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第70話 醜い生き物⑦

新年明けましておめでとうございます。

ツイッターには書いていたのですが二週間ほどお休みを頂いておりました。


2024年最初の投稿です。

本年も頑張って書いていきますのでお時間の許します限りお付き合い頂ければと思います。

本編フォーマルハウト戦の続きとなります。

 フォーマルハウトが装備している未知の武器。

 形状からしておそらく固有武装。


 見た目は火炎放射器のように見えるが、銃口にあたる先端部分が独特な形をしていた。

 近いもので言うと如雨露じょうろ


 如雨露の先端は広範囲に水を撒く為に複数の小さな穴が開いている。

 この武器も同じ形をしていた。 


「すばるくん。私と五月くんで攻め込むから、いざと言う時は我々を守れるような位置にいてくれ」

「承知いたしました」


 五月を先頭に夜明が続き、更にその後にすばるが続く。

 一直線にならないように互いに軸をずらしつつ、いつでもすばるの盾に隠れられるような速度で前進した。


 こちらの動きに反応するようにフォーマルハウトが武器を構える。

 あそこから弾丸を撃ち出してくるのか、炎を拭いてくるのか、または何らかの液体を噴射してくるのか。

 何が起こるかは分からなかったが、いずれにせよすばるの盾であれば問題なく防御できるハズだ。


 そう判断した三人は立ち止まる事なくフォーマルハウトに向かって進む。

 

 フォーマルハウトは武器の先端を正面では無くやや右斜めに構えると、ゆっくりと反対側まで振り払った。

 その動きだけを見れば、まるで本当に如雨露で周辺に水を撒いているようだった。


 ただし、その先端から出てきたのは水ではなくシャボン玉だった。


 透明なシャボン玉が先端から大量に吹き出され、三人の目の前を覆いつくした。

 場所が場所だけに風景にマッチしたそのシャボン玉が、風に流されて周囲に散って行く。


「なにあのファンシーな武器!! シャボン玉が出てきたよ!?」

「絶対にただのシャボン玉じゃない! みんな、一旦止まるんだ!」


 いまこの状況で、敵が遊園地にシャボン玉を飛ばして楽しませてくれるわけが無い。

 何らかの特殊な能力を持った攻撃と判断した夜明は、反射的にアサルトライフルでそのシャボン玉を撃った。


 アサルトライフルの弾丸に撃ち抜かれたシャボン玉は、その場でパチン! という大きな音を立てて割れる。

 サイズが大きいという点を除けば、一般的なシャボン玉と違いは無いように見えた。


「弾を跳ね返したりするのかと思いましたが普通に割れましたね」

「私もそのつもりで撃ったんだが、今のをみる限り性質は普通のシャボン玉のようだ」


 かと言って迂闊に触れてはいけない。

 そう考えた夜明は進行方向にあるシャボン玉を次々と撃ち落としていった。


 弾丸が命中したシャボンは、抵抗なく割れていく。


「あれ? フォーマルハウトがいつの間にかいなくなってる!!」


 夜明がシャボン玉を撃ち落としているあいだ前方の警戒をしていた五月が、フォーマルハウトの姿がいつの間にか消えていることに気づいた。

 目で見える範囲にいないという事は、またゲートを使ってどこかに移動したのだ。


「またあそこにいます!」

「また?」


 周囲を見渡したすばるがすぐにフォーマルハウトを発見した。


 さっきまで偽アルフィルクが立っていた場所。

 すなわちバンデットのレールの一番高い地点に立っていた。


「シャボンに目を取られている隙に移動したようですね」

「アイツあんな高い所に移動したのにまだやってるよ?」


 フォーマルハウトは移動した場所でシャボン玉を出し続けていた。

 いまのところ全く脅威を感じないが、ジェットコースターのレールの上に立っている巨大ロボットがシャボン玉を振りまいている姿はいささかシュールだった。


「あんな高い所で撒いたら風の影響で狙った場所には飛んで行かないだろうに……ん?」


 夜明はそう言いながらも、吹き出されたシャボン玉が不自然にこちらに向かっているのに気づいた。


 あの高さだと吹いている風もかなり強い。

 普通ならその強い風に流されて明後日の方向に飛んで行ってしまいそうなものだが、風とは無関係に動いているように見えた。


 それどころか、先程まで風に流されて飛んでいたシャボン玉が一斉に同じ方向に向かって移動していた。

 

