集合となった。



「で、セレーネさん。次の敵に1等星がいたのかい?」

「夜明が変なフラグを立てるから本当に言った通りになっちゃったじゃない」

「私はあくまで可能性として語っただけなんだが……。これはアルタイルくん効果も信憑性が出てきたね」

「え? 私のせいなの?」

「これもしかしてアルタイルとあの馬鹿の相乗効果になってないか? 今このユニバースには1等星が二人もいる。そのせいで敵のレベルも上がってるんじゃないのか?」

「ええ!? アイツ仲間扱いになってるの!?」

「それは不満ですね。不要な土地の扱いに困っていたら固定資産税を取られたような気分です」

「どうしましょう。今からでも私がアイツに爆発しろって命令しましょうか?」

「未明子さん、せっかく建てたマンションが傷つくから、やめて」  

「フェルカド、フォーマルハウトさん散々な言われようだね」

「まあ人に好かれる方では無いので仕方ないと思いますよ」


 前言撤回。

 緊張感は無かった。

 あまりにもいつも通りの空気だった。


「うむ。お前ら相変わらずだな。そろそろワタシが話をしてもいいか?」


 全員で無駄話をしている間ほったらかしにされていた管理人が口を開いた。

 これだけ無視されても怒り出さないあたり慣れていると言うか諦めていると言うか。

 人が良いと言えばその通りなんだけど、管理人がこの調子だからみんなも態度を改めないんじゃないのかしら。


「事前に伝えた通りこのユニバースに1等星が来訪した。目的を確認したところ管理者としてはあまり歓迎できない内容だったが、特殊なパターンだった為に許可を出した」

「敵じゃないの?」

「誰も戦う相手とは言っておらん」


 じゃあそうやって言ってくれればいいのに。

 あんな短いメッセージが届いたら誰だってそう思う。

  

「来訪者はアルタイルに会いたいそうだ」

「私?」

「アルタイルに会いに来る1等星って誰よ? あなた相変わらずモテモテね」

「嫌味を言うのやめてアルフィルク。1等星がみんなあの馬鹿みたいだと思わないでちょうだい」


 最初に敵対したのがフォーマルハウトだったせいで1等星の印象が悪くなってる。

 確かに好戦的な星も多いけど、話の通じる相手や、そもそも戦い自体が好きじゃない星だっているのに。


「心当たりがあるのかい?」

「うーん。仲良くしてる星もたくさんいるから分からないわね」

「セレーネさん、その1等星の人はどこにいるんですか?」

「いまは奥の部屋で待機している。全員が許可するまで出てこないように配慮してくれた」

「とても気遣いできる方のようですね。お話を聞くだけなら問題ないと思いますが……」

「いきなり襲いかかってくるような相手じゃなさそうだしいいんじゃない? それより何でその1等星はセレーネさんの部屋に入れるのよ。私達は入れてくれないのに」

「ワタシ達には色々と制約があるんだ。そこは納得してくれ」


 アルフィルクが管理人に不満そうな顔を向けた。


 まあ、あの部屋には真実を知らない人やステラ・アルマには見せられないものがたくさんある。

 管理人側からそれを明かせないルールになっているので仕方のない事だ。


「全員が了承するのであれば来訪者を呼んでこよう。双牛(そうご)とフェルカドも構わないな?」

「はい。私は全然大丈夫です!」

「皆様が良ければ私も問題ありません」


 新入りの意見もちゃんと確認する気遣いは素晴らしい。

 その気遣いをメッセージにも乗せてくれればいいのに。 

 本当、筆不精ならぬメッセージ無精なだけなのね。

  

 二人の返答を聞くと管理人は奥の部屋へと戻って行った。



「今のうちにアルタイルくんに聞いてもいいかい? 君達1等星は全員が顔見知りなのかな?」

「せいぜい21人しかいないからね。全員が全員顔見知りでは無いかもしれないけど、少なくとも私は全員と顔を合わせたことがあるわ」

「その全員が君と友好関係にあるのかい? ああ、フォーマルハウトを除いた19人だね」

「際立って敵対関係の星はいないわ。ただ戦いを好んでいる星もいるし、戦いそのものは好きじゃなくても使命に忠実な星、戦いなんて絶対にしたくないって星、自分や周りに害を成すなら容赦はしない星なんてのもいるから何とも言えないわね」

「なるほど。旧知の仲だからと言って戦いを回避できるわけではないのか」

「そう言う意味で言うとおそらく今回の戦いでは難しいわね。それぞれが自分のステラ・カントルとそのユニバースに愛着を持っているだろうし、自分の大事な物を失ってまで戦いを回避するなんてのは特殊だと思うわ」


