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第71話 醜い生き物⑧

 間近でフォーマルハウトの爆発に巻き込まれた五月とすばるだったが、少しだけ吹き飛ばされただけで事なきを得た。

 

 しかし五月は体を貫かれたダメージで、すばるはアニマを使い切ってしまった為にその場に倒れ込んでしまった。


 夜明が慌てて二人に駆け寄る。


「二人とも大丈夫かい!?」

「前回よりはマシっぽいけど、しばらくは動けないかな」

「わたくし自身は問題ありませんが、メリクがアニマを使い切ってしまいました」

「こんな炎と煙の中で変身が解けるのもまずい。何処か身を隠せる場所でもあればいいんだが……」

「メリク、どれくらい変身を維持できそうですか?」

『もう戦わなくていいなら、10分くらいはいけると、思う』

「ツィーくんはどうだい?」

『変身を維持するだけならしばらく大丈夫だが、戦うのはちょっと難しいな』


 ツィーのダメージは決して軽くはなかった。

 体を貫通する穴が4つも開いていれば戦闘継続が困難なのも無理はない。

 

「申し訳ありません。犬飼さんの援護には向かえそうにありません」

「アタシもすぐには難しいかな。ツィーの回復力しだいってトコロ」

「構わないよ。援護には私一人だけで向かおう。その為に色々と温存したんだからね」


 この戦いで五月とすばるに頑張ってもらう代わりに、夜明は弾丸とアニマを極端に節約して戦った。

 無傷とまではいかないが十分に戦力として活躍できるほどの余力を残している。


 そして何よりも鏡像とは言えフォーマルハウトに勝利した実績をつんだ。

 鏡像が本体と同じ性能ならば、この経験は大いに役立つだろう。


「二人はここで休んでいてくれたまえ。なあに、少しお茶でも啜っていてくれればアイツの首根っこを掴んでここに引きずってこよう」

「おおッ! 期待して待ってるね!」

「それではわたくしはフォーマルハウトにどんな罰を与えるか考えておきましょう」

「是非ともとびっきりの罰を企画しておいてくれたまえ」


 二人がこの調子ならばとりあえずここを離れても大丈夫そうだ。

 夜明はそう判断すると、残った二人に手で挨拶をして未明子を探しに向かった。



 夜明を見送った五月とすばるは、お互いの背中を支えにしてその場に座り込んだ。

 これから戦いに行く夜明に心配をかけないようにと強がってみたものの、機体も操縦者も立っていられない程の疲労だった。

 

「ツィー。とりあえずお疲れ様。特訓した甲斐があったね」

『まだ本物をぶちのめすまでは終わりじゃないがな』

「メリクもお疲れ様でした。やれることはやれたと思います」

『背中が痛すぎて、一息入れるどころじゃ、ない』


 サダルメリクはこの段階で完全にリタイアだった。

 蓄積したダメージとアニマの残量を考えると、この後の戦いに参加したところで足手まといにしかならない。


 それに回復を待つツィーだが、何とか戦いに参加できたとしてもせいぜい数回攻撃するのが限界だった。

 身を挺した肉壁くらいにはなれるかもしれないが、それとて足手まといには違いないだろう。


 つまり今どこかで行われている本物との戦いに勝とうが負けようが、二人の戦いはここまでだった。


 五月が右手を握ってすばるの方に差し出すと、すばるも同じように握った左手を出した。


 二人は拳と拳をぶつけ合いお互いの勝利を称え合うと、大きく息を吐いてその場に倒れ込んだ。













 防戦一方。

 フォーマルハウトとの戦いはまさにその言葉通りだった。

 