「何かシャボン玉が集まってきてない?」

「わたくしにもそう見えます」

「どうしてだ? さっきまでは風に流されていたのに」


 三人がその異常に気付いた時、パチン! パチン! と連続で何かが割れる音が聞こえた。


 音のした方を振り返ると、宙を舞っていたシャボン玉が次々と同じ場所で割れている。

 周囲のシャボン玉は、その音に引き寄せられているように見えた。


「シャボン玉が割れている場所に集まってきている?」

「音に引き寄せられてるってこと?」

「いや違う。もしそうなら私がアサルトライフルを撃った時にも引き寄せられていなくてはおかしい」

「では何が……」

「……あれ? 何か私も引き寄せられてない?」


 最初に異変に気付いたのは五月だった。

 さっきまでサダルメリクのすぐ隣にいたはずなのに、いつの間にかジリジリと数メートルほど移動していた。


「五月くんだけでは無い。私も引き寄せられている!」

「本当だ! すばるちゃんだけ動いてない!」

「いえ、わたくしも微妙に引き寄せられている感覚があります。重量的に影響が小さいだけのようです」

「ってことはあのシャボン玉、割れると割れた場所に引き寄せられるってことなのかな? だから何? って感じはするけど」 

「……引き寄せられる? ……まずい!」


 悠長に引き寄せられていた夜明が急にその場で体勢を低くした。

 重心を下にして耐えるが、それでも少し引き寄せられている。


「五月くん! 急いですばるくんの盾に隠れるんだ! このままだと全滅する!」

「え!? 何で何で!? 全然分からない!!」

「すばるくん! 何とかその場から動かないようにできないかい!?」

「やってみます!」


 すばるは片足を高く持ち上げると、思いっきり地面を踏みつけた。

 その勢いとサダルメリクの重量が相まって、舗装された地面を砕いた片足が地面に埋まる。

 埋まった足を軸にして、すばるだけはその場に体を固定する事に成功した。


 その間にもシャボン玉は連鎖的に割れ、引き寄せる力はどんどん強くなっていった。

 体を固定できていない夜明と五月はシャボン玉が割れる方に引き寄せられていく。


「すでにこちらの動く力より引き寄せる力が強くなってしまっているようだ。このままでは二人ともあの中心地に送りこまれてしまう」

「ざくろっち!! このままあそこに引き込まれるとどうなるの!?」

「圧縮空気って習わなかったかい?」

「ごめん!! 全然覚えてない!!」

「空気は圧縮されると発火点が低くなって燃えやすくなるんだ」

「そうなんだ!! でも別に燃えやすくなるだけでしょ!?」

「圧縮された空気は分子の動きも活発になって温度が上昇する」

「何で!?」

「後でボイル・シャルルの法則で検索してみるといいよ」

「つまりどういうことなの!?」

「つまり、臨界点を超えると大爆発を起こす」

「それを!! 先に!! 言って!!」

「勉強になりますね」

「すばるちゃん!! 関心してる場面じゃないから!!」


 あまりに能天気な夜明とすばるの反応に五月は半泣きになっていた。

 すでに自分の意思とは関係なく体は引きずられ、サダルメリクの盾からはどんどん離れていく。

 手を伸ばしたところでどうにもならない距離がひらいてしまった。

 

「五月くん、一旦アイヴァンを地面に刺そうか」

「あ。その手があった」


 夜明に指摘されて、五月は右手に持っていたアイヴァンを地面に深々と刺した。

 それを(くさび)にして何とか五月は体を引き止める。


「はい。失礼するよ」


 同じように体を引き寄せられていた夜明が五月の体を掴む。

 五月は片手で2体分の体重を支えることになった。 

 

『待て待て待てアルフィルク! お前重いぞ!』

『失礼なこと言わないでよ! 装備が重いのよ装備が!』

「ざくろっち!! この後どうするの!? このままここに居ても爆発に巻き込まれちゃうでしょ!?」

「左手を使うんだ。その為に手じゃなくて体を掴んだ」

「左手だけ自由でもこのまま這いずってすばるちゃんまで戻るのは無理だよ!!」

「違う違う。そこからすばるくんに向かってツィーを発射したまえ」

「あ。その手があった」


 五月は左手のホルスターからツィーを発射すると、すばるに向かって伸ばした。

 五月の意思通りに動く銀色の糸が地面を突き刺しながら蛇のように這って行く。


 固有武装ツィーがすばるの足元に辿り着くと、すばるはその銀色の糸を掴んで自分の方に引っ張った。

  