 それぞれのステラ・アルマに大切な相手がいる。

 それは私もそうだし、他の1等星もそうだろう。


 もし戦う事になればそれはお互いの大切な相手を守る戦いだ。

 その相手を守るには敵を倒すしかない。

 戦いを避ける道を探るのは難しい。


「これから会う1等星ともいつか戦うと思っていた方が良さそうですね」 

「まあ運悪く対戦カードが組まれてしまったらそうなるかもしれないわね」

「でも地球ってめっちゃ数があるんでしょ? そんな中で21人しかいない1等星のいる地球と戦う確率って低いと思うんだけどな」

「フォーマルハウトみたいに乱入してくる奴がいなかったら一生戦わない可能性もあるわね」

「こればっかりは本当に分からないわ。夜明が言うみたいに何か法則があるのか完全にランダムなのか。でも宇宙の始まりも、星の成り立ちも、運命的な何かが重なり合った奇跡みたいなものだから、もしかしたら何か引かれ合うものがあるのかもしれないわね」

「その奇跡は起こって欲しくないわ……」


 そんな答えの出ない話をしていると、奥の部屋から管理人が戻ってきた。

 隣にはその訪問者が一緒にいる。


 背が高くスラっとした美しいスタイル。

 歩き方も上品で落ち着きがある。


 正直それだけだと同じような星がいるので誰かは判断できない。

 しかもラフなシャツにジーパンに帽子と、まるで男性アイドルが身バレ防止の変装をしているみたいな服装なのでさっぱり見当もつかなかった。

 

「あ! アルタイル!」


 その似非男性アイドルが私の名を呼んだ時に、ようやく誰かが分かった。


「ベガ!?」


 こと座1等星のベガ。

 言わずと知れた夏の大三角形の一星である。



「ベガって、あなたの相方じゃない!!」


 アルフィルクが何だか嬉しそうに声を上げた。

 相方と言われると少しくすぐったいけど、確かに私とベガをペアにしたい気持ちはとても分かる。

 他のみんなも絶対初めて会ったのに「あーこの人が……」みたいな顔をしているのが面白い。


 そのみんなの注目を集めているベガは私の方に駆け寄ってくると、嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「久しぶり。ちょっと髪が伸びた?」