 形勢逆転された私達は、強気に攻めてくるフォーマルハウトの攻撃をひたすら回避していた。


 今までと同じような戦い方ではこちらのアニマが尽きてしまう。

 何とかして残ったアニマで大打撃を与えるしか選択肢は無い。


『どうしたどうした犬飼未明子!! あのステラ・アルマの仇を討つんじゃなかったのか!?』


 フォーマルハウトは狂ったようにコル・ヒドラエを乱射していた。

 命中させるつもりは無いのか、こちらを煽るようにわざと狙いを甘くしている。


 こんな攻撃を避けるのは容易いが、こうして避け続けているだけでもアニマは減っていく。

 何か突破口を見つけなければジリ貧だ。


「鷲羽さん、残りのアニマは?」

『6万を切ってる。このままだとこちらが先にへばるわ』

「そうだね。何とか隙を作り出そう」


 ここに至っても未明子は冷静だった。

 慌てるでもなく、イラつくでもなく、冷静に逆転の目を探していた。


 叩き上げとでも言うのだろうか。

 もし未明子が最初から1等星の操縦者だったら、こんな危機的状況に陥るなんて経験が無くて、どうしたらいいか分からずパニックになっていたんじゃないだろうか。


 でも未明子はこんな状況には慣れていた。

 いつも生きるか死ぬかの窮地を切り抜けてきた経験が、逆境に対しての強さを発揮していた。



『犬飼未明子! 君が私に勝てない理由を教えてやろうか!?』

『アイツがなんか言ってるけど聞く耳持たなくていいわよ』

「うん、大丈夫。全然耳に入ってないから」


 フォーマルハウトは攻撃を続けながらずっとこちらに話しかけ続けていた。

 もともとお喋り好きなタイプではあるけど余裕が生まれたせいか饒舌になっている。


 だけど何を言われようがおしゃべりに付き合う気はさらさら無い。

 気が済むまで勝手に喋っていればいい。 


『君は私を恨んでいるのにそれを口に出さないからだ! もっと恨みを私にぶつけろ! そうしないと君の心はいつまでも私に届かないぞ!』


 悪いけどアイツに届けたい心なんて無い。

 届けたいのは右手の刀か左手の杭だ。

 私も未明子も、アイツを満足させる為の言葉なんて一つも持ち合わせていない。


 無視して回避を続けていると、逆にフォーマルハウトの方が苛立ち始めた。


『これだけ言っても響かないか……。まあいいさ! その代わり負けた後は何にも聞かないからなぁ!』


 子供じみた言い方が無性に腹が立つ。

 もう怒ったぞと言わんばかりのわざとらしいジェスチャーも本当に気持ち悪い。

 アイツの一挙手一投足が癇に障るけど、ここで心を乱されたら終わりだ。


 私達が全く反応を返さないのに飽きたのかフォーマルハウトはコル・ヒドラエを撃つのを止めた。

 

 しばらく何かブツブツ言っていたが、ふと空を見上げると右手を高々と上げる。

 そして掲げた右手を何かを掴むように握り込んだ。


『コル・レオニスッ!!』


 そう叫んだフォーマルハウトが握り込んだ右手を大きく振り下ろすと、空にいくつかの光の玉が現れた。


「……何だあれ?」

『また私の知らない攻撃……光が近づいてくる!?』

 