 ズルリ、ズルリとツィーの体がサダルメリクの方に引きずられ、ツィーの体にへばりついているアルフィルクも一緒に引きずられる。


 何とか爆発の臨界点を超えるまでにすばるの元に辿り着いた2体は、また引き寄せられて行かないようにサダルメリクの体を掴んだ。


「応用が効く固有武装だね」

「えへへぇ……お褒めに預かり光栄です」

「喜んでいるところ大変心苦しいのですが問題があります。流石に三人では盾の中に納まり切りません」


 サダルメリクの固有武装ガニメデスは並の機体ならば覆い隠せる程に大きい盾だが、ツィーとアルフィルクを収納して、その上サダルメリク本体までを隠せる程のサイズは無かった。

 2機を盾にかくまった場合、サダルメリクの体は半分以上が盾の外に出てしまう。


「ええ……どうしよう。誰か地面に埋まる?」

「その発想は面白いが地面を掘るほどの時間は無いだろう。選択肢は二つ。一つ、すばるくんが防御にアニマを込めてハミ出ている部分を守る。二つ、五月くんのツィーをすばるくんのハミ出ている部分に巻き付けて鎖帷子(くさりかたびら)のようにしてすばるくんを守る」


 夜明が二つの選択肢を提示した。

 だがこの選択肢はどちらを選んでも被害を完全に遮断できるものでは無かった。


 例えすばるが防御にアニマを込めたところで大規模な爆発をノーダメージで抑えるのは難しいだろう。

 そして固有武装ツィーを纏って防御したところで、やはりある程度のダメージは受けてしまう。


 しかもこちらの選択肢だと守りに使われたツィーも破壊されてしまう。

 先程のフォーマルハウトの疑似体の爆発によって右手のツィーを破壊されているので、この防御で左手のツィーを失ってしまうと今度は戦闘での選択肢を減らしてしまうのだ。


「……夜明さん。この後の戦闘ですが、予想では何手ほどで決着がつきそうですか?」

「難しい質問だね。ここを凌げばあの武器への対策は思いついている。相手が次にどんな武器を出してくるかにもよるが、こちらからの攻撃はあと二回か三回だろう」

「そんな回数で倒せるの?」

「倒せると言うよりも恐らくそれが我々のアニマの限界値なんだ。つまり残り二回か三回の攻撃でアイツを仕留めなければいけない」


 3体ともここまでの戦闘でかなりのアニマを消費していた。

 順当に攻めと守りにアニマを消費していくならば、夜明の計算はほぼ正解と言えた。


 重苦しい空気が流れる。

 だが夜明の選択肢が出た時点で、お互いにここをどう凌ぐのがベストなのか答えは出ていた。


「であるならば、わたくしが頑張るしかありませんね。五月さんの手札を減らすのは悪手です」

「……すまないね」

「メリク。申し訳ないですが背中のダメージは覚悟してください」

『へいへい。タンクは、そういう役目だもん、ね』


 すばるが二枚の盾を寄せて夜明と五月を盾の中に囲った。

 これで2体は完全に守れるが、やはりどう身を縮めてもサダルメリクの背中部分を盾の防御範囲に入れるのは不可能だった

 

「メリクの盾が三枚だったら良かったですね」

『三枚目、どうやって持つ気なの?』

「口にくわえるとかでしょうか?」

『アゴ外れると思うんだけど……』


 すばるとサダルメリクがそんな会話をしている内にシャボン玉の破裂が激しくなり、空気の圧縮が限界に達しようとしていた。

 窪んだレンズを通したように空間が歪み始める。


「爆発が来ます。衝撃に耐えてください」


 盾の中に隠れた2体は身を寄せ合い念のため盾を内側から支えた。

 すばるは大きく息を吐き出すと、背面を中心にアニマを巡らせる。

 装甲に直接アニマを込める事はできないが、それによって背面の防御力はかなり強化されていた。



 シャボン玉が弾ける音が太鼓を連打するような音になった頃、とうとう爆発が起きた。


 その爆発は予想をはるかに超えた規模の爆発だった。

 