「何でそんな変な恰好してるのよ。何よその似合わない丸眼鏡」

「だってお忍びで来てるしあまり目立つ格好しない方がいいかなって」

「容姿を抑えつけてるから逆に目立ってるわよ」


 ベガは女性ながらに中性的な顔をしている。

 こんな格好をしていたら男性と言われても納得してしまいそうだ。


 私達のそんなやり取を見て緊張していた他のメンバーが唖然としていた。

 ベガは見た目と中身のギャップが激しい。

 黙って立っていれば近寄りがたい雰囲気を醸し出しているのに、一度口を開けば声の可愛さも相まってとても取っ付きやすいタイプなのだ。


「みんなあまり気を張らないでいいわよ。ベガは見た目こんなだけど、中身は小兎(こうさぎ)みたいなものだから」

「わ、私のことそんな風に思ってたの!?」


 ベガが私の肩を掴んで体を振る。

 本人は軽い気持ちでやっているんだろうけど、体格差が大きいので私はガクンガクンと体を揺らされていた。


 それを見て流石に全員が警戒を解いたようだった。


「えーと……ベガと呼んでいいかしら?」

「いいわよアルフィルク」

「何でアルタイルが答えるのよ。いきなり保護者面するのやめて。で、ベガはここに戦いに来たんじゃないのよね?」

「は、はい。アルタイルが一つのユニバースに定住してるって聞いたから顔を見に来たんです」

「誰よ私のプライベートをバラしたのは?」

「アケルナルさんが教えてくれたんだよ。あの人だいたいの星の動きを把握してるから」

「アケルナルってエリダヌス座の1等星?」

「そうです。ステラ・アルマとして地球にやってきてからは、ずっと人とか他のステラ・アルマの事を調べてばかりいるちょっと変わった人なんですよ」

「安心して。さっきの1等星の分類で言うとベガもそのアケルナルも争いが好きじゃない派閥だから。こっちの情報が敵に洩れるなんて事態にはならないわ」

「あなたの情報ダダ漏れじゃない」

「……本当だわ。困ったわね」


 アケルナルは戦いには全く興味が無い代わりに異常な知識欲を持った変人だ。

 ステラ・アルマとして世界に関わりながら今まで一度もステラ・ノヴァの契約を結んでいないと言えばその異常性が際立つだろう。


 フォーマルハウトとは違ったタイプで行動が読めない厄介者だから、ベガが私に会いたいと言えば面白がって居所を教えるなんてのは十分あり得る。



「失礼ですが、不躾な質問をよろしいでしょうか?」


 すばるが手を上げてベガに質問をした。

 ベガは私の顔を一度伺うと「どうぞ」と返事をする。


「ベガとアルタイルと言えば織姫と彦星ですよね? お二人を見ていると……その、立場が逆のように思えるのですが」


 なかなか目ざとい質問だった。

 七夕の織姫と彦星はすでに世界中で知られているお話で、ベガは織姫、私は彦星とも呼ばれている。

 見た目だけで言えばベガの方が圧倒的に彦星っぽい。


「そ、そうですかね? 私はともかくアルタイルは結構彦星のイメージありますよ。勤勉で真面目ですし、一緒になった相手をとても大事にしますし」

「パートナーを見つけると堕落するのも言い伝え通りかもしれないわね」

「アルフィルク、喧嘩なら言い値で買うわよ?」

「はいはい。ちびっ子彦星さんは怒らせておくとして、ベガには織姫要素なんてあるの?」

「ど……どうでしょう? 私あまりそういうの分からなくて……」

「ベガはあれじゃない? 自分で服を作るのが織姫なんじゃない?」

「え……えぇ……。そんなので織姫を名乗っていいの?」

「あら素敵! どんな服を作るの?」

「何言ってるのよ。アルフィルクが普段着てる服はだいたいベガが関わってる服よ」

「……え?」


 私の言葉に全員がザワついた。

 別に話す必要は無いと思っていたので言わなかったが、流石のアルフィルクも目を丸々として驚いている。


「ベガが地球に来て最初にやったのが洋服のブランドの立ち上げだったからね。通常ステラ・アルマが関わった事ってその世界にしか影響しないんだけど、ベガが立ち上げたブランドが世界的に有名になったから、全ての世界にそのブランドが生まれちゃったのよね」

「別世界への同時干渉って無理だって言われてたのに、あまりに大きな影響を与えるとそれが別の世界にも反映されるっていう貴重なデータが取れたんだよね」

「こっちの世界にベガはいないけど、世界の修正力で別の人間がそのブランドを立ち上げた事になってるわ」

「えへへ。別に誰が引っ張ってくれてもいいけど地球の子が私の考えた服を着てくれるのは嬉しいな」


 ベガも他のステラ・アルマと同じで人間に対しての愛情が深い。

 深すぎてこの戦いに関わる事を良しとせず、アケルナルと同じようにこれまで一度も誰かとステラ・ノヴァの契約を結んでいない。

 地球にやってきてからはずっと人間の為に服を作っているのだ。

 仕事熱心な機織(はたおり)が織姫ならば、ベガが織姫と称されるのも間違いではないだろう。


「す、凄い話を聞いてしまったわ……」

「何気に別世界への影響と言う重要な情報も聞けてしまったね。セレーネさん、こういう話を1等星から聞くのはありなのかい?」

「ワタシ達から話すのを禁じられているだけで、1等星が自ら話すのであれば別に構わん」

「やはり1等星だけ特別な扱いになっているみたいだな。何で1等星と2等星以下でここまで扱いに差があるんだ?」


 アルフィルクに続きツィーも1等星の優遇に納得がいっていないようだった。

 私とベガを交互に睨んでいるけど、睨まれたところで私達が望んだ扱いでは無いからね。


 あーほら。

 ベガが睨まれたのを怖がって私の後ろに隠れてしまった。

 こう言うところが小兎なのよ。

 身長が違い過ぎて全然隠れられていないけど。



「ところでベガ。私の顔を見に来たって言ってたけど別に何も変わりは無いわよ?」

「うん。実際に会ってみて安心したよ。アケルナルさんがアルタイルが死にかけたって言ってたから心配してたんだ」

「あー。それは、うん。まあ……」


 フォーマルハウトとの戦いの事を言っているのだろう。

 確かに死にかけたし、酷い目にはあった。

 

 でも何であの変人はそんな事まで知っているのだろうか。

 ステラ・アルマとして何にでも興味を持つのは悪くは無いけど、誰がどういう戦いをしたかまで把握しているのはあまり褒められた事ではない。

 今度会った時に少し注意しておかなきゃ。


 それはそうとフォーマルハウトが実はまだこのユニバースに居るとは言い辛い。

 私が言葉を濁しているのが気になったのか、ベガは心配そうに私を覗き込んだ。


「それでね。アケルナルさんがアイツはまだこのユニバースにいるって言ってたんだ」

「へ、へぇー。そうなのね……」


 あの変人、それもバラしたのね。

 何がどうなっても面倒ごとに発展する予感しかしない。

 

「だから私、アルタイルを酷い目に合わせたフォーマルハウトを殺しに来たんだよ」


 今の今まで和やかだったこの場の空気が、ベガのその一言で凍り付いた。



 ……またもや私の悪い予感が当たってしまったのだった。


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