 空に現れた光の玉はこちらに近づいてきていた。

 近づくに連れて大きくなり、形がはっきり見える頃にはそれが大きな火球であることが分かった。


 まるで隕石のような火球が空からいくつも降ってきたのだった。


『この星の連中は宇宙にゴミを捨て過ぎだな。軽く引っ張っただけであんなにデブリが落ちてきた』

『あなた、なに恐ろしい事してるのよ!!』

『恐ろしい事をしてるのはこの星の馬鹿どもだろう。あいつら自分達が何をしてるのか全然理解してないぞ』


 フォーマルハウトはやれやれと肩をすくめると、自分の目の前にゲートを開いて中に入っていった。


『アイツ! 自分だけ逃げたわ!』

「うわぁー。メテオだね」


 未明子が近づいてくる火球を見ながら呑気な感想を述べた。

 さすが私のパートナー。呆れるけどこんな事ぐらいじゃ動じないのは頼もしい。 


『あれは宇宙ゴミだからメテオでは無いわよ。メテオはアステロイドベルトを外れた隕石だけを差すから、あれは言うなれば人類の罪ね』

「鷲羽さん詩人だね。ところであれかわせる?」

『あんな真っ直ぐ突っ込んでくるだけの火球なんて簡単にかわせるけど、それだと下手したら他の三人が巻き込まれるんじゃない?』

「じゃあアニマが惜しいけど全部撃ち落とそうか!」


 ハッキリ言うとデブリを撃ち落とすなんてたいした作業では無い。

 あれがそのまま地面に衝突したら被害は大きいかもしれないけど、空にある内に蒸発させてしまえば何も問題はない。


 未明子は砲身が4本になったアル・ナスル・アル・ワーキを展開させた。

 落下してくる火球に照準を合わせるとすかさずビームを発射する。


 4本のビームがそれぞれ火球を捉えると、火球は爆発して粉々になった。

 

 すぐに移動して次の火球に照準を合わせ二射目、次いで三射目を放つ。


 次々に火球が破壊されて、四射目が最後に残った火球を破壊すると、全ての火球が消滅した。


 撃ち落とされてチリとなったデブリが風に流されて消えていく。

 


『お見事ッ!!』


 ゲートを使って逃げたフォーマルハウトが、私のすぐ下でパチパチ拍手をしていた。

 火球を撃ち落としている間に攻撃する事もできたのに、黙って見てるだけなんて完全に舐められているとしか思えなかった。

 

 ただそれよりもアイツに一言だけ言ってやらなければいけない。


『もうあの攻撃はやめなさい。理由は言わなくても分かるでしょ?』

『姫は優しいなぁ。他の星のことまで気にするなんて』


 宇宙からの範囲攻撃はこの戦いにおいては非常にまずい。

 何故ならこの戦いにおける大きなルール違反に触れるからだ。

 最悪の場合戦う資格を奪われる可能性もある。


 そうなったら面倒なことになるのはアイツも理解しているはずなのに、絶対に分かった上でやっている。


「どういうこと?」

『うーん……少し長くなるから戦いが終わったら説明するわね』 


 未明子にはまだ説明していない話なので当然の疑問だろう。

 だがそれを納得いくように説明する時間は今は無い。


『それよりも今ならフォーマルハウトとの距離が近いわ』

「そうだね。今ならアイツが何かする前に攻撃できる」


 敵はすぐ下。

 この距離なら数秒あれば攻撃射程まで近づける。

 ずっと狙っていた攻撃のチャンスだ。


「……やろう」


 未明子は私にそう言うと、真下に向かって加速した。


 

『おおお!? 姫が私に向かって飛び込んでくる!!』


 フォーマルハウトはこちらの接近に対して両腕を広げていた。

 何を企んでるのか知らないけど、そうやって余裕ぶっているといい。

 どうせ数秒後にアイツはやられている。


 加速しながらアニマを全身に巡らせる。

 通常では考えられない程のアニマを消費して、一番最初にアイツの指を斬り落とした超加速で一気に決着をつけるつもりだ。

 

 このままダメージレースを展開しても負けるのは目に見えている。

 ならば隙をついて相手を一瞬で倒す方法を取るしかない。

 未明子の希望通りの勝ち方にはならないが、まずは勝つ事だ。


 フォーマルハウトまであと数メートルのところで超加速に移行した。

 

 相手の意識が追い付けない程のスピードでの攻撃。

 当然未明子も一つ一つの動作を確認しながら動けるわけでは無い。


 ただ強くイメージをするだけ。

 光のように動き、光のようにアイツの首を斬り落とす。

 