 盾の裏に隠れていた夜明と五月の耳に聞こえたのは「ボウッ」という重たい音だけだった。

 だがその音と共に盾越しでも感じるほどの熱と、凄まじい衝撃が襲って来る。


 盾を押し倒さんとする衝撃に何とか耐えるが、少しでも気を抜くと盾ごと吹き飛ばされてしまいそうだった。

 

 その二人を守るように盾を構え、できるだけ身を屈めていたすばるだったが、爆発直後に襲ってきた炎が盾の外に出ている部分を容赦なく焼いた。


 装甲はあっという間に焼け焦げて剥がれ、露出された本体が炎に包まれる。


 更に炎と共に到達した衝撃にも襲われた。

 地面に突き刺した片足で耐えるが、地面との接点になっている足の付け根部分は粉砕されそうな程の圧を受けていた。



 炎と衝撃は、周囲にある建物やアトラクションを全てなぎ倒し、地面を剥がし、植えられていた植物を一瞬で灰に変えた。 


 偽アルフィルクの罠の中でも残った、よみうりランドを象徴するアトラクションであるバンデットも、レールが全て吹き飛び、敷地は炎に包まれて消失した。


 その圧倒的な破壊力は、園内を縦に分割した西側の敷地を全て瓦礫と炎の山へと変えてしまったのだった。





 爆発の衝撃が去った後。


 周囲からパチパチと炎が燃えくすぶる音が鳴り、黒い煙が立ち込める中に、炎と衝撃を防ぎ切ってボロボロになったサダルメリクの姿があった。


 盾の外に出ていた部分は装甲が焼け落ちて、サダルメリクの機体色である黒よりもなお黒く焦げていた。 

 そして完全に露出していた背面に至っては一部炭化してしまっている。


 しかし身を挺した甲斐もあり、盾の中に納まっていた2体に関してはほとんどダメージを受けずに済んだ。


「すばるくん、大丈夫かい!?」

「……はい。無事とは言えませんが、何とか耐えきりました」

「良かったぁ!!」


 すばるからの返事に二人は安堵した。

 あれだけの炎と衝撃が起こったのだから操縦席の中にいてもタダでは済まなかった可能性もある。

 声を聞く限り大きな怪我を負ったような気配は無さそうだった。


 夜明と五月は盾で作られた空間から外に出ると、ほとんど何も無くなってしまった園内を見回した。


「まわりすっごい事になってる!! あの武器全然ファンシーじゃなかったね……」

「メリクくんはまだ戦えそうかい?」

「はい。動くのに支障は無いかと思います。ただ装甲が全て剥げてしまいましたので防御役は難しいかもしれません。それにマントが破れてしまったので雨の影響を受けてしまいます」

「大丈夫だ。雨に関してはもう止みつつある」


 フォーマルハウトが降らせた雨の勢いは少し前から徐々に弱まっていて、もう止む寸前だった。

 以前もこれくらいの時間で止んでいたので強化時間は一定なのだろう。

 この雨が無くなるだけでも大分楽になる。


 念の為、夜明はアルフィルクが纏っていたマントをサダルメリクの体にかけた。

 アルフィルクとでは体格が違いすぎるが焼け焦げている部分くらいは覆い隠せた。



 夜明と五月はフォーマルハウトの姿を探した。

 いまの爆発で一緒に吹き飛んでくれていたらありがたいがそんなワケはない。


 炎と煙はそこら中から上がっているが、代わりに建築物が一掃されて見晴らしは良くなった。

 周辺にいるならば機体の影くらいはすぐに見つけられそうだ。


「ざくろっち!」


 五月が指さす方を見ると、煙の中にフォーマルハウトが佇んでいるのが見えた。

 相変わらず例のシャボン玉発生装置を携えている。


 あの武器、弾丸だったり炎だったりを出してくれた方がいくらかマシだった。

 まさかこんな威力の爆弾を作りだす武器だったとは。


 調子に乗って前に出たのが仇になったと三人は反省した。

  

「今ならあの武器は使えない。今の内に攻撃に転じよう」

「何で? 近寄ったらまた爆弾を作ってくるんじゃないの?」

「あのシャボン玉は割れると周囲の空気を吸い寄せるが、性質そのものは普通のシャボン玉だ。吸い寄せられるまでは風の影響を受ける。今なら炎と煙のせいで広範囲にシャボン玉をまき散らす事はできないハズだ」