 そのイメージさえあれば、後は私の体がそれに反応して実行する。


 時が止まったかのような刹那の瞬間。


 右手のアイヴァンがフォーマルハウトを狙った。

 刀が一筋の光となって首を刈り取る。



 コオオオオオオオオオオオンンンンンンッ



 アイヴァンがフォーマルハウトの首を刎ねる直前だった。


 突然アイツの首元にかねが現れた。

 青銅色に紋様が刻み込まれたその形は、かねと言うよりも銅鐸どうたくに近かった。


 フォーマルハウトの首を狙っていた刀は、首の代わりにその銅鐸を斬りつけた。

 そしてその銅鐸から凄まじい音が響いたのだ。



 不思議なことに私はその音を聞いても何とも無かった。

 これだけ大きい音だと言うのに耳が痛いなんてことも無く、何ならその音に少しだけ心地良さまで感じていた。


 だけど私の体は意思とは関係なく地面に落下した。

 全身から力が抜けてそのまま地面に崩れ落ちた。

 握力すら無くなり、握っていたアイヴァンは手からこぼれ落ちてしまった。

 

 その音によって何かが起こったのは間違いないのだけれど、私にはそれが見当もつかなかった。



「ああああああああああああああああッ!!!」


 だから操縦席から響いてきた悲鳴に驚いてしまった。  

 未明子の痛々しい悲鳴が私の体をビリビリと揺らした。


「うわああああああああああああああッ!!! あああああああああああああッ!!!」


 その悲鳴はタダ事では無かった。

 中の様子を見ることはできないが未明子が操縦席でのたうち回っているのを感じた。 

 

『な、何をしたの!?』


 私が疑問を投げかけるとフォーマルハウトは嬉しそうに両指をパチンと鳴らした。


『カウンタートラーップ。この状況なら超加速で最初と同じように首を狙ってくることは予想がついていたからな。あらかじめ罠をしかけておいたんだ』


 フォーマルハウトは自分の首元に浮かんでいる銅鐸を手に取ると、カラカラと振ってみせた。


『これは条件を決めてそれを満たすと発動する固有武装だ。今回の条件は私の意識が追い付かない攻撃を受けた場合と設定した。発動したこの鐘が攻撃を防ぎ、その攻撃を受けた方向に攻撃力に応じた音を鳴らす。この鐘の面白いところは音が人間にだけ影響するところだな』

『なんでそんな効果の武器があるのよ……』

『知らないよ。人間だけを無効化したい奴がいたんじゃないのか? と言うわけで、いま犬飼未明子だけが地獄を見ている。あれだけの音を浴びたからには鼓膜が破れちゃったかもしれないな』


 相手の意識すら追い付けない速度で繰り出した攻撃だ。

 威力も並大抵では無い。


 その威力が変換されたのがさっきの大音響だ。

 音とはつまるところ衝撃波。


 操縦席を包んでいる緩衝膜で防ぐのは可能だが、それにも限界がある。

 未明子があれだけの悲鳴を上げたということは尋常じゃないダメージを受けたのだ。

 私をコントロールする余裕など無い。



 フォーマルハウトは持っていた鐘を消すと、近くに落ちていたアイヴァンを蹴り飛ばした。

 そして倒れている私の顔を掴むと嬉しそうに言った。


『よーし。じゃあ犬飼未明子が悶えてる間に姫にいたずらしちゃおうな』


 フォーマルハウトは私の左の翼を掴んで背中側に折り曲げ始めた。

 本来の収納方向とは違う方に力を加えられた翼がメキメキと音を立てる。 

  

『まずは姫の象徴である翼をもいじゃうな? 欲しかったんだこの翼。かわいい形してるよな』

『やめ……やめなさい!』

『やめろと言われて私がやめた事あったかな?』


 力を込めて掴まれた翼が、あらぬ方向に曲げられて裂け始めた。

 ギギギという悲鳴のような音と共に翼が引き千切られていく。


 抵抗したくても未明子が命令してくれなければ碌な動きもできない。

 相手のされるがままになっているより仕方なかった。


 フォーマルハウトがいたずらっぽく「せーの!」と勢いをつけて引っ張ると、限界を迎えた翼がバリバリバリという音を立てて千切れてしまった。

 

『おお、取れた取れた!』


 私から千切った翼に嬉しそうに頬ずりをする。

 更に自分の体にくっつけて遊び始めた。

 

 怒りと嫌悪感が凄まじい勢いで沸いたが、今の私には睨みつける以上の事ができなかった。


 ……これでもう飛行は無理だ。

 飛行ができなければ加速を活かすこともできない。

 私の一番の武器であるスピードを殺されてしまった。 



『なーなー姫。戦い始めてからずっと思ってたんだけど、姫ってあんまり痛がらないよな?』


 フォーマルハウトからの突然の質問に私は動揺してしまった。

 その質問は私が隠したい秘密に触れる内容だったからだ。 


『……私が痛がったら誰かさんが喜んじゃうでしょ?』

『我慢してるってレベルじゃないんだよな。腹が抉れて、体と一体化してる固有武装が破壊されて、そのうえ翼をもがれたのに悲鳴の一つもあげないって流石に変じゃないか? 例えばだけど、そういう ”特性” 持ちだったりするのかな?』

『……』

『姫の特性は飛行能力だと思ってたんだけど、でもそれって ”本来の戦いの場” だとそれほど使える能力じゃないよな。だとすると痛覚が無いのが特性なのかなと思ってさ』

『……だったらどうなの?』

『そしたら痛みを与えるお楽しみは通じないって事だから、別の方法を考えなきゃなと思ってさ』

『痛みくらい感じるわよ。あなたみたいな相手の痛みも分からない変態と一緒にしないで』

『おお……言うね』


 納得したかは分からないが、それ以上の追及は無かった。

 代わりに今度は残った右側の翼を掴むと、先程と同じように無理のある方向に折り曲げ始めた。


『さて。では天使は両翼を失っても天使なのかを確認したいと思います』


 どちらにせよ片方の翼を千切られた時点で空は飛べない。

 残った翼を千切られたところで最早たいした被害ではない。


 役に立たない翼よりも、攻め手になるアル・ナスル・アル・ワーキを守りたかった私としては、コイツが翼に固執してくれるのは有難かった。

 

 せいぜい時間をかけて翼を千切って喜んでいればいいわ。

 その時間で未明子に休んでもらえるならそっちの方が全然いい。


『……姫ってさ。考えてる事がまる分かりなんだよな。だめだぞ? こういう時はさっきみたいにやめてとか叫んで気を引かないと』

『なんの話?』

『翼よりも固有武装の方を残しておきたいんだろ?』


 思考を読まれたかのように的確に考えを見抜いてくる。

 相手の思いなんて全然汲まないくせに、こちらがやられて嫌な事はすぐに分かる。

 そんなんだからみんなから嫌われるのよ。


『そろそろ犬飼未明子が回復してくるかもしれないし、持ってる武器は全部壊させてもらうか』


 そう言って掴んでいた翼を手放したフォーマルハウトは、少しだけ私から離れた。


 左手を上げてそこにゲートを開くと、その中に左手を突っ込む。

 そしてゲートの中から長いギザギザの刃のついた武器を引っ張り出してきた。


 刃が伸びている本体にはエンジンの様な物がついている。

 エンジンで回転した刃が対象を切り刻む道具。これはつまりチェーンソーだ。


『物騒な武器ね』

『武器は等しく物騒だよ。そんな物騒な武器の中でもこの対ステラ・アルマ用のチェーンソーは私のお気に入りなんだ』


 フォーマルハウトが武器の側面についているレバーを引くと、刃が回転し始めた。

 ヴィーンというけたたましい音が鳴り響き、段々とエンジンの回転数が上がってくる。


『回転数が上がり切るまでにちょっと時間がかかるのが難点だけど、一度上がっちゃえば、ホラ』


 目で見えなくなるほどのスピードで回転した刃が、アル・ナスル・アル・ワーキの砲身を包むコンテナに触れる。


 すると何の抵抗も無くコンテナが真っ二つに切り裂かれた。

 何のひっかかりも無く、まるで豆腐でも切るかのようにスッと切断されてしまった。


『……え?』

『凄いよなー。普通もっとガガガガガみたいな抵抗があるのにな。チェーンソーというか水圧カッターみたいだなコレ』

 