 炎が起これば空気の流れは一定ではなくなる。

 そんな場所でシャボン玉を出せばどこに飛んで行くか分からない。

 下手をしたらその場に停滞する可能性もある。

 そんな中でシャボンが割れでもしたら撃った本人が爆心地だ。

 そんな下手を打つような相手では無いだろう。 


「夜明さん、と言うことは……」

「流石すばるくん。理解できたようだね。もしまたシャボン玉を飛ばして来た時は君が頼りだ」

「承知いたしました」

「なになに? 二人の中では作戦ができあがってるの?」

「まあ前に二人でシャボン玉を飛ばして遊んだことがあったからね。その時の経験が活きたよ」

「いえ、残念ながらそのような記憶はありません」

「またざくろっちが適当なこと言い出したよ」


 夜明の冗談を軽く笑い飛ばすと、三人はフォーマルハウトへと向かった。

 五月を先頭に、中衛を夜明、殿をすばるが務めるいつものフォーメーションだ。

 

 フォーマルハウトまでの距離はそれほど離れてはいない。

 いま持っている武器を他の武器にチェンジされる前に攻撃を開始したい。

 五月は射程に入りしだい斬り込むつもりだった。


 五月の後を走る夜明は敵が次に打ってくる手を読んでいた。

 周囲の状況的にあの武器は使えない。

 しかしそのまま持ち続けているという事は、何らかの方法で使う気ではいるのだ。

 こちらで把握している相手の手札でやれそうな事は一つしかない。


 夜明が後からついてくるすばるの方を見ると、すばるが頷くのが見えた。

 すばるも同じ考えに至っているようだ。



 フォーマルハウトが次に取った行動は二人の予想通りだった。

 自分の頭上に大きめのゲートを開くと、その中にシャボン玉を撃ち込んだのだ。


 そしてそのゲートの出口は三人の頭上に開いた。

 ゲートを通ってきたシャボン玉が三人を取り囲む。


「すばるくん!」


 夜明の掛け声で、すばるは持っていた盾を大きく振った。


 過去に敵との戦いで何度も使用した、盾を利用した風圧。

 その圧力は軽い機体であれば吹き飛ぶほどの威力がある。

 空をフワフワ飛ぶだけのシャボン玉を吹き飛ばすなど造作もないことだった。


 盾によって生まれた風圧によって、頭上から降り注いだシャボン玉は明後日の方に散って行った。


 ほとんどが煙の勢いに乗って上空に登ると、風に流されてどこかに飛んで行ってしまった。

 数個ほど熱で割れるものもあったが、少しだけ周囲の空気を吸い込むと、すぐに効果切れになっていた。


「やはりシャボンが集中しなければ怖くはないね。大半は空に消えていったよ」

「シャボン玉の歌のように儚いですね」

「りんりんと泣きながら~はじけて~とんだけど~♪」

「渋いですがそちらの歌ではありません。夜明さん年齢おいくつですか?」

「ちょっと二人ともお喋りしてないで!! 攻撃するからね!?」


 夜明とすばるがシャボン玉への対応をしている内に、フォーマルハウトに辿り着いた五月が刀を振り下ろした。


 フォーマルハウトはシャボン玉発生装置の柄で五月の斬撃を受け止める。

 見た目はあんなだが、固有武装だけあってそれなりに頑丈なようだ。


「他の武器を出さないってことは、武器によっては同時に使えない組み合わせもあるのか」

「得意のコル・ヒドラエも撃ってきませんから、あの武器を出している間はあの武器しか使えないみたいですね」

「これはいいデータが取れた。じゃあ私達もこのまま攻め込もう!」


 夜明は五月の攻撃の邪魔にならないようにアサルトライフルで牽制する。


 フォーマルハウトは五月の攻撃への対応に追われて、ゲートで逃げることはできないようだった。

 雨が止んで強化が切れたせいで、五月の素早さへの対応が目に見えて悪くなっている。 


 五月の攻撃を受けながら、フォーマルハウトは背中の煙突から再び紫の煙を吹き始めた。


「コイツ! また雨を降らそうとしてるよ!」

「そうはさせない! すばるくん、私が右側に回り込んで射撃するから君はここから盾をアイツに向かって投げてくれ!」

「構いませんがゲートで無効化されませんか?」

「大丈夫。私のデータによればアイツは全部の攻撃を受けきれない」


 夜明はフォーマルハウトの右側に回り込むとアサルトライフルとガトリングガンで射撃を開始した。

 だがその攻撃はゲートによって無効化されてしまう。

 

 射撃の合間を縫って五月がアイヴァンとナビィによる攻撃を繰り返すが、それも全て受けられていた。


「では、行きますよ!」


 すばるが大盾を一枚持ち上げると、フォーマルハウトに向かって投げつけた。

 盾は巨大な質量の飛び道具となって飛んで行く。  


 フォーマルハウトは夜明の射撃に対して展開していたゲートを全て閉じて、飛んでくる大盾に対して大きめのゲートを開いた。


 飛び道具と化した盾はその大きいゲートに吸い込まれると、少し離れた所に開いた出口からドスンと落下した。

 

 だが盾を防いだ代わりに、夜明の射撃を無効化する事ができなくなったフォーマルハウトは、弾丸の雨に晒される事となった。


「思った通りだ! アイツのゲートは大きさによって開ける数に制限がある!」


 これも夜明が観察していたゲートの性質だった。

 フォーマルハウトがゲートで移動する際、開かれるゲートの数はいつも1つだけだった。

 複数ゲートを開けば移動先を選べるのに、それをしないと言う事は何らかの制限があると読んでいたのだ。


 敵の射撃を無効化する際に開く小さ目のゲートは、前回の戦いでコル・ヒドラエをフルで撃つために開いた10個が最大。

 そして自分が移動するのに使用する時や、いま大盾を無効化する為に開いた大きいサイズのゲートはおそらく1個しか開けないのだ。


 つまりすばるが範囲の広い攻撃を繰り出せば、その対応に手一杯になりその他の攻撃を無効化することはできない。


 その読み通り側面からの射撃に対応できなかったフォーマルハウトは大ダメージを受けていた。


 大盾を無効化するとすぐに銃撃の方に改めてゲートを開くが、攻撃にさらされた側は装甲がボロボロに破壊されていた。


 そして夜明とすばるの波状攻撃で出来た隙を五月は逃さなかった。


 素早い動きでフォーマルハウトの背後に迫ると、紫の煙を吐き出し続けている排気口をアイヴァンで一刀両断にしたのだった。

  

 破壊された排気口で爆発が起こり、焼け焦げた煙突部分が地面にドサドサと落下する。


 次いで五月は爆発で体勢を崩したフォーマルハウトに向かって左手のツィーを発射した。

 銀色の糸がフォーマルハウトの体に巻き付き両腕ごと体を固定する。


「これで!! 終わりだー!!」


 渾身の叫びと共に五月がアイヴァンで斬りつける。


 腕を固定されて身動きができなくなったフォーマルハウトは、五月の方に体を向けると体を内側にギュッと縮こませた。

 そして勢い良く体を外側に開くと、フォーマルハウトの肩と胸についている装甲が急激に伸びる。


 伸びた装甲がまるで棘のようになって五月を襲った。


「こんなもので私が止まるかッ!!」


 鋭い装甲がツィーの体に突き刺さり体を貫通した。

 だが五月は刀を振るう手を止めず、そのまま振り抜いてフォーマルハウトを袈裟切りにした。

 

 手応えあり。

 両断するまではいかなかったが刀はフォーマルハウトの体を深く斬った。

 

 火花が散る程の勢いだったがフォーマルハウトもそれでは止まらず、今度は頭部の装甲を伸ばして五月を狙う。


「往生際の悪い。せめて散る時くらいは美しく散ってください」


 いつの間にかフォーマルハウトのすぐ傍までやってきたすばるは、腰を落として右手を構えていた。


 右手に残る全てのアニマを集中させる。

 そして弾丸のような速度でフォーマルハウトの胸に突きを繰り出した。


 突きはフォーマルハウトの胸を見事に貫くと、体の反対側まで貫通した。


 ビクン! と一度大きく体を跳ねさせた後、フォーマルハウトはダラリと体から力を失った。

   


 目の光が消えて完全に停止したフォーマルハウトの鏡像は、ダメージ限界を超えてその場で爆散したのだった。



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