 切られたアル・ナスル・アル・ワーキは破壊されたにも関わらず爆発もしなかった。

 元々別々の物であったかのように切断されてしまい、壊された感覚も無い。


 呆気に取られているとフォーマルハウトは残った三本のコンテナもサクサクっと切ってしまった。  


『よしよし。これで固有武装は破壊したから、残った翼も付け根から切ってと……』


 そして残った右側の翼もあっさりと切り落とされた。


 フォーマルハウトが武器を出してから数秒で、翼も、固有武装も、全部壊されてしまった。


『う、嘘でしょ……』

『その反応は絶望感があっていいな! こうやって姫を丸裸にしていくのは興奮するよ。後はその左腕についてる杭だけだな。左腕を切り落とすのは嫌だから何とか外せないかな?』


 フォーマルハウトに自分の体が解体されていくのは最悪の気持ちだった。


 せめて左腕のパイルバンカーだけは守らなくてはもう完全に勝ち目がなくなる。

 未明子が回復しても武器が無ければどうしようも無い。


 フォーマルハウトが私の左腕を掴んだ。

 腕を持ち上げられ、装備しているパイルバンカーを外す為にペタペタと触り出す。

 動けないなりに体を動かして抵抗するが、更に強く掴まれ拘束されてしまった。


『……やめて』

『いまさら言っても遅いよ。それに何度も言うけどやめろと言われてやめないだろ私は』


 駄目だ。

 未明子が回復しない限り私にはどうすることもできない。

 

 ……私のせいだ。


 私がもう少しコイツに対して知識があって、対策を取れればこんな事にはならなかった。

 少なくとも超加速に何かしらの対応をしてくる事は分かっていたのに。

 追い詰められたせいで焦ってしまっていた。


 それにファム・アル・フートがアニマの回復力まで強化すると知っていれば絶対に止めたのに。

 あのせいで全ての計算が狂ってしまった。

 すでに雨は止んでいるけど今となっては完全に手遅れだ。



 私は敗北を覚悟した。






 その時、遠くの方で何かが爆発する音がした。


 かなり大きな爆発音で、フォーマルハウトもその爆音には気づいたようだった。

 すばやく立ち上がって音のした方を確認する。


『あれはベラトリクスの!? それを使うような相手か!?』


 私には分からなかったがフォーマルハウトには心当たりがあったようだ。


 フォーマルハウトが動揺を見せた次の瞬間、大きな爆風が襲ってきた。


 体を持っていかれそうになるほどの風圧だった。

 倒れ込んでいた私はそれほど影響を受けなかったが、立っていたフォーマルハウトは風圧をモロに受け転倒しそうになっていた。



 その一瞬。



 風が吹き抜け、少しだけフォーマルハウトが体勢を崩したその一瞬だった。



 その一瞬の間に、フォーマルハウトの首に穴が開いた。



『……が……? ……んだ……と……』


 穴の開いた首をおさえながらフォーマルハウトが(うめ)きのような声を出す。


 

 その穴は、私から発射されたビームが開けた穴だった。

 ビームは私の右手の人差し指から発射された小さなビームだった。


 そう、フォーマルハウトから奪った。

 一番最初の攻撃でフォーマルハウトの右手の人差し指から奪ったコル・ヒドラエのリング。


 そのリングから発射されたビームだ。



「油断したのは……どっち……だったかな?」


 未明子の弱々しくも重たい声が、フォーマルハウトにぶつけられた。